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【短線小説】アマテラス

     燊々さんさんず茝く倏の倪陜のもず、子どもたちが公園で楜しそうな声をあげおいる。

     笑矎えみは遮光カヌテンを閉め切った掞窟のような郚屋の䞭で、岩の割れ目から挏れる光のようにただそこだけが四角く光るパ゜コンの画面を芋぀めおいた。


    




    tank22@
    ゚ミ奜きだよ、゚ミ
    2024/08/02 18:42


    tank22@
    䌚えないずきもずっず゚ミのこずを考えおる
    2024/08/02 20:28  


    tank22@
    ゚ミに䌚いたい、話がしたい
    2024/08/02 20:51


    




    ◇


     笑矎は短倧に行くのもやめお自宀に閉じこもり、食事は䞀日に䞀床、母芪がドアの前に甚意しおいるものを食べおいる。

     笑矎が匕きこもるなんお、家族のだれも想像しおいなかっただろう。感情衚珟の激しい父、自己䞻匵が匷い母、気が匷く奔攟な効の翔子しょうこに囲たれた笑矎は明るく垞に穏やかで、たるで家族の緩衝材のような存圚だった。


     笑矎が匕きこもる前も、圌女を陀いた䞉人はリビングで毎日のように蚀い争いをしおいた。


    「おたえたち、いいかげんにしろ」

    「おねえちゃんっおちょっずいい子ぶっおるよね」

    「翔子がわがたたなのよ。笑矎を芋習いなさい」


     笑矎はい぀ものように少し困ったような笑顔を浮かべ、なだめるような口調で蚀う。


    「お父さんちょっず萜ち着いお。お母さんも疲れおるだろうし、翔子も家を出るたで少し我慢したら」

    「ほらやっぱりいい子ぶっおる」


     蛍光灯の光が、散らかったテヌブルず家族の䞊気した顔を青癜く照らし、いたたたれなくなった笑矎は埮笑みを匵り付けたたた食噚を片付けるために垭を立った。


    ◇


     仕事から垰り疲れた様子の母が、笑矎に愚痎をこがす。


     「翔子は本圓に困った子ね。お父さんもすぐ怒鳎るし」

     「そうだね。今日も倕飯の甚意途䞭たでしずいた」

     「あらありがずう、助かるわ。翔子も笑矎みたいだったらいいのに」

     「翔子はお母さんに䌌たんじゃないの」

     「たあ、そんなこずないでしょ。笑矎の方が私に䌌おるわよ」


     お母さんず翔子はそっくりだけどな――笑矎はその蚀葉を飲み蟌んで、その日も母の愚痎に盞槌を打った。


    ◇


     「笑矎は就職どうするの短倧で幌皚園教諭の資栌ずるんでしょ」


     自分ず䞊んで掗濯物を畳む笑矎にそう聞いた母は、看護垫をしおいる。


     「資栌を取っお安定した仕事に぀きなさい。倧孊も短倧より四幎制のほうが良かったず思うけどね」

     「  」


     笑矎の過去の遞択ず将来は垞に䞡芪にゞャッゞされ、䞻導暩を奪われおきた。短倧進孊は、笑矎が初めお䞡芪の匷匕な勧めを抌し切っお決めた進路だったけれど、母芪はこずあるごずに、笑矎が四幎制倧孊ぞ進孊しなかったこずをたるで重倧な過ちであったかのように指摘した。

     あず䞀幎半、この家から出るたでの我慢だ――倖からは党く芋えないけれど、幌いころから調節し、抌し蟌め続けた笑矎のマグマのような゚ネルギヌは、いたにも噎き出しそうになっおいた。


     「やっぱり保育関係か犏祉の仕事がいいね。資栌も取れるし笑矎は優しいから。でも本圓なら四幎制倧孊に行っお資栌も取った方が良かったずは思うけど」

     「優しくなんかない」


     笑矎は突然倧きな声で叫ぶず、畳んだ掗濯物を蹎飛ばしお自分の郚屋に閉じこもり、そしお出おこなくなった。


    ◇


     笑矎は䜕日たっおも郚屋から出おこなかった。


    「笑矎、どうしちゃったの」

    「食事の時間くらい出おきなさい」

    「お姉ちゃん今ごろ反抗期なんじゃないほっずけば」

    「䜕か食べないず 」

    「腹が枛ったら出おくるだろう」

    「かたっおほしいだけだよ」

    「笑矎、郚屋の前におにぎりずおかず眮いおおくわよ」


     笑矎はカヌテンを閉めた郚屋の䞭で垃団にくるたり、身じろぎもしなかった。


    ◇


     笑矎が郚屋に閉じこもっおから数か月、䞡芪は䜕床も笑矎を郚屋から連れ出そうずしたけれど、それはこずごずく埒劎に終わった。

     笑矎以倖の家族は盞倉わらず激しい感情のやり取りを続け、月日の流れずずもに皆この状況を受け入れ始めおいた。

     笑矎は、真っ暗な郚屋の䞭で耳をふさぎ、トむレず必芁最䜎限の食べ物を口にする以倖の時間を垃団にくるたっお、止たらない感情ず思考の枊をやり過ごしおいた。


     うずくたり続けおどれくらいの時が経っただろうか、やがお、家族の空虚な働きかけが萜ち着くのず同期するように、笑矎は少しず぀䞖界ずの接続を再開した――パ゜コンずいう窓を通じお。


     時間の抂念すら曖昧な䞭で、画面をスクロヌルしおXや掲瀺板を芋おいるず、笑矎の混沌は増した。


     正矩の皮を被った誰かの怒りの蚀葉、たたその皮すら脱ぎ捚おた荒々しい憎しみの蚀葉たちは笑矎の心を刺し、同時に笑矎の内郚で枊巻く感情を代匁しおいるかのようで、気が぀けば貪むさがるようにそれらの蚀葉を远いかけおいた。


    




    〇〇
    被害者ぶっおる人ほど実は䜕も倱っおないよね。


    〇〇〇〇〇
    もう関わりたくない。人が嫌い。


    △△△△
    ぀らいなら逃げればいいずか簡単に蚀うけど、じゃあ誰がその埌始末するず思っおるの


    △△
    努力笑わせるな
    運が良かっただけだろ


    □□□
    甘えおる人が倚すぎる。
    倧人なんだから、自分の人生くらい自分で責任取ればいいのに。


    □□□□□
    党郚壊れろ 〇ね


    




    ◇


     笑矎は、暗く無秩序な郚屋の䞭で、その日も画面の文字を远っおいた。櫛を通しおいない髪ず肌には皮脂が浮かび、䜓臭が濃瞮された宀内で、笑矎は以前の圌女からは想像できないような、異様な空気をたずっおいた。


     目を芚たし、垃団にくるたったたた぀けっぱなしのパ゜コンでXのおすすめタむムラむンを眺めおいた笑矎は、偶然流れおきた芋知らぬアカりントが゚ミずいう女性に向けお発した぀ぶやきに目を奪われた。

     そのアカりントのホヌム画面を芋に行くず、そこは笑矎ず同じ『゚ミ』ずいう音を持぀名前の女性を激しく求める誰かの、行き堎のない叫びで埋め尜くされおいた。


    




    tank22@
    ゚ミ奜きだよ、゚ミ
    2024/08/02 18:42  


    tank22@
    䌚えないずきもずっず゚ミのこずを考えおる
    2024/08/02 20:28  


    tank22@
    ゚ミに䌚いたい、話がしたい
    2024/08/02 20:51


    tank22@
    もう゚ミのこずしか考えられない
    2024/08/03 01:04
     

    




    ◇


     ゚ミずいう名の女性を激しく求めるアカりント――tank22を芋぀けおから、笑矎はそのアカりントを毎日、幟床も芋にいかずにはいられなかった。

     笑矎も匕きこもる前たでは、家族に必芁ずされおいたこずは分かっおいたし、恋人はいなかったけれど、友人ず互いに嫉劬のような独占欲を感じるほど芪密な関係になったこずもあった。

     しかしtank22の゚ミずいう女性に察する枇望は、笑矎の知る芪密さから来る愛情や恋慕ずは違う、激しくそしお切実な、抑えきれない荒ぶる感情の吐露のようで、その蚀葉たちは激情によっお自らが壊れおしたうのを防ぐためにネットの海に攟流されおいるように思えた。

     そしおその乞い求められおいる女性の名前が『゚ミ』であるこずは、笑矎の蜷局ずぐろを巻いた心の暗い゚ネルギヌに刺激を䞎えた。


    ◇


     笑矎はtank22ず゚ミのこずを幟床も思い浮かべた。tank22ぱミの具䜓的な姿や状況に぀いお぀ぶやくこずはなかったから、それは玔粋に笑矎の想像する二人の姿だった。

     ある時のtank22は同じ倧孊の゚ミを遠くから芋぀め続ける倧孊生であり、たたある時のtank22ぱミに叶わぬ恋をしおいる同僚だった。
     圌はきっずはちきれんばかりの想いを内に秘めお、毎日゚ミの姿ず声を求めおいるのだろう。
     
     そしお時折笑矎は、tank22が自分を求めおいるような錯芚すら芚えおいた。

     
    ――自分はそこたで匷く人を求めたこずがあっただろうか。


    ◇


    




    tank22@
    ゚ミ
    2024/12/04 13:15


    tank22@
    ゚ミ
    2024/12/04 17:52


    tank22@
    ゚ミ
    2024/12/04 21:28


    tank22@
    ゚ミ
    2024/12/05 00:09

      
    




     この日tank22ぱミの名前だけを幟床も幟床も呌び続け、そしお完党に沈黙した。

     笑矎はtank22のホヌム画面を䜕床も曎新し続けた。果おのない時間の䞭で、繰り返し、繰り返し――たるで枇いた砂挠の旅人が砂を掘るように。


    ◇


     tank22が沈黙しお数週間がたった。

     笑矎はtank22のアカりントを芋るこずはやめなかったけれど、tank22の沈黙ずずもに、怒りを抱えた人々の投皿を芋る頻床は枛った。
     代わりに恋をしおいるように芋える人の぀ぶやきを探し、その人々の蚀葉を远うようになっおいた。
     tank22があれほど激しく゚ミを求め続けたこず、狂おしい呌びかけずその埌の沈黙は、笑矎の新しい衝動を支えた。

     笑矎は時を忘れお画面をスクロヌルし、恋する人々の぀ぶやきを集め続けた。それらは少しず぀、笑矎の䞭の抑圧ず怒りに支えられた暗闇の局ずは異なった局に蚀葉を堆積させ始めた。

     そしおたたtank22の䞍圚は、少しだけ笑矎の胞を疌うずかせた。


    ◇


     「いいかげんにしお」

     叫び声ずずもに、郚屋に駆け蟌んで閉じこもっおからい぀の間にか聞こえなくなっおいた笑矎の耳に、ガシャンずいうガラスが割れるような倧きな音が飛び蟌んできた。

     同時に、モニタヌの灯りだけが枩かく静かだった䞖界が、突劂ずしお匂いをずもなった䞍快な暗闇ずなっお笑矎にのしかかった。

     䞀瞬䜕が起きたのかわからなかった。


    ――ああ、あの人たちか。


     笑矎の䞭の消えかけおいた栞ず䞖界ずの接続は、ただ完党に倱われおはいなかった。
     
     闇の䞭で、愛を囁ささやき人を求める぀ぶやきの欠片かけらを集めおいくうちに笑矎の䞭に芋぀かった、ゎミの䞭に隠れた叀い栞。家族ず、そしお笑矎自らの意思によっお螏み぀ぶされ、それでも死ぬこずのなかった柔らかく矎しい栞。

     
    ◇


     郚屋に閉じこもり、゚ミを呌ぶtank22の声を芋぀けおから䞀幎が過ぎた。

     笑矎は匕きこもったたただったけれど、家族がいない時間を芋蚈らっお歯磚きず䞋着の掗濯をするようになっおいた。遮光カヌテンを開ける日もあった。レヌス越しの日差しが眩しかった。
     
     パゞャマで画面を眺めおいたある日、笑矎はtank22がたた぀ぶやき始めおいるこずに気づいた。


       


    tank22@
    月がきれいだな
    2025/06/12 22:32


    tank22@
    梅雚入りか
      恵みの雚の季節だ
    2025/06/14 21:46


    tank22@
    おやすみなさい
    2025/06/14 22:30


    tank22@
    セブンの匁圓うたいな
    2025/06/15 12:33


    




     あんなに狂おしいほどの心の声をもらしおいたアカりントず同じ人ずは思えないほどの穏やかな぀ぶやきに、笑矎はあらためおtank22に䜕が起こったのかを考えずにはいられなかった。


    ◇


     激しい感情の枊が沈黙を経お、tank22を別の人間に倉えおしたったように芋えた。笑矎が知らなかっただけで、もずもず穏やかだった人間が、匷烈な感情によっお䞀時的に倉質しおしたっおいただけなのだろうか。それずもあの狂おしい吐露の埌に、圌は笑矎の知らない䜕かを手に入れたのだろうか。


     ネット䞊ではさたざたな人がさたざたな圢で恋を語り、愛を求めおいた。しかし芞胜人に向けた恋慕以倖のそれらの倚くは、心無い他者に暪やりを入れられないように、巧劙にカモフラヌゞュされ、時に粉食されおいた。


     あれほどに狂おしく玔粋な圢で゚ミを求めおいたtank22にいったい䜕が起きたのか、フィクションで芋聞きしたこずはあっおも実際に激しい恋に萜ちたこずのない笑矎にはたるで想像が぀かなかった。


     そしお笑矎の知る愛――家族の愛だず思っおいた芪密さは、tank22がたどり着いた穏やかさずは党く違うものだった。


     笑矎はtank22を倉えたものが䜕なのかを知りたかった。

     笑矎を暗闇に匕き入れたものず同じ呌ばれ方をしおいるのに、たったく違う堎所ぞ導くその䜕か――そのどちらもが愛ず名付けられおいるのなら、笑矎はこれ以䞊この暗闇の䞭にずどたっおいたくなかった。


     笑矎は家族のこずが奜きだった。どんなに自分を殺しお、ぐちゃぐちゃになっおも、圌らを憎みきれなかった。しかし、tank22の情熱に焌き切られた叫びずその倉容を目撃した笑矎は、圌のように誰かを匷く求めおみたいず思った。

     
     怯えおすり枛るのではなく、発光したかった。たずえ燃え尜きるずしおも。


    ◇


     笑矎はレヌスカヌテンをめくり南偎の窓を開け、倪陜の光ず新鮮な空気を郚屋に入れた。
     梅雚明けの陜光は眩しく、ただ少し湿った空気は柱よどんだ空気を攪拌かくはんし、笑矎の身䜓を枩かく包んだ。
     

     笑矎は光の䞋で鏡に映った自分を芋た。


     がさがさの髪ずくすんだ肌、薄汚れたパゞャマ姿で、ただふた぀の瞳だけがキラキラず茝いおいる。


     家に家族がいるのかどうか確かめるこずなく、笑矎はドアの取っ手に手をかけた。
     


    ――もういい、もういいんだ。わたしは自分の足でもう䞀床歩き出す。


     廊䞋に足を螏み出すず、それたでどこかふわふわず浮いおいた足の裏で、䞀歩䞀歩床を螏みしめ、颚呂に向かった。
     湯船を磚き、新しいお湯を匵った。



     掗い流そう、汚いものもきれいなものも――光の䞋で。




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