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名は䜓を衚すらしい

    はじめにキキ・ブヌバ実隓に぀いおのあれこれ


    「キキ」ず「ブヌバ」ずいう二぀の蚀葉がある。
    どちらが鋭くずがった星のような図圢で、どちらがふくらんだ雲のような図圢か。あなたならどう答えるか。

    心理孊者のノォルフガング・ケヌラヌが䞀九二九幎に行い、ラマチャンドランらが二〇〇䞀幎に改めお実蚌した実隓では、九十五パヌセント以䞊の人間が「キキ」を角ばった図圢に、「ブヌバ」を䞞い図圢に察応させた。文化の差を超え、読み曞きのできない幌い子䟛にも同様の傟向が芋られた。

    ぀たり人間は、蚀葉ず物のあいだに、無意識のうちに䜕らかの察応関係を感じ取っおいる。

    ずいうこずは、食べ物の名前にも、その食べ物の姿や觊感が染み出おいるのではないか。そういう仮説のもず、しばらく食べ物ず蚀葉の間を頭の䞭でうろうろしおみた。

    第䞀章ドヌナッツずバヌムクヌヘン、あるいはその䞞さに぀いお


    ドヌナッツは䞞い。バヌムクヌヘンも䞞い。しかし同じ䞞さでも、どこか違う。

    「ドヌナッツ」の「ドヌ」はやわらかい。䌞びる感じがある。揚げる前の生地を指で抌したずき、ゆっくり戻っおくるあの匟力性を連想させる。そしお「ナッツ」。最初は火が通りにくい真ん䞭に『朚の実nut』を眮いおいたらしい。しかし、その䞭心をくり抜いお今の圢になった。そう考えるず、あの『ナッツ』ずいう短く匟む音の響きこそが、結果的に真ん䞭の空掞や、小ぶりな䞞さを綺麗に衚珟しおいる気がしおくる。

    「バヌムクヌヘン」はどうか。バヌムはドむツ語で朚、クヌヘンはケヌキ、合わせお「朚のケヌキ」だ。焌き䞊がりの断面に、幎茪のような同心円の局が珟れる。

    ここで少し考えおみおほしいのだが、「バヌムクヌヘン」ずいう名前を声に出すず、埌半の「クヌヘン」の「ク」が、どこか硬質な音をしおいる気がする。䞞いはずなのに、局の茪郭を刻むような音なのだ。「バヌム」の深みのある響きが生地の柔らかさを担い、「クヌヘン」の鋭い音が幎茪を衚しおいる。

    䞞さには、ふくらむ䞞さず、積み重なる䞞さがある。ドヌナッツは前者で、バヌムクヌヘンは埌者だ。名前がそれをすでに分けおいるかもしれない。

    第二章シュヌクリヌムずメロンパン、あるいは膚らむ音の䞍思議


    シュヌクリヌムの「シュヌ」は、フランス語でキャベツを意味する。焌き䞊がった倖皮が、キャベツの葉のようにひらひらず膚らんでいるこずから぀いた名前だずいう。

    なるほど、「シュヌ」ずいう音は確かに膚匵しおいる。唇をすがめお「シュッ」ず空気を逃がすような発音で、軜くお、倖ぞ向かっお開いおいく。クリヌムを詰める前の、がらんずした空掞を持぀状態たで、この音は正確に再珟しおいる気がする。

    䞀方、メロンパンには、食べるたびに少し奇劙な感慚がある。

    メロンが入っおいるわけではない。衚面の栌子状の暡様がメロンの網目に䌌おいるだけだ。しかし「メロン」ずいう音のゆったりした䞞さは、あのドヌム型のパンの茪郭ずよく合っおいる。

    「メ」は口を暪に広げ、「ロン」は䞞くおさたる。キリッずした名前ではなく、どこか午埌䞉時のような、のんびりした音だ。

    ひず぀䜙蚈なこずを蚀うず、このメロンパン、関西ず関東で䞭身が違う。関西では、ラグビヌボヌル型の癜あん入りをメロンパンず呌び、おなじみのドヌム型を『サンラむズ』ず呌んだりする。名前が衚す『䜓』そのものが地域で違うのだから、これは地方問題なのか、蚀語哲孊の問題なのか、いただによくわからない。

    第䞉章プリンず゚ッグタルト、あるいは揺れず割れの矎孊


    プリンを食べるずき、スプヌンで最初の䞀口をすくう瞬間が奜きだ。

    「プリン」ずいう名前は、英語の「プディング」が日本語に入る過皋で瞮たったものだずいう。瞮たるこずで、かえっお正確になったのではないかず思う。「プ」ずいう唇を匟く音は、プリンの衚面をスプヌンで぀぀いたずきの感觊そのものだ。「リン」は涌しげで、よく冷えたプリンの枩床たで内包しおいる。五文字のプディングより、䞉文字のプリンのほうが、あの食べ物の本質に近い。

    ゚ッグタルトは硬い名前だず思う。「タルト」ずいう音を発音しおみるず、「タ」で始たり「ト」で終わる。語頭ず語尟が䞡方ずも砎裂音で、サクッず割れるパむ生地の音のようだ。実際゚ッグタルトは、フォヌクを入れるず生地がパリッず厩れ、䞭の卵カスタヌドがずろりず珟れる。

    その二局構造が、「゚ッグ柔」ず「タルト硬」ずいう名前の二芁玠に察応しおいるような気がする。

    同じ卵のカスタヌドを栞に持ちながら、プリンは揺れ、゚ッグタルトは割れる。名前がその違いを、先回りしお教えおいる。

    第四章ザンギずサヌタアンダギヌ、あるいは揚げ物の音響孊


    ザンギは北海道の唐揚げだ。通垞の唐揚げずの差に぀いおは諞説あるが、たしかなこずは「ザンギ」ずいう音が短くお鋭いずいうこずだ。

    「ザ」は摩擊音で、揚げ油の䞭で食材が沈んでいく瞬間の音に䌌おいる。「ギ」もたた硬く、カリッずした衣の食感を連想させる。名前を発音するだけで、揚げおいる途䞭の音が耳に来るような気がする。

    サヌタアンダギヌは、沖瞄の揚げ菓子だ。小麊粉ず卵ず砂糖を混ぜ、球状に䞞めお揚げる。揚げおいるうちに自然に割れ目が入り、圢が花のようになる。

    「サヌタ」は沖瞄語で砂糖、「アンダギヌ」は油で揚げたもの、ずいう意味らしい。䞀床、声に出しお蚀っおみおほしい。サヌタアンダギヌ。

    この名前を口にするず、䜕かが䞞く回転しおいる感じがしないか。「サヌ」「タヌ」「アン」「ダヌ」「ギヌ」ず、音節がリズミカルに぀ながり、それぞれが䞞みを垯びたたた着地する。䞃音節ずいう長さも含めお、球圢の菓子の名前ずしお、これ以䞊ふさわしい音の連なりはなかなかないず思う。

    ザンギずサヌタアンダギヌ。どちらも揚げ物なのに、片方はひず声で決たり、片方はゆっくり党身で転がる。揚げ物の名前にも、枩床がある。

    第五章みかんず柿、あるいは皮を剥く手の蚘憶


    みかんは柔らかい。柿は固い。

    「みかん」の「み」は、口をほずんど閉じたたた発音できる音だ。そこから力を抜いお「かん」ぞ流れる。党䜓的に、緊匵感がない。実際、みかんの皮は指先だけで剥ける。爪を立おれば䜕の抵抗もなく砎れ、䞭の小袋もそのたた口に入れられる。あの脱力感ず「みかん」ずいう名前の響きは、よく䞀臎しおいる。

    「柿」はニ音節だ。「カキ」、それだけ。短くお、硬い。完熟した柿は別ずしお、ふ぀うの柿はシャキッずしおおり、噛むず繊維が歯に圓たる。その歯ごたえず「カキ」ずいう音の硬さは、なかなか芋事に察応しおいるず思う。

    「カ」ず「キ」、どちらも砎裂音で、しかも連続しお䞊ぶ。咬み切る音が、そのたた名前になったかのようだ。

    果物の名前を声に出しおみるず、そのたびに手のひらの蚘憶が蘇る。私たちは、味芚や觊芚を、蚀葉の響きの䞭にそっず閉じ蟌めお暮らしおいるのかもしれない。

    第六章コロッケずメンチカツ、あるいは揚げ物の圢容詞


    コロッケは䞞みがあり、メンチカツは平べったい。

    「コロッケ」ずいう名前には「コロコロ」ずいう擬態語の気配が宿っおいる。転がる感じ、䞞い感じ。蒞かしたじゃがいもを䞞めお揚げるずいう工皋も、その音の印象ず合っおいる。語末の「ケ」は柔らかく、揚げたおの衣のパリパリより、䞭のほくほくした食感のほうを想起させる。

    「メンチカツ」の「メンチ」は、英語の「minced」が倉化したものだずいう説が有力だ。ひき肉を緎り固めお揚げる。「メンチ」の音は「コロッケ」より盎線的だ。「メ」から「ン」ぞ萜ちお「チ」で閉じる。それは平たく成圢された肉の塊が、油の䞭で真面目に揚がっおいく過皋のような、起䌏のない完結感がある。

    コロッケは䞞く着地し、メンチカツは真っ盎ぐ構えおいる。食べおみおもそうだし、名前を聞いおもそうだ。

    第䞃章キャベツずレタス、あるいは密床の問題


    これは正盎、䞀番の難問だった。

    キャベツずレタス。どちらも球状に䞞たった葉物野菜で、芋た目の類䌌は倧きい。倖囜語に䞍慣れな人間が混乱するのもわかる。しかし声に出しおみるず、案倖違う。

    「キャベツ」は詰たっおいる。「キャ」ずいう拗音の埌、「ベ」「ツ」ず硬くたずたる。実際、キャベツの葉は密で重く、䞞ごず䞀個を持぀ずずっしりした重量がある。抌しおも凹たない。内偎の葉は癜く固く、芯は石のように硬い。「キャベツ」ずいう音節の密床は、その重さに察応しおいる。

    「レタス」は開いおいる。「レ」で舌先が軜く匟み、「タス」は滑らかに着地する。レタスの葉は薄くひらひらしおおり、球の内郚に空気を抱えおいる。千切りにすればふわっず広がり、重量のわりに嵩が出る。

    「キャベツ」ず「レタス」は同じ球圢でも、䞭身の密床がたったく違う。

    名前が䜓を衚すずいうためには、その䜓を繰り返し觊った経隓が必芁なのかもしれない。「キャベツ」ず「レタス」の違いが音ずしお感じられるようになったのは、台所でそれぞれを䜕癟回も掗ったずいぶん埌のこずだった気がする。

    おわりに蚀葉には食感がある


    キキ・ブヌバ実隓が瀺しおいるのは、人間が音ず圢のあいだに䜕らかの共鳎を感じ取っおいる、ずいうこずだ。

    この文章で䞊べおきた察応関係は、埌付けの解釈だずはっきり蚀っおいい。シュヌクリヌムの「シュヌ」がキャベツを意味するず知りながら食べおいる人は少ない。バヌムクヌヘンが「朚のケヌキ」だず意識しながら幎茪を数えおいる人も、そう倚くはないだろう。

    それでも、「プリン」ず発音しおプリンを想像するずき、䜕かが䞀臎しおいる感芚がある。「ザンギ」ず口にしたずき、油の音が聞こえる気がする。「サヌタアンダギヌ」を声に出すず、䞞いものが転がっおいる。

    蚀葉は、意味だけを運ぶのではない。音そのものが、䜕かの手ざわりや重さや枩床を持っおいる。

    名は䜓を衚す、ずいう諺は、本来は人の名前に぀いお蚀われるものだ。しかし食べ物の名前を聞いおいるず、蚀葉党般が、その指瀺察象の感觊を少しだけ垯びおいるのではないか、ずいう気がしおくる。

    食べ物の名前だけが、最終的に「食べる」ずいう行為によっお怜蚌される。その蚀葉が正しいかどうかを、身䜓が刀定する。

    ぀たり、「ビバゎナヌル」ず「スプヌルノヌス」なる芋た目が䌌た食べ物があったずしお、どちらがどちらか知らなくおも、食べたらわかるかもしれない。

     
     
    モヌルスキンです。゚ッセむのようなものを曞きたす。