
Ⅶ‐Ⅲ.贖罪
突然頭の中で声がする。
“待って!母さん!”
この記憶は…?人間界にいる前の記憶…???
二人組の男が女の美しい天使を家から連れ出していく。あの人は…。母様(かあさま)だ。
母は抵抗することもなく手に縄をかけられたまま、こちらを見ることもなく、連行されていく。
“お前のお母さんは、魔界に追放された父の代わりに殺されるんだよ。みんな望んでいることなんだ!お前は今日から堕天使の子…、お前は悪魔だ‼”
高らかに笑う召使。確か、この召使は父と母がいないところでは、態度を豹変させていた。
召使が何かを投げつける。私はびっくりして召使を見る。言葉の暴力はあっても身体的な暴力は初めてだったから、この時は驚いたのだ。
その顔を思いだしたとき、私は涙を流した。
真…、
真はそんなに昔から私のことを知っていて…、
真の強い憎しみを感じた。死んだ後もなお真のことを信じ続けていたというのに…、
きっと真の裏切りは、見たくないことから目を瞑り、自分の都合の良いように、すべてを解釈していた私への罰だ。
真実から逃げたんだ…、そして、命を救ってもらった臣を…、
「…私を許してほしい。すぐにとは言わない。壊れた絆の修復をするラファエルの果たせなかった願いを晴らすことに繋がるだろう。お前のラファエルを殺した罪を一緒に償っていきたい…、父親として何かしてやりたい…」
泣く私を見て戸惑う父は言う。そうか、殺したのは私なんだ…
最期まで臣に心を閉ざしたままだった。
臣を信じてやれなかった。
臣を…、
ラファエル様を殺したのは…
この私だ。
“目には目を歯には歯を…、殺した罪は、命を差し出すことによってしか償われることはない。”
裁判所での言葉が頭を過った。カバンに忍ばせていた短剣を取り出す。
真が死ぬ間際に握りしめていた短剣だった。それを、ラファエル様を知る旅に持ち歩いていた。
真はこれで私を殺そうとしたのに、裏切り者の遺品を、馬鹿みたいに大切に…、
結局、今回の旅でも臣のことなんて見ようとしてなかったんだ。
ラファエル様を知ろうとしていたことだって、全部自分のため…、
「やめろ!その短剣には、お前を殺める呪いがかかっている!今すぐそれを手放すんだ!」
父の声が言い終わらないうちに、私は短剣で自分の首をかき切った。
赤黒い血が鮮やかに噴き出す。本のにおいが、突如として血の匂いにすり替わる。
ああ…、
そうか、思い出した。
ここは、真が教えてくれた父に秘密の書斎じゃないか…
本に囲まれて死ねるなんて、なんて幸せなんだろう…、
視界がぐらりと揺れる。きっと倒れたんだろう。自分の体じゃないみたいに感覚がなかった。
薄れゆく意識の中、私は最期に力を振り絞って、呟いた。
「ごめんね、臣…、今逝くからね」
私は一筋の涙を流し、目を閉じた。
後に残る悪魔の骸は、鼻を覆いたくなるような異臭を放ちながら、黒煙となって消えていった。