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腕のいいマジシャン

男は人気マジシャンだった。

テーブルマジックを得意としていたが、
今日は初の大舞台で、脱出マジックを披露することになった。


ステージに置かれた巨大金庫に自ら入り、外から鍵をかけ、厳重に鎖を巻く。

会場が一瞬、暗転した。

次の瞬間、観客席の後ろにスポットライトが当たり、男が両手を広げて立っていた。


その間、わずか一分。

観客は総立ちになり、大歓声を上げた。

テレビ中継の視聴率も跳ね上がり、誰もが彼のマジックに夢中になった。


その夜。
帰宅した男は、疲れた顔でソファに沈み込んだ。

「あら、お帰りなさい。今日も盛り上がった?」

妻が台所から顔を出した。


男はネクタイを緩め、不満げに答えた。

「……盛り上がったさ。いつものように力を使っただけだがな」


妻はテーブルに食事を並べた。

「あなたのおかげで、今日もおいしいご飯が食べられるわ」

二人は会社から支給された栄養バーを貪った。


彼らは地球人ではない。

遥か彼方にある、文明の進んだβ惑星の住人だった。
β惑星でうだつの上がらなかった男は、辺境の地球支社へ左遷された。


地球人の目には奇跡としか思えない
瞬間移動も、透視も念力も、β星人にとっては子どもでも使える能力だった。


「こんな文明の遅れた星で、見世物になるなんて屈辱だ」

男は栄養バーをかじりながら愚痴をこぼした。


「でも、地球では大スターじゃない」


「私は一日も早くβ惑星へ帰りたいんだ」


そのとき、テーブルの上に青白い光が浮かんだ。

β惑星本社からの通信だった。


『地球支社勤務、
5年目の審査結果を通知する』

男は勢いよく立ち上がった。

「ついに帰還命令か!」


『君の今期の売り上げは、
地球支社設立以来、最高額を記録した』

「それでは……!」


『本社は君の功績を高く評価している』

男の顔が輝いた。


『よって、地球支社長への昇進を決定した』

「……え?」


『任期は100年。
今後も地球人を楽しませ、外貨獲得に励むように』

光は消えた。

妻は嬉しそうに手を叩いた。

「すごいじゃない。出世よ!」

男は力なくソファへ崩れ落ちた。

翌朝、彼のもとには世界各国から出演依頼が殺到していた。


男はその封筒の山を見つめながら、生まれて初めて後悔した。

もう少し腕の悪いマジシャンになっておけばよかった、と。


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