
MOON TABLE|✳︎ひとりごとのコミュニケーション✳︎
〈side SAKUTO〉
彼女の家はいつも静かだ。
HSP気質のみちるさんは音が混ざり合うのが苦手だと言って、基本的にテレビをつけないらしい。
窓から入る風が通り抜ける音や鳥の声が心地よくて、少しまどろむ。
音の少ないこの部屋は、みちるさんのひとりごともよく聞こえる。
ここに頻繁に通うようになるまで知らなかったけど、意外とおしゃべり。
「お肉、お肉。わぁ、まだちょっと凍ってたか…」
俺のお気に入りは、ゴミ箱にゴミを放り込む時に「ぽいっ」とか「ぽーい」って効果音つけるやつ。
かわいくてつい真似したら、むくれた彼女がしばらく言ってくれなくなって、半泣きで謝ったのが懐かしい。
「…で、野菜ねー、あ!先に調味料混ぜとくやつだった!」
「んふふ。どれ?」
「あ、さくとくん。まだ寝てていいよ?」
「だってみちるさんが調味料混ぜ忘れてるから、手伝いに来た」
「また声出てた?無意識って怖い…」
「かわいいからいいけどねぇ」
「かわいくはないけどねぇ」
「あ!またそういうこと言って!」
「待って待って!調味料混ぜてって!」
肯定ちゅーをしようとじゃれつく俺に、慌てて手伝いを命じる彼女の声。
静かだった部屋に、2人の笑い声が広がる。
たったそれだけのことが、俺のしあわせ。
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〈side MICHIRU〉
この部屋で言葉が交わっているのを、いまだに不思議に思うことがある。
「あー、忘れた。二度手間…」
お風呂掃除に来るついでに、畳んだタオルを洗面所へ片付けようと思って避けておいたのに、すっかり忘れて手ぶらで来てしまった。
「んー?どうしたの?」
思わず呟いた一言に彼からの返事があって、そういえばひとりじゃないんだ…とぼんやり思う。
朔斗くんがここに頻繁に通うようになるまでは、この空間に響くのはずっとひとりごとだったから。
「ごめん。ひとりごと。さっき畳んだタオル忘れて…」
「タオルってこれ?」
「え!すごい!なんでわかったの?」
「さっき『お風呂掃除に行くときでいっか』って言ってたのに置いてっちゃったから」
「んふふっ、言ってた?ありがとう」
ただふわふわと消えていくだけだった言葉たちを、こうして拾い上げてくれる彼がいる。
ただそれだけのことが、私のしあわせ。