
第十六章:一人占め、黄金の大地と青空
名鉄名古屋駅から、次なるチェックポイントであり、この旅最大の目的地を擁する西尾市を目指す。
これからお会いする「看板娘さん」の元へ辿り着くには、西尾線の終点・吉良吉田駅まで向かうのが定石だ。
しかし、ここでこの旅最大とも言える「現代のバグ」が僕の前に立ちはだかる。手元にある無敵の私鉄ネット網「3・3・SUN デジタルフリーきっぷ」だが、なんと終点の3つ手前、「西尾駅」までしかQRコード改札が対応していないのだ。
つまり、そのまま電車に乗り続けると、吉良吉田駅でデジタル足枷の致命的なエラー(下車できないバグ)が牙をむく。
もちろん、大人の解決策として、一度西尾駅で改札を出て吉良吉田までの通常切符を買い直せば済む話だ。だが、それでは「足枷ハッカー」の名が廃る。そんな普通のルートは、僕の旅の導線には存在しない。
「ルールの中で、いかに楽しさを最大化できるか」
僕が出した答えはこうだ。
――電車がダメなら、陸路をチャリでハックすればいい。
僕は事前に、西尾駅前にある観光案内所で「レンタサイクル」を予約しておいた。もちろん、体力を温存しつつ機動力を最大化するための「電動アシスト付き」だ。西尾駅で堂々とデジタル切符をかざして脱出し、ここからは二輪の相棒とともに目的地を目指す。
目指す「盛華堂」までは、自転車で片道約45分のロングクルーズだ。
西尾観光案内所で親切なスタッフの方から観光マップをいただき、ペダルを踏み込む。
少しの間、小綺麗な市街地を走り抜けると、景色は一変した。
きっと、車なら気づかなかった。
電車なら、きっと通り過ぎていた景色だ。
視界を遮るもののない、どこまでも広がる冬 of 青空。そしてその下には、黄金色に輝く一面の大豆畑が波打っている。あまりの開放感に、電動アシストの軽やかさも相まって、胸のすくような高揚感が身体を駆け巡る。
昨今、日本のどこの観光地へ行っても、インバウンドの波に押されて外国人観光客で溢れかえっている。歩くのすら一労なのが今のリアルだ。
しかし、今僕が走っているこの場所は、時折車が行き交うだけで、歩行者は人っ子一人見当たらない。世界の中心で、僕だけがペダルを漕いでいる。このどこか異国情緒すら漂う壮大な景色は、今、僕だけの完全なる「貸切状態」だった。
冷たい向かい風を浴びながら、僕の脳内は、これから出会うひとりの女性のことで占められていた。
わざわざ大阪から、マニアックなデジタル切符を手に入れ、チャリを爆漕ぎしてまで会いにいく価値のある人。
「以前にテレビで見かけた、看板娘さんは、一体どんな笑顔で僕を迎えてくれるのだろう?」
頬を撫でる冬の風が、最高に心地いい。「盛華堂」向けて、僕はさらにギヤを上げた。
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