
MOON TABLE #5 君に捧げる肯定ちゅー
金曜日、みちるさんといつもの店で日本酒を飲んだ帰り道。
アルコールが入って少しふわふわしている彼女の手を引いて、まぁるい月に照らされながら、彼女の部屋まで歩く。
「…ここ何か月か幸せすぎて、夢の中にいるんじゃないかなって思うんだぁ」
「急にどうしたの」
「んー、私はいつも考えてるよ。なんで朔斗くんは私なんかと一緒にいてくれるのかなーとか、こんなに幸せが押し寄せたら急にふっと消えてなくなっちゃうんじゃないかなとか」
「…みちるさんて、『私なんかが』『私のことなんて』とか『この歳で』ってすぐ言うよね。なんで、そんなに自己肯定感低いの?」
前から気になっていた。
仕事もできるし、視野も広くて気配りも欠かさない。
いつでも穏やかで人望もあるのに。
自分の価値を低く見積ってしまうのだけが、いつもとても歯痒い。
「あ、ごめん。…こういうの、鬱陶しいよね」
「もー、そうじゃなくて。俺はそういう部分も含めてみちるさんの全部を見せてほしいし、全部欲しい。みちるさんの全部を愛せるよ。でも…んー、だからみちるさんにも、みちるさんのことを大切にしてほしいって思ってる」
「…私を、たいせつに、」
「うん。今度から自分を大切にできないみちるさんが現れたら、その度にちゅーして『俺はだいすきだよー』って伝えますね」
思考グセを直すのはきっと簡単なことではない。
だったら俺が大切に大切に、最大級に甘やかして、愛してあげればいいのだ。
いつか、彼女が彼女自身を大切に扱うことを怖がらなくていいように。
⚪︎⚪︎⚪︎
お風呂上がり、朔斗くんに後ろから抱き込まれながらソファでまったり。
背中があったかくて、程よい重みもあって、夢見心地でうとうとし始めた頃。
「ねぇ、プラネタリウムのときにお互いの服選ぼうって言ったの覚えてる?」
「おぼえてるよー」
「あのときも『私の服なんてなんでもいい』って言ってたの、すごい気になってたんだよね」
「そうだっけ?うーん、だって私のことなんて誰も見てないでしょ」
「はい、1回目ー!」
— ちゅっ
「え?んむ!」
顎を持ち上げて後ろを向かされ、彼が唇に吸いついてきたところで一気に目が覚めた。
「え、待って、なんでいま?」
「みちるさんが『私なんて』って言ったんじゃん」
「ホントにちゅーするの?」
「もちろん。『肯定ちゅー』ね」
「こうていちゅー?ふふっ」
イケメンが真面目な顔で、かわいいことを言う。
「俺がみちるさんの全部を肯定したいから『肯定ちゅー』」
「…ネーミング、それでいいの?」
「いいの!…それより、だいすきだよって伝わった?」
「びっくりして、わかんなかった…かも」
ほんとは、ちゃんと伝わってるけど。
この年下のかわいい彼に、甘やかしてもらいたくなってしまったから。
「じゃあ、もう1回とびっきりの愛情を込めるから、ちゃんと受け取ってよ?」
「…さっきのだと、ちょっと首が痛い」
「んふふ。じゃあ、こっち向いて」
朔斗くんの脚を跨ぐように座り直し、向かい合ったところでぎゅーっと抱きしめられる。
彼の厚い唇がふにっと押し付けられて、ちゅっと可愛らしい音を立てて離れた。
胸の奥からじわーっと熱が全身に広がって、張りつめたものがふわっとほどけていく。
「みちるさん、だいすきだよ」
ココロの芯までとろとろに甘やかされて、朔斗くんの腕に包まれる穏やかな拘束感が心地いい。
降りてきた瞼に抗わずに目を閉じる。
いつまでもこの甘やかな夢が醒めないように願いながら。
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