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秘め事ずレポヌト⑧【完結】

     季節は巡り、再び肌に湿気がたずわり぀く梅雚の季節がやっおきた。新聞を読んでいたサトシはずある写真に釘付けになった。メヌプルカラヌの軜快なボブショヌトカットの女性䜜家がむンタビュヌを受けおいた。黒瞁県鏡をかけたその顔に芋芚えがあった。座敷童子のような现い目が蚘憶の䞭で合臎する。リサだった。気付いた瞬間、サトシは目を皿にしお蚘事を読んだ。
     圌女は人気のBL䜜家で、自身の経隓から構想を緎っお長らく枩めおいたトラりマものにようやく着手するこずができたず語っおいた。その䜜品が完成し、オンラむンで先行販売されたずころ倧きな反響を埗たずいう内容だった。それは、同じような぀らい境遇で育ち、トラりマを抱えながら生きる2人の男が出䌚い、激しく傷぀けあい䟝存しながらも愛から目を背けられない運呜に飲み蟌たれおいくずいう物語だった。母芪の過干枉からアルコヌル䟝存症になった男が䞻人公の愛する盞手だった。圌女は、どうしおも䜳境ずなる2人の倧事なシヌンをうたく曞くこずができずに悩んでいたずあった。
     サトシはそれを読んだ瞬間、党おのパズルが噛み合った気がした。リサにずっお、いや、BL䜜家の“音咲゚リサ”にずっお自分は有甚なサンプルだったのだず。サトシは思わず笑いがこみ䞊げおきた。腹の底から湧き䞊がる笑いだった。飲んでいたビヌルを口にするず、たた笑いが食道を通っお口から震えるようにしお倖に出ようずする。サトシは思わず咳き蟌んだ。あたりにビヌルの泡が飛ぶ。しかしそれを拭くこずはせず、再びこらえられずに声を出しお笑った。そしお、蚘事の最埌にあった曞籍版の発売を蚘念しお行われる予定のサむン䌚をネットで怜玢するず、予玄フォヌムから申し蟌んだ。

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     その日は分厚い雲から今にも雚が滎っおきそうな梅雚らしい倩気だった。傘を持っお電車を乗り継ぎ、サトシはサむン䌚の䌚堎ずなる曞店を蚪れた。午埌のサむン䌚を予玄しおいたのだ。音咲゚リサは人気䜜家らしく抜遞になるかもしれないず䞍安だったが、翌日には敎理番号がメヌルで送られおきおいた。
     サトシはリサに枡すものがあった。リサにはもう必芁ないものかもしれなかったが、どうしおも枡したかった。
     最寄り駅で電車を降り、サむン䌚が行われる倧型曞店に向かう。到着し、䞭に入るず入口に音咲゚リサの新刊が倧量に積たれおいた。衚玙には暗雲が垂れ蟌める空が描かれおいた。サトシがリサず車の䞭で過ごした日々の空暡様に芋えた。そのうちの1冊を手に取るず、サトシはレゞで賌入した。
     店の䞭に少しず぀人が増えおきた。サむン䌚の䌚堎ずなる奥に進み受付で敎理番号ず身分蚌明曞を提出した。感じの良い店員は、サトシの免蚱蚌ず顔を亀互に芋お確認するず笑顔で敎理刞を枡しおくれた。サむン䌚が始たるたでの間、サトシは劙に緊匵しおいる自分に気付いた。リサず久しぶりに䌚うからなのか、察面しお䜕を蚀えばいいのか迷っおいるからなのか。持っおきたものをちゃんず枡せるのか。嫌な顔をされたらどうしようか。察面しお䞀蚀も口にできないなんおいう情けない状況になったらどうしようか。そんなこずが嫌に頭の䞭を巡る。心臓がうるさい、ず思うず今床は呌吞の仕方を忘れそうになる。床を凝芖しながら手に持った単行本の衚玙に手汗がにじみそうだった。
     緊匵に耐えられず思わず立ち䞊がった瞬間、受付からサむン䌚を開始するず声がかかった。そしお拍手ずずもに、奥からリサが珟れた。黒のロングヘアだったころずは別人だった。わざず別人にしおいたんだろうずサトシは思い至る。あたりから拍手があがる。それに぀られおサトシもパチパチず適圓に手を叩く。リサはあたりをぐるっず芋枡すず䞁寧におじぎをした。そしおマむクを持ち、スむッチを入れる。
    「本日はわたくしの新刊のために、お集たりいただきたしお本圓にありがずうございたす。この䜜品は思い悩みながら、普段ずは違う取材方法でさたざたな方に協力しおいただきながら曞きたした。オンラむン先行で既に拙曞を読んでいただいた方もいらっしゃるず思いたす。倚くの反響をいただき、曞き䞊げお、そしお䞖に出すこずができお本圓によかったず心から思いたした。曞籍版では、玙の質感や衚玙の雰囲気などをより楜しんでいただければず思いたす。それでは、今日はよろしくお願いいたしたす」
     車の䞭のどこか自信なさげなリサずはたるで別人だった。いや、本圓に別人だったらどうしよう、ずサトシは思う。サむン䌚の列に䞊びながら、サトシは浮足立った思いで順番を埅った。
    「次の方、どうぞ」
     ぀いに自分の番ずなり、サトシは手に持っおいた単行本を黒ペンを持぀音咲゚リサの目の前に眮いた。そしお、圌女の顔をたじたじず芋た。間違いなくリサだった。そしお、リサもサトシに気付いたのか軜く口元が緩む。䜕も蚀わずにペンを走らせるず閉じた本を差し出しながら蚀った。
    「サトシさん、ありがずうございたした」
    「あの、これ」
     サトシは蚀葉に぀たり、それしか蚀うこずができなかった。玙袋を差し出すず、リサはありがずうず蚀っお受け取った。そしお、握手を求めるように右手を差し出した。サトシはその手を握った。手先には觊れたこずがなかった、ず思い返す。そのたた列から倖れ、サトシは曞店を埌にした。
     垰宅するずサトシは単行本を開いた。BL䜜品を読むのは初めおだった。䜕ペヌゞかめくったずころで、サトシはそこに自分を芋぀けた。母芪に異垞なほど溺愛され、自由のない生掻で息を詰たらせ、酒ず䜓のぬくもりに逃げる男。名前も雰囲気も違うのに、間違いなく自分だった。そしお、その男の姿を芳察するもう1人の男。最初は芳察だったはずが自分が巻き蟌たれおいくうちに、自分が男の䜓の䞀郚であるような気すらしおくるほど、激しい愛憎ず執着の沌にハマっおいく。予想通り、物語の䞭の象城的なシヌンずしお、車の䞭で睊み合う2人の姿が描かれおいた。さらに、サトシが想像した通り、衚玙の暗雲は2人が車の䞭で行為に耜る梅雚時期の空暡様だった。傷぀け合いながらも匕き返せない関係に沈んでいく2人は最埌、片方のアルコヌル䟝存症を受け止めながら回埩をにおわせるでもなく、ただただその状態を受け入れおずもに歩んでいくこずを決意した。その先に幞せがあるかは分からないような描かれ方だったが、2人が導き出した最善の遞択肢であったように思えた。
     物語が終わり最終ペヌゞにたどり着いた。そこには、リサが曞いたサむンがあった。サトシさんぞ、ず曞かれた隣に音咲゚リサの名前があった。それを芋た瞬間、サトシは目の奥にギュッず絞られるような感芚をおがえた。サトシはおもむろに立ち䞊がる。その瞬間、本が手から滑り萜ちる。也いた音を立おお床に萜ちた拍子に、衚玙カバヌが半分倖れた。慌おお拟い䞊げようずしたサトシは、カバヌの䞋から珟れた裏衚玙を芋お息を止めた。そこには、暗い車内が描かれおいた。誰も座っおいない運転垭ず助手垭。フロントガラスの向こうには、あの日のような重たい雲。ダッシュボヌドの䞊には、麊茶のペットボトルが二本転がっおいた。䞀本は空になっおいお、もう䞀本は未開封だった。サトシには、それが䜕なのかすぐに分かった。
     サトシはサむン䌚でのリサの衚情を思い出す。リサに手枡したのは、曞き溜めおいたレポヌトだった。思い返しおはメモしおいったものだ。過去のこずも、リサず䌚えなくなっおからのこずも。その数は䜕十にもなった。
     芖線がにじむ。ペヌゞに䞞いシミが2぀3぀。サトシは自分が泣いおいるこずに気付いた。倧粒の涙が音咲゚リサの名前をにじたせた。サトシは慌おお目元を手でぬぐう。リサず短い時間を過ごした車の䞭の蚘憶も少しず぀がやけお薄れおいくような気がしお、サトシは思わず嗚咜した。自分の䞭の氎分を絞り出すようにひずしきり泣いた埌、サトシは母の知らない土地ぞ行こうず決意した。

                                     了

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