
正義感
男は正義感が強かった。
電車でマナー違反を見れば注意し、
道にゴミを捨てる者がいれば追いかけて
説教をする。
「間違っていることを正すのは当然だろう」
それが口癖だった。
最初のうちは、周囲もその姿勢を褒めた。
だが、いつしか皆は男を避けるようになった。
正しすぎる人間は、時に息苦しいものだ。
そんなある日、男は会社を辞めた。
「不正を見逃す訳にはいかない」
内部告発により、会社は信用をなくし
間もなくして倒産。
多くの社員が職を失った。
それでも男は胸を張っていた。
「これで世の中が少しは良くなった」
数年後。
ホームレス支援施設で、炊き出しの列が
長く伸びていた。
前の方から怒号が飛ぶ。
「順番を守れ!
ルールを破る奴は許せん!」
椀を片手に男は満足そうに叫んでいた。