
MOON TABLE|#5 ✳︎写真とSNS✳︎
〈side MICHIRU〉
【カシャ】
卓の上に並べられた料理と日本酒セットを写真に収める朔斗くん。
もはや見慣れた光景になりつつある。
「朔斗くん、いつも写真撮ってるけどSNSでもやってるの?」
「いや、見る専門スね。みちるさんは?」
「私も見るだけ、かなー」
「アカウント教えてほしい」
「いいよー」
「じゃあ、俺がQR読みますねー。あ、きたきた。フォローします」
「えー、と?フォローしてくれた?」
「ん?しましたよ。あれ…、みちるさんて、男性アイドル好きだったり、?」
「え゛!」
やばいやばいやばい!
間違って、完全プライベート用を教えてしまった…。
オタクバレが怖くて、こういうときのためにビジネス用のROM専アカ作ってあるのに!
「待って、ごめん、間違えた、見ないで、消して、記憶からも消して!」
もうテンパリすぎて半泣きで朔斗くんのスマホに手を伸ばすと、そっと手首を掴まれる。
「大丈夫だから。落ち着いて」
「だって、こんな歳でオタクなんて…恥ずかしいって」
「恥ずかしくなんかないよ。何歳だって、好きなものは好きでいいじゃないですか」
じんわり、沁みた。
「いつから好きなんですか?」
「8歳か9歳かなー」
「へー!かなり長いっスね!…俺が生まれる、前だ」
「え…ほんとだ…ははっ、人が生まれてから大人になっちゃうくらいか…」
「それだけ長く好きでいるってすごいことですよ」
「ふふっ、フォローありがとね」
「このうちわは手作りっスか」
「そうそう。粗だらけだからあんまり見ないで」
「結構遠くまで行ってるんスね。しかもこれ、最近じゃん。ひとりで行くんスか?」
「そうだね。ほぼひとりだなー。今度はお土産買ってくるから、このことは内緒にしてね」
「…俺も一緒に行ってみたいかも」
「んはは!朔斗くんと行ったらファンサもらえそう」
朔斗くんがプロフィール画面を親指で繰りながら、いろいろと質問を投げかけてくれる。
ずっと隠してきたからこんなふうに話せるのが嬉しくて、調子に乗ってペラペラ喋っちゃうのに、朔斗くんは一切冷やかしたりしない。
「ぅえ!?」
「え?…どうかした?」
「あの、この写真…」
「どれ?…あー。これはソロウエディングっていって、1人でドレス着て写真撮ってもらったやつ。朔斗くんと同じ歳かちょっと若いくらいかなー。懐かしい」
「びっくりした…。どういう経緯で撮ることにしたの?」
「まぁ、1人で生きていく覚悟?みたいな」
「30手前で?」
「まぁ、30年近く1人だったら今後も1人かなって。実際あれから10年近く経っても1人だしねー。あとは、当時一緒に働いてたお姉さんが『真っ白いドレスは30過ぎたら着れなくなるよ!』って言うから。じゃあ、今のうちに着とくかーっていうのもあったかなぁ」
「なんで?」
「30過ぎると肌がくすむの。まぁ、試着したらこの薄いピンクが気に入って、結局真っ白は着れなかったんだけどねー」
「…スか」
「あ。なんか、私のことばっかり。ごめんね」
そもそも朔斗くんの写真の話だったのに、つい喋りすぎてしまった。
「で、朔斗くんはなんでそんなに写真撮ってるの?」
「その話題、まだ生きてたんスね。…ただ、みちるさんと過ごす時間を大切に残したいな、って勝手に思ってるだけ。なんでもない時間でも、一緒にいられるのが嬉しいんで」
思いもよらない理由だった。
私と過ごす時間を大切に、なんて。
そんなこと思ってくれる人がいるんだな。
「そ、か。そう言ってもらえると嬉しい」
「で、次はどこ行きます?あ、そろそろ祭りも増えてくる時期っスよねー」
「お祭りなんて何年も行ってないなー」
「今年は一緒にどこか行きましょうよ。花火大会はこっちがいいし、神輿はあっちのが迫力あるよね」
私も朔斗くんと過ごす時間を残していきたいな。
まずは手始めに。
【カシャ】
空になったガラス製の徳利とお猪口の奥に透ける、スマホでお祭り情報を集める朔斗くんの手をカメラロールに収めた。