
女子アナの憂鬱
「その恰好何とかならんかね?迷彩服の女子アナなんて前代未聞だよ。」
「今は何でもネットで揃う時代ですから。このシューズ、タクティカルブーツって言うらしいですよ。ご存知でした?」
「そんなことを言ってるんじゃないよ。視聴者からクレームが殺到してるんだ。戦争が起きるみたいで怖いからやめてくれと。私も全く同じ意見だ。」
「戦争なんてとんでもない。私は平和主義者ですよ。」
「ヘルメットを取りなさい。髪は女子アナの命でしょうが?」
「カメラ映えより命の方が大事ですから。男の人は命よりも大事なものを、いっぱい抱え込んでしまって可哀想ですね。」
「そのリュックには何が入っているんだね。随分重そうだが。」
「水、非常食、懐中電灯、救急品など最低限必要な物です。お水飲みます?」
「ありがとうって、水飲んでる場合じゃないんだよ!臨戦態勢のわけを教えてくれ。」
「地震です。」
「地震?東日本大震災以来、首都圏ではそんな仰々しい恰好が必要な地震は起きてないと思うが・・・。」
「これからの地震のことです。南海トラフは30年の間で、70~80%の確率で起きると言われてますし・・・。」
「言葉の綾だよ。30年経てば結果起きていると言うだけで、必ずしも明日起きるわけではない。」
「一秒、一瞬、一刹那後に揺れるかもしれません。 テレビ局は上に重い機材が多くて、危なくってしょうがない。幸い東京では原発事故はないですけどね。Aquarius―Bによると金曜の朝が危険らしいですよ。」
「誰だよその似非占い師は。恰好だけの話じゃない。君、こないだの地震特番で『私は忘れるけど皆さんは覚えていてください。』ってやったらしいな。アナウンサー以前に人間としてどうかと思うぜ?」
「ニュースは古いものを捨てなければ入って来ません。それが報道の宿命。『震災を忘れるな。』って言っときながら、自分らが真っ先に忘れるくせに。私は自分の言葉に嘘をつきたくありません。川柳を作ったので今度披露してやろうと思います。『忘れない 次の震災 起きるまで』どうです?」
「頼むからやめてくれ。君のストイックな性格は尊重するよ。だがスカートからすらりと伸びた綺麗な脚を隠すのは勿体無いよ。」
「セクハラはやめてください。」
「下に何を履いててもいいんだよ。君の商品価値がグッとアップする。間違いない。」
「パワハラはんた~い!」
「セパハラ野郎のフェミニストからひとこと言わせて貰うが、君も魅力的な先輩に憧れて、この業界に入ってきたんじゃないのか?」
「そのフェミニストが怪しいんです。レディーファーストも怪しい。女性を優先しておけば、負の局面になっても女性が優先される。 自分の所に来るまでの、或いは来てからの時間稼ぎができる。あるいは事態が消滅してるかもしれない。魔女狩りですね。」
「中世暗黒のヨーロッパの魔女は100%無実だった。君も無罪だけど無実とは言えない。ヘルメット被ってリュック背負って、迷彩服にタクティカルブーツ?履いてニュースを読む姿は恐ろしい。まさしく魔女だ。独立を考えているなら、エキセントリックな掴みは充分じゃないかなぁ。」
「容疑者の男って言われるとドキッとします。 『河野、菅谷』と憎々し気に呼び捨てにされているような気がして。河野さんは容疑者でもなかったんですよ。私、謝るの嫌いですから最初からしません。警察ですら原則推定無罪の建前なのに、メディアは断定有罪。冤罪を生み出しているのは検察だけではない。司法を批判する資格はありません。容疑者は容疑者として扱う。犯人を捕まえると容疑者を確保するでは意味合いも扱いも違ってくる。 『泥棒!』と叫ばれ、ATMで逮捕された男性も死なずに済んだかも知れない。逮捕された位で犯人扱いはもうやめません?現行犯なら私でも逮捕できますもん。自白してもどうかと思いますけどね。『君らは神か、何か見たのか、何を知っているのか?』せいぜい誰かに聞いた位ですよ。」
「お昼のニュースです。私、児島がお送りします。いつもの加藤は体調不良で、暫くお休みを頂きます。最初に政府は今日・・・。」