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Photo byrainponcho_mama

すぐに「こわい」と言う、キミへ

    先日、めでたく3歳の誕生日を迎えた息子が、かわいい。

    短い手足を大きく動かして、懸命に走ったり踊ったりするのもかわいいし、お気に入りの“ちいかわのうさぎ”のモノマネをするのもかわいい。

    おしゃべりな上の子たちの影響もふんだんにあって、滑舌もよくなってきて、話すことも上手くなってきた。

    そんなある日、息子が、口ぐせのように「こわい」と言っていることに気がついた。

    狼やライオン、恐竜などのいわゆる凶暴なイメージのある動物を見ると「こわい」と眉を寄せる。

    よい子の味方、アンパンマンを観ていても、くらやみまんやホラーマンが出てくると「こわい」と言って画面から目をそらす。

    黒や紺など濃い色のシャツやパジャマは柄を問わず「こわい」と言って、袖を通すことを嫌がってしまう。

    僕も、初めのうちは「こわくないよ」「なんで?そんなことないよ」「やさしい恐竜さんなんだよ」などと、息子の言っていることを、やんわりと否定していた。

    「こわい」と言い続ける息子が、本当に怖がっているのかは分からない。でも僕は、怖がって嫌いになったり苦手になるのを心配していた。もちろん、服や靴を身につけてくれないのは困る、といった親の都合もある。

    むしろ、男の子なんだから強く育ってほしいという思いがあって、口にしたことはないけれど、正直に言えば“弱音を吐くな!”と思ってもいた。


    僕なりの子育ての方法論と言うわけではないけれど、僕は自分が幼い頃のことを思い返しては、どんなことをしてもらったか、どんなふうにしてもらいたかったかを考えることがある。

    振り返ると僕は、よく泣いていた。いわゆる”泣き虫”だった。それは、幼なすぎて自分の感情がコントロールできずに、不本意ながら涙として表明していたのだった。悲しくて泣き、怒って泣き、悔しくても泣いた。きっと、こわい!と感じたときも涙を流していただろう。

    大人になって、すぐに涙を流すことは減ったものの、お化けとか幽霊の話は苦手なままで、虫も怖いし、暗がりもやっぱり怖いままだ。

    ある日、子どもたちとお風呂に入っていたとき、頭を洗うためのブラシが置いてあるのが目に入った。ブラシの部分が伏せて置いてあり、取手になる突起が、小さな動物の頭部のように見えた。

    「このブラシ、こう置いてあると、怖いんだよね。ほら、足がたくさんあって、ここに頭があって、変な生き物みたいに見えてきて、…怖くない?」

    そう言いながら、伏せてあったブラシをひっくり返した。それを聞いていた子は「確かに、ちょっと怖いかも。でも、パパ、怖がりだねぇ」と嬉しそうに言った。

    それでようやく思い出したのだった。

    幼い頃の僕は、怖がりで泣き虫だったけれど「怖い」と口に出して言えなかった。兄弟の一番上で男の子で、しっかりしなくちゃ、強くなくちゃ、と思っていたし、両親もそう言っていた記憶がある。だから、弱音を吐くことを自分自身に許していなかった。

    「こわい」だけでなく「いやだ」も言えなかった。

    だから、そのまま成長して大人になり、親になっても、息子の「こわい」を”言ってはいけないこと”と考えていた。

    「こわい」と言って、顔をしかめる息子の姿が、幼い僕と重なった。我慢して言えなかった自分の気持ちが、今更になって思い出された。

    あの頃の僕が、大人になった僕の目の前にいるような不思議な気持ちになる。

    息子に限らず、我が子が自分や配偶者の幼い頃の姿に似ていると感じることがある。妻は、そんな息子のことを、幼い頃の僕によく似ていると度々指摘する。

    息子が「こわい」と言えること、たったそれだけのことだけれど、それは幼い僕が欲しかった安心でもあった。

    そうだね、「こわい」よね。

    そう言ってもらいたかったんだと気がついて、息子の気持ちに寄り添いたいと思えた。

    性別も関係ないし、成長する過程で感情は変化していくだろうけれど、”今は「こわい」でいいか”と思えるようになった。

    あれもこれも、「こわい」というから、きっとほかにも意味が含まれているのかもしれないけれど、息子の「こわい」を受け止めたい。


    僕の誕生日に、息子とお揃いのTシャツを買った。動物たちが列車に乗っているデザインが可愛くて、息子と一緒に着て出かけたかった。

    嬉しくて、届いたばかりのTシャツを息子にも広げて見せた。


    「こわい」

    布地が紺色だった。

    うん、そうだよね。こわいのは分かった。でも君はすぐに大きくなってしまうから、とりあえず着てくれないか。











     
     
    いつでも”平熱”のエッセイスト。穏やかな日常を素直に書いていきたい。妻と子(11歳・6歳・3歳)と、モンブランが好き。地方公務員・転職組。

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