
MOON TABLE|#1 ✳︎恋人(仮)ができました✳︎
〈side MICHIRU〉
「俺を恋人にしてください」
連日残業して、期限が迫った案件の目処がたった夜。
みんなが続々と帰っていき、コピー機の待機音だけが静かに響いている。
そんな中、部下・新星朔斗くんに告げられたひとこと。
一瞬、自分に向けられたものだとわからなかったくらいには動揺していた。
「いやいや!上司をからかっちゃダメよ!」
「からかってないですよ。望月さん、いまフリーですよね」
「…うん、まぁそうなんだけど」
「俺、本当に望月さんのことが好きなんです」
好き…ってなんだっけ。恋愛なんて遠い昔に置いてきてしまったから。
突然のことに狼狽えている間にも、ぐいぐい食い下がってくる。
「3年も一緒に仕事してて、なんで今さら…」
「今さらじゃないです。毎日、いつ言おうって思ってました」
「そんな、でも、…ねぇ?」
「俺と恋人になるの、いやですか?」
「いやなわけじゃなくて…、
10歳も離れてる私に、魅力なんてある?
考えている間も、彼はどんどん畳み掛けてくる。
「望月さんの誕生日まで3ヶ月ありますよね。そこまでお試し…してみませんか」
「お試し…、3ヶ月…」
「迷い、ますよね。でも俺、何もせずに後悔したくなくて」
「…うん」
「3ヵ月だけ。そこでダメだったら、…恋人になるのは諦めます」
「…わかった。でも、新星くんも途中で嫌になったらやめていいんだからね」
「そんなことはありえないですけど…わかりました」
「…よろしく、でいいのかな」
「はい!よろしくお願いします!ぅわっ、俺…今から望月さんの恋人なのか」
「(仮)ね!」
噛み締めるようにつぶやいた新星くんに、慌てて付け加える。
マーケティング部主任・望月みちる。
10個も年下の部下に完全に言いくるめられて、恋人(仮)ができました。
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帰宅後。
少し落ち着いた頭で、新星くんってどんな人だっけ、とぼんやり考える。
マーケティング部に異動してきて3年と少し。
いわゆるイケメンと称される整った顔立ちをしていて、背はだいぶ大きい。
とても誠実で、仕事は早いし丁寧。
一見クールに見えるけど穏やかな性格で、メンバーとの関係性も良好。
周りのこともよく見えていて…、そうだ、そういえば。
あれは、異動してきたばかりの頃。
── 3年前
まだ新星くんがマーケ部に配属されてすぐの頃。
午後の外回り。生理が来ちゃって、体調が急降下。
お腹痛いし、めまいもするし、少し座りたい…
「ちょっとごめん。お手洗い寄ってもいいかな?」
「あ。じゃあ俺、そこのコンビニ行ってくるんで、慌てなくて大丈夫です」
個室に入って、かばんを探るも
「あー…最悪。くすり補充してくるの忘れた…」
やっとの思いでトイレから出ると、なぜかドラッグストアの袋を下げた新星くん。中には鎮痛剤やホッカイロ、飲み物が入ってる。
「っ!…なんで?」
「俺、双子の姉がいるんで、なんとなくわかるんですよ。こういうときは無理しないでください。少し休んでから帰りましょ」
──
新星くんは、ごく自然に手を差し伸べられる人なんだ。
とてもあたたかくて、優しい人。
そんな彼に告白されて、恋人(仮)になった…らしい。
急展開すぎて、現実味がない。
恋人って、デートとかするんだよね?
明日からどんな顔して会えばいい?
ぐるぐる巡る思考に弄ばれながらも、ほんの少しだけ明日が待ち遠しかった。