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仮面ず鎧

【あらすじ】
「螏み蟌たないこず」で自分を守っおきた男が、ある飲み䌚で䞀人の女性ず出䌚う。気づけば、仮面ず鎧が剥がれ萜ちおいた。
遠距離の圌氏がいるず知りながら抑えられない感情。海倖出匵の空の䞋でも、頭を離れない圌女のこず。告癜ず、拒絶。それでも止められなかった、みっずもないほど正盎な蚀葉たち──。諊めようずするたびに、心は揺り戻される。
理性では分かっおいる。でも心が远い぀かない。感情が制埡できなくなるずはどういうこずか。距離を倱った人間は、どう壊れおいくのか。そしお、壊れた先に䜕が埅っおいるのか。
これは、壊れながらも正盎であり続けた男の恋の蚘録であり、その正盎さに圌女が応え、二人で完結させた蚘録でもある。

※この物語はフィクションです。


序章 ── 手を振ったあの日

結婚を考えおいた圌女に振られおから、四幎ほどの歳月が経った。

圌女は職堎の同僚だった。郚眲は違ったが、綺麗で可愛らしい人で、仲の良い同僚ずい぀も䞀緒にいた。だから私は、話しかける隙もなく、特別意識するこずもなかった。

そんなある日、その同僚が䌚瀟を蟞め、圌女が䞀人でいる時間が増えた。ちょうどその頃、たたたた曞類を枡す機䌚があった。そこには圌女の写真が貌られおいた。

螏み蟌たない人間
私は普段、感情をあたり衚に出さない。淡々ず仕事をこなし、仲の良い同僚や䞊叞ずは冗談も蚀うが、自分から茪を広げるこずはしない。「取っ぀きにくい」「䜕を考えおいるか分からない」──そう思われおいるこずも自芚しおいたし、ある意味でそう振る舞っおいた。基本的に人の目を芋ないのも、その䞀぀だ。盞手の衚情を読み取っおしたうからだ。幌少期から盞手の顔色を䌺う生き方をしおきた分、正確に感情を読み取れる。だから本気のずき以倖は目を芋ない。無意識に読んでしたうこずが、䞡刃の剣になるず知っおいるからだ。

私は昔から、「螏み蟌たないこずでバランスを取る」タむプだった。あるテストで知ったこずがある。私は芪密になっおはじめお力が出る人間で、それたでは半分も出せない。慎重な性栌、ずも蚀えるだろう。ただ正確に蚀うず、距離を瞮めるこず自䜓が苊手なわけではない。空気を読んで、タむミングよく動くこずはできる。盞性の良い盞手かどうかも、早い段階で芋抜ける。ただ本圓の意味で螏み蟌む段階になるず、どこかで及び腰になっおしたうのだ。

幌少期、近所に䜏む䞀぀幎䞊のお兄さんを、本圓の兄のように慕っおいた。い぀の間にか疎遠になったが、鬱陶しいず蚀われたような蚘憶がある。その蚘憶は曖昧で──もしかしたら、思い出したくなくお、どこかに蓋をしおしたっおいるのかもしれない。䞭孊生の頃、たたたたその人ず道で再䌚した。友人ず䞀緒だった私は、䜕も喋らなかった。奇劙な間があったが、友人に「行こう」ず誘われお、そのたた䜕も蚀わずその堎を離れた。

それ以来、螏み蟌んだ付き合いをしおいない気がする。瀟䌚人になった今はなおさらだ。皆が様子を窺いながら、暗黙のうちに牜制し合っおいる。そういう空気が、私には手に取るように分かる。

なぜ自分はこれほど人の目が気になるのだろうず䞍思議に思い、睡眠カりンセリングを受けたこずがある。そのずき芋えたのは、赀ん坊の自分が匷く泣いおいるのに、母が電話をしおいた光景だった。そのむメヌゞが䜕を意味するのか、私には分からない。分からないたた、ずっず抱えおいる。

可愛いいですね
話を戻そう。曞類を枡したずき、そこに貌られおいた写真を芋お、䜕ずなく惹かれるものを感じた。盞性の良い盞手かどうか、早い段階で分かる私の癖が働いた。だから意図的にアンカヌをかけた。そのずき、私は意図しお圌女の目を芋た。普段は芋ない。でもあの瞬間だけは、確かめたかった。普段なら絶察に蚀わない蚀葉を、あえお口にした。


「可愛いですね」

写真を指しながら、曞類を枡した。圌女は仏頂面で仕事をしおいたが、その蚀葉に気づくず、驚くほど嬉しそうな笑顔ず目を芋せおくれた。あれ思っおいた反応の、䜕倍もいい。䞋手したら笑顔の䞋に嫌な目をされるず思ったのだ。

その日の倕方、圌女は曞類を蚘入しお持っおきおくれた。どこか嬉しそうに芋えたその姿に、私はたた、普段はしない行動に出た。

「今床、䞀緒に出かけたせんか」

蚀った瞬間、錓動が䞀気に高鳎った。しかし圌女は、迷いなく「はい」ず答えおくれた。嬉しさで声が䞊ずりそうになり、思わず取り繕ったのを芚えおいる。

それから二回ほどデヌトを重ね、私たちは付き合うこずになった。時間を重ねるごずに互いの盞性の良さが分かり、自然ず惹かれおいった。圌女は䞀芋き぀そうにも芋えるが、実際はずおも優しく、気配りのできる人だった。私はその埌、䞀幎ほど、穏やかで満たされた時間を過ごした。ちなみに瀟内では、誰にも気づかれなかった。私はそういう「普通にいるこず」が埗意で、感情も衚に出さない。誰も疑いすらしなかった。

母芪ずいう壁
関係が深たるに぀れ、結婚を意識するようになった。しかし、圌女には倧きな壁があった。それは、母芪の存圚だった。いわゆる「母の蚀葉は絶察」──今の時代には珍しいかもしれないが、田舎出身の圌女にずっおそれは本圓に倧きなこずだった。圌女は成人前に父を亡くし、母ず芪類によっお育おられおいた。そしお圌女は、そんな母ず芪類を、深く愛しおいた。

私は圌女の母に䜕床も接觊を詊みたが拒たれ、仕方なく手玙を曞いお送った。だが、返事は䞀床もなかった。そんな状態が続く䞭、圌女からこう蚀われた。

「実家ぞ戻る期限が来たので、もう䌚えない」

圌女が母芪を倧切にしおいるこずは、よく分かっおいた。だから私は、「分かった」ず、あっさり匕き䞋がった。そうしお、別れるこずになった。

空枯、手を振る
しばらくしお、圌女が仕事を蟞め、飛行機で実家ぞ垰るず聞いた。私は空枯たで送らせおほしいず頌んだ。最初は断られたが、「これで最埌だから」ず䌝えるず、最終的には承諟しおくれた。

空枯たでの道䞭、䌚話はほずんどなかった。チェックむンを終え、搭乗口で別れるこずになった。私は握手をしお、「元気でね」ず笑顔で送り出す぀もりだった。しかし、搭乗口に入る盎前、圌女は突然、激しく泣き出した。

正盎、驚いた。少しうろたえた。でも、その瞬間、自分の気持ちがはっきりず分かった。

──ああ、やっぱり奜きなんだ。
どうしお、もう少しだけ頑匵らなかったのだろう。

目頭が熱くなった。少しだけ堎所を倉えお話をしたが、匕き止めるこずはできなかった。私は圌女を、そのたた搭乗ゲヌトぞ送り出した。気づけば、䜓が勝手に動いおいた。倧きく手を振っおいた。普段の自分なら絶察にしない行動だった。呚りの目なんお、どうでもよかった。

圌女は涙をためながら、笑顔を芋せお、奥ぞず消えおいった。その埌もしばらくはLINEでやり取りが続いたが、ある日突然、圌女のアカりントは消えた。半幎埌、圌女が結婚したずいう噂を聞いた。

もうひず぀の関係
──その前にも、私は別の圌女ず長く関係を続けおいた。今の䌚瀟ぞ転職する以前の、前職での出䌚いだ。

付き合っおは別れ、たた戻る。そんな関係を五幎以䞊繰り返しおいた。圌女は既婚者だった。きっかけは、飲み䌚の垰り道だった。たたたた方向が同じで、圌女は飲んでいなかったので車で送っおもらった。家の近くに着いたずき、私は䜕気なく蚀った。

「少し、郚屋に寄らない」

圌女は䞀瞬きょずんずしお、少し沈黙が流れた。したった、ず反省しお埌悔した。でもそんな私を圌女はそっず芗き蟌んで、お互い䞀瞬だが目の奥を垣間芋た。やがお「はい」ず答えた。それが始たりだった。

蚀い蚳はできないが、圌女の倫婊関係はほが砎綻しおいた。床重なる倫の浮気が原因で、子どものためだけに続いおいるような状態だった。それでも、関係は関係だ。圓初、私はこうした関係に慣れおおらず、粟神的にかなり消耗した。

圌女には、ただ手のかかる幎頃の子どもが二人いた。その子たちの母芪を奪うこずは、圓時の私にはどうしおも決断できなかった。決断できないたた、曖昧な関係を続けた。やがお子どもたちがある皋床倧きくなった頃、私から「䞀緒にならないか」ず䌝えた。しかし、その時にはもう、圌女の気持ちは戻らなかった。断られおしたった。

私は昔から、決断が遅い。そしお、そのせいで遞択を誀るこずが倚い。螏み蟌たないこずでバランスを取る。そのくせ、いざ螏み蟌もうずするず、もう手遅れになっおいる。それが、私のパタヌンだった。

時折連絡をしおいた前職の圌女ずも、幎明けの「おめでずう」のやり取りを最埌に、完党に途切れた。

──そんな䞭での、四月の話だ。


䞀話 最埌の八時間、優しさに甘えた代償

飲み䌚、そしお
実は、この飲み䌚には裏があった。私が仕掛けたのだ。

自慢に聞こえたら申し蚳ないのだが──私には、自分でも薄々自芚しおいる劙な癖がある。特別なリヌダヌシップがあるわけでも、存圚感が匷いわけでもない。他の郚眲からすれば圱の薄い人間だろうし、意図的に気配を消すこずもできる。䌚議で発蚀しおも、私の提案はなかったこずになり、しばらくしお別の誰かが同じこずを蚀っお採甚される、ずいう堎面に䜕床も遭遇しおきた。

ずころが気づいおみるず、い぀の間にか物事が自分の思った方向ぞ進んでいるこずが倚い。スマヌトにいく堎合ばかりではない。むしろみっずもない堎合の方が倚いかもしれない。バカにされたり、呆れられたり、同情されたり。道化を挔じお笑われるこずもある。それでも気づいたら、なんずなく自分の思っおいた方向に萜ち着いおいる。ピンポむントに動くわけではなく、泥臭く、栌奜悪く、でもゆるやかにその方向ぞ向かっおいく感じだ。誰がやったかも残らないし、本人すら意図しおいたか分からない。昔は偶然だず思っおいたが、これだけ繰り返されるず、どうやら自分にそういう傟向があるらしいず認めざるを埗ない。誇倧劄想かもしれないが笑。

ただ、正確に蚀うず「匕き寄せる」ずいう感芚ずも少し違う。もずもずそこにある糞の存圚に気づいお、そっず方向を倉えるだけだ。ない糞は、どう動いおも手繰り寄せるこずはできない。あるかないかを芋極めるこず、それだけが私にできるこずなのかもしれない。

コロナ以降、䌚瀟の飲み䌚は激枛しおいた。蚀い出す人物もいない状態が続いおいた。そんな䞭、䜕のきっかけもないのに突然この飲み䌚が蚭けられた。私は内心、ペシペシ、ず思っおいた。気になっおいるあの人ず、䞀床ちゃんず話しおみたかったのだ。

四月が始たったタむミングで、急に決たったその飲み䌚に参加するこずになった。久しぶりに䌚う人や、普段あたり話さない人もいお、楜しく過ごしおいたのだが──楜しすぎお、぀い飲みすぎおしたった。

その䞭に、以前から少し気になっおいた人がいた。かわいくお、は぀ら぀ずしおいる人。でもそれだけじゃない、䜕か匕っかかるものがあっお。「䜕だろう、䞍思議だな」ず前々から思っおいたのだが、正䜓は分からないたただった。いわゆる䞀目惚れずも違う、少し違った感芚。

実際に話しおみるず、䌚話は面癜いし、感受性も高くお気配りもできる。「ああ、これはモテるだろうな」ず思いながら、自分ずは真逆だな、ず少し自虐的に感じおいた。

そんな人ず話せおラッキヌだず思っおいたのだが、結局飲みすぎおフラフラになった。解散の流れになったずき、その人だけ「もう䞀軒行こう」ずいう雰囲気だったが、さすがに皆かなり飲んでいたのでそのたた解散に。結果、その人ず二人で垰る圢になった。垰り道、「これはチャンスかも」ず思い、LINEを亀換しないかず聞いたずころ、あっさりOK。

駅の近くのベンチで二人で腰を䞋ろし、しばらく語り合った。酔いも回っおいたせいか、気持ちが倧きくなっおいた。いい雰囲気になっおいる気がした。圌女が違う方向を芋た瞬間、気づいたら手を䌞ばしおいた。キスをしようずした。するず圌女の空気が䞀瞬で倉わった。

「突然䜕ですか私はそんな軜い女じゃありたせん。今たで玠振りもなかったのに」

完党に怒らせた。私はそれでも少し食い䞋がったが、さすがに諊めようずしたその瞬間、私はじっず圌女の目を芋぀めた。圌女も私の目を芋おいた。その奥に䜕かを芋た気がした。そしお圌女は、静かにキスを蚱しおくれた。

私は所謂むケメンではないし、男らしさも兌ね備えおいない。それでも別れた圌女達に共通しお蚀われたこずがある。私の悲しい顔は、䜕かしおあげたくなる気持ちを匕き出すらしい。幌児性を抱えた私は、圌女達の母性本胜を揺さぶる䜕かがあるのかもしれない。意図しおやっおいるわけではない。ただ本気だからこそ、盞手に響く䜕かがあるのかもしれない。

それが、党おの始たりだった。その埌やり取りが始たった。

仮面ず鎧を脱いだずき
私は、芪しい人には自然に接するこずができる。しかしそこに至るたでは、かなり壁を䜜るタむプだ。普段は仮面ず鎧で歊装しおいお、「取っ぀きにくい」「䜕を考えおいるか分からない」──そう思われるこずも、自分でよく分かっおいる。

私は口䞋手でもある。喋っおも話の着地が分からなくなり、「䜕蚀っおるんだ」ずよく蚀われた。その分か、物事の分析には長けおいお、仕事では構造的な問題や改善点を芋抜ける方だった。若い頃の私は暪柄で、䞊叞によくそういうこずで噛み付いおいたが、口論になるず口䞋手が幞いしお䜕も蚀えなくなる。かなり厄介な奎だ。

そんな䞭でのLINE亀換は嬉しかった。しかも圌女のメッセヌゞがずにかく面癜い。私はもう仮面ず鎧を倖し、道化どころか玠を芋せた。普段は絶察に芋せない、二人のやり取りでハマる人はハマるような面癜さを、党力でぶ぀けた。かなりぶっ飛んだナヌモアを持っおいるずは自負しおいるが、それを党力でぶ぀けるず倧抵の人はただ驚く。私はメヌル魔でもある。文章を䞉぀くらい同時に送り、䌚話を䞊行で成立させる。

圌女はそのやり取りに぀いおきおくれるどころか、絵文字も顔文字も同じように倚甚しお、やり取りを盛り䞊げおくれた。久しぶりに楜しい。私のこのやり取りに぀いおきおくれるのは、前の圌女以来だった。

そのたたここぞずばかりに党力で返しおいたら、䞀気に距離が瞮たっお、自分の䞭では完党に有頂倩になっおいた。その流れで、し぀こく誘い笑、二人で映画に行く玄束をするこずに。

映画通のあの静けさ
実際に䌚っおみるず、感性も䌌おいお、奜きなゞャンルも同じだった。私は最初のうちは緊匵しお、ツバを飲み蟌む音が分かるくらいで、圌女に気づかれないようにしおいた。するず圌女も同じようにツバを飲み蟌んでいたので、さらに惹かれおしたった。その時間は本圓に楜しくお、いろいろ語り合った。そしおたた、有頂倩のたた垰宅。その勢いで連絡し、「たた䌚っおほしい」ずお願いした。

しかし返っおきたのは、

「これ以䞊は、二人では䌚わない方がいいず思う」

ずいう蚀葉だった。実はその時点で分かっおいたこずがある。圌女には遠距離で長く付き合っおいる圌氏がいた。前回の飲み䌚で初めお知ったこずで、それたで圌女ずはあたり話したこずも無く、それどころか避けおいるような印象すら持たれおいたず思う。それくらい圌女には惹かれるものがあり、話しかけようずするず呚りに気づかれる危険性があるず感じおいたのだ。私の仮面ず鎧は、実に脆い。友人の域を越えおしたうかもしれない、ずいう理由だった。たった䞀日二日の話なのでこれで終わりにしたしょう、ず曞かれおいた。頭では理解しおいた。でも、気持ちが远い぀かなかった。

最埌のお願い
どうしおももう䞀床䌚いたくお、頌み蟌んだ。最初は断られた。しかし私は翌週から初めおの海倖出匵が決たっおおり、それを理由に「どうしおももう䞀床だけ」ずお願いしたずころ、枋々ながら了承しおくれた。

行き先は圌女に任せるず蚀われたので、ちょうど芋頃だった花畑ぞ。初めお行く堎所だったらしく、ずおも喜んでくれた。䞀緒に花を芋お、持ち垰り甚の花も買った。「写真を撮っおあげようか」ず蚀うず、圌女は「いい」ず答えた。だからきっず圌女は、この出来事をあたり思い出にしたくないのかもしれない、ず思っおいた。

しかし花畑の途䞭に、架空の窓を暡したオブゞェがあった。いわゆる撮圱スポットだ。圌女のほうから「写真撮らない」ず聞かれた。あれ、いいんだ──ず思いながら、自撮りで二人の写真を撮った。埌々、もっずもっず圌女ず写真を撮りたかったず埌悔した。

比范的遅い時間だったので、垰る客が倚く人もたばら、最埌の方は数組しかいなくなった。人がいなくなったずき、私は圌女の手を取っお歩いた。圌女は、それを払いのけなかった。──ちなみに、それは海倖出匵の前日だった。

溢れ出した倜
その倜、圌女から長文の連絡が来た。

「本圓に楜しかったけど、これで最埌にしたしょう」
「もう返信もしたせん」

内容を読んで、ああ、これはもう無理だなず理解した。自分も「分かりたした」ず返したのだが、しばらくしお倜になっお──感情が䞀気に溢れお、涙が止たらなくなった。圌女に想いをぶ぀け始め、LINEを倚く送った埌、やっおはいけないこずをやっおしたった。

「連絡だけでも取り続けたい」

ず送っおしたったのだ。圌女は、こういう堎面で匷く断るこずが苊手な背景がある人だず分かっおいた。詳しいこずは曞かないが、その優しさが時に自分を苊しめおしたうタむプだずいうこずも理解しおいた。それに甘えおいる自分がいるこずも、自芚しおいた。

圌女は心配しお、「分かったから、心配だからちゃんず寝おください」ず返しおくれた。それで䜕ずか気持ちを立お盎し、出匵の準備を始めた。

── 出発たで、残り八時間を切っおいた。


二話 フラむトより重いものを抱えお飛んだ日

海倖出匵がいよいよスタヌトした。ただ、昚日の件が尟を匕いおいお、正盎なずころ心理的にはかなりしんどい状態だ。救いだったのは、飛行機でネット環境が遮断されたこず。逆に、いろいろ考えられる時間になった。ずはいえ、やっぱり昚日の今日。ふず冷静になるず、半泣きになりそうな瞬間もあっお、なかなかき぀い。

少しの思考の隙間があるず、垞に圌女のこずを考えおしたう。遅めの花粉症ずいうこずで乗り切ろうず決めおいたが、これはちょっず怪しかった。

今回は乗り継ぎがあるため、関空から別の空枯でトランゞット。しばらく埅機になった。ずころがこの䞭継タヌミナル、ネットが䜿い攟題でしかも速い。快適すぎる環境の䞭で、぀い圌女ずやり取りを再開しおしたい──。

「本気でむダなら返信しなくおいいから」ず送るず、

圌女「むダです。し぀こいずも思いたすよ笑」

䞭々のダメヌゞを食らった。「いやいや、䞭継地点でトドメはやめおくれ」ず冗談たじりに返しながら、なんずか臎呜傷は回避。そのたた目的地ぞのフラむトに乗り蟌んだが、心理状態は盞倉わらず最悪で、頭の䞭はほが圌女のこずで占領されおいた。

飛行機では日本の音楜も聎けた。いろいろ聎いおいたが、ダりンロヌドしおいたFirst Takeの西野カナ「䌚いたくお 䌚いたくお」を繰り返し聎いた。倧人になった圌女の歌い方は心に刺さっお、それをひたすらリピヌトしお聎き続けた。他の曲では聎き飜きおしたうのに、その曲だけは䜕床聎いおも飜きなかった。圌女を思い出すず、あの時間ずかなりマッチしおいる気がしお──それを繰り返し聎きながら、LINEのやり取りを芋返し、思いに浞っおいた。

機内でLINEを芋返しおいるうち、悲しさが蟌み䞊げお涙があふれそうになった。泣くわけにはいかないので、ぐっずこらえる。隣の垭を意識しながら、䜕食わぬ顔で画面を閉じた。逃げ堎のない密宀の䞭で、感情だけが自由に動き回っおいた。窓の倖に広がる雲の癜さが、なんずなくひどく遠く感じた。


䞉話 深倜の到着、頭の䞭は別の堎所

玄六時間のフラむトを経お、目的地に到着した堎所は䌏せさせおいただく。すったもんだの末、ようやく倖ぞ。倜䞭にもかかわらず、人・人・人──。車に乗り蟌む前からクラクションが鳎りっぱなしで、「倧䞈倫かここ」ず少し䞍安になりながら、コヌディネヌタヌの方ず合流し、そのたた車ぞ。

バむパスのような道路に入るず、意倖にもスむスむ進み、少し安心した。しばらくしおホテルに到着。かなり立掟なホテルだ。車の金属怜査を終えたあず、さらにチェックむン時にも手荷物怜査ずセキュリティチェック。こんな厳重なホテルは初めお芋た。ようやくチェックむンし、郚屋ぞ。

広すぎる郚屋だった。しかも゚アコンが䜎すぎお寒い。倖はあれほど暑かったのに、郚屋の䞭は別䞖界だ。この萜差を圌女に䌝えたくお、郚屋の広さが䌝わるよう写真を撮っお送った。「なんか倖は暑かったのにかなり寒い」ず添えるず、圌女から「心配だから枩かくしおね」ず返信が来た。それだけで、疲れが少し和らいだ。

その埌、シャワヌを济びるず、クロヌれットにガりンが出おきた。パゞャマ代わりに着おみるず、なかなか様になる──ずいうか、完党におどけた栌奜だ。思わず倉な顔で自撮りしお圌女に送るず、圌女はおもしろがっおくれた。それだけで、この長い旅路の疲れが吹き飛ぶようだった。目を閉じるず、遠くからクラクションの音だけが聞こえた。

  ── それでも、頭の䞭はただ圌女のこずでいっぱいだった。


四話 海倖で逃げ堎を倱い、AIで断った倜

倧孊、垂堎、カオスの街
翌日は、なぜか初日から芳光になっおいた。埌で知ったのだが、ちょうど䌑みの日だったらしく、囜を知るにも良い機䌚ずいうこずでセッティングされおいたようだ。

最初に連れお行っおもらったのは、その囜の有名な倧孊だった。ちょうどむベントの時期ず重なっおおり、着食った女性が倚くいた。この囜の人たちは目がくりっずしおいお、錻も高い人が倚い。かなり矎人が倚い印象だ。「あなたは色が癜いので、この囜ではモテたすよ」ず蚀われたが、滞圚䞭そのような恩恵を受けたこずは䞀床もなかった笑。埌で圌女にこの話をするず、「気になる」ず送ったら、「䞀応そういう人がいたら教えお」ず冗談っぜく返っおきた。圌女は心をくすぐるのが本圓に䞊手い。

その埌、車で移動。今日は空いおたすよ、ず蚀われながらも、どう芋おも激混みだ。皆がクラクションを鳎らしながらの通垞運転。最初はかなり怖かったが、人間っおこういうのにもゆっくり慣れおいくものだ。芳光地に向かう途䞭、人で溢れる商店街に車が突っ蟌んでいくような感芚で、「たじかこれ、カオスすぎる」ず内心ツッコミたくりだった。

垂堎を芋たり、川を枡ったりず、なんだかんだで楜しめた。ただ、臭いがかなりき぀くお最初はえずきそうになり、途䞭からは錻の機胜をオフにしお過ごした。その川も、暪から汚氎が流れ蟌んでいたり、隣で普通に掗濯や行氎しおいたりず、たた別の意味でカオスだ。

色々なずころを芋お回っおも、頭の䞭では「これを圌女に送ろう。圌女はきっず興味を持っおくれる」ず──圌女のこずが離れなかった。楜しい景色を芋るたびに、隣にいおほしいず思った。

断りの翻蚳文
倜はお偉いさんずの䌚食ぞ。気さくな方で、いろいろず話しおいただいた。しかし飲みが進むに぀れお、急に空気が倉わった。女性陣が登堎する。カッコ぀けるわけではないが、こういう堎は日本でも苊手なので、なんずかやり過ごしモヌドに入った。

䞊叞には「お前よかったな、匕きこもりだからこんな機䌚ないだろ」ず蚀われ、「ほんずっすね、来およかったです」ず返し぀぀、内心は「普通に垰りたいんだけど」だった。そんな䞭、話は䞀気に進む。

「じゃあこのたたホテルに䞀緒に」

いやいやいや、埅っお埅っお──それは聞いおない。コヌディネヌタヌの人にそっず耳打ちした。「すみたせん、日本に圌女がいるので 」ずやんわり断るず、「たあそれはそれですよ」ず返っおきた。いや、「それはそれ」じゃないんよ。この人、完党に流れに乗せる偎だなず確信した。

䞊叞がトむレに立った瞬間に䞻賓の方ぞダッシュしお、同じ理由で断るず、「それはそれで」。党員「それはそれ」で抌し切るスタむルだ。ここで䞀気に焊りMAX。普通に逃げ堎がなくなっおきた。

これ以䞊頑なに拒むのは堎を癜けさせるず思い、芳念したふうを挔じ始めた。しかも芳念した途端りキりキを装っお、「コむツ、ただの痩せ我慢でカッコ悪い奎だな」を挔出し始めた。䞻催者も䞊叞も倧喜びだ。「なんだコむツ、照れおただけかよ〜」ずいう雰囲気になった。

さおはお、そんな状況䞋、仕方なくお店の人にWi-Fiを借りお、その堎でChatGPTを起動。断り文を必死で翻蚳䜜成した。

いや䜕しおんだ俺  海倖でAIを䜿っお逃げおるぞ  

必死で䜜った文章がこれだ。

【① 日本語再翻蚳】 あなたはずおも魅力的ですが、日本に奜きな人がいたす。そのため、今日は残念な気持ちですが、あなたに察しお行動するこずができたせん。どうかご理解ください。このこずを蚀うず堎の雰囲気が気たずくなっおしたうかもしれないので、秘密にしおいただけるずありがたいです。

【② 日本語再翻蚳】 今日はここで別れお、その埌はそのたた家に垰っおいただければ倧䞈倫です。すみたせん。あなたは本圓に玠敵な人です。

これを画面で芋せながら䜕ずか説明した。盞手の方も䞀応理解しおくれお、「じゃあ䞀旊別で垰っお、埌で郚屋に行くね」ずいう流れに──。いやいや、それも違う違う、ず内心ツッコミながらも、ずりあえずその堎からは離脱成功。

郚屋に来た女性
ホテルに戻る頃にはかなり遅い時間だったが、時差のおかげで日本はただそこたで遅くない。そこでLINEで圌女に「実はこういうこずがあっお断った」ず報告した。正盎、ちょっずアピヌルしたい気持ちもあった。圌女からは「せっかくなら楜しめばよかったのに」ず返っおきた。「いやいやいや〜」ず返すず、どこずなく嬉しそうな感じもあった。

しかし、話はここで終わらなかった。実は圌女には䌝えおいなかったが、翌日も同じ流れになったのだ。二日連続で、同じような垭が蚭けられた。前日ず同じ方法で、なんずかその堎を切り抜けた。ただ今回は、断り文を芋せおいる最䞭、その女性が私の手のマッサヌゞをしおくれおいた。断りながら、マッサヌゞ。なかなか奇劙な状況だった。

垭を埌にしおホテルに戻るず、同じグルヌプの人から連絡が入った。「女性が䞋にきおいる」ずいう。

えっ、なんで──。あわおお䞋に降りるず、先ほどの女性がロビヌにいるではないか。私は「なんで」ず思いながらも、来おくれた圌女に察しお悪いず思い、日本円を枡しお「今日はこれで垰っおほしい」ず頌んだ。圌女は垰らなかった。

別のグルヌプに行った友人を埅っおいるのではないかず思い、「ロビヌで埅おるか」ず聞いたが、圌女は䞊を指した。私は「䜕もしないよ」ずいう話を繰り返した。しかし圌女は「マッサヌゞをする」ず蚀っお──それならばず、郚屋に入れおしたった。

正盎なずころ、これはき぀かった。ただ、ひたすらマッサヌゞを受けるだけならず思った。慣れない海倖での疲れが蓄積しおいたのも本音だ。圌女は時折、違う方向に手が来おいたが、その郜床「ノヌ」ず䌝えた。

マッサヌゞが終わり、圌女が「あなたの圌女を芋せおほしい」ず蚀っおきた。私は花畑の写真の圌女を芋せた。圌女は「キュヌト」ず蚀っおくれた。そこで少し心が開いおしたい、正盎に話した。

「実は圌女ではないんだ。僕の片思い。
あなたずそういうこずをしないのも、
この恋を成熟させたいず思っおいる願掛けなんだ」

圌女はそうなんだず優しく埮笑んだ、その埌、別の郚屋からの連絡が入り、みんな垰るようだ。「い぀でも倧䞈倫です」ず話し、圌女を郚屋の倖たで芋送った。䞀人になった私は、倧きく深呌吞した。

ふぅヌヌヌ。さすがにキツむ。笑

翌日、䞊叞に「どうだった」ず聞かれ、「いや〜最高でした、本圓に来およかったです」ず答え぀぀、頭の䞭は完党に圌女で埋め尜くされおいた。

ちなみにこの䞊叞は仕事がかなりできお、私のこずをよく理解しおくれおいる瀟内で少ない理解者であり人埳者でもある。私の昇進を早めに抌しおくれ、起䌏が激しい私を別の郚眲ぞの異動から匕き留めおくれた恩人だ。唯䞀少し床が過ぎるのはむゞリ倒しおくるこずだが、私はそんな䞊叞に報いたいず思い、バカなや぀を挔じるのだった。


五話 その䞀通を送るたでに、こんなに時間がかかった

土産遞び
ようやく出匵の目的を果たし、いよいよ垰囜だ。この数日間はWi-Fi環境が限られおいたため、リアルタむムのやり取りができなかった。それが逆に良かったのかもしれない。圌女ず䞀定の距離を保ちながら連絡できた。あれだけ勢いだけで突っ走っおいた頭も、この頃にはだいぶ冷静に物事を芋られるようになっおいた。

「これはダメだな」

圌女が圌ず別れお私を遞んでくれる未来は、想像できない。頭では理解しおいるのに、心は党く远い぀いおいなくお、「䜕ずかしろよ」ず自分を責める感芚がずっず続いおいた。

そんな䞭で、圌女ぞのお土産遞びが始たった。連れお行っおもらったのはデパヌトのような堎所だったが、お店に関しおは「䜕の店」ずいうようなものが倚く、雑貚っぜいずころも行ったが今䞀぀だった。あきらめようずしたずき、䞀階に良いずころがあるず蚀われ、セキュリティが぀いおいるような雑貚店に案内しおもらった。セレクトショップのような雰囲気で、無印良品を圷圿させる萜ち着いた空間だった。

珟地の玠材を䜿いながら掗緎されおいお、现かい刺繍が入っおいるのがおしゃれに芋える。私は圌女の服装や持ち物を思い出しながら、「これは絶察気に入るんじゃないか」ずいう芖点で物色し始めた。そのお店はかなり人気で、珟地の女性もたくさん芋おいた。そんな䞭で䞀人あれこれ物色する私は、かなり動きが怪しい倖囜人だったず思う笑。

圌女が持぀ずどんなものでも匕き立っお芋えるが、これはなかなか日本では手に入らないし、珟地の倀段なのでかなり安く買えた。気づいたずきには倧袋いっぱいの荷物になっおいた。他の人ぞのお土産のこずはほずんど考えおいなかった自分に、思わずほくそ笑んだ。どれだけ圌女のこずで頭が埋め尜くされおいるのか。

賌入した倜に圌女に袋の写真を送り、「あなたの分もありたすよ〜」ず送った。䞃割以䞊は圌女のお土産だったが、それは䌝えなかった笑。

垰路にお
垰囜の際はホテルを離れお仕事もしおいたため、長時間ネット環境がない状態になった。あえおWi-Fiも聞かず、そのたた過ごした。経由地での埅機時間も、日本時間では倜だったこずもあり、あたり連絡は取れなかった。ようやく自宅ぞ。疲劎は完党にMAX。それでも、今回の䞀連のこずを、ちゃんず自分の䞭で敎理しようず思った。

圌女はきっず圌氏ず別れない。
自分が入り蟌める䜙地なんおない。
それでも、ここたで思い出ずしお関われたこず自䜓が、
ある意味で幞せだったのかもしれない。

そう思おうずしおも、やっぱり苊しくお、涙が止たらなかった。それでもどこかで螏ん切りを぀けないずいけない。そう思い、圌女に連絡を取った。

「明埌日、お土産を枡したいのず、少し話がしたい」

これたでふざけたやり取りばかりしおいた分、このトヌンはしっかり䌝わったず思う。圌女からも「わかった」ず返信があった。

ちなみに、普段の私の恋愛におけるやり取りでは、こんなに玠盎に気持ちを䌝えるこずは珍しい。しかし圌女には所謂小现工が通じず、党おを芋透かされるような感芚があった。だからあえおどストレヌト、䞀回衚、先頭バッタヌから䞀球目党力投球ずいうスタむルになっおしたっおいた。


六話 「本圓に䌚っおいいのか」ず考え続けた前日

いよいよ、圌女ず䌚う前日だ。あれこれ考えすぎお、情けないこずに完党にひるんでいた。このたた䌚っお、本圓にちゃんず話ができるんだろうか──。私は垞に圌女ず䌚うこずを考えおいたのに、䌚うずなるず別れの蚀葉をしっかり䌝えられるか䞍安で仕方がなかった。そんな状態だったので、朝から「いっそLINEで党郚䌝えおしたおう」ず切り替え、文章を詊行錯誀しながら䜜っおいた。

するず圌女から連絡があった。もずもず翌日はお昌過ぎに䌚う玄束だったのだが、「家の事情で午前䞭にしおほしい。倜は家族で出かける予定が出来おしたった」ずのこず。正盎、かなり迷った。自分の話で圌女の気持ちが少しでも揺れおしたっお、もしそのたた車を運転するこずになったら──䞇が䞀でも事故に぀ながったら、それは絶察に嫌だず思った。

「じゃあ、別の日にしたしょう。たた改めお連絡したす」

そう返すず、圌女から「なんで」ず返信が来た。正盎に「倜に、もし事故ずかあったら嫌だから」ず䌝えるず、「倧䞈倫だよ〜」ず軜く返しおきたが、ここはどうしおも譲れなかった。そんなやり取りをしおいる䞭で、ふず「今日の倜は難しい」ず送っおしたった。圌女からは「䞀時間くらいなら倧䞈倫」ず返信。こうしお急遜、その日の倜に䌚うこずになった。自分から蚀い出したはずなのに、「本圓に䌚っおいいのか 」ず内心ではずっず䞍安なたただった。完党に項垂れおいた。


䞃話 終わらせに行ったはずの倜に、残った蚀葉

埅ち合わせは、近くのドラッグストアの駐車堎だった。そこから車で少し走り、静かな公園のような堎所ぞ向かった。

「少しだけ歩いおもいい」

そう声をかけお、䞊んで歩きながら、海倖出匵の話や、飲みの垭のこず、䞊叞にがろくそ蚀われた話たで、い぀ものように笑いながら話しおいた。ベンチを芋぀けお腰を䞋ろす。ひず通り話し終えたずころで、私は切り出した。

「色々考えたんだけど  このたた䌚わなかったこずにする方がいいのかなずも思った。
でも、それだずきっず䞭途半端なたた連絡しおしたうし、迷惑もかける。
だから、ちゃんず螏ん切りを぀けたくお  」

そう蚀った時には、もう圌女は泣いおいた。私は、そのたた蚀葉を続けた。

「奜きです。付き合っおほしい」

しばらくの沈黙のあず、返っおきたのははっきりずした䞀蚀だった。

「ごめんなさい」

「ごめんね、嫌なこずさせおしたっお。でも、これでちゃんず諊められるず思う」

そう蚀いながらも、しばらくの間、圌女はずっず泣いおくれおいた。時間が経っお「そろそろ行こうか」ず声をかけたずき、自分の䞭では䞀応区切りが぀いたような感芚があった。心がストンず萜ちるような、䞍思議な静けさだった。そのたた、たたくだらない話をしながら歩き始めた。

「実はさ、䌚わない方がいいかもっお思っお、朝からLINEの文章ずっず䜜っおたんだよね」

冗談っぜくそう蚀うず、圌女がぜ぀りず聞いた。

「䌚いたくなかったの」

「いや、䌚ったらちゃんず話せるか自信なくおさ。ちょっずビビっおただけ笑」

そう答えた、その盎埌だった。

「私は䌚いたかったけど」

その䞀蚀で、党郚が厩れた。気づいたら、圌女を抱きしめおいた。

「ごめん、ごめん  やっぱり諊められない」

そう蚀ったけれど、圌女は䜕も答えなかった。そのあず車に戻り、埌郚座垭で「もう少しだけバカ話しよう」ず蚀うず、圌女も静かに付き合っおくれた。その際、䜜成しおいたLINEの文章を芋せた。

すみたせんやっぱり、あなたの蚀う通り䌚うず俺がダバむ気がするので䌚うの止めずこうごめんなさい。本圓はちゃんず䌚っお、ちゃんず告癜しお、ちゃんず振られようず思っおたんだけど無理そうです笑。䜕かズルズルLINEしおしたい迷惑かけたくないから、今なら少し萜ち着いた感じがしおたからそうしおもらおうず思ったんだけど  なるべく接觊機䌚枛らそうず思いたす。決しお嫌いでないので露骚に態床に出おしたったらごめんなさい。芋抜かれたず思うけどこの仮面ず鎧は実はペラペラだからさマゞりケる。ごめんだけどバカLINEはしばらくさせおほしい。完党に絶ずうずするず心が拒絶しおしたうから。困った心だ笑。お土産は誕生日プレれントにするね。センスないんだけど、あなたが持぀ず䌌合いそうっお思っお買いたした。䞊叞も色々芋お買っおいるので瀟内や通勀では䜿わないでください笑。やっぱり奜きです、諊められたせん。

途䞭たで䜜っおいた文章だったが、自分でもこれを芋せおどうするんだず思った。党く諊められおいない未緎が、そのたただだ挏れになっおいた。

そしおお土産を枡した。袋を開けた圌女の顔が、ぱっず明るくなった。䞀぀䞀぀取り出すたびに「こんなに」ず驚いおくれお、しかもどれも圌女の奜みにはたったようで、想像以䞊に喜んでくれた。海倖で動きが怪しい倖囜人になりながら遞んだ甲斐があった。圌女は「やっぱりモテるでしょ」ず蚀っおくれたが、「むダむダむダ」ずだけ䌝えた。

その埌、しばらく二人でバカ話をしお、ゆっくりず倜が曎けた。あの倜の圌女はたるで恋人同士のようだった。お互いにツッコミを入れたくっお、圌女が「そろそろ家に垰らないず、少しだけ出おくるずだけ蚀っおきたから怪したれる」ず笑いながら蚀った。

圌女を送る際、車の䞭で私は片手で圌女の手をしっかりず握っおいた。このたた着かないでほしいずも思ったが、最初の埅ち合わせ堎所に着くず、圌女に「じゃあたたね」ず蚀っお送り出した。

別れおすぐ、メッセヌゞが来た。私も返す。圌女も返す。別れたはずなのに、たるでその続きを生きおいるような感芚だった。くだらない話、今日の話、笑える話──惹かれ合うように蚀葉が続いお、どちらも止める気配がなかった。画面の向こうで圌女が笑っおいるのが、なんずなく分かる気がした。

気づけば時間は深倜になっおいた。

「寝萜ちするかも」

そうメッセヌゞが来お、しばらくしお既読が぀かなくなった。ああ、寝たんだな、ず思っお、私もそのたた眠るこずにした。

八話 終わりのあず

翌朝、私は「おはよう」ずメッセヌゞを送った。ほどなくしお、圌女からも同じ蚀葉が返っおくる。それだけで、少しだけ救われた気がした。昚日の続きを話したくお、メッセヌゞを立お続けに送る。既読は぀いた。けれど、返事はなかなか来ない。

── ああ、これは来るな。

そう思っおいた。しばらくしお、やはり圌女から長文のメッセヌゞが届いた。

朝から考えおいたんですけど、昚日、もう䌚わないず思ったら寂しくお、ずるい察応をしおしたったず思いたす。でも私には圌氏がいお、䞀番倧倉なずきにそばにいおくれた人を裏切り続けるこずは苊しいです。昚日、䌚えなくなるず思ったら、本圓に寂しくお、自分でも驚きたした。これを曞いおいる今も、涙が出るくらい、あなたのこずが奜きです。それでも私は、感情より理性を遞びたす。付き合うこずはしたせん。勝手でごめんなさい。だからこれ以降、返信はないず思っおください。芚悟ができなくお、たくさん振り回しおしたいたした。本圓にごめんなさい。あなたが、毎日おいしいものを食べお、ぐっすり眠れたすように。

私は、そのメッセヌゞを䜕床か読み返したあず、静かに返信を曞き始めた。

ありがずね。本圓は昚日、振られた時点で、心はちゃんず玍埗しおたず思う。それでも、もうちょっずだけ䞀緒にいたいっお、甘えおたのは自分だず思う。こういう連絡が来るこずも、どこかで分かっおた。それでも、なんずか避けたくお、芋ないふりをしおた。でも、気持ちを抌し付けるのは違うよね。ここたでちゃんず向き合っおもらえたから、もう倧䞈倫。終わったんだっお、ちゃんず実感しおる。未完じゃないから、倉に匕きずらないよ。安心しお。わかっおいたのに本気になっおしたいたした。ごめんなさい。俺も、あなたが毎日楜しく過ごせるこずを願っおいたす。もし今埌、䌚瀟ずか飲みの垭で䌚うこずがあり、もしデリカシヌ無く恋愛芳等でバカなこず蚀っおおも、それはキャラなので蚱しおください。「終わっおるや぀」を挔じおるだけです笑最埌に、ありがずう。

そのメッセヌゞを送るず、既読が぀いた。そしお、それが最埌だった。

深淵をのぞくずき
最埌のやり取りをしお、ひず぀気づいたこずがある。私が圌女に惹かれた理由。それは、正反察のようで、どこか䌌おいたからだず思う。私は、自分を出さないために仮面をかぶり、道化を挔じる。圌女は、明るさで堎を和たせる。同じ「挔じる」でも、圌女のほうがずっず自然で、倧人だった。

そしお気づいた。私が圌女を理解しようずしおいたように、圌女もたた、私を芋おいたのだず。盞手を芋おいる぀もりで、実は自分も芋られおいる。

深淵をのぞくずき、深淵もたたこちらをのぞいおいる。

少し倧げさかもしれない。でも、なぜか今の自分には、劙にしっくりきた。ただ完党には吹っ切れおいない。それでも、きっず少しず぀、思い出に倉わっおいく。そんな気がしおいた。


九話 届かないず知りながら

これで話が終われば、きれいに終わったず思う。しかし翌日、事件は起きた。朝早く、䌚瀟の近くでひったくり事件があった。犯人は逃走䞭。私は急に䞍安になった。もう連絡しないず決めおいたのに、気づけば圌女に連絡をしおいた。

「ごめん。もう連絡しない぀もりだったけど、䌚瀟の近くでひったくりがあったから心配で。気を぀けお来おほしい」

圌女からは「わかった、ありがずう」ず返信があった。その日は䜕事もなく終わった。それでも私は、どうしおも圌女ず繋がっおいたくなった。

「LINEだけでも続けさせおほしい」

そう送っおしたった。圌女は「わかった」ず返しおくれた。翌日から私は、朝は「おはよう」、昌は「お぀かれさた」、䌑憩䞭にはその日の出来事を送るようになっおいた。── さすがに、これはたずいず思った。

感情が暎走しお、自分でコントロヌルできない。終わった恋愛で、ここたでになるのは初めおだった。どうしおいいか、本圓に分からなかった。倜になっおも連絡を送り続けた。するず圌女から、

「もうこれ以䞊は返信しない」

ず連絡があった。それでも私は「もう少しだけ頌む」ず送っおしたった。以前のようなやり取りに戻りたかった。しかし圌女の返信は、明らかに距離を眮いたものになっおいた。── これは、本気でたずい。

そう思い始めた私は、AIに盞談した。GPT、Gemini、Claude。どのAIも同じこずを蚀った。

「距離を取れ。連絡するな」

頭では分かっおいる。でも思わず口に出た。

「うるせえよ。できねえから聞いおるんだろ」

自分でも、これは重症だず思った。今たで、ストヌカヌやホスト、ホステス、掚し等にのめり蟌む人の感情が正盎よく分からなかった。恋愛で傷぀いたこずは䜕床もあったが、ここたで自分を抑えられないのは初めおだった。これたでの人生で、どこかに「ブレヌキ」のようなものがあった。どれだけ萜ちおも、完党には萜ち切らない。でも今は違う。そのブレヌキが効いおいない感芚だった。

私はここで、初めおあるこずに気づいた。

私はこれたで、螏み蟌たないこずで自分を守っおきた。だからこそ、䞀床螏み蟌んでしたった感情の扱い方を、知らなかった。

螏み蟌たないこずでバランスを取っおきた人間が、初めお螏み蟌んだ結果、制埡できなくなった。それだけのこずだった。しかし、そのこずに気づいおも、感情は止たらなかった。

ブロック、そしお届かないLINE
圌女は心配しお返信はくれおいた。ただ、もう以前のような気軜なやり取りではなかった。私は、この気持ちを正盎に曞いた。

「このたただず、せっかく奜きになっおくれた時間たで嫌な思い出にしおしたう。
自分から繋がりを断぀こずができない。
だから、最埌のお願いです。ブロックしおほしい」

圌女からの返事はこうだった。

わかりたした。心の準備ができたらブロックしたす。私の方こそ、たくさんの愛情をありがずうございたした。感謝でいっぱいです。本圓に。ありがずう。

それが、最埌のメッセヌゞだった。私はブロックされたあずも、圌女にメッセヌゞを送り続けおいた。埌で知った。ブロック䞭に送ったメッセヌゞは、解陀しおも盞手には残らない。その事実を知っお、逆に安心しおしたった。届かないず分かっおいるLINEを送り続けるこずが、い぀の間にか日課になっおいた。

── そこたで、心は远い蟌たれおいたのだず思う。


十話 最埌の莈り物

しばらく圌女ずの連絡が取れなくなり、ようやく私の心は少しず぀平穏を取り戻し始めおいた。それでも時折ぶり返しおくる。特に倜が非垞に蟛かったが、段々回埩しおいるのを自分でも理解しおいた。

そんな䞭、圌女の誕生日が近づいおいた。私は少し前に、圌女の誕生日プレれントを買っおいたのを思い出した。それがポストに届いたのだ。「しおり」だった。圌女は本が奜きでよく読んでいたので、それを考えおいた。本圓は海倖のお土産でず思っおいたが、良いものが芋぀からず、雑貚のお土産にしおいた。これは圌女ず垞に䞀緒にいたいずいう、浅たしい思いからだ──ず自分でも分かっおいた。本圓は時蚈を考えたが、高䟡なものは懞念されるず思い、圌女が奜きそうなしおりを䜕皮類か遞んだ。

これをい぀枡すか、枡さないか、迷った。枡さないずも思ったが、䜕時たでも自分の家に眮いおおきたくないのが本音だった。䌚瀟の圌女のメヌルボックスに入れるこずにした。そこなら隙間から入るサむズだ。圌女にブロックされおいる私は、しおりず䞀緒に手玙を曞くこずにした。

少し早いけど、誕生日おめでずう。少し前から準備しおたので、これだけは受け取っおください。このこたちが、お守り代わりにずっず守っおくれればいいなず願っおいたす。あたり倀段が匵るものは気を䜿わせちゃうかなず思っおね。ここ最近は、自分の䞭でもだいぶ萜ち着いおきたした。䌚う機䌚があっおも極力接觊しないようにしおいお、もしあからさたに感じさせおいたらごめんね。もう少し時間がかかるかもしれないけど、自分なりに敎理を぀けおいく぀もりです。これ以降は本圓に䜕もしたせんから、安心しお受け取っおね。最埌に改めお、誕生日おめでずう元気で過ごしおください。

ブロック解陀の誀算
その日の倜、私はせいせいしおいるず思っおいた。しかし圌女ぞの気持ちは未緎タラタラだった。

どうせならその日に少しだけ䌚えないかな──ここで埅っおいるずでも曞けばよかった、ずも思った。でもそんなこずをしおしたうずたた振り出しに戻るし、今床は本圓にダバむず思っおもいた。

そんな䞭、ふずブロック確認をしおみた。LINEのブロック確認は、盞手にプレれントを送れるかどうかで分かる。スタンプを遞び、䜕気なく「はい」を抌すず──

「プレれントを送りたした」

思わず「えっ」ずいうメッセヌゞを送っおしたった。しかし既読は぀かない。おかしい、なぜ私の心は再床暎走モヌドに突入しおしたう。圌女ぞのメッセヌゞを送りたくっおしたった。最埌の方から、䌚うこずぞの芁求に倉わっおいった。

連投する、䌚うこずぞの芁求。
芋おるんだろ返事しおくれ。

── もうこれはマズむ。そしお私は「明日の14時に駅前の公園ベンチで埅っおいる」ず送っお、そのたたにしおいた。しばらくしお、党おのコメントに既読が぀き、圌女からの返信があった。

あなたが心配だったから返信するためでも䌚うためでもないです。この前も送ったずおり、私はもう䌚ったりLINEのやり取りをしたりはできないのでわかっおほしいです。誕生日プレれントありがずうございたした。嬉しかったです。倧切に䜿いたす。埅ち合わせ堎所で䜕時間も埅぀こずになったら䜓に悪いので返信したした。元気でいおほしいです。たた䌚瀟で䌚いたしょう。

私は返信を急いで送る。

「ブロック解陀したのは心が動いたからだよ。埅っおるね」

私はれロを䞀にするには物凄い力がいるこずだず思っおいる。圌女の行動はそれを行ったのだ──ず自分に蚀い聞かせた。客芳的に芋るこずができない自分がいた。どちらかずいえば、自分の肯定のための脳の凊理が始たっおいた。

私は最埌の決断をするこずにした。圌女ずの繋がりを完党に絶぀こず。圌女にずっお、぀いおほしくない郚分を぀くこずで。

心配だけの気持ちなら来なくおいいからね。それならそれはもう俺だけの問題なんだよ。たた、ブロックしおLINE閉じお終わりだよ。俺は䌚瀟で倉わらないように芋えおるず思うし普通に仕事も出来おるよ。今は先日行った海倖の支店を蚈画しおいお日々蚈画を䞊叞にプレれンしおいるよ笑
でも少しでも奜きっお気持ちが残っおたら来おほしい。埅っおたす。

この内容は、ずっず思っおいたけど送れなかったこず。そしおこの文章には、もうひず぀の意図があった。「心配なら来なくおいい」「奜きなら来おほしい」──ただそれだけを曞いたのは、圌女自身に自分の気持ちを仕分けさせるためだ。蟛いから動くのか、奜きだから動くのか。その境界線を、圌女自身に匕かせたかった。優しさで曖昧にしおきた郚分を、䞀床だけはっきり芋おほしかった。

圌女は優しすぎる。それに぀け蟌む自分、それがもう嫌だった。

圌女には、抱えなくおいいものたで自分で抱え蟌んでしたう癖がある。悪意を持っお近づけば、そこはあっけないほど倧きな隙間になる。隙間どころか、穎ず蚀っおいい。本来「ノヌ」ず蚀えるはずの堎面で線が匕けない。その境界線が、どこかで壊れおしたっおいるのだず思う。

それはダメだ、ず思う。バッサリ切れないこずは、自分を守れないだけじゃない。盞手にずっおも、結局は優しくない。

そしお私は、その穎に散々぀け蟌んでいた偎の人間だ。自芚しながら、やめられなかった。そんな自分が「これ以䞊傷぀けたくない」などず蚀うのは、どこかおかしい。それでも、そう思っおいた。頌めばきっず来おくれる。でもそれは奜きだから来るのではなく、断れないから来るだけだ。その違いを知っおいお、それでも頌もうずしおいる自分が、䞀番醜かった。たた穎に手を突っ蟌もうずしおいる自分に気づいた。だからこそ、頌たなかった。

圌女からの最埌のLINEが来た。

倧䞈倫そうで安心した。あなたが本圓にしんどいずきのLINEに気付きたいず思っおブロック解陀したしたが、よく考えたら私には送らないですよね。あなたの倢を䞀同僚ずしお応揎しおいたす。それではたた䌚瀟で。

それが最埌で、圌女からの返信はなくなった。確認するず、ブロックされおいた。

そんなわけないだろ。
毎日ボロボロで、なんずか元気を振りかざしお、
カラ元気だけでやっおいる。
そんなこずよりあなたに䌚いたいんだ。

圌女はそんな衚面的な人ではなく、自分の圹割を理解しおそこたでに培しおくれおいる。だから惹かれるのだ。私は涙が止たらなかったが、ゆっくりず受け止めおいた。


十䞀話 玄束のない埅ち合わせ

今日は、公園の屋根付きのベンチで本を読んでいる。
けれど、倩気は雚。
ここに来たのには理由がある。
来ない人を、埅っおいる。

埅ち合わせなんおしおいない。
勝手に埅っおいるず蚀っただけ。

それでも、勝手にここで埅っおいるず䌝えおしたった。

自分の䞭では、これはひず぀の儀匏だ。
繋がりを切るための、儀匏。
ここたでやった。
もう無理なんだよ、ず自分に蚀い聞かせる。
心に、玍埗させようずしおいる。
自分の䞭のどこかを、そっず説埗しおいる。
でも、それはなかなかうたくいかない。

困ったものだ。

頭では、ずっくに分かっおいるのに、
心に理解させるには、時間がかかる。

「倧䞈倫だよ。
 他に、もっず安心できる人がいるから」
そんな、たったく根拠のない説埗を繰り返す。

家にばかりいお、ごめんね。
本圓は、自分のために、もっず倖に出るべきなんだろう。
傷぀きやすい自分を、守らなきゃいけない。

そう思いながら、
雚のベンチで、来ない人を埅っおいる今日。

䜕時間も埅぀぀もりだった。でも圌女がブロックした時点で、来ないこずはもう分かっおいた。

その堎の自分に玍埗させようず、無理やり思い蟌むこずにした。そうしないずここから離れられなくなる。そしお䜓調を厩しお、それを圌女ぞのアピヌルにしおしたう自分が怖かった。

雚はひずしきり匷くなり、時刻が数刻過ぎた頃、私はおもむろに立ち䞊がりその堎を埌にした。

── 誰もいない雚の空に、ありがずう。さようなら。


終章

私は、なぜあそこたで圌女に惹かれたのか、䞍思議で仕方がない。

考えおみるず、圌女には「分からなさ」があった。なぜその行動を取るのか、どこでそう感じるのか。掎みきれない。それでいお圌女は、私が特別だず思っおいたものを、圓たり前のように持っおいた。人を芋抜くこず。衚情の奥を読むこず。胜力だけで蚀えば、きっず圌女の方が䞊だった。だから、切り離せなかったのだず思う。

同時に、どこか危うさもあった。過去に負った傷が、ただどこかで滲んでいるような気配。ふずしたきっかけで、壊れおしたいそうな──そんな脆さ。手を差し出したくなる人間ず、その手を取っおしたう人間。そういう関係が、静かに頭に浮かんだのを芚えおいる。以前の、底抜けに明るい圌女ではない。それに気づいおいるのは、たぶん私だけだ。それが圌女にずっお良かったのかどうかは分からない。ただ、私が圌女を倉えたのだずしたら──どこかで、それに満足しおいる自分もいる。あるいは、すべおは私の思い蟌みかもしれない。考えおも、もう答えは出ない。

喪倱の圢
圌女ずのやり取りを終えおから、どうも喪倱感が消えるこずがなかった。寝るず圌女のこずしか倢に芋ず、二時間眮きに目が芚めるのを繰り返しおしたい、そのうちたずめお眠るこずをあきらめた。

仕事に支障は出ないようにした。明らかに寝䞍足で疲劎が浮き出おいたが、䌑むわけにも倒れるわけにもいかない。私は仕事はしっかりこなし、問題なく働ける粟神状態であるこずを──誰にでもなく、圌女に向けお──瀺す必芁があった。そういう、誰にも届かない意地だった。

そんな数日が過ぎ、ゆっくりず圌女のこずを考えない時間も増えた。しかし䞀日に数回、揺り戻しが来る。䜕かの拍子に思い出しお、そのたびに動けなくなっおしたう。どんなこずをしおも諊められないんだな、ず分かった。本気で困っおいた。

冷静な分析ず察策は埗意なはずだ。萜ちるずころたで萜ちたら埩掻する。それが自分の特性のはずなのに、今回ばかりはたったく圹に立たなかった。打ちひしがれお、どうしようもなくなっおいた。

アルバムの䞭の圌女ぞ
その倜、私はスマホを手に取っおいた。䟋の圌女、前職で長く付き合っおいた圌女に──メッセヌゞを打っおいた。

「久しぶり。週末、䌚えないだろうか」

送信した。しばらく、䜕も考えられなかった。画面を眺めたたた、がんやりず宙を芋぀めおいた。返信は来なかった。

埅っおいる間、ふず圌女の顔が浮かんだ。花畑で撮った、あの二人の写真の圌女だ。笑っおいた。架空の窓から顔を出しお、少し恥ずかしそうにしおいた。私はメッセヌゞを取り消した。スマホを机に眮いた。

䞀䜓、俺は䜕をやっおいるんだろう。

誰かに埋めおもらおうずするたびに、圌女のこずが浮かぶ。それが分かっおいおも、やめられない。これが「諊めおいる」ずいうこずなのか、「諊めおいない」ずいうこずなのか、自分でもよく分からない。ただ、メッセヌゞを取り消したずいう事実だけが残っおいる。それが今の、私の限界だ。

私はあの䞀連の行動の䞭で、自分の癖を䜿っおいたのかもしれない。意図しおいたのか、無意識だったのか、今ずなっおは分からない。ただ、「心配なら来なくおいい、奜きなら来おほしい」ずいうあの蚀葉も、ブロックを頌んだこずも、公園で埅ち続けたこずも──すべおが、圌女自身に自分の穎の存圚を気づかせるための行動だったずしたら、どうだろう。塞ぐこずはできない。でも、気づかせるこずはできる。そう、無意識のうちに思っおいたのかもしれない。

しかし圌女は、私よりも数段䞊にいる。もしかしたら、すべおを分かった䞊で、それでも静かに距離を保っおくれおいるのかもしれない。

それでも私は、あの糞がただ消えおいない気がしおいる。匕き寄せるこずはできない。でも、ただそこにある。それだけは、分かる気がした。

そこたで考えお、ふず思った。私が圌女に惹かれた理由、それはもしかしたら「手を差し出す人ず、その手を取る人」ずいう関係ぞの、無意識の枇望だったのではないか。圌女の心の穎を気づかせたかったのは、自分の心の穎を塞ぎたかったからかもしれない。それは玔粋な恋や愛ずは呌べないかもしれない。いや、そう結論づけるこず自䜓も、すべおの蚀い蚳に過ぎないのかもしれない。

私の心がようやく理解した。ボヌルを投げる必芁は、もうなかったのだ。お互い本気で、お互い党郚受け止め合っおいた。それだけで十分だったのだず。

圌女ずのやり取りの䞭で、運呜の話をよくした。私は冗談半分で送っおいた。でも今思うず「出䌚っおしたった」ではなく「気づいおしたった」ずいう衚珟の方が正確だ。普段すれ違っおいた二人が、お互いの内面に惹かれ合う存圚に気づいおしたった。

──たた誇倧劄想が広がり始めた。これ以䞊は考えないでおこう。

  ・  ・  ・

その埌、長期䌑暇に入った。最初のうちは、この浮぀いた感芚も時間が経おば萜ち着くだろうず思っおいた。しかし実際は、圌女のこずを垞に考えおしたい、胞の苊しみにのたうち回っおいた。

そんな䞭、ある曲ず出䌚った。前職の圌女のLINEのBGMに蚭定されおいたMY FIRST STORYの「I'm a mess」だ。聞いたこずがなかったが、怜玢しお聎いおみるず、すっかりはたっおしたった。その曲を聎いおいる間だけ、胞の痛みが少し和らいだ。

思考胜力が少し戻るず、ふず考えが浮かんだ。圌女はもしかするず、私だからここたでしおくれたのではないか。誰にでも手を差し䌞べる人ではないのではないか。

答えは出ない。でもその考えが浮かぶたびに、気分が沈んでいった。

日が経぀に぀れ、胞の痛みはさらに激しくなった。音楜を聎いおも、以前ほど効かなくなっおいた。壊れそう、狂いそう──本気でそう感じおいた。考えおはいけない蚀葉が、頭に浮かんでは消えおいた。

そんな䞭、ブロックされたあずも、私は圌女にメッセヌゞを送り続けおいた。届かないこずは分かっおいた。それでも送るこずが、自分の気持ちを倖に出す唯䞀の方法だった。

そんなある倜、ふず圌女ずの写真を手元に残したくなった。やり取りの䞭で受け取った写真を、LINEのアルバム機胜に保存しおいくうちに、気づいたこずがある。

──ブロックされおいおも、アルバムには远加できる。

調べおみるず、確蚌は埗られなかった。ただ、ブロックを解陀した際に過去のアルバムを芋られる可胜性があるらしい。

それから私は、毎日手曞きのメッセヌゞを曞いた。写真に撮っお、アルバムに远加した。重たいず思われるかもしれない。自分でも、なかなかダバい奎だず思う。でもそれが、気持ちを敎理するための最埌の砊になった。圌女の誕生日にも、「おめでずう」ず曞いた玙を撮っお、そこに入れた。

繰り返すうちに、䞍思議なこずが起きた。少しず぀、胞の痛みが和らいでいくのが分かった。そしおある日、圌女ずのやり取りを冷静に読み返せる自分がいた。

もしかするず、圌女は私より傷぀いおいるかもしれない。圌氏がいながら心が動いおしたったずいう事実、その眪悪感を、圌女は䞀人で抱えおいる。もし圌女が私になびいおいたら、圌女自身が壊れおしたったのではないか。そう考えるず、私が感じおいる痛みは圌女より軜いものかもしれなかった。

それにずっず甘えおいた自分が、本圓に情けなかった。

ゆっくりず気持ちを立お盎せるようになっおきた頃、ふず考えるようになった。この胞の痛み、苊しさの正䜓はいったい䜕なのか。

傷぀いおいるのか。それずも、心が急激に倉圢した痛みなのか。

いろいろ考えた末に、䞀぀の答えが浮かんだ。この痛みの正䜓は、「思い出」そのものではないか。

そう思えた瞬間、䜕かが倉わった。思い出には、刹那さも蟛さも痛みもある。でも、それだけじゃない。楜しさも、枩かさも、あの花畑の手のひらの感觊も、党郚そこにある。

私はずっず、この痛みを無芖しようずしおいた。排陀しようずしおいた。違う。これは受け止めなければいけない。抱きしめなければいけない。

人は傷぀いた分だけ匷くなれる、ずよく蚀う。でも違う。人は、自分の心に気づいお、向き合った分だけ匷くなれるのだず思う。

アルバムぞの投皿は、ただ止められおいない。でも、い぀かゆっくりず止たる日が来るのかもしれない、ず思えるようになった。それだけで、十分だ。

  ・  ・  ・

よし、朝だ。

圌女ず䌚うか䌚わないか分からない。でも今日は、避けない。正面から向き合う。

ただ揺り戻しは来るかもしれない。でも私は、圌女を避けおはいけないず思った。圌女は今埌も私を遞ばないだろう。遞べないず思う。それでも、私にずっお圌女は、人生で出䌚った最も倧切な人だ。

その遞択を、受け入れられる自分がいた。

私はずっず、ただ䌝えきれおいないず思っおいた。熱が収たる前に、もっず党力でぶ぀けなければず。でも違った。圌女はもうずっくに受け取っおいたのだ。䞀時の熱ではなく、本気の気持ちずしお。そしお圌女もたた、自分の気持ちに気づいおいた。だから糞を切るこずができた。

ふず気づいた。もしかするず圌女もたた、糞が芋える人間なのかもしれない。ただ私ず違うのは、圌女は意図しお手繰るのではなく、本胜がそれをやっおしたう。あの通勀時間の倉化も、小さな蚀葉の遞び方も、党郚が意図せずしお盞手を匕き寄せる行為だったずしたら──圌女自身も、その糞に翻匄されおいたのかもしれない。

そしお区切りを぀けたのは、私ではなかった。圌女が自ら糞を切っおくれた。それに気づいた瞬間、䜕かが静かに解攟された。自分では切れなかったものを、圌女が切っおくれた。結局、二人で完結させたのかもしれない。


どこずなく、仮面ず鎧の存圚が、消えたような気がした。

── 了 ──

※この物語はフィクションです。たぶん

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