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ロストクレジット 第1話

    【ロストクレジット】 あらすじ
    人々が持つのは、たった一枚のカード。それはクレジットであり、その人の存在価値そのものだ。
    クレジットが不足した者は、記憶や関係性を担保としてシステムへ差し出し、最適化(抹消)される。
    この冷徹なディストピアにおいて、シロは街の金融機関を統括する「管理者」の一人であった。
    本来、自我を持たぬはずの管理者に宿った「バグ」のような感情。
    シロはシステムの監視下で、禁じられた「金貸し」を営む。記憶や存在を担保に融資を行うという、システムを出し抜く背信行為。
    しかし、完璧であるはずのシステムは、シロの行為さえも「データ」として吸い上げ、あえて黙認し続けている。
    端末のログ(記録)に刻まれない、システムが不要と切り捨てた人々の「質量」。
    シロはそれを拾い集め、やがて街の真実と、放置された空席の椅子へと辿り着く。
    最適化の果てに、僕らは一体何を失ったのか。

    あなたの大切なものはなんですか



    ロストクレジット 第1話

    男は、うずくまり、吐いていた。

    白い床に、赤が混じる。

    噛み砕いたはずのそれを、体が拒否している。


    沈黙。


    「足りない」

    カードが叩きつけられる。


    シロは、男を見る。


    「何を望みますか」


    「……娘も、食えるようにしたい」


    沈黙。


    「不足しています」


    男の指が、止まる。


    「本人は」


    「ここにいない」


    沈黙。


    「それでは成立しません」


    男は、別のカードを出す。


    スキャン音。


    「不正です」


    沈黙。


    「このままでは、あなたの娘も共犯としてスコアが抹消されます」


    空気が止まる。


    「……消せるか」


    「可能です」


    沈黙。


    カードが押し出される。


    「全部持っていけ」


    「記録と、関係性を回収します」


    沈黙。


    処理音。


    「完了しました」


    間。


    「送っていたのは」


    男は、何も答えられない。


    沈黙。


    ――かすかに、音がした。



    あなたの大切なものはなんですか

     
     
    完璧な世界に残らない「重さ」を、紙とペンで拾い集める金貸し。著書:『ロストクレジット』で最適化の先の虚無を、『ダ・カーポ』で失われた日常への帰還を記す。システムという檻の中で、原生/モトとして何かを探しています。

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