
MOON TABLE|✳︎恋人ってむずかしい✳︎
〈side SAKUTO〉
俺が担当している取引先に、久しぶりにみちるさんが同行してくれた。
昼も被りそうだし、外で美味しいパスタでも食べようと盛り上がっていたのに。
「ちょうど昼時ですし、望月さんたちも一緒にお昼いかがですか?近くに定食のいい店あるんですよ!」
この相手方の担当者、絶対みちるさんに気がある。
ちょうど昼時でも、俺は一度も誘われたことがないから。
「ぜひぜひ!わー、定食屋さん嬉しいです」
さっきパスタで盛り上がったじゃん。
ほら、担当者の口元がだらしなくにやけてる。
「新星くん?行くよ」
「…はい」
俺の彼女なのに、堂々と守れないのが辛い。
ほかの男には警戒を怠らないで。
でも、俺の前では無防備でいてほしいなんて。
恋人ってむずかしい。
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〈side MICHIRU〉
朔斗くんが纏う空気が威圧的で少し怯む。
1週間を無事に終えた金曜日。
今週末は私の家でゆっくり過ごそうって決めてた。
「今日連れてってもらった定食屋さん、おいしかったねー」
「…」
刺々しい雰囲気に耐えられずに話題を振るも、返事の代わりに一瞥されて終わってしまい途方に暮れる。
「パスタはさ、明日行こうよ。ね?」
「…」
「…担当の方、爽やかで仕事もしやすそうだね」
「は?」
空気が一気に、さらに硬く刺さるように変化する。
…地雷、踏んだ。
「へー、ああいうのが好み?」
「なに、言って…、
「あれ完璧にみちるさんのこと狙ってたでしょ。みちるさんも昼誘ってもらって嬉しそうでしたよね」
「仕事の相手なんだから、無下にできないじゃない」
「恋人がヤキモチ妬くんでって言えばよかったじゃん」
「そんなこと言えるわけないでしょ」
「そっか。…そうっスよね。わかりました」
私には彼だけなのに、上司の私が邪魔してる。
立場さえなければあんな誘い断るのに。
でも、ヤキモチ妬いてくれて嬉しいなんて。
恋人ってむずかしい。
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沈黙が落ちて、空気が痛い。
「ねぇ、朔斗くん」
「…はい」
「せっかく2人でいるのに…さみしいよ」
「…うん、そうだね」
まだ言い合いの余韻が残る、わずかに居心地の悪い雰囲気。
限られた週末の2人の時間が、砂時計の砂が落ちるように減っていくのに耐えられなくなって切り出す。
彼が応えてくれて、少しだけ気持ちがほどけた。
「今日みたいなこと、これから先もあると思うの」
「うん」
これは社会人として、避けようのない現実。
この場限りで、口先だけで逃げるようなことはしたくなかったから。
「でも、さくとくんしか好きじゃないよ」
「うん。それは、ちゃんとわかってる」
それをわかっててくれれば大丈夫。
だけど、もう一段階。
「ホントは。ヤキモチ、妬いてくれるの嬉しい」
「えっ!じゃあ、これからも我慢しないで嫉妬する」
「ふふ、ほどほどにね」
瞬時に彼が纏った黒いオーラが霧散した。
やっぱり彼は喜んでくれると思ったんだ。
素直な朔斗くんが愛おしくて仕方ない。
「あんまり他の男に無防備なところ見せないでね」
「うーん?」
「ちょっと!」
「うそうそ!わー、体重かけないでー!」
横から体重をかけられて背中がソファに沈む。
空気が一気にはしゃいで、完全に気が緩んだ。
「いや、これはちゃんとわかってもらわないとダメっスね」
「へ?ちょ、待って!…んっ、さくと、くっ…」
一瞬で瞳の奥がギラリと鋭くなった朔斗くんに、くちびるごと食べられそう。
こうして、ようやく私たちの週末が幕を開けた。