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あと何回、傘を持って迎えに行けるんだろう

    ある日の午後。

    天気予報では降らないはずだったのに、
    窓の外を見ると空が暗くなっていた。

    しばらくすると、ぽつぽつと雨が落ちてくる。

    その瞬間、頭に浮かんだ。

    「あ、傘持って行ったっけ。」

    小学校の下校時間まであと少し。

    持って行ったような気もするし、
    持って行かなかったような気もする。

    私は少しだけ迷った。

    傘を持って行くべきか。

    それとも、このままにしておくべきか。


    子どもの忘れ物を届けるかどうか。

    親の間でも意見が分かれる話だと思う。

    困れば学ぶのだから届けない。

    自分で責任を取らせる。

    そういう考え方も分かる。

    私も基本的には、その考えに近い。

    実際、忘れ物をした時は、

    周りに迷惑がかかるかどうか

    を基準にしている。

    本人だけが困るなら、そのまま。

    でも、班やクラスの活動に影響が出るなら届ける。

    そんなふうに考えている。

    だから忘れ物については、自分なりの基準がある。

    でも、傘は少し違う。

    傘を忘れて困るのは本人だ。

    周りに迷惑がかかるわけでもない。

    それなら届けない方がいいんだろうか。

    濡れて帰れば、

    次から気をつけるようになるかもしれない。

    それもひとつの学びだと思う。

    でも雨雲を見ながら、

    どうしても別のことを考えてしまう。

    あと何回、
    私は傘を持って迎えに行けるんだろう。

    中学生になれば、

    もう迎えに行くことなんてないだろう。

    高校生になればなおさらだ。

    雨が降ったからといって、

    学校まで傘を届けに行くこともないと思う。

    きっと、

    「大丈夫だから。」

    そう言われる日が来る。

    思っているより早く。


    子育ては、

    少しずつ手を離していくことだと言われる。

    たしかにそうだと思う。

    忘れ物を届けないことも。

    失敗を経験させることも。

    親が先回りしないことも。

    全部その一部なんだろう。

    でも時々思う。

    手を離すことばかりが正解なんだろうか、と。


    結局その日も、

    私は傘を持って学校へ向かった。

    下校してきた息子に、

    「ほら、傘。」

    と渡す。

    これで一安心。

    そう思ったのに、

    なぜか本人は、差さない。

    肩は濡れているし、

    ランドセルも濡れている。

    傘は持っているのに、

    ちゃんと使っていない。

    「だったら持って来る意味ないじゃん。」

    私がそう言うと、

    息子は笑う。

    私も笑う。


    こっちは雨雲を見ながら、

    風邪を引かないかなとか、

    びしょ濡れにならないかなとか、

    そんなことを考えて持ってきたのに。

    本人はどこか楽しそうだ。

    でも、

    本人にとっては、

    濡れることなんて大した問題じゃないのだろう。

    私が思うほど、

    困ってもいないのかもしれない。

    だからきっと、

    傘を届けることに意味があるわけじゃない。

    濡れないことが目的でもない。

    「意味ないじゃん。」

    そう言いながら笑う時間。

    「だって大丈夫だもん。」

    と笑い返してくる時間。

    私が持って行った傘をろくに使わない息子に呆れながら、

    一緒に帰る時間。

    たぶん私が手放したくないのは、

    そっちなんだと思う。

    あと何回、
    私は傘を持って迎えに行けるんだろう。

    あと何回、

    こんなふうに笑いながら一緒に帰れるんだろう。

    子育ては手を離していくものだと言う。

    たぶん本当にそうなんだと思う。

    でも今はまだ、

    雨が降ったら傘を持って行きたい。

    たとえ本人が差さなくても。

    そんな母、途中のわたし。

     
     
    2027年、中学受験をする子の母をしています。 子育てをしていると、 信じたり、迷ったり、後悔したり。 子どものために動くべきか、 待つべきか。 昨日と今日で、 考えが変わることもある。 その時々の母の現在地を残しています。 「母、途中。」

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