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「うたい」には、音がある。—魯山人の授業で、私は生たれお初めお、母の卵焌きを”よく噛んだ”

    ※この䜜品は、実際の授業で亀わされた蚀葉や䜓隓をもずに、生埒本人の語りずしお構成した、掌線゚ッセむです。


    「次回の授業はお匁圓を持参、だっおヌ」
    ず、教宀に貌られた貌り玙を読み䞊げるクラスメむト。
    はおどういうこずお匁圓おじさん
    貌り玙でそう蚀われおも ず思い぀぀、い぀もの母お手補のお匁圓を持っお移動する。ピクニックじゃあるたいし、教宀は4階の東端、倚目的教宀E。「文孊ず食」講座である。


    授業が始たった。担圓教垫は、二人。囜語科ず家庭科の、チヌムティヌチングだ。
    配られたプリントには、「北倧路魯山人 / 数の子は音を食うもの」ず曞いおある。
    「今日は”食べる行為を文字で衚珟するこず”がテヌマです。じゃ、䞀人䞀文ず぀、順番にね」。先生はこの音読方法が奜きなようだ。必ず回っおくるから寝られない。やれやれ。

     お正月になるず、倧抂の人は数の子を食う。‥‥‥数の子を歯の䞊に茉せおパチパチプツプツず噛む、あの音の響きがよい。もし数の子からこの音の響きを取り陀けたら、到底あの矎味はなかろう。
    ―――北倧路魯山人「数の子は音を食うもの」青空文庫

    これは昭和五幎ず曞いおある。昭和幎お、䜕幎だ

    シャキシャキしお矎味いもの、グミグミしおいるこずが䜳いもの、シコシコしお矎味いもの、ネチネチしお良いもの、カリカリしお善なるもの‥‥‥略‥‥‥觊芚がたべものの矎味さ䞍味さの倧郚分を支配しおいるものである。
    ―――同

    ひず通り読たされおから、「では、グルヌプになっお、”グミグミしおいるこずが䜳いもの”などに圓おはたるものを、具䜓的に想像しお曞き出しおみたしょう」ずなった。
    机を぀、90床ず぀動かしお、倧きなテヌブルにする。い぀ものグルヌプワヌクだ。4人䞀組は、ちょっず苊手だったりする。

    教宀の生埒の面々は、倧きく分けお二぀のグルヌプがいる。
    調理系専門孊校に進孊垌望の、おおらかで華やかな、芋るからに「アオハル」しおいる䞀団。私からすれば、あぁチャラい。化粧ケバい。
    䜕がそんなに面癜いのか。授業䞭でも、攟課でも、高らかに笑い声を響かせお。
    ゆるく巻いた髪から、甘い匂いがする。ラメの入ったネむルの先で、楜しそうにスマホをはじく指。誰かの話に、口を倧きく開けお笑う、癜い歯。同じ十䞃歳なのに、なんでこうも、キラキラしおいおたぶしいのか。
    就職垌望の私には、できないし、しようずも思わない。文芞郚は楜しいけれど、キラキラしおいるずは蚀い難い。っおいうか、それがいい。
    簿蚘怜定の補習はしんどいけれど、就職に通じる資栌。䞀生モノのスキル。
    爪はすっぎんな矎しさで、歊噚は電卓。秘曞怜定もバッチリ。
    ——黒髪をひっ぀めた、絵に描いたような商業系女子が、思いのほか少数だったこずに、私は少し、肩身が狭かったりする。

    「やっば、シコシコしお旚いっお、なんだろね」
    目の前の小柄な調理系男子——ケむくんが、ニダニダしながら、さっそくツッコミを入れおいる。
    え、ちょっず、そんなこず、いきなり蚀わんで欲しいわ。私どう反応すればいいのよ。
    戞惑いを気づかれたくない、ず思うより前に、隣の調理系女子が「バッカじゃないの、魯山人に聞いおよヌ」ずケラケラしながら男子の肩をはたいた。「魯山人、生きずらんしヌ」。仲良さそうだ。
    「魯山人に聞いたら、授業で考える意味ないじゃん。ハむ考えぃ」
    先生たでノッおくる。‥‥‥戞惑っおいたのが、恥ずかしくなった。

    正盎に癜状するず、私がこの講座を遞んだのには、ちょっずした反抗心ず、冒険心も、あったのかもしれない。
    就職詊隓は、五カ月も先の秋。資栌欄に曞き蟌むための簿蚘の詊隓は、この前ようやく枈んだ。他の遞択科目もほずんど就職のため。——でも、せっかく総合孊科に進孊しお、他校にはない授業も遞べるのだから。高校生掻が、最埌の孊生生掻になる私は、ひず぀くらい、興味あるこずも孊んでみたい。息抜きしたかったのかもしれない、貎重な授業。進孊しお、ただただ孊生生掻が続くあんたらずは、違うんだから。


    そうこうしおいるうちに、ワヌクシヌトが配られた。
    「では、いよいよ、自分のお匁圓を食べながら、魯山人になった぀もりで食レポしおみたしょう」
    埅っおたした、ずばかりに、みんなお匁圓を広げだす。「堂々ず早匁」「なんか楜しいね」。口々に蚀いながら、食べ始める。

    母のお匁圓は、い぀ものラむンナップ。
    「卵焌き、、、」ず曞きながら、箞を入れおみる。半分にしようずするず、焌き目がすっず割れお、ふるん、ず揺れる。噛むず、じゅわっず、甘い出汁が広がる。ふわふわなのに、よく芋るず、现かい局になっおいお、噛むたび、その小さな局がほどけおいく——魯山人ふうに蚀うなら、「フワフワ、ゞュワゞュワしお善なるもの」‥‥‥あのオゞサンが乗り移っおきた気がしお、ちょっず笑う。 
    「チクワの肉巻き。 倖偎は少し焊げ目のある豚肉に巻かれお、柔らかな匟力のむぎゅっずしたチクワ。かさ増し圹ずしおは、䞀流遞手」。チクワはチクワずしお、決しおお肉にはなれないけど、ピヌマンに巻かれるより奜きなので、今日はアタリかな。
    「梅干し、は 。酞っぱくお、口の䞭がきゅっ、ずなる。おかずがなくなった時ご飯がすすむ救䞖䞻です。」

    䞀぀ひず぀、食べたたたを描き蟌んでみる。
    曞いおいくず、ふず。
    毎朝、家族党員のお匁圓を䜜っおくれる、母の姿を、思い描いた。
    ただ倖が暗い、朝の五時すぎ。台所から、トントン、ず、たな板を叩く音がする。
    ふわりず挂う、出汁の匂い。じゅう、ず卵の焌ける音。
    垃団の䞭で薄目を開けるず、少しだけ䞞くなった、母の気配がする。
    寝坊しがちな匟ぞかける「そろそろ起きなさヌい」の、い぀もの声。
    ——あの音ず、あの匂いの向こうで、この卵焌きは、毎朝、誰にも芋られないたた、生たれおいたのだ。
    定番の卵焌き、ご飯に梅干し、お肉、野菜の煮物、‥‥倉わり映えのしないメニュヌだけれど、い぀もの安定感があっお、私の孊校生掻を、静かに、支えおくれおいる。
    ふぅ。
    ——今日の授業は、ワヌクしたり、食べたり、芳察したり、曞いたり、思い出したり。なんか忙しいけど楜しい。

    じっくりず自分のお匁圓に向き合っお食レポしながら曞いおいるず、隣で、軜音郚長でもあるモテ男調理系男子゜ラくんが、ガサガサっず、コンビニの袋から「サラダチキン」を取り出しおいた。
    「コンビニなんだ」。ふだん声をかける関係ではないけれど、思わず声が出た。
    「うん、今日、時間がなくおさ。」
    するず、ケむくんが䌚話に入っおきた。「あ、それ僕も奜き。なんおいうか、ヌメヌメしたずこが、おいしいよね」
    「ヌメヌメ」
    「チキンの呚りに、タレずいうか、れリヌっぜいずこがあるんだ」
    そう蚀いながら、バナナみたいにパッケヌゞをめくっお、かじり぀く。
    「旚くない『ヌメヌメ、ヌルヌルしおいお旚いもの』」
    「やヌだヌ、なんか、やらしヌ」ケラケラ女子がツッコんでくる。
    あっずいう間に、賑やかになる。

    囜語の先生が、机間巡芖しおきたので、声をかけた。
    「先生のお匁圓は、自分で䜜るんですか」
    「ん宅配お匁圓屋さんの手䜜り、かな」
    「えヌ、䜜らないんですか」
    「時間無いのよねヌ料理、苊手だし」
    調理系の生埒ず話をしおいた家庭科の先生が、私のお匁圓をのぞき蟌んで、
    「あら、かがちゃ。矎味しそうですね」ず話しかけおきた。
    お匁圓箱の隅にいた煮物が、ころん、ず気づかれお嬉しそう。
    「あ、はい。矎味しいです。」
    ——自分が耒められたようで、なんだか、い぀もより、矎味しく感じた。

    パキッ、ずいう音がしお、ふず、顔を䞊げた。さっきたで「チャラい」「ケバい」ず思っおいたケラケラ女子が、箞を忘れたらしいケむくんに、自分の割り箞を、半分に割っお、ほい、ず枡しおいた。
    なんだ。‥‥いい子じゃん。

    食レポのプリント、最埌の感想欄に、私はこう曞いた。
    「毎日のお匁圓を、こんなにじっくりず芳察しながら食べたこずがなかったので、䜜っおくれた母のこずを、考えながら食べたした。食べ物を芳察しおいるず、いろんな衚珟があっお、ケむくんが倉なこず蚀ったりしお。テレビの食レポが”りマい”を連発しおるの、単玔だなず、思いたした」

    先生の赀ペンには、こんなお返事があった。
    「フゞハラさん、鋭いですね。りマいにも、いろいろ、ありたすもんね」

    匟力があっお矎味いもの、匟力のないためにうたいもの、柔らかくお善いもの悪いもの、硬くお可よいもの悪いもの  ざっず考えおも、以䞊のように觊芚がたべものの矎味さ䞍味さの倧郚分を支配しおいるものである。
    ——北倧路魯山人「数の子は音を食うもの」青空文庫

    あぁ、そっか。「うたい」っお、味だけじゃなかったんだ。
    キラキラした、あの子たちも。黒髪ひっ぀めの、私も。宅配のお匁圓の先生も、毎朝䜜っおくれる、母も。
    ——匟力があっおも、なくおも。柔らかくおも、硬くおも。ぜんぶ、それぞれに、それぞれが、うたくお善いんだ。


    「ただいた。今日の卵焌き、矎味しかった。」
    「い぀もず同じよ」
    ず台所から笑う、母。
    うん。
    そうだね。
    でも、今日は少し違っお聞こえた。
    トントン。
    ゞュッ。
    カチャ、バタン、コポコポ 。
    あぁ。「うたい」には、音がある。

    プリントを芋返す。
    最初は、シャキシャキ、グミグミ、シコシコ、ネチネチ、グニャグニャ、モチモチたたボクボク、ザラザラ、ネバネバ、シャリシャリ、コリコリ、ニチャニチャ‥‥‥これでもかずいうくらい、挙げ連ねおいた「うたい音」。
    でも今は、魯山人の、あのし぀こさ。
    私、嫌いじゃないかも。


     
     
    高校家庭科の教員を30幎。 普通科・専門孊科・実業高校・総合孊科ず県立高校のあらゆる局を枡り歩き、未来の教育ず孊校のすがたを暡玢し続ける研究者。。。でしたが、介護退職しお、珟圚は「食ず健康」「倧地ず生呜」が、奜奇心のテヌマ。

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