メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byt_kotomi

たった1枚の温かさ #一言で表せない感動

    もつにこみ

    東北地方が大きな地震に見舞われたのは、僕が公務員に転職して一年目のことでした。大きな混乱の中、募金に代表される被災地への支援を形にするような仕事をすることになりました。

    連日、被災地からの映像がテレビで流れ、避難所からの中継は被災者の声を拾っていました。「○○が足りない」と言えば、多くの視聴者が反応していたように記憶しています。

    僕の職場は、電話が鳴り止みませんでした。
    地震発生直後は、物資を集めたり送ったりする体制も整っておらず、送り先すら決まっていません。全ての申し出を断らざるを得ない状況でした。多くの方が了承される一方で、強い言葉を投げつける人もいました。

    「人でなし!」
    「誰の税金で飯食ってるんだ!」

    そんな日々の中、募金に来る方に驚かされることも多くありました。窓口に札束をいくつも置いたおじさんがいたり、地元の有力者の家では手が震えるくらいの現金を手にしました。募金は数千万円集まる日もあり、ひとつき足らずで数億円を集めました。

    数日経ったある日、窓口のほうから声をかけられました。

    「募金はここですか」

    カウンター越しに、お母さんらしき女性と5歳くらいの男の子が見えました。席を立ってカウンターに向かうと、お母さんは、ちょっと苦笑いをしているような表情で、なにか気まずそうに続けました。

    「何か、・・何かしたいって。自分の、貯金箱から、出してきたんです。ほんとうにわずかな、金額ですけど、募金ってできるんでしょうか。」

    お母さんの言葉が、はじめは飲み込めませんでした。金額の多寡を恥ずかしがっているのか、方法がわからないのか…。しかし、それは違いました。

    「ほら、渡して」

    意を決したように、男の子は握りしめていた手を向けてくれました。慌てて手のひらで受け取ったのは1枚の100円玉でした。
    いつから握りしめていたのか、とても温かかったのです。

    男の子は、とても強い眼差しをしていました。ありがとうございます、と声にした後、ぜひ領収書を書きたいと伝え、待ってもらいました。失礼だと思いながらも、終始うつむいていました。そうしなければ、涙がこぼれていたでしょう。

    男の子の気持ち、それを実現したお母さん、それがとても嬉しかったのです。その親子のことは僕しか覚えていないでしょう。温かい100円玉は、そのほかの募金と一緒になり機械に吸い込まれていきました。

    「公務員になって、良かった」

    心からそう感じた瞬間でした。

     
     
     
    いつでも”平熱”のエッセイスト。穏やかな日常を素直に書いていきたい。妻と子(11歳・6歳・3歳)と、モンブランが好き。地方公務員・転職組。

    あなたへのおすすめ