メインコンテンツへスキップ
見出し画像

#再開

    大学時代からの先輩だった。

    当時から距離は近かった。
    飲み会の後、2人で家で飲み直して、
    一緒に動画を見て、だらだら喋ることもあった。

    でも、不思議と何もなかった。

    社会人になって、
    たまたま会う機会があった。

    今更になって彼は笑って言った。
    「普通に家であんな過ごして、
    何もなかったの偉いよな」

    その“偉い”に、
    当時の全部が詰まってる気がして、
    私は少しだけ息が苦しくなった。

    大人になって再会した先輩は、
    当時の彼女と結婚してパパになってた。
    でも、相変わらず空気の入り方もずるかった。
    隣に座る距離も、
    頭を撫でるタイミングも、
    酔った帰り道で手を繋ぐ自然さも。

    そして、絶対に“決定打”を打たない。

    「会う?」
    「来たいなら来ていいよ?」

    そう言って、
    いつも選ぶのは私。
    拒絶もしない。
    でも奪いにも来ない。
    だから苦しかった。

    会いたい。
    でも会ったら終わる。
    好きになったら困る。

    その全部を、
    毎回自分で選ばなきゃいけなかった。

    飲み会帰り、
    腰に回された手の熱が離れなくて、
    私はたぶん少しだけ壊れた。

    帰り際、
    繋がれた手を見ながら、
    冗談みたいに笑って言った。

    「……もう帰るから、キスして」

    自分で言ったくせに、
    死ぬほど恥ずかしくなった。

    先輩は「もう、仕方ないなぁ」と笑って応えた。

    帰りの電車で、
    「好きになったら困るから、もうやめよ」
    と送った。

    すると彼は、
    「どうしたの?俺だけケロッとしてたら、
    俺が悪いみたいじゃん」
    と返してきた。

    ずるいと思った。

    わかってくるくせに、
    最後まで、私だけに理性をやらせる。

    だから私は、
    半分本気で、半分冗談で言った。
    「拒絶してよ」

    でも彼は、
    最後まで拒絶しなかった。

    ただ、
    「普通にダメだよな」
    とだけ言った。

    私は既読も付けずに
    スマホの中のトークも写真も全部消した。
    電車の窓から見る夜景が滲んで見えた。

    #創作大賞2026 #恋愛小説部門
    #恋愛小説 #恋愛未満

     
     

    mina

     
     
    恋未満の標本