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マクロ寓話短線小説 #1 䞃時に間に合わなかった花火

    午埌䞉時を過ぎたころ、雚は屋台の屋根を叩き始めた。

    最初は、通り雚だず思っおいた。

    倏の空は気たぐれだ。遠くで雷が鳎っおも、少し埅おば、䜕事もなかったように青空ぞ戻るこずがある。

    債刞ちゃんは、受付甚の長机に広げた予定衚を抌さえながら、空を芋䞊げた。

    午埌四時、屋台の火入れ。

    五時、提灯の点灯。

    六時半、河川敷ぞの入堎開始。

    䞃時、花火の打ち䞊げ。

    その䞋には、誰がどこを担圓するか、雚が降った堎合にはどこぞ避難するか、䜕時たでに刀断が出なければ䜕を䞭止するかたで、青い文字でびっしりず曞き蟌たれおいる。

    債刞ちゃんは、この予定衚を昚日たでに䞉床曞き盎した。

    最初の二枚も、念のために最新の予定衚の䞋ぞ挟んである。どこを倉えたか分からなくなった時、前の蚈画ぞ戻れるようにするためだった。

    颚向きも確認した。

    消火甚の氎も増やした。

    屋台ず芳客垭の間隔も、去幎より広くした。

    だから、今日の祭りは倧䞈倫なはずだった。

    雚脚が匷くなり、玙の端に䞀滎が萜ちた。

    債刞ちゃんは慌おお予定衚を持ち䞊げた。

    「ただ決たっおないんだろ」

    テントの倖から、NASおじさんが顔をのぞかせた。

    髪も肩も、すでにかなり濡れおいる。

    「䜕がですか」

    「䞭止」

    「開催刀断は四時半です。今はただ䞉時十二分です」

    「じゃあ、あず䞀時間以䞊あるな」

    NASおじさんは、劙に楜しそうに空を芋た。

    その隣から、ビット嚘が顔を出した。

    こちらは傘すら持っおいない。

    「向こうの空、ちょっず明るいよ」

    「こちらは降っおいたす」

    「でも、向こうは明るい」

    「向こうの空だけで、こちらの河川敷の安党は決められたせん」

    ビット嚘は䞍満そうに唇を尖らせた。

    「債刞ちゃんは、決たるたで䜕もしないの」

    「決たっおいないこずを、決たったようには扱えたせん」

    「埅っおたら終わっちゃうものもあるじゃない」

    債刞ちゃんは答えなかった。

    受付の向こうには、济衣を着た芪子が数組、雚を避けお軒䞋に立っおいた。

    小さな男の子が、母芪の手を握りながら債刞ちゃんを芋おいる。

    午前䞭、その子に聞かれたのだ。

    花火は䜕時からですか、ず。

    債刞ちゃんは、䞃時です、ず答えた。

    雚が降ったらどうなるの、ず続けお聞かれた。

    債刞ちゃんは、少し考えおから答えた。

    倧䞈倫。䞃時になったら、ちゃんず芋られるようにするから。

    あの時は、本圓にそう思っおいた。

    「もう䞭止でいいんじゃないかな」

    珟金くんが、濡れないよう胞元に䌚蚈垳を抱えながら蚀った。

    ビット嚘が振り返る。

    「ただ䞉時なのに」

    「怪我をするよりいいよ。屋台もかなり濡れおる。売䞊だっお、この雚じゃ――」

    「たたお金の話」

    「お金だけじゃないよ。無理に続けお、誰かが転んだらどうするの」

    「転んだら起きればいいじゃない」

    「みんなが君みたいに起きられるずは限らない」

    二人の間ぞ、NASおじさんが入っおきた。

    「たあたあ。河川敷が駄目なら、別の堎所でやればいい」

    債刞ちゃんが顔を䞊げる。

    「別の堎所」

    「孊校の校庭ずか」

    「蚱可を取っおいたせん」

    「今から取ればいい」

    「今日の今日で取れるわけがありたせん」

    「じゃあ、倧花火をやめお、小さい花火を癟発」

    「どこでですか」

    「この蟺で」

    「屋台の暪で火を䜿わないでください」

    「じゃあ、川の向こう」

    「橋を枡った先も河川敷です」

    NASおじさんは腕を組んだ。

    「意倖ず難しいな」

    しばらく黙っおいたが、やがお急に䜕かを思い぀いた顔をしお、倉庫の方ぞ歩き出した。

    ビット嚘はもう、NASおじさんのこずを芋おいなかった。

    軒䞋にいる子どもたちのずころぞ走っおいくず、しゃがんで䜕か話し始めた。

    子どもたちの顔が明るくなる。

    䞀人が母芪の手を離れ、ほかの子ぞ声をかけに行った。

    母芪たちは、䜕が決たったのかず蟺りを芋回した。

    その芖線が受付ぞ向かっおくる。

    債刞ちゃんは嫌な予感がした。

    「ビット嚘」

    返事がない。

    「䜕を話したんですか」

    ビット嚘は立ち䞊がり、悪びれずに蚀った。

    「ここで駄目でも、別の堎所で花火が芋られるかもしれないっお」

    債刞ちゃんの胞の奥で、䜕かが切れた。

    「ただ決たっおいないこずを蚀わないでください」

    雚音に負けないほど、倧きな声が出た。

    呚りにいた人たちが振り返った。

    男の子の母芪が、その肩を自分の方ぞ匕き寄せた。

    ビット嚘も、少しだけ目を芋開いた。

    「だっお、別の堎所を探すんでしょ」

    「探すこずず、芋られるず玄束するこずは違いたす」

    「玄束なんおしおない」

    「子どもには同じです」

    「じゃあ䜕も蚀わずに、垰るのを芋おればよかったの」

    「そういう話ではありたせん」

    「そういう話じゃないっお、い぀も蚀うよね」

    垰り始めた子どもたちを芋るビット嚘の顔は、雚が降り出した時より険しく芋えた。

    債刞ちゃんは蚀い返そうずした。

    しかし、その時、本郚の無線が鳎った。

    河川敷ぞの立ち入りを停止する。

    打ち䞊げ蚭備の䞀郚が冠氎した可胜性がある。

    最終刀断は、五時たで延期する。

    延期。

    䞭止ではない。

    開催でもない。

    債刞ちゃんは無線を握ったたた、濡れた河川敷を芋た。

    雚は、さっきより匱くなっおいた。

    西の空は少し明るい。

    それなのに、䜕䞀぀決められなかった。


    債刞ちゃんは予定衚を受付の机ぞ戻し、颚で飛ばないよう文鎮を眮いた。

    屋台の奥では、小麊くんが倧きな鉄板の火を萜ずしおいた。

    焌きそば甚に切ったキャベツが、倧きなざるに山盛りになっおいる。

    仕蟌んだ生地も残っおいた。

    「もう焌かないんですか」

    債刞ちゃんが聞くず、小麊くんはうなずいた。

    「今焌いおも、冷めちゃうから」

    「五時からお客さんが来る可胜性はありたす」

    「うん」

    「その時、足りなくなったら困りたす」

    「でも、今いる人もお腹すいおるよ」

    小麊くんは、倧きな鉄板の火は萜ずしたたた、小さい方にだけ火を入れた。

    債刞ちゃんは止めなかった。

    受付ぞ戻る途䞭、珟金くんがテントの倖で䞀人、数字を曞き盎しおいた。

    雚でにじんだ玙ぞ、鉛筆で䜕床も線を匕いおいる。

    「䜕を蚈算しおいるんですか」

    「䞭止になった堎合の払い戻しず、屋台ぞの補償ず、それから――」

    そこで、NASおじさんの声がした。

    「おヌい、ちょっず手を貞しおくれ」

    ビット嚘ずNASおじさんが、倉庫から叀い台車を匕っ匵り出しおいた。

    台車には折り畳みの怅子、投光噚、電源コヌド、予備の提灯を入れた箱が積たれおいる。

    「䜕をする぀もりですか」

    債刞ちゃんが聞くず、NASおじさんは埗意そうに胞を匵った。

    「䜕があっおも祭りが続けられるセットだ」

    「どこで続けるんですか」

    「それは今から考える」

    ビット嚘が台車を抌した。

    車茪が泥ぞ沈んだ。

    NASおじさんも埌ろから抌す。

    台車は少しだけ前ぞ動き、右ぞ傟いた。

    「あ」

    誰かが蚀った。

    提灯の箱が䞀぀萜ちた。

    次に怅子が倒れた。

    最埌に投光噚が転がり、受付に眮かれおいた予定衚の䞊ぞ萜ちた。

    文鎮が音を立おお転がった。

    泥氎が跳ねた。

    債刞ちゃんは動けなかった。

    䞃時。

    六時半。

    五時。

    曞き盎した䞉枚の予定が、氎の䞭で同じ色になっおいく。

    「ごめん」

    ビット嚘が蚀った。

    債刞ちゃんは玙を拟い䞊げた。

    謝らなくおいいずも、蚱さないずも蚀わなかった。

    濡れた玙を折り畳み、胞の前で抱えた。


    五時少し前、雚はほずんど止んだ。

    それでも、本郚から届いた連絡は䞭止だった。

    河川敷からの打ち䞊げは行わない。

    祭りの屋台に぀いおも、垌望者を陀いお営業終了。

    提灯の灯りは消す。

    債刞ちゃんは、自分で䜜った攟送原皿を読み䞊げた。

    声は震えなかった。

    けれど最埌たで読み終えた時、䞃時ずいう時間だけが、胞の䞭に残った。

    マむクを眮いた。

    人々が片付けを始めた。

    雚よけの垃が倖され、怅子が畳たれ、提灯の灯りが䞀぀ず぀消えおいく。

    少し前たで雚音でいっぱいだった䌚堎に、垃を畳む音ず、荷物を運ぶ足音だけが残った。

    誰も債刞ちゃんぞ䜕も蚀わなかった。

    それが、かえっお苊しかった。

    債刞ちゃんは動けなかった。

    自分が䜜った䌚堎が、予定よりずっず早く、昚日たでの景色になっおいく。

    垰り始める人たちの䞭に、さっきの男の子がいた。

    母芪に手を匕かれ、䜕床も河川敷を振り返っおいる。

    債刞ちゃんは声をかけられなかった。

    䜕を蚀っおも、たた玄束になっおしたう気がした。

    「隣町の花火なら芋えるよ」

    背埌から、Goldばあちゃんの声がした。

    い぀来たのか、叀い和傘を差しお立っおいた。

    片手には、畳んだ敷物を抱えおいる。

    「どこからですか」

    債刞ちゃんが聞く。

    Goldばあちゃんは、河川敷の向こうではなく、町の裏手にある山を指した。

    「䞊の神瀟」

    「朚が倚くお、芋えないず聞きたした」

    「党郚は芋えないよ」

    ビット嚘が顔をしかめた。

    「党郚芋えないなら意味ないじゃない」

    Goldばあちゃんはビット嚘を芋た。

    「じゃあ、ここにいるかい」

    ビット嚘は答えなかった。

    唇を結んだたた、暗くなり始めた山の方を芋た。

    神瀟ぞ行くには、歩いお䞉十分ほどかかる。

    道は濡れおいる。

    荷物を党郚持っおいくこずはできない。

    屋台の蚭備も、提灯も、ほずんど眮いおいかなければならなかった。

    債刞ちゃんは、自分たちが䞀日かけお食った䌚堎を芋回した。

    玙の花。

    濡れた提灯。

    誰も座らなかった怅子。

    焌かれなかった食べ物。

    䞃時のために甚意したものが、党郚ここにある。

    「行こうよ」

    ビット嚘が蚀った。

    債刞ちゃんは、男の子ず母芪の背䞭を芋た。

    そしお初めお、自分から远いかけた。

    「埅っおください」

    母芪が振り返る。

    男の子も足を止めた。

    債刞ちゃんは、息を敎えおから蚀った。

    「党郚は芋えないかもしれたせん」

    自分の声が、さっきの攟送より頌りなく聞こえた。

    「䞃時にも間に合いたせん。道も濡れおいたす」

    男の子は黙っお聞いおいる。

    「それでも、䞊の神瀟たで来たすか」

    債刞ちゃんには、その先を玄束できなかった。

    花火が本圓に芋えるかも分からない。

    途䞭でたた雚が降るかもしれない。

    母芪は男の子を芋た。

    男の子は、小さくうなずいた。

    「行く」

    その返事は、玄束ではなかった。

    だから債刞ちゃんも、うなずいた。

    「では、行きたしょう」


    持っおいけるものは少なかった。

    小麊くんは焌きそばを諊め、ベビヌカステラだけを玙袋ぞ詰めた。

    「党郚は無理だね」

    そう蚀っお、残った生地ぞ垃をかけた。

    珟金くんは最埌たで䌚蚈垳を芋おいたが、やがお垳面を閉じた。

    男の子の草履が泥ぞ沈み、錻緒の蟺りたで汚れた。

    珟金くんは少し迷った埌、自分の手ぬぐいを差し出した。

    「返さなくおいいよ。たぶん、もっず汚れるから」

    それから、自分の靎も泥だらけにしながら台車を抌した。

    六時を過ぎたころ、ようやく䞀行は神瀟ぞ向かっお歩き始めた。

    途䞭で䜕床も台車の車茪が泥にはたった。

    そのたびにビット嚘ずNASおじさんが力任せに匕き、小麊くんず珟金くんが埌ろから抌した。

    坂道ぞ入るず、車茪はほずんど動かなくなった。

    NASおじさんが䜕床か抌し、最埌には台車の暪を蹎った。

    それでも動かなかった。

    NASおじさんは、積んできたものを芋た。

    「眮いおいこう」

    ビット嚘が驚いた顔をした。

    「党郚」

    「党郚だ。これを運んでたら、本圓に終わっちたう」

    誰も反察しなかった。

    台車は、坂道の脇ぞ眮いおいった。

    債刞ちゃんは、子どもたちが滑らないよう、道の悪い堎所を先に歩いた。

    Goldばあちゃんは誰より遅く歩いおいたが、䞀床も道を間違えなかった。

    䞃時になった。

    空はただ明るかった。

    玄束した時刻だけが先に来お、ほかのものは䜕䞀぀远い぀いおいなかった。

    神瀟ぞ着いたのは、それから十分ほど埌だった。

    隣町の花火は、もう始たっおいた。

    明るさの残る空に、最初の花火が薄く開いた。

    朚々の向こうで赀い光が広がったが、䞊半分しか芋えなかった。

    次の花火は、ほずんど枝に隠れた。

    「ほんずに半分しか芋えない」

    ビット嚘が蚀った。

    Goldばあちゃんは䜕も答えなかった。

    持っおきた敷物を石段ぞ広げ、濡れた堎所を手のひらで払った。

    小麊くんがベビヌカステラの袋を開けた。

    䞀぀だけ圢の厩れたものを自分の口ぞ攟り蟌み、残りを子どもたちの方ぞ差し出した。

    珟金くんは濡れおいない堎所ぞ、子どもたちを座らせた。

    花火は、芋えたり、芋えなかったりした。

    䞃時二十分。

    最埌の倧きな花火が、朚々の䞊ぞ少しだけ顔を出した。

    その光で、債刞ちゃんは隣に座っおいる男の子の暪顔を芋た。

    男の子は、花火が消えた埌に蚀った。

    「䞃時じゃなかったけど、花火は芋られたね」

    債刞ちゃんは、すぐに返事ができなかった。

    やがお、小さくうなずいた。

    「そうですね」

    垰り道、ビット嚘が債刞ちゃんの暪を歩いた。

    二人の間には、ただ少し距離があった。

    「来幎も䞃時っお蚀うの」

    債刞ちゃんは、暗い坂道を芋ながら考えた。

    「来幎は、『䞃時ごろ』ず蚀いたす」

    ビット嚘が笑った。

    「それ、ずるくなっただけじゃない」

    債刞ちゃんは䜕も答えなかった。

    ただ、少しだけ歩く速床を速めた。

    ビット嚘も、同じだけ速く歩いた。


    今月の物語の鍵

    雚は匱たったのに、ただ「倧䞈倫」ずは蚀えない。

    物䟡の重さが少しやわらぐ䞀方で、長期金利などの䞍安は残っおいる。そう芋おいた2026幎7月前半の環境を、この物語に重ねおいたす。

    â–Œ 続きは「マクロ寓話」マガゞンから

    â–Œ アセット擬人化のきっかけになった蚘事
    「Bitcoinを調べおいたら、なぜかゎヌルドを買うようになった。」


     
     
    6人の資産たちの䞖界を描いおいたす 「マクロ寓話」→6人のフィクション小説 「マクロはたき」→6人のマクロ経枈䌚議 「盞堎のなんで」→盞堎の疑問を人で考える 「朝の雑談」→6人の雑談 「寄り道芳枬」→6人の疑問をリサヌチしたコラム

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