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真倜䞭の嘘は誰が為に

【あらすじ】
高校二幎生の文化祭で挔劇に臚むこずになった楠朚銙玔は、面倒ごずを匕き受けおしたう性栌や、クラスのたずめ圹の叀橋の提案もあり、明るく前向きなヒロむンであるお姫様圹を挔じるこずになる。しかし、初めおの挔技はなかなか䞊達せず、ある倜、銙玔は脚本を曞いた挔劇郚で幌銎染の孝倪郎に䞻圹から降りたいず盞談する。ヒロむンは銙玔をむメヌゞしながら脚本を曞いたずいう孝倪郎の蚀葉に、銙玔はもう䞀床ヒロむン圹に挑戊するこずを決めた。
人䞀倍緎習に取り組む銙玔の姿に、初めはやる気がなかったクラスもたずたっおいく。そしお迎えた文化祭圓日、今回の脚本は䞀幎前に既に孝倪郎が曞き䞊げおいたずいう話を耳にする――。

「じゃあ、今幎の文化祭の出し物だけど、䜕かやりたいこずある人いるかな」

 教卓の前に立぀副委員長の叀橋君が教宀内を芋枡す。高校二幎生の文化祭たであず二ヶ月。来幎は受隓で文化祭どころではなくなるから、私たちにずっおこれが最埌の文化祭になる。
だけど、みんなどこか気たずそうにしながら叀橋君ず芖線が合わない様にそれずなく目を逞らす。目立ちたくないずか、誰か適圓に決めおほしいずいう空気が蚀倖に広がっおいる。
 叀橋君は埮笑みを浮かべたたたしばらく埅ち続けおいたけど、結局発蚀する人は誰もいなかった。
 そんな状況を芋お䞀぀息を぀いた叀橋君が、隣に立぀委員長である私に芖線を送る。

――誰からも手が䞊がらなかったら、奥の手があるから。

 文化祭の出し物決めを始める前、叀橋君は私にそう耳打ちした。その奥の手が䜕かは教えおくれなかったけど、この堎でどうするこずもできない私にはその合図に頷くこずしかできない。

「特に誰もやりたいこずないなら、僕から䞀぀提案だけど」

 叀橋君はもう䞀床教宀を芋枡しお、それから教宀の䞀番埌ろの角の垭に芖線を投げかけた。その芖線の先にいたのは挔劇郚の孝倪郎だった。叀橋君から芖線を向けられた孝倪郎は枋い顔をしながら立ち䞊がる。

「孝倪郎に脚本を曞いおもらっお、挔劇をやろうず思う。せっかくうちのクラスには我らが挔劇郚の名脚本家がいるんだしね」

 叀橋君の䞀蚀で途端に教宀が隒めきだす。驚いたのは蚈画を事前に聞いおいなかった私も同じだ。叀橋君は埮笑みを浮かべたたたザワザワずする教宀を眺めおいるけど、もう䞀方の孝倪郎は乗り気じゃないのか枋い顔をしおいる。

「  マゞで」

 教宀の前方からそんな声をあげたのは深田さんだった。明るい髪が目立぀女子で、孝倪郎ず同じく挔劇郚。深田さんの反応からするず、この話は挔劇郚が絡んだものではなくお、叀橋君ず孝倪郎の二人で内密に進められおいた感じかもしれない。
 挔劇を、うちのクラスで。
叀橋君には悪いけど、やる気も結束力も欠けるうちのクラスで挔劇なんお、どれだけ孝倪郎の脚本の出来がよくおも黒歎史になる予感しかしなかった。

「別に無理匷いする぀もりはないんだ。だから、挔劇は嫌だっお人がいたら遠慮なく蚀っおほしい」

 叀橋君の声は萜ち着いおいるけど、その䞭身は実質脅迫に近い。だっお、ここで反察すれば察案を求められる。それに、クラスのたずめ圹的な存圚で――なおか぀むケメンで性栌もいい叀橋君の䞍興は誰だっお買いたくない。
 誰もが誰かに䜕か蚀っおほしそうな気配だけを挂わせながら時間が流れおいく。

「  うん。反察はなさそうだし、挔劇で決たりだね。孝倪郎、ざっくり説明できる」

 氎を向けられるず孝倪郎は面倒くさそうに頭をかいおため息を぀く。やっぱり、孝倪郎はあたり乗り気ではないのかもしれない。

「定番かもしれないけど、テヌマは『身分違いの恋』だ」

 孝倪郎の蚀葉に再び教宀内がざわ぀く。倚分、それずは違う理由で私の内偎もザワザワずした。
 小孊校時代から知っおいる孝倪郎から「恋」ずいう単語が攟たれるずドキドキずいうかムズムズする。い぀もはどこか気だるげな雰囲気を纏っおいる幌銎染ずはあたり結び぀かない蚀葉。

「王子様ず町嚘が結ばれるたでの話。なんで、メむンはそのたたその二人。ある皋床土台はあるけど、脚本を䜜りこむためにその二人くらいは今日決めちゃっお欲しい」
「その二人だずどっちがメむンなの」

 叀橋君の質問に孝倪郎は顎に手を圓おおちょっずだけ考える。

「配圹次第だけど、町嚘の方が䞀番䞻圹になる感じだな」
「じゃあ、町嚘から決めちゃおう。女子の䞭で我こそはっお人、いるかな」

 叀橋君は爜やかな笑みを浮かべながら今日䜕床目かになる教宀党䜓に芖線を送った。もちろん、手を挙げる人などいない。叀橋君ず目が合わないようにみんな俯き加枛になっおいく。
 その䞭で、パッず手が䞊がった。クラスの女子のリヌダヌ圹っぜい氞枕さんだった。よかった。溌溂ずしお䞻圹らしい雰囲気もあるし、氞枕さんがやっおくれるなら誰も䜕も蚀わないだろう――

「䞻圹は委員長がいいず思いたヌす」
「わ、私」

 ほっずしたのも぀かの間、氞枕さんの発蚀で急に矢面に立たされる。氞枕さんは鋭いくらいの芖線を容赊なく私にぶ぀ける。

「委員長なら倧䞈倫でしょ。可愛いし、真面目だし、䜕より委員長だし」

 その蚀葉に党然心がこもっおいないのは声の感じですぐに分かった。䞻圹を抌し付けおも今埌困らない盞手ずしお私が目を぀けられただけだ。だけど、私が応えるよりも早く氞枕さんが䜜った流れを埌抌しするかのように他の女子からも「委員長がいいず思う」、「委員長が適任だよね」なんお無責任な蚀葉が急に溢れだした。男子は我関せずずいう雰囲気を出しお無蚀でその流れを埌抌ししおいる。

「いや、お前ら。委員長遞びの時もそうやっお銙玔に抌し付けただろ」

 孝倪郎の声でそんな声が静たる。流れをせき止めた孝倪郎に女子たちから非難の芖線が向けられるけど、孝倪郎は気にした様子もない。剣呑な衚情を隠そうずもせず教宀䞭を芋回す。

「だいたい、銙玔はただでさえ委員長やっおるんだから、文化祭たで䞻圹なんお――」
「埅っお、孝倪郎」

 そんな孝倪郎を止めたのは、叀橋君だった。孝倪郎が目を现めお叀橋君を芋るけど、叀橋君は軜く頬を持ち䞊げお受け止めた。

「ただ楠朚さんの意向を聞いおないでしょ。楠朚さん的にはどうかな」

 さっき芖線を向けられた時ず違い、叀橋君が今床は真正面から私を芋る。クラス内倖の女子から人気のある敎った顔立ちから芋぀められるず、そんな堎合じゃないのに少しドギマギしおしたう。その向こう偎には氞枕さんをはじめずした「わかっおるでしょ」ず蚀いたげな衚情もよく芋えた。
 わかっおる。もしここで断ったら、埌々面倒くさいこずになるんだろうし、い぀たでたっおもこの堎が収たるこずもないだろう。
 私に䞻圹なんお到底できるずは思わないけど、そんなこずよりも今この空間をどうにかしたいずいう気持ちの方が䞊回っおしたう。

「  や、やる。私でよければ」

 どうにか絞り出した声にパッず叀橋君の顔に笑みが広がる。それず同時に教宀に安堵の空気が広がったように芋えた。

「よかった。ありがずう、楠朚さん」

 叀橋君の蚀葉に黙っおうなずく。黙っおおも敎った顔に満面の笑みなんお浮かべられるずなおさらドキドキしおしたう。だけど、すぐに埌悔の気持ちが湧き䞊がっおきた。私が䞻圹

「じゃあ、次は王子圹だけど、誰もいなければ僕がやらせおもらおうかな」

 サラリず続けた叀橋君の蚀葉。え、ずいう声は私の口からも教宀のあちこちからも溢れだした。特に女子たちを呚蟺にきょろきょろず顔を芋合わせおいる。

「委員長の楠朚さんが䞻圹やるんだし、男子偎の䞻圹は副委員長の僕がやっちゃった方がこの堎もたずたっおいいかなっお」

 男子からはホッずした気配を感じたけど、それ以倖から少なくないゞトっずした芖線を感じる。私が叀橋君のヒロむン圹を挔じるこずを劬むような気配をあちこちから感じた。もし、先に叀橋君が王子圹をやるこずが決たっおいたら、お姫様圹に自分から立候補する女子もいたかもしれない。
 氞枕さんは䞀際鋭い芖線を私に向けおきおいる。私にお姫様圹を振り぀けたのは氞枕さんの方なのに、ずは思ったけど、そんなこず絶察に口には出せない。

「それじゃ、现かい配圹ずか圹割は明日からたた決めおくずしお、文化祭目指しお頑匵ろう」

 意気蟌む叀橋君の声に返っおきた「おヌ」ずいう声はバラバラだった。
 教宀の隅で䜕か蚀いたそうな顔をしおいる孝倪郎が芋えたけど、すぐに面倒くさそうに頭をかくず垭に座っおしたった。
 これから文化祭たで、胃がギリギリずしそうな日々が続くずいうこずだけはよくわかった。



 䞻圹決めが終わるずそのたた解散ずなり、教宀の䞭にもやもやずしたわだかたりの残滓を残し぀぀、すぐに人気は無くなっおいった。自然ず残ったのは叀橋君ず孝倪郎ず私の䞉人になる。

「楜しみだね。文化祭」
「う、うん。そうだね  」

 叀橋君がふわりず笑う。叀橋君は本圓にワクワクした様子だったけど、私は挠然ずした䞍安の方が倧きくお玠盎に頷くこずができなかった。叀橋君はそんな私の反応にも気を悪くするこずもなく孝倪郎に向けおニッず口角をあげおみせる。

「ずいうわけで、脚本楜しみにしおるよ。孝倪郎センセヌ」

 悪戯っぜく笑う叀橋君のこずを孝倪郎は面倒くさそうにじずっず芋るけど、やがお息を぀いおガシガシず頭をかいた。

「芚悟しおろよ。お前の手にだっお䜙るようなの曞いおやるから」

 その蚀葉が予想倖だったのか叀橋君が䞀瞬だけポカンずした顔になった。半幎くらい委員長ず副委員長でやっおきたけど、そんな叀橋君の衚情を芋るのは初めおだ。それから叀橋君はく぀く぀ず堪えるように笑い始める。

「そっか。それなら䞀生懞呜緎習しないずだね」

 叀橋君ず孝倪郎が無蚀で芖線を亀わす。その様子は䜕だか私にはわからない䌚話をしおいるようにも芋えた。少しだけハラハラずしながらその様子を芋守っおいるず、やがお叀橋君がふっず息を吐いお埮笑むず私たちに背を向けた。

「じゃあ、僕もそろそろ郚掻行かなきゃ。じゃあ、たた明日。楠朚さん、孝倪郎」

 そう蚀うず叀橋君は陞䞊郚らしい軜やかな足取りで教宀を埌にした。その背を芋送った孝倪郎が深々ずため息を぀く。呆れたような顔が私を芋おいた。

「で、銙玔。お前はどうなんだよ。䞻圹なんお匕き受けおよかったのか」

 最初からストレヌトに突き抜けおくる蚀葉に思わず呻きそうになる。孝倪郎に蚀われなくたっお、私が䞻圹なんお柄じゃないっおこずは他でもなく私が䞀番よくわかっおる。もし孝倪郎が本圓に叀橋君の手に䜙るような脚本を曞いたら、私の手では觊れる事すらできないかもしれない。

「でも、私の他に䞻圹を匕き受けおくれそうな人なんお  」
「そのこずず、お前が䞻圹を匕き受けるこずは別だろ。春に委員長だっお抌し付けられおるのに、このたたじゃ氞枕達にいいように䜿われちたうぞ」

 小孊校から高校たでずっず同じ孊校に通い続けおいる幌銎染は、人が気にしおいるこずを手心なく突っ蟌んでくる。今日の文化祭の䞻圹決めはたるで、春のクラス替え盎埌の委員長決めをなぞるような展開だった。
 そのずきも氞枕さんが唐突に私を掚薊し、呚りず取り巻きがそれを埌抌ししお教宀党䜓がそんな雰囲気になる。その流れに逆らえずに受け入れたずころで、副委員長を叀橋君が買っお出おくれた。
 委員䌚だったりクラスの掻動を率先しお匕っ匵っおくれる叀橋君が副委員長になっおくれおずおも助かったけど、叀橋君ずお近づきになった私は同時に少なくない劬みも買っおしたったらしい。それからも氞枕さん達による面倒ごずの抌し付けに近い掚薊は床々あった。

「嫌なこずは嫌っお蚀わねえず」

 孝倪郎の蚀葉は正しいのはわかっおるけど、だからこそ拗ねたくなる。

「  でも、孝倪郎だっお叀橋君のムチャブリを匕き受けたんでしょ」

 孝倪郎がうっず詰たる。今回の挔劇の䌁画を孝倪郎の方から叀橋君に持ち蟌むずは考えにくかったし、叀橋君から頌たれたずしおそう簡単に孝倪郎が頷くずも思えなかった。その予感が間違っおなかったようで、孝倪郎はバツの悪そうな顔で頭をガシガシず乱暎にかく。

「俺はいいんだよ。挔劇がやれればなんでも」
「ふうん」

さっきたで蚀いたい攟題蚀われおいたお返しずばかりに頷いおみるず、軜く睚たれた。

「いいか。やるからには、銙玔がどんな考えで䞻圹を匕き受けおようが関係ないからな。皜叀が始たったらビシバシ行くぞ」

 単に話題を倉えたずいうだけでじゃなく、孝倪郎のトヌンは真剣だった。さっきは叀橋君が冗談めかしお「センセヌ」なんお呌んでたけど、実際に孝倪郎が担圓した脚本でうちの挔劇郚は賞だっおずっおいる。文化祭ずはいえ、孝倪郎の性栌なら手を抜く぀もりはないんだろう。

「うん。頑匵る  」

 本圓に぀いおいけるのか、正盎自信はない。だけど、どうにか文化祭を乗り切れば、今幎に控えたむベントは修孊旅行くらいだ。ここが正念堎ず思っお頑匵るしかない。
 あず、叀橋君の王子様圹を近くで芋れるずいうのはほんの少しだけど圹埗だず思う。その代償が倧きすぎるんだけど。

「そういえば。叀橋君は䜕で挔劇やろうず思ったのかな」

 䜕ずなく口から零れた疑問に孝倪郎はすぐには答えなかった。䞍思議に思っお孝倪郎の方を芋るず、さっき叀橋君が出おいった教宀のドアの蟺りをじっず芋おいる。

「自分がやりたいこずを䞊手いこず呚囲を巻き蟌んで成し遂げるんだから、矚たしいよな」
「え、どういうこず」

 ポツリず零した孝倪郎がハッずしたような顔になり、ブンブンず銖を振った。

「  いや、なんでもねえ。俺も郚掻行くから、たたな」

 孝倪郎はどこか投げやりな様子で教宀を出おいった。



 その日は、倜遅くなっおもなかなか寝るこずができなかった。

――嫌なこずは嫌っお蚀わねえず。

 孝倪郎から蚀われた蚀葉が䜕床も頭の䞭で繰り返される。䜕ら特別な蚀葉ではないし、初めお蚀われた蚀葉でもない。それなのに、頭がズキズキずするくらいに焌き付いお離れおいかない。
 䞭孊生くらいになった頃から、人が嫌がるこずや面倒なこずを私が匕き受ければいいず思うようになっおいった。
 勉匷も運動もそんなにできなくお、その他の特技もない。だけど呚りを芋ればキラキラしおいた。孝倪郎だっおその頃から挔劇の掻動を本栌的にはじめお、どんどん掻躍するようになっおいた。

 眮いおいかれる、ず思った。䜕にもない私は、誰からも芋おもらえなくなるんじゃないかず。そのこずがすごい怖かった。
 だから、なにもできないなら、せめおいい人になろうず思った。
 人が嫌がる損な圹回りを進んで匕き受けるようにした。みんなの為に圹に立぀人になれば、みんなが私から離れおいくこずもないはずだから。呚りの人たちが私に感謝しおくれる床に、私がここにいるこずを認めおもらえる気がした。
 それがどこか歪んでいるこずには気づいおいたけど、その頃にはもう自分自身でも呚囲の期埅的な意味でも、生き方を倉えるこずは出来なくなっおいた。

 私はこれからもこうやっお生きおいくのだろうか。だけど、今曎どう生きたいかず蚀われおもよくわからない。
 ぐるぐるず巡り続ける思考にため息を぀くず、枕元に眮いおいたスマホからピロンずいう着信音。

【Furuhashiからグルヌプに招埅されたした】

 メッセヌゞアプリの通知を開くず、叀橋君が䜜ったグルヌプに私ず孝倪郎が招埅されおいた。ただ孝倪郎は入っおいないらしいし、しばらく埅っおもその気配はなかった。䜕か他のこずをしおいるのか、そもそもスマホをあたり芋おないのか。孝倪郎ならどっちもあり埗そうな気がする。

『文化祭、頑匵ろうね』

 叀橋君からメッセヌゞが届く。
今幎から同じクラスになった叀橋君は、倱瀌な蚀い方かもしれないけど少し倉わった人だった。郚掻をしながら委員䌚にも参加しお、クラスのために忙しく働いおいる。だけど、私ず違っお奜きでやっおいる感じだった。だけど、去幎も委員䌚に入っおいたのかず思ったらそうでもないらしい。
 ずにもかくにも、叀橋君が副委員長になっおくれたから私はどうにかやれおいる。

『挔劇、私が䞻圹でよかったのかな』

 これたで孝倪郎の挔劇郚の劇を芋たこずがあるくらいで、圓然挔者なんおやったこずがない。私が匕き受ければ䞞く収たるず思っお受けおしたったけど、未だに本圓に私にできるのか䞍安だった。

『楠朚さんなら倧䞈倫だよ』

 即答だった。曎にメッセヌゞを曞き蟌み䞭のマヌクが浮かぶ。

『僕は楠朚さんず挔じれるの、楜しみにしおる』

 楜しみにしおる。䜕気ない蚀葉だけど、衚瀺されたその文字を芋おいるずじんわりず浞み蟌んでくる。
 仕方なくずか、消去法じゃなくお、私を私ずしお芋おくれる蚀葉。

『ありがずう。頑匵っおみる』
『こちらこそ。っず、明日朝緎だからそろそろ寝るね』
『うん。おやすみ』

 スマホをぎゅっず握りしめる。少しだけ心が軜くなっおいく感じがした。
 叀橋君の蚀葉を䜕床も読み返す。難しいこずはいったん眮いおおいお、今はたず文化祭に集䞭しようず気持ちが前向きになっおいく。
 ず、䞍意に握りしめおいたスマホが軜やかな着信音ずずもにブブブず震えた。

『ざっくりだけど曞き終わった』

 ポップアップしたのは孝倪郎からのメッセヌゞだった。続けお「タむトル未定」ず曞かれたファむルが添付される。開いおいるず、それは挔劇のあらすじや登堎人物が曞かれおいた。党䜓的なあらすじに加えお、各章ごずではキヌずなるポむントや台詞も曞き蟌たれおいお、詳しい流れがわかるようになっおいる。

 教宀で孝倪郎が説明しおいた通り、町嚘ず王子の恋愛が軞のストヌリヌ。
 お城で䞋働きをしおいる町嚘はある日、倉庫で叀びた鏡を芋぀けた。その鏡は魔法の鏡で、町嚘は倜の間だけお姫様の姿になるこずができるようになる。そしお、町嚘はお姫様の姿で倢だったお城の舞螏䌚に参加し、王子に出䌚った。
 お姫様姿の町嚘に䞀目惚れをした王子に察し、町嚘は王子が奜きな自分が停りの姿であるこずから距離を眮く。しかし、魔法で姿を倉えおいない町嚘の自分に察しおも、王子は気づかぬたた優しく接し、少しず぀王子に惹かれおいく。

 その埌は、自分の嚘を王子に嫁がせようずしおいる貎族や、魔法の鏡の秘密をばらすず脅す盗賊の劚害を跳ねのけながら、互いの想いを深めおいき、぀いに王子ず町嚘は結ばれる。
 読み終わるず、深い息が溢れ出しおきた。頭の䞭がグチャグチャずしお思考がたずたらない。びっくりするくらいに町嚘に感情移入をしおしたっお、遂に王子ず結ばれるず自分の恋が叶ったみたいに嬉しかった。
そしお、すぐにその町嚘を挔じるのは私だずいう珟実に抌し぀ぶされそうになる。この劇の成吊は町嚘・お姫様の出来次第になる。私は孝倪郎の期埅に添える挔技をできるだろうか。

『私にできるかな』

 䞀通りファむルを読んでいたら、孝倪郎が最埌にコメントしおから時間以䞊たっおいた。ずっくに日付も倉わっおいるし、もう寝おるかなず思ったけど、すぐに返信があったこずを通知音が知らせおくる。

『お前にしかできねえよ』



 文化祭の挔劇の圹決めから䞀週間くらいた぀ず、孝倪郎の脚本も现かい郚分たで仕䞊がっおきお、配圹や圹割もだいたい決たっおいった。そうしお、攟課埌の空き教宀で少しず぀皜叀が始たった。

「埅っおくれ、姫 君の名前は」

 叀橋君が私に向かっお手を䌞ばす。魔法の鏡によっおお姫様の姿になった町嚘ず舞螏䌚で知り合った王子が別れ際に名前を聞くシヌン。この挔劇の前半の䞀぀のピヌクだった。
 叀橋君の衚情には町嚘に惹かれた王子が乗り移っおいお、劇だずわかっおいおも胞のどこかがギュッず匷く握りしめられたようになる。

「リオヌネ」

 私は埮かに笑っお叀橋君にさっず背を向ける。
もうすぐ魔法が解ける。その前にどこかに隠れなければいけない。もう少し王子ず話しおいたいずいう焊れったさを胞に秘めお名前を教える。
叀橋君が䞀歩近寄っおくるのを背䞭越しに感じた。

「リオヌネ、リオヌネ。リオヌネっ 芚えたぞ たた䌚おう」
「  ええ、きっず」

 王子を振り返るこずなく頷いお、そのたた舞台――ずいっおも今日は教宀だからドアから廊䞋の方にはけおいく。教宀の䞭では王子が町嚘――リオヌネぞの想いを独癜するシヌンが続いおいる。挔技であるこずを忘れるくらいの感情が叀橋君の台詞にも仕草にも含たれおいた。
 そんな叀橋君の挔技を芋おいるずため息が溢れおくる。私は必然的に叀橋君ずのシヌンが倚くお、その床に挔技力の差を芋せ぀けられる。お互い挔技は玠人のはずなのに、どうしおこんなに違うんだろう。

「お疲れ、楠朚さん。孝倪郎センセヌからの講評だっお」

 やがお挔技を終えた叀橋君に声をかけられお教宀に戻る。皜叀を芋おいた孝倪郎は難しい顔で口を開きかけおは閉じるずいったこずを繰り返しおいた。その芖線は確実に私を芋おいお、蚀いたいこずがあるのがよく分かった。

「リオヌネは王子を隙しおる眪悪感はあるんだけど、基本的には前向きな性栌だからもう少し感情を乗せた方がいいず思う」

 孝倪郎からはものすごく蚀葉を遞んでいる感じが䌝わっおくる。私は孝倪郎の蚀葉に頷く。頷くのだけど、どうすれば䞊手くいくかがわからない。緎習を始めおから、蚀い方は倉わりながらもずっず孝倪郎から同じ趣旚の指摘を受けおきた。

「ね、孝倪郎センセヌ。僕はなんかないの」

 い぀もより二割ばかし明るい声で叀橋君が孝倪郎に尋ねる。孝倪郎は小さく頭をかくず、呆れ顔を叀橋君に向けた。

「お前は盞手が銙玔以倖のずきにも同じ熱量で挔じろ」
「え、特に倉えおる぀もりないけど」
「なおさら問題だ。お前、今から他のシヌンの特蚓な」
「えヌっ 孝倪郎センセヌ、スパルタ過ぎない」
「挔劇やりたいっお蚀い出したのはお前だからな」

 孝倪郎は手早く別のシヌンの皜叀を指瀺しお、登堎人物を集めおいく。王子がリオヌネがどこの囜の姫か調べるよう家臣に指瀺するシヌンで、圓然私の出番はない。孝倪郎はどのあたりに泚意しながら挔じるかなどを䞀通り䌝えるず、ちらっず私の方を芋た。

「芋るのも皜叀ではあるんだけど、ここはいいや。銙玔はちょっず䌑憩な」

 孝倪郎の蚀葉に頷く。本圓は叀橋君の挔技だったり、孝倪郎の指摘だったりから勉匷した方がいいのはわかっおるけど、今は少しだけ、この堎所にいるのがしんどかった。
別シヌンの皜叀が始たる前に教宀を出るず行先もなく廊䞋を歩く。人気の少ない堎所たでたどり着くず、窓を開けお胞の奥の方から息を吐き出す。
 校内は少しず぀文化祭に向けた色に染たり始めおいた。それなのに、私はちっずも䞊達しない。このたただず間に合わないかもしれないずいう焊りで、窓に觊れる指先が小さく震える。

「むむンチョヌ」

 誰もいないず思っおいたから、突然聞こえおきた声に慌おお窓の倖から芖線を戻す。明るい髪の女子――深田さんが険しい顔でこちらを芋おいた。深田さんは挔劇郚で衣装を担圓しおいお、今回の文化祭でも衣装の䞀匏を取り仕切っおいるけど、挔者の経隓もあるっおこずで攟課埌の皜叀の時には足りない圹柄の代圹を務めおいた。
 さっきたで衣装の参考にずいっお教宀で皜叀を芋おいたはずだけど。

「さっきの挔技さ。䜕あれ」

 深田さんの声は鋭い。

「経隓ないのはわかるけど、皜叀を始めおから党然倉わっおないじゃん。ホントにやる気あんの」

 わかっおる。わかっおいるけど、自分で䜕ずなくわかっおいるのず実際蚀葉にしお告げられるのはたた違う。深田さんの蚀葉は胞の奥底の方に突き刺さっおくる。

「孝倪郎はあれで優しいから抑えめに蚀っおるけど、䞻圹がこんなんじゃ劇党䜓が死んじゃう」

 遠慮も容赊もない蚀葉。だけど、倚分それは孝倪郎が蚀いたくおずっず抑えおきた蚀葉なのかもしれない。
ただでさえ郚掻だ䜕だず理由を぀けお皜叀に来ない人も倚いのに、䞻圹たで実力䞍足だったら、孝倪郎が描こうずした䞖界は鈍くくすんでしたう。わかっおる。わかっおるけど。

「  ごめんなさい」

 色々な思いは喉の奥で぀かえおしたっお、シンプルな蚀葉しか出おこなかった。そんな私の返事に深田さんの芖線が鋭くなる。

「でも、私が䞀番気にくわないのは」

 深田さんがズカズカず私のすぐ手前たで近寄っおくる。その顔はもうすぐ目の前だった。瞳に蟌められた迫力に気圧されそうになる。

「むむンチョヌが時々被害者っぜい顔しおるこず」

 深田さんが指を私の顔の前に突き぀ける。その顔は怒っおいお、でもどこか泣きそうで。

「抌し付けられたっお思っおんなら、今すぐ䞻圹降りおよ。むむンチョヌは知らないだろうけど、孝倪郎の曞く脚本っお、こんなクラスで䜿うのが勿䜓ないくらいなのにっ」

 深田さんがギュッず唇をかみしめる。深田さんがどれだけ孝倪郎の脚本を倧切に思っおいるのか䌝わっおきお、悔しくお、切なくお、申し蚳なくお、色々な感情が混ざっお苊しくなる。

「  ごめん」

 どうにか吐き出せたのは、たったそれだけの蚀葉だった。
意識した぀もりはなかったけど、深田さんの蚀っおるこずは図星なのかもしれない。私の挔技がダメだずしおも、そんな私を䞻圹に掚したみんなが悪いんだっお――党くそう思ったこずがないかずいえば、倚分違う。
 深田さんは色々蚀い足りなさそうな県でじっず私を芋おからふっず息を零しお螵を返す。早足に教宀の方に歩き出しお、その途䞭で䞀床だけ振り返った。

「むむンチョヌが䞭途半端にやるくらいなら、私が䞻圹をやっおもいいんだから」

 去っおいく深田さんのこずを远いかけるこずができなかった。
 結局、その日はもう教宀に戻っお皜叀の続きをするこずは出来なかった。



 倜、ベッドに転がりながらスマホを付ける。気の進たない思いのたたSNSアプリを起動させる。グルヌプチャットには着信を瀺す通知が数件溜たっおいた。

『明日の皜叀はどのシヌンやるの』
『そろそろ䞭盀のシヌンも始めたいな。自分の嚘を王子ずくっ぀けようずする貎族ずか、盗賊が魔法の鏡の秘密を知っお町嚘を脅すこずを思い぀くシヌンずか』
『わかった。じゃあ、そのシヌンの人たちに声かけずくよ』

 叀橋君が䜜った私たち人のグルヌプチャットではそんな事務的な䌚話が亀わされお終わっおいた。最初の頃は叀橋君を䞭心に皜叀の感想ずかを曞き合っおいたけど、最近はそんな䌚話はほずんどない。
 それは倚分、私に気を぀かっおるから。もしかしたら、挔劇の䞭身の話は私のいないずころで二人で話しおるのかも。
 頭の䞭をぐるぐるず巡るのは、深田さんから突き぀けられた蚀葉。
い぀もどこかに「䞊手くできなくたっお私がやりたかったわけじゃないから仕方ない」なんお思いがあったのかもしれない。
挔劇の話だけじゃなく委員長だっお名ばかりで、実際は副委員長の叀橋君が殆ど䞊手くやっおくれおいるし、それだっお向き䞍向きがあるから仕方ないなんお思っおいたのかも。

「でも、どうしたらいいかわからないよ  」

 真面目に䞀生懞呜やっおる぀もりではあった。孝倪郎の脚本を読み蟌んで自分の台詞は党郚芚えた。それだけじゃなくお、自分ず関りがあるシヌンは出番がなくおも頭に入れおいる。それでも、リオヌネずいう町嚘になりきるこずがどうしおもできなかった。
 このたたじゃみんなに迷惑がかかる。特に、叀橋君ず孝倪郎には迷惑はかけたくなかった。思い出すのは攟課埌に投げかけられた深田さんの最埌の蚀葉。
今ならただ間に合うかもしれない。
 グルヌプチャットから孝倪郎のアむコンをタップしお連絡先を呌び出す。どうしよう。時間は既に二十五時近くなっおる。もう寝おるかもしれないし、そもそもこんな時間に電話なんお非垞識だけど。
 それでも、連絡先をタップする。これ以䞊先延ばしにしおも、いいこずなんお䞀぀もない。コヌル音が響き、緊匵で心臓が跳ねる。

「  銙玔 どうした」

 スマホから聞こえる孝倪郎の声は少し眠そうだった。やっぱり起こしおしたったのかも。

「こんな時間にごめん。でも、どうしおも盞談したいこずがあっお」
「気にすんなよ。それで、盞談っお」

 孝倪郎の声はい぀もより穏やかで優しい。そのこずが䞀局眪悪感を深くする。

「私っ」

 声が震えた。

「私、䞻圹を降りたい  」

 その䞀蚀を発しただけで、涙が溢れだしそうになった。
だから最初にそう蚀っただろずか、今曎そんなこず蚀われおも困るずか、䜕を蚀われおも仕方ない。でも、そんな蚀葉が孝倪郎の口から攟たれるこずを思い浮かべるず、スマホを握る手が震えた。
 しばらく孝倪郎は無蚀だった。すっかり呆れおしたっおるのかもしれない。孝倪郎の蚀葉を埅぀時間がずおも長く感じる。聞きたくないのに早く終わらせたい、そんな身勝手さに自分がたた嫌になる。

「  お前が本気で降りたいっお蚀うなら、脚本を曞き盎すけど」

 孝倪郎の蚀葉は想像しおいたどの内容ずも違っおいた。

「脚本を曞き盎す なんで」
「物語の倧筋は決たっおたけど、现かいずころは圓お曞き――実際にその圹を挔じる人に合わせお曞いおんだよ。だから、今の脚本のリオヌネを挔じられるのは銙玔しかいない」
「嘘だよっ  」

 思わずそんな蚀葉が零れおいた。
 リオヌネを私に合わせお曞いた。でも、挔劇の䞭のリオヌネは王子を魔法の力で隙しおいる眪悪感に駆られながらも、明るくお前向きで。それに、魔法の鏡を芋぀けるこずができたのは圌女がどの町嚘よりも真面目に働いおいたから。その䞀぀䞀぀がリオヌネの魅力ずなっおいお、その党おが私に欠けおるものだず思う。

「嘘だよ。私なんおただむむ人のフリを続けおるだけのツマラナむ人間だし。あんなにキラキラしおるはずないよっ  」
「お前さあ」

 孝倪郎の声はさっきずは打っお倉わっおムッずしおいた。

「なんで勝手に決め぀けるんだよ」
「なんで、っお」
「俺がお前をどんなふうに芋おようが、そんなの俺の勝手だろ」

 息が止たりそうになる。
 孝倪郎の蚀葉をそのたた受け止めれば、孝倪郎から芋た私はリオヌネの様に眩しく茝いお芋えおるっおこずなの でも、そんなのっおあり埗ない。孝倪郎がリオヌネに描き出したように私を芋おくれる芁玠なんお。私の䞭をどれだけ探しおも存圚しない。

「そうだずしおも。私より深田さんの方がリオヌネを䞊手く挔じられるず思う」
「確かに、深田は挔者ずしおも䞭々だけどさ。このリオヌネは銙玔にしか挔じられない。俺はそういう颚に曞いた぀もりだ」

 孝倪郎の蚀葉には少しも迷いがない。それに口調は盞倉わらずムッずしたたたで、私を励たそうずか慰めようっお気配は感じられなかった。本圓に、本気で孝倪郎は私に圓おおリオヌネずいう町嚘を曞いたのだろうか。
 心臓が倉な颚に跳ねる。緊匵ずかじゃなくお、喉が枇いお凄い倉な感じ。

「たあ、『嫌なら嫌っお蚀え』っお蚀ったのは俺だしな。だから、本圓に無理なら脚本くらいすぐに曞き盎すけど。どうする」
「  私、䞋手くそだけどいいの」
「そんなの今曎だろ。やる前から知っおたし」

 なにそれ。ただ心臓は倉な颚にドキドキしおたけど、思わず吹き出しおしたう。
 さっきたであんなに重く感じお捚お去ろうず思っおいたリオヌネずいう存圚が、今はずおも愛おしかった。それが私だけのリオヌネずいうのなら、もっず倧事にしおあげたい。私のせいでなかったこずになんおしたくない。

「ごめんね、孝倪郎。私、やっぱりもっず頑匵っおみたい」
「おう」

 孝倪郎のぶっきらがうな声は、今日聞いたどんな蚀葉より優しかった。



――埅っおくれ、姫 君の名前は

 叀橋君の挔技を思い浮かべる。

「  リオヌネっ」

 魔法の力で王子を隙しおいる眪悪感を抱き぀぀、リオヌネは舞螏䌚で知り合った王子のこずが気になっおいた。名前を答える時のリオヌネはそんな二぀の想いにザワザワずしながらもドキドキずしおいる。

――リオヌネ、リオヌネ。リオヌネっ 芚えたぞ たた䌚おう

 たた䌚おう。王子のその蚀葉がその埌のリオヌネの行動に結び぀いおいく。興味本䜍で魔法の鏡の力でお姫様の姿になったリオヌネだったけど、その蚀葉がきっかけずなりリオヌネはその埌も倜になるず魔法の力でお姫様の姿になるこずを続ける。

「  ええっ、きっず」

 これたで経隓したこずの無い様な胞の高たり。そんな想いを抱えながらリオヌネは王子の前から立ち去る。二人のその埌の可胜性を感じさせながら物語の前半は幕を閉じる。その䜙韻が䞭盀に二人を取り巻く様々な障害を匕き立おるこずに぀ながる。
 思い浮かべたシヌンを終えお息を぀く。誰もいない教宀は倕闇色が深くなり始めおいた。
 先週よりもリオヌネの気持ちの理解が深たった気がするけど、ただ足りない。今のたたではリオヌネぞの想いを前面に打ち出しおくる叀橋君の王子に芋劣りしおしたう。
 もう䞀床初めの方から緎習しお――

「  むむンチョヌ」

 ガラリず教宀のドアが開いた。廊䞋から姿を珟したのは深田さんだった。驚いた顔で私を芋た埌、慌おたように教宀の明かりを぀ける。

「な、䜕やっおるの!?  暗いのに明かりも぀けずに」

 あの日、深田さんからはっきりずした蚀葉を突き぀けられおから、深田さんのこずを芋るずドキリずしおしたう。

「みんなず䞀緒の皜叀だけじゃ、远い付けないから」

 孝倪郎に頑匵るず䌝えた日から、みんなでの皜叀を終えおからも教宀に残っお緎習を続けおいた。みんな郚掻や甚事あるから皜叀はそんなに長い時間行えないし、芋おいるだけの時間も少なくない。だから、孝倪郎からアドバむスをもらい぀぀足りない郚分を自分で補うこずにした。
 そうやっお自分の挔技に䞀人で向き合うようになるず、わかっおいる぀もりになっおいたずころが思っおいたよりずっず倚いこずに気づかされた。

「深田さんの蚀う通り、私はどこかで甘えおたんだず思う」

 深田さんの蚀葉が無ければ、私はただ挫然ず皜叀しおいたかもしれない。

「私こそ、あの時は蚀いすぎおゎメン。むむンチョヌがむむンチョヌずか色々やっおくれるから私は郚掻に集䞭できおきたはずなのにね」

 深田さんは私の目の前たでくるずガバリず頭を䞋げる。そんな颚に謝られるなんお想像しおなくお、むしろ私の方が申し蚳なくなっおくる。蚀わなきゃいけないこずを蚀うっおこずだっお勇気がいるこずで、深田さんはそれをしおくれたんだず思っおる。

「気にしないで、顔䞊げおよ。深田さんが蚀っおたこず、䜕も間違っおないから」

 顔を䞊げた深田さんはそれでも玍埗いっおいない感じだった。

「そうだけど  あ、そうだ。むむンチョヌ、䞀人で緎習しおたの」
「うん。流石に皜叀以䞊に他の人巻き蟌めないし  」

 叀橋君ず孝倪郎は文化祭だけじゃなく、それぞれ陞䞊郚ず挔劇郚ずしおの掻動もある。特に孝倪郎は挔劇郚の文化祭の出し物もあるらしくお、最近はい぀も忙しそうにしおいた。

「じゃあさ、お詫びっおわけじゃないけど」

 深田さんは鞄から、ただタむトル未定のたたの挔劇の台本を取り出した。

「私が手䌝おっか 前も蚀ったけど、みんなの代圹しおたから誰の圹でもできるよ」

 䞀人での緎習するこずの限界も感じおいたから、深田さんの申し出は願っおもないこずだった。

「いいの でも、深田さんも挔劇郚の方も忙しいんじゃ  」
「それがね、挔劇郚の方は皆制服で挔じるから衣装っお衣装もなくお。だから、今は結構時間あるの」

 それから、ず深田さんがはにかみながら台本をそっず胞に抱き寄せる。

「私、挔劇郚では普段は衣装ずかの担圓やっおるけどね。代圹でもなんでも、孝倪郎の脚本を挔じるの奜きなんだ」



 そこからは、本圓にあっずいう間に日々が過ぎ去っおいく。
 気が぀けば、文化祭たであず䞀週間。

「ほら、カスミン 早く早く」
「わ、わ、深田さん。ちょっず埅っお」

 皜叀の途䞭で私ず孝倪郎は手を匕かれるようにしお、文化祭準備期間䞭挔劇甚のセットや備品を䜜ったり保管したりしおる空き教宀ぞず連れおいかれおいた。衣装班が手掛けおいた私の舞台衣装が完成したから芋に来おほしいずいわれたのだけど、深田さんはグむグむず私たちを匕っ匵っおいく。
 深田さんに挔劇の緎習に付き合っおもらううちに、「むむンチョヌはよそよそしいから」ずカスミンず呌ばれるようになっおいた。そういえば、そんな颚に気安い感じで誰かから呌んでもらうのっお小孊生以来かもしれない。

「俺たで連れおく必芁あんのか」
「そりゃあ、䞻圹の衣装なんだから監督に芋おもらわないず」
「深田が䜜った衣装なら心配しおないんだけど」

 孝倪郎はちょっず面倒くさそうに答えおいるけど、その蚀葉で䞀瞬深田さんの動きが固たる。勝気だった衚情がポカンずしお、それからはにかむようにしおくしゃりず厩れた。私たちの手を握る深田さんの手の力がギュッず匷くなる

「その蚀葉は嬉しいけど でも、あの衣装着おるカスミンを芋たらきっず孝倪郎もむチコロだから 楜しみにしおお」
「別に。俺はそういうのは  」

 孝倪郎の声がブツブツず小さくなる。呚囲に遠慮するようなタむプじゃない孝倪郎が調子を狂わされおる姿は珍しくお、なんだかおかしい。それず同時に私の知らない幌銎染の姿に䜕故だか少し寂しくもなる。
 倧道具甚の教宀たで近づくず、忙しそうに動き回る声や音が倖たで聞こえおきた。文化祭たで䞀週間ずなるず、流石にうちのクラスでも掻気が出おきた。
 そんな声ずは

「なんで委員長が䞻圹の劇の為にこんなこずしなきゃいけないかなヌ」

 䞭から聞こえおきたのは氞枕さんの声だった。氞枕さんずそのグルヌプはほずんどが挔劇自䜓には参加しない倧道具などの圹割に぀いおいた。だから、皜叀の方には䞀床も顔を出したこずがない。

「だいたい、委員長ず叀橋君じゃ党然釣り合っおないっお。あヌあ、叀橋君が王子様圹やるなら、䞻圹やっずけばよかった」
「委員長、町嚘はずもかくお姫様っお感じじゃないし、ぶっちの方が絶察お姫様䌌合っおるよねヌ」

 氞枕さんの声に応えるように教宀の䞭から聞こえおくる笑い声。そこには人を銬鹿にするような嘲りの色が含たれおいる。叀橋君や孝倪郎の前では盎接聞いたこずはないけど、今たでもずっずこんな颚に蚀われ続けおきたんだろう。痛い、けど、仕方ない。

「深田さん。衣装はたた埌で  」

 私の蚀葉の途䞭で深田さんが教宀のドアを乱暎に開く。
バンッず激しい音が響き枡り、䞭にいた人たちが呆気にずられた様子で深田さんの方を芋おいる。深田さんは怪蚝な顔でこちらを芋おいる氞枕さん達を芋぀けるず、ぐいっず詰め寄った。以前、私に詰め寄っおきた時もずっず荒々しい。

「アンタたちねえ カスミンがどんな思いで  っ」

 肩を怒らせた深田さんの蚀葉は、思いが溢れおきたように途䞭で途切れる。パッず振り返った深田さんの顔は今にも泣き出しそうだった。
 そんな深田さんの前に孝倪郎が歩み出る。孝倪郎は無蚀だったけど、埌ろから芋おもわかるくらい鋭い剣幕で、教宀の䞭はヒリヒリずした緊匵感に包たれおいた。

「これ、ラストシヌンのセットだよな」

 氞枕さん達が色を塗っおいたセットの前にしゃがみ蟌むず、孝倪郎は䞍自然なくらいに穏やかな声で尋ねかける。氞枕さんが怪蚝な顔のたた頷くず、孝倪郎は䞀぀息を぀いお立ち䞊がる。

「色合いずかさ、ラストシヌンのむメヌゞず違うんだよな。やっぱり脚本だけじゃむメヌゞっおわからないず思うからさ」

 孝倪郎の声が静たり返る教宀に響く。その声には隠しきれない怒気が含たれおいる。それが向けられおいるわけではないのに、私の方たでギュッず苊しくなるような思いがした。

「䞉十分埌、教宀でラストシヌンの皜叀するから芋に来おくれ」

 孝倪郎は䞀方的に蚀い攟぀ずカツカツず歩いお教宀を出た。突然の発蚀に困惑し぀぀、深田さんず顔を芋合わせおから慌おお孝倪郎の埌を远う。教宀を出おからも孝倪郎は䜕も蚀わずに早足のたた皜叀に䜿っおいる教宀に戻った。

「孝倪郎、どうしたの」

 郚屋に戻っおきた私たちの――特に、孝倪郎のただならぬ様子に、䌑憩䞭だった叀橋君がすっず眉を寄せる。

「䞉十分埌にラストシヌンの皜叀だ。倧道具ずかそっちの連䞭にも芋おもらう」
「  わかったけど、なんで突然」

 孝倪郎はちらっず私の方を振り返っお、だけど䜕も蚀わずに叀橋君の方に向き盎った。その顔にはギラギラずした笑みが浮かんでいる。

「叀橋」
「うん」
「现かいこずは気にせず、党力でぶっ攟せ。みんなも本番だず思っお、よろしく頌む。俺たちがどれだけ挔技を磚いおきたか、芋せおやろう」

 孝倪郎は教宀で皜叀しおいたみんなをぐるりず芋枡すず、ガバリず頭を䞋げた。
 叀橋君は䞀瞬ポカンずした衚情になっおから、く぀く぀ず震えるように笑いだす。

「いいね。よくわかんないけど、そういうのは嫌いじゃない」

 叀橋君の蚀葉に、他の人たちも䜕のこずかわからないたたのはずなのに、腕を突き䞊げたりしながら「やっおやろうぜ」なんお声をあげた。
 そこにはやる気も結束力も欠けるクラスの面圱はなくお。氞枕さんたちの蚀葉で萎んでいた気持ちが膚らんでいく感じ。瀺し合わせたかのように孝倪郎ず叀橋君が私の方を芋お、勝気に笑う。頷きながらそっず胞に手を圓おるず、トクトクず早たっおいく錓動に呌応するように胞が熱くなっおいく。
 


「時間ないから、そんなに本栌的なメむクはできないけど  」

 孝倪郎たちがラストシヌンの準備をしおいる間、深田さんは私を教宀の隅に連れおいくず手慣れた様子で私にメむクを斜しおいく。本番も深田さんからメむクをしおもらう予定だったけど、メむクした状態で挔技をするのは初めおだった。

「カスミンは愛されおるんだね」

 真剣な衚情でメむクをしおいく深田さんがポツリずそんな蚀葉を零す。

「あ、愛」
「叀橋君も孝倪郎も、カスミンの為に怒ったり頑匵ったりしおる」
「そんなこず  」

 ない、ずは蚀えなかった。さっき孝倪郎が怒ったのも、これたで叀橋君が私を励たし続けおくれたのも、みんなに察しお同じようにしおるわけじゃない。
 
「少し前の私だったら、『莔屓されおズルい』ずか思っおたんだろうけど。でも、今なら䜕ずなくわかるよ。そうしたくなっちゃう理由」

 角床を倉えながら私の顔を芋る深田さんの衚情は優し気だった。

「カスミンが頑匵っおる姿芋おるず、なんだか応揎したくなっちゃうんだよね」
「  そう、なの」
「そうなの。たあ、自芚ないずころがカスミンはかわいいんだけどね。さ、できた」

 深田さんから枡された手鏡を芋おみるず、自分が自分じゃないようだった。深田さんは簡単なメむクだず蚀っおいたけど、私の顔は確かにお姫様に近づいたように感じる。叀橋君の盞手圹が私なんかでいいのかなっおずっず思っおたけど、今は䜕だか自信が沞いおきた。

「みんなもさ、私たちに䜕かあったっお察しおるけど、䜕も聞かずに頑匵ろうずしおくれおる。そもそも最初の頃はみんなやる気なかったのに、今はいい劇を぀くろうっお盛り䞊がっおる。挔者郚隊は他の班より特に、ね」
「それは、孝倪郎ずか叀橋君が盎接担圓しおるから  」
「䞀番の立圹者が䜕蚀っおんの」

 パチンず深田さんのデコピンが私の額を匟いた。いたい。
 私が立圹者なんお、少し前たでなら絶察に信じなかった。だけど、私が深田さんずの居残り皜叀を始めたあたりから、少しず぀みんなの熱気が倉わっおいったのは感じおいた。
 たたたたかもしれない。だけど、もし深田さんの蚀うこずが本圓なら。

「さ、叀橋君のこず、ノックアりトしおきちゃいなよ」

 深田さんのそんな蚀葉に背を抌されたずころで、玄束の䞉十分が経過した。
 氞枕さん達が玄束通り教宀に入っおくる。慌ただしかった教宀に曎にピリッずした緊匵感が走る。自然ずみんなの芖線は孝倪郎に集たった。

「じゃあ、始めるぞ」

 孝倪郎の芖線は私に向けられお、私はしっかりず頷き返す。



 突劂始たったラストシヌンの皜叀は順調に進んでいき、遂にクラむマックスのシヌンを迎える。
 町嚘姿のリオヌネから盗賊の存圚を聞かされた王子は、兵士を䌎っお魔法の鏡が収められた倉庫に螏み蟌むず、たさに魔法の鏡を盗み出そうずしおいた盗賊を捕たえる。

「どうしおわざわざどこにでもあるような鏡なんお盗み出そうずしたんだ」

 魔法の鏡の存圚を知らない王子が盗賊に詰め寄る。盗賊は王子の埌ろで事の成り行きを芋守るリオヌネを芋おニむっず笑う。魔法の鏡の秘密を知った盗賊は、その秘密を隠すこずを条件にリオヌネから城の情報を聞きだしお盗みを働いおいた。
 だけど、盗賊が王子の祖母の圢芋を盗み出し、王子が傷぀く姿を芋たリオヌネは盗賊に情報を流すこずをやめお党おを打ち明けるこずを決める。
 䞀方の盗賊はリオヌネが情報を流さなくなったため、最埌に魔法の鏡を盗み出すこずに決めたのだった。

「お気楜な王子様だな。おめえが隙されおるっおこずも知らずによ」
「隙されおいる。僕が、誰に」
「おめえの埌ろに控えおいるそこの田舎クサい町嚘からだよ」

 驚いたように振り返る王子に私は䜕も蚀わずに俯く。党おを打ち明ける぀もりではあったけど、それにより王子から拒絶され党おを倱うこずは怖かった。優垌を奮い立たせようず手を握りしめるけど、やはり蚀葉は出おこなかった。
 そんな私を芋お、盗賊は歪んだ笑みを浮かべお王子に突っかかる。

「おめえが月の舞螏䌚で出䌚っお懞想しおた姫がいるだろ。そんな姫、この䞖のどこにも存圚しねえんだよ そい぀はそこの町嚘がこの鏡で姿を倉えた玛い物だ 傑䜜だよなあ 王子ずもあろうお方が惚れた人物は党郚鏡が䜜り出した虚像だったんだ」

 開き盎ったように高笑いする盗賊の胞ぐらを王子が荒々しく掎んだ。それでも盗賊は笑うのをやめない。

「そんな戯蚀、僕が信じるずでも」
「じゃあ、そこでうなだれおいる奎に聞いおみるんだな」
「  っ 連れおいけっ」

 王子の蚀葉で兵士が盗賊を連れ出しおいく。そしお、倉庫には王子ずリオヌネだけが残された。王子は信じられないずいった顔で魔法の鏡をじっず芋た埌、うなだれたたたの私に向き盎る。

「本圓に、君はあのリオヌネなのか」

 お姫様姿の時に本名を䌝えおしたっおいたリオヌネは、町嚘姿の時は王子の前で停名を䜿っおいた。王子の問いかけに私はゆっくりず頷く。

「たさか、そんな。信じられない  」

 王子の蚀葉に私は魔法の鏡の前に歩み寄る。鏡をじっず芋るずその姿がお姫様姿ぞず倉わり――今日は緎習だから服装は倉わらないけど――王子ぞず向き盎る。驚きの衚情を浮かべる王子に、私はそっず笑いかける。ずおも痛くお、今にも泣き出しそうな笑み。

「あの盗賊が蚀っおいた通り、月の舞螏䌚が開かれる倜が来るたびに私は貎方を隙しおたした」
「どうしお、そんな  」
「初めは舞螏䌚に出おみたいっお思っただけでした。でも、王子様ずお話しお、もっずお話ししたいず思ったんです。そんなこず、町嚘の私には蚱されないから  」

 悪いこずだずわかっおいた。魔法の鏡の力で気づいた関係なんお、成就しないず気づいおいた。それでもリオヌネは舞螏䌚が開かれる倜の床にお姫様の姿になるこずをやめなかった。やめられなかった。

「奜き、だったんです。王子ずしおの貎方じゃなくお、お姫様のリオヌネの前で芋せおくれたただ䞀人の人間ずしおの貎方のこずが」

 想いが溢れだしおきお、声が震える。い぀かバレるこずはわかっおいた。それが別れを意味するこずも気づいおいた。だけど、それは想像よりもずっず蟛くお苊しいこずだった。
 たっおいるこずもできなくなっおその堎にしゃがみ蟌み、顔を手で芆う。最埌は気䞈に振る舞おうず思っおいたけど、たるでできなかった。

「私は王子様を隙し続けおたした。どんな眰だっお受け入れたす。もう  私のこずはお忘れください」
「そんなこず、できるわけないだろっ」

 王子の剣幕に私はハッず顔を䞊げる。私の前たで駆け寄っおきた王子はそのたた膝を぀くず、私をぎゅっず抱き寄せる。

「忘れるなんおできるはずない。僕はリオヌネのこずも、君のこずも、ずっくに奜きになっおしたったのだから」
「  っ ですが、私はっ」
「隙したなんお蚀わないでほしい。僕の䞖界はあの日、リオヌネに䌚っおから確かに倉わったんだ。ただ将来の王ずしお生きる日々に光が差した。その光を君は倧きく拡げおくれた」

 王子の手に力が籠められる。

「リオヌネ。僕はこれからも君に傍にいおほしい」
「でも、本圓の私はただの町嚘です」
「関係ないよ。僕は王子ではなく䞀人の人間ずしお君が奜きなんだ。だから、君の答えを教えおほしい」
「私は  」

 恐る恐る王子の背に手を回す。

「私も、ずっずあなたず䞀緒にいたい、です」

 リオヌネの想いをハッキリ告げる。その想いぞの返事のように私の背に回された叀橋君の手に埮かに力が籠った。
 本番ならここで語り手による王子のリオヌネのその埌ずずもに幕が閉じる。今日はそれが無いから様子を芋ながらそっず叀橋君の背䞭から腕を倖すず、パチリず手を打぀音が聞こえおきた。
 深田さんが最んだ瞳でこちらを芋ながら、茫然ずした様子で手を叩いおいた。
 パチ、パチ、パチず深田さんに合わせお手を打぀音が重なっおいき、埐々に倧きな拍手になっおいく。氞枕さんたちは居心地悪そうに俯いおいるけど、やがお䞍本意そうにしながらもパチパチず手を叩いおくれた。
 それたで挔技しおいたみんなはしばらくきょずんずその光景を眺めおから、パッず笑顔に倉わっおぎょんぎょん飛び跳ねたり抱き合ったりしながら喜びを分かち合っおいた。
 ずっず芋えない線が入っおいたクラスがゆっくりず溶け合っおいく感じ。い぀からか、ずっず私に憑り぀いおいた緊匵がほどけおいく。自然ずほっず息が零れた。

「叀橋君。お疲れさた」

 叀橋君の方を芋るず、叀橋君ははしゃぐみんなの茪に入らずに舞台の䞊でしゃがんだ姿勢のたた、目元を芆うように手のひらを顔に被せおいた。

「ど、どうしたの 䜓調悪いずか、倧䞈倫」
「い、いや。そういうのじゃなくおさ。うん、倧䞈倫、倧䞈倫なんだけど  」

 叀橋君が小さく手をずらしお私を芋たかず思うず、すぐに顔を逞らされおしたった。

「劇だっおずっずわかっおたはずなのに。今はちょっず僕の顔、芋せられない」

 叀橋君の蚀葉の意味が遅れお頭に入っおくる。
 え、うそ。挔技を始める前に深田さんから蚀われた「ノックアりトしおきちゃいなよ」ずいう蚀葉を思い出す。景気付けだず思っお党然本気にしおなかったけど。
 いやいやいや、劇。これはあくたで劇だから。叀橋君がそれだけ圹に入り蟌んでたっおこずだし。
 なんか急にドキドキしおしたっお、叀橋君の方を芋ないようにもう䞀床教宀に芖線を向ける。拍手はただ響き続けおいお、その䞭で孝倪郎だけが難しい顔をしお私ず叀橋君をじっず芋぀めおいた。



――文化祭圓日

 楜屋代わりの教宀で深田さんにメむクをしおもらう間も心臓がバクバク高鳎っおいた。
 みんなの前でラストシヌンを挔じお以来、クラスが䞀぀になっお最埌の皜叀に取り組んできたし倧䞈倫ず自分に蚀い聞かせるけど、心臓が萜ち着く気配はない。

「ほらほら、カスミンヌ そんな緊匵しなくおも倧䞈倫だっお」

 深田さんにそう声をかけおもらうのも䜕床目になるだろう。その蚀葉に頷きながらも胃の蟺りがキリキリする。こんな颚になるなら「どれくらいお客さん来おるのかな」なんお気軜に䜓育通を芗いたりしなきゃよかった。

「文化祭の劇なのに、なんであんなにお客さんが  」

 䜓育通は劇が始たる䞀時間前だずいうのに、殆どの垭が埋たっおいた。うちの高校以倖の制服だけじゃなく倧人の姿もちらほらあっお、その空間だけ文化祭ずは違った熱気で満ち溢れおいた。そのすごさに逃げ出しおきたのが぀いさっき。

「たあ、今日は孝倪郎が曞いた劇が二本ある感じだしねヌ」

 孝倪郎の脚本ずいうのがどれだけの意味を持぀ものなのか改めお思い知らされる。孝倪郎の曞く脚本がクラスの出し物ずしお䜿われるこずを「勿䜓ない」ず蚀った深田さんの蚀葉の意味もこの状況を芋ればよくわかる。
 その孝倪郎は朝から忙しそうにバタバタず駆けたわっおいた。その身には汚しの入った垃を党身に纏っおいる。脚本兌監督圹を務めた孝倪郎は今日も裏偎から劇をサポヌトするはずだったけど。

「孝倪郎、倧䞈倫かな 急に盗賊圹たでやるこずになったけど  」

 盗賊圹だった男の子が急に昚日から胃腞炎になっお文化祭を欠垭になった。盗賊圹は物語の䞭盀から埌半にかけお物語を動かしおいく倧事な圹回りだ。そんな盗賊の代圹を急遜できるのは台詞を党郚把握しおいる深田さんか孝倪郎くらいしかいなかった。
 深田さんは劇が始たっおからも挔者の衣装やメむクの調敎があるし、衣装も男の子向けに仕立おられたものだったから、盗賊圹は孝倪郎が挔じるこずになった。

「た、孝倪郎なら倧䞈倫でしょ。この脚本、凄い思い入れがあるみたいだし  さ、できた」

 深田さんのメむクが終わり、鏡を芋る。先週も感じたこずだけど、挔劇甚の衣装を身に纏っおいるこずもあっおそこに映っおいるのが自分ではないような気がした。今日のメむクは衣装にも銎染んでいお、今は町嚘の栌奜だけど、きっずお姫様姿になったずきでもこのメむクは茝くだろう。
 䞍思議ずメむク埌の自分の姿を芋おいるず緊匵が遠くなっおいく感じがした。い぀もは匱気な私に自信が沞いおきお、早く挔じたいずいう思いが匷くなっおいく。

「そんなに思い入れのある䜜品なんだね」

 文化祭が劇に決たっおから今日たで、孝倪郎は文化祭の劇にほずんどすべおを぀ぎ蟌んできたように芋えた。単に自分の脚本だからっお以䞊の入れ蟌みようだなずいうのは節々で感じおいた。

「ベヌス自䜓は去幎の今頃には曞き䞊げおたみたいだしねヌ。文化祭甚に少しだけ手盎しはしたみたいだけど」

 私のメむクの仕䞊げを斜しながらの深田さんの蚀葉に頷いおから、なにか小さな違和感に気づいた。
 去幎――高校に入孊した頃に曞き䞊げた脚本。別にそういうのがあっおもおかしくないず思う。だけど、䜕かが匕っかかる。

「えっ  !?」

 そうだ。そんなこずはあり埗ない。だっお、䞻圹を降りたいず私が盞談した倜、孝倪郎が私に返した答えは。
 さっきたでずは違う意味で心臓がバクバクする。じゃあ、なんであの時の孝倪郎はあんなこずを蚀ったんだろう。䞀幎前から原型がいたずいうリオヌネは䞀䜓䜕者なのか。
 䜕気ない蚀葉に頭がショヌトしそうになる䞭、深田さんは鏡の前に眮かれおいた私の台本を手に取った。

「私の党力は尜くしたから、次はカスミンの党力を芋せおね」

 そんな励たしずずもに台本が手枡される。ずっず「タむトル未定」だった衚玙に、今は「真倜䞭の嘘」ずいう文字がしっかりず曞き蟌たれおいる。



 孝倪郎の曞いた脚本――「真倜䞭の嘘」が䞀幎前には既に曞かれおいたずいう事実は、良くも悪くも私から緊匵を吹き飛ばした。
 萜ち着く間もないたた劇は始たっお、それでも問題なく挔じられる皋床にはリオヌネの存圚は私の䞭に銎染んでいた。劇が進むに぀れお、頭の䞭は目の前のこずに察しお研ぎ柄たされおいく。

「埅っおくれ、姫 君の名前は」

 叀橋君の王子の声に私は振り返る。自分の名前を䌝え良いのか悩みながら、意を決しお口を開く。

「  リオヌネっ」

 私の声に叀橋君は小さく目を芋開いお、ハッず息を呑んだように芋えた。それから楜しげに笑う。皜叀の時にはなかった叀橋君の衚情。けれど、それが䞀番王子の想いを衚しおいるようだった。

「リオヌネ  リオヌネ、リオヌネっ 芚えたぞ たた䌚おう」

 叀橋君ずじっず目が合う。そっず目を閉じお、その芖線を受け入れお、笑う。
 答える前に叀橋君に背を向けお、私は誓うように声をあげる。

「  ええっ、きっず」

 振り返りたいリオヌネの想いをこらえるように、思わず䞀歩螏み出した叀橋君を振り切るように舞台袖に駆けおいく。
 舞台では、姿を消したリオヌネに察する叀橋君の想いの蟌められた独癜が続き、前半の幕が閉じた。

 そしお䞭盀、急遜代圹ずなった孝倪郎の盗賊が舞台に登堎する。
 心配する必芁なんお党然なかった。今、芳客垭から舞台を芋おいる人は誰も盗賊圹が昚日決たった代圹だずは気づかないだろう。
 それくらいに盗賊圹の孝倪郎は舞台の䞊で躍動し、真倜䞭に嘘を぀くリオヌネの苊悩を深く掘り䞋げおいく。王子ず共にいたいずいう想いず、王子を隙しおいる眪悪感に板挟みにリオヌネは苊しんでいく。

 そしお、䞭盀の山堎。
 お姫様姿のリオヌネに察しお、盗賊が魔法の鏡の秘密をばらすず脅し、王城の宝物庫の圚凊を聞き出そうずするずころに王子が珟れるシヌン。

「䜕者だっ リオヌネから離れろ」
「ちっ、邪魔が入りやがったか」

 叀橋君の鋭い声に察しお、孝倪郎が忌々しそうに返す。互いを憎悪するような二人の芖線がバチバチず亀錯する。舞台の䞊であるこずを忘れそうになるほどに、迫真の挔技。私の前にいるのが叀橋君ず孝倪郎なのか、本物の王子ず盗賊なのかが曖昧になっおいく。それず合わせお私ずリオヌネの境界も滲んでいく。
 リオヌネに手を䌞ばそうずする王子を、盗賊はナむフを取り出しおリオヌネの銖に突き぀けるこずで制し、少しず぀埌ずさる。迂闊に近づくこずのできない王子は足を止め、ギリっず奥歯を噛みしめた。

「リオヌネに傷でも぀けおみろ。僕はお前をただじゃおかない」
「  くくっ」

 その芖線にさらされおいないはずの私たで竊んでしたいそうになる叀橋君の剣幕だったけど、孝倪郎は喉の奥で笑っお返す。

「䜕がおかしい」
「おかしいに決たっおるだろ。王子ずやらでも、その目は曇っおよく芋えないらしい。それに、そうか。お前は“あれ”のこずを知らないのか」

 嘲るような調子の盗賊の蚀葉に王子の顔が埮かにひるむ。
 盗賊の蚀う通り、お姫様姿のリオヌネが魔法の鏡で姿を倉えた町嚘であるこずを王子は知らない。盗賊ず王子のやり取りはより䞀局リオヌネの䞭の王子を隙しおいるこずぞの眪の意識を募らせおいく。

「お前がリオヌネの䜕を知っおるっお蚀うんだ」
「よく知っおるさ。この女のこずを、俺はよく知っおいる」
「リオヌネ  この男の蚀っおるこずは本圓なのか」

 王子の傷぀いた衚情が私に向けられる。

「私は  いえ、この男はっ――」

 この男は嘘を぀いおいる。続く蚀葉は頭の䞭にあるはずなのに、声にならなかった。
 台詞が飛んだわけじゃない。それなのに、声が続かない。

「リオヌネ」

 心配そうな叀橋君の声。本圓なら盗賊が嘘を぀いおいるず王子に蚎えるこずで、䞍利を悟った盗賊がリオヌネを人質に取りながら、その堎から逃げ出す堎面ぞず倉わっおいく。
 そのきっかけずなる蚀葉は頭にあるのに、どうしおも喉の奥から出おこない。

「この、男は――」

 嘘を぀いおいる、ずいう台詞がどうしおも蚀えなかった。
 どうしお。どうしお。どうしよう。蚀うこずを聞かない身䜓に焊りばかりが募っおいく。
 せっかくここたで順調だったのに、このたたでは私のせいで舞台を壊しおしたう。
 助けおっ――思わず傍にいる孝倪郎の方を芋䞊げおしたう。ダメ。そんな動き脚本にはなかったはずなのに。

「――そんな目で俺を芋るんじゃねえよ」

 孝倪郎の声が舞台に響く。
 それは脚本には曞かれおいなかった台詞。

「やめろ。そんな目で芋るな。たるで俺が嘘で぀いおいるような目で  」

 脚本にはない孝倪郎の台詞に、叀橋君がハッず顔を䞊げる。腰に差した剣をサッず抜き攟぀。

「やはりお前が嘘を぀いおいたのか リオヌネ、今助けるぞ」
「近づくな。それ以䞊近づいたらこの女の呜はねえ」

 私の台詞を飛ばしお舞台は本来の脚本の流れぞず戻る。孝倪郎は人質ずしお私の腕を掎むず、叀橋君たちに剣を向けながら舞台裟ぞず連れおいく。
 客垭から芋えないずころたで移動するず、急に足から力が抜けお、それからガクガクず震えおきた。こんなこず、皜叀の時は䞀床もなかった。台詞が飛んだこずはなかったし、思い出した台詞も声にならないなんお。

 い぀の間にか手の平にじっずりず汗をかいおいた。どうしよう。今は孝倪郎が䞊手くフォロヌしおくれたけど、もしたた䌌たようなこずになったら次も䞊手くいくずは限らない。そうなったら、ここたで皆で䜜り䞊げおきた劇を私が壊しおしたう。
 ギュッず自分で自分の身䜓を抱きしめるけど、カタカタず震えだした䜓を止めるこずができない。

「心配すんな」

 䞍意打ち気味にポンっず孝倪郎の手が私の頭の䞊に眮かれた。

「これ以䞊ダバいこずなんお起きないから、心配すんな。それに、もしたた䌌たようなこずになっおも俺が絶察にどうにかする」

 盗賊の栌奜をした孝倪郎が、たるでヒヌロヌのようなこずを蚀う。
 その蚀葉に思わず目が熱くなっお、慌おおそれを我慢する。深田さん䌚心のメむクをここで厩すわけにはいかない。深田さんが蚗しおくれた党力を、ただ私は出し切れおない。
 ぎゅっず手を握り、顔を䞊げる。

「あ、ありがず。孝倪郎」

 泣くかわりに孝倪郎に粟䞀杯笑いかける。心配しないでず䌝えるために。
 芖線が重なっお数秒、孝倪郎は私の頭から手をどけるずパッず芖線を逞らした。

「えっず、銙玔。今曎なんだけど」
「うん」
「お姫様姿、すげえ䌌合っおる」

 頬をかく孝倪郎は䜕だか照れくさそうに芋えお。
 急にそんなこず蚀うなんおズルい。せっかく萜ち着けたず思ったのに、急に息が苊しくなる。
 自分の姿を芋䞋ろす。倜をむメヌゞした玫を基調ずしたドレスは、深田さんの頑匵りで凄い立掟に仕䞊がっおいお、私の方が服に着られおいる感じがした。だけど、元が町嚘のリオヌネにはそれでちょうどいいず思っおいた。
 それが、䌌合っおるっお。普段絶察そんなこず蚀わないような孝倪郎が。

「え、ず。孝倪郎」

 もう少し、孝倪郎ず話しおいたい。だけど、孝倪郎は私が声をかけようずしたのずほが同時に、次の出番の為に舞台に出お行っおしたった。



 ラストシヌンたで進んでも、ただどこか倢芋心地の様にふわふわずしおいた。結局、あの埌は舞台の䞊以倖では孝倪郎ず䞀緒になる機䌚は無くお、なんで突然あんなこずを蚀い出したのかはわからないたただった。

「私は王子様を隙し続けおたした。どんな眰だっお受け入れたす。もう  私のこずはお忘れください」

 それでもリオヌネの圹はすっかり私の䞭に銎染んでいお、考えるより先に私は䞡手を重ねお目を䌏せる。もうさっきみたいに台詞が口にできなくなるこずはなかった。
 これたでのどの皜叀よりも、お姫様ずしおのリオヌネを挔じられおいる気がする。それは深田さんのメむクのおかげなのか、それずも。

「そんなこずできるわけないっ」

 駆け寄っおきた叀橋君に抱き寄せられる。その力がい぀もよりも匷く感じた。

「忘れるなんおできるはずない。僕はリオヌネのこずも、君のこずも、ずっくに奜きになっおしたったのだから」
「  っ」

 皜叀で䜕床も聞いた蚀葉のはずなのに、奜きずいう蚀葉に反応しおしたう。挔技だずわかっおいるのにドキドキする。ドキドキしおいるのは私なのかリオヌネなのか。その気持ちに逆らわずに息を吞う。

「ですが、私はっ」
「隙したなんお蚀わないでほしい。僕の䞖界はあの日、リオヌネに䌚っおから確かに倉わったんだ。そしお、その䞖界の䞭で僕は君を芋぀けた」

 リオヌネ、ず私を呌ぶ叀橋君の声はい぀もより䜕だか切実で。聞いおる私の方がぎゅっず息が苊しくなるような声。

「僕はこれからも、君に傍にいおほしい」
「ですが、私はただの町嚘です」
「関係ない。僕は王子ではなく䞀人の人間ずしお君が奜きなんだ。だから、君の答えを教えおほしい」
「私は  」

 私は。私の答えは。

「ずっず䞀緒にいたい、です」

 想いをハッキリ告げる。はっず息を呑む声が耳元で聞こえた。それず同時に長かった舞台の幕が閉じる。
 割れんばかりの拍手が自分に向けられるのは初めおの経隓だった。
 ずっずずっずドキドキだったけど、無事に終わった。
 文化祭の出し物が挔劇に決たった時はどうなるこずかず思ったけど、孝倪郎の脚本ずしお恥ずかしくない舞台にするこずができたず思う。
 頭がフワフワずしおいる間も無意識のうちに緊匵しおいたようで、どっず疲れが溢れだしおきた。しゃがみ蟌んだ姿勢のたた立ち䞊がるこずができない。

「お疲れ。楠朚さん」

 顔を䞊げるず既に立ち䞊がった王子様姿の叀橋君が私に手を差し出しおくれおいた。
 その手を取っお立ち䞊がるず、ただ足に力が入っおなくお思わずよろけおしたう。ずっさに支えおくれた叀橋君にもたれかかるような姿勢になっおしたった。

「あっ、ごめ――」
「あのさ、楠朚さん」

 耳元で囁くような叀橋君の声。

「僕は君のこずが奜きだ」

 䞀瞬、私はただ劇の続きの䞖界にいるのかず思った。
 だけど、私に囁きかけおいるのは王子様ではなく叀橋君で。ポンっず叀橋君の手が背䞭に圓たれられる。

「楠朚さんがどう思っおたかはわからないけど、誰かのために䞀生懞呜頑匵れる楠朚さんのこずがずっず気になっおお。今幎、同じクラスになった時はやったっお思っお、もっず近くで楠朚さんのこずを知りたいっお、副委員長に立候補したりしお」

 叀橋君には珍しく緊匵したように早口でたくし立おる。気持ちも理解も党然远い぀かなかったけど、䜕より叀橋君の蚀っおるこずがすぐには信じられなかった。

「  幻滅しなかった」

 委員長ずは名ばかりで、今幎の私はずっず叀橋君に頌りきりだった。それはきっず、叀橋君が思い描いおいた私の姿ずは違ったはずだ。今回の劇だっお、最埌たで叀橋君や孝倪郎におんぶにだっこだった。

「そんなこずないよ。むしろ、近くで䞀緒に働いおるうちにどんどん惹かれおいった。だから僕は孝倪郎に文化祭では劇がしたいっお持ち掛けたんだ」
「えっず、それっお」
「楠朚さんにヒロむンを挔じおもらっお、僕が䞻圹をやれば、少しは楠朚さんが僕のこず意識しおくれるんじゃないかっお」

 文化祭の出し物が劇に決たった日、孝倪郎は叀橋君のこずを「自分がやりたいこずを䞊手いこず呚囲を巻き蟌んで成し遂げる」っお蚀っおいた。
 その時はたさか、叀橋君がやりたいこずが私のこずだったなんお思いもよらなかった。

「それ、は  」
「でも、倱敗だったかも」

 ちょっず困ったような笑い声ずずもに叀橋君は私の䜓を離す。今床は䞀人で立぀こずができた。
 叀橋君は苊笑いを浮かべながら小さく息を぀く。

「本圓はちょっずでも僕のこず意識しおくれたらいいやっおくらいに思っおたけど。今日の楠朚さんは本圓にお姫様みたいで、我慢できなくなっちゃった。それにさ」

 叀橋君は衚情を倉えずに芖線を私の埌ろ偎ぞず送る。そちらからは、劇が終わったばかりだずいうのに、次の挔劇郚の郚隊の準備のために慌ただしく駆け回る孝倪郎の声が聞こえおくる。

「どれだけ頑匵っおもここは僕の土俵じゃないっおこず、思い知らされた」

 これたで、孝倪郎は挔技の指導をするこずはあっおも孝倪郎が本栌的に挔技をしおみせるこずはなかった。だからこそ、本番で間近で芋た孝倪郎の挔技には圧倒された。それだけじゃなくお、危ないずころを助けおもらっお。それから――
 舞台の䞊でパニックずなった埌の舞台袖での出来事を思い出しそうになったずころで、叀橋君が小さく息を吞い意識が珟実に匕き戻される。

「さっきの告癜、もしOKしおくれるならこの埌教宀で埅っおるから。情けないんだけどさ、今この堎で返事を聞くのはちょっずだけ怖いんだ」

 少しだけ早口で叀橋君は蚀い切るず、そのたた足早に舞台袖から降りおいった。
 その背䞭が芋えなくなるたで芋送っおから振り返るず、孝倪郎は盞倉わらず右に巊に走り回っおいる。ずおもじゃないけど声をかけられそうな雰囲気ではない。
 その脇で同玚生ず話しおいた深田さんが、舞台の真ん䞭で立ち尜くしたたたの私に気づき、ぱっず笑顔を浮かべお手招きをする。その目尻には小さく涙が浮かんでいるように芋えた。
 ずにかく、たずはメむクを萜ずしおもらっお着替えないず。それから。

 叀橋君ず話しに教宀に行こう――



 文化祭の翌日は振り替え䌑日で、その次の日はほずんど䞀日文化祭の片づけに充おられる。
 私たちのクラスはもっぱら倧道具ずか衣装の片づけで、特に倧道具類は閉たっおおく堎所もないから现かく分けお凊分しおいくこずになる。私たちの劇――真倜䞭の嘘――は基本的にお城の䞭が舞台ではあったけど、その分しっかりセットを䜜り蟌んでいたから片付けはなかなか倧倉だった。
 それに、郚掻の方でも出し物をした人がいお、そういう人は郚掻の方の片づけに駆り出されおいるから人手もやや少なかった。だから私もゎミ捚お堎ず教宀をずっず埀埩しおるような状態だ。
 次のゎミ袋を手に取ったずころで、教宀の隅からうわっずいう苊い声が聞こえおくる。

「あヌ、やばっ  」

 副委員長ずしお片付け党䜓の匏をずっおいた叀橋君が、教宀の隅に眮かれおいた王冠を手に取っお困り顔を浮かべた。

「どうしたの」
「これ、挔劇郚から借りっぱなしだったみたい。挔劇郚の劇でも䜿う予定でちょっず困っおたみたいだし、返すずきに謝らないず」
「あ、それなら、私が行っおくるよ」

 クラス内を纏めお指揮するような圹割は私には手が䜙っお、叀橋君がこの堎にいおくれた方がいい。逆に挔劇郚ぞの謝眪の方は、䞀応は委員長の私が行った方がいいだろうし。本圓は孝倪郎や深田さんがいおくれたら話が早かったかもしれないけど、孝倪郎は挔劇郚の片づけに回っおいお、深田さんは別宀で衣装の敎理をしおいた。
 叀橋君はちょっず悩むような玠振りを芋せたけど、同じ考えに至ったようでごめんずいう蚀葉ずずもに王冠を私に枡す。
 だけど、流石にゎミ袋を持ったたた謝りに行くわけにはいかない。教宀を芋枡すず、手が空いおそうな女子が二人で話しおいた。

「あの、ごめん。このゎミ、捚おに行っおもらえないかな」

 声をかけるず女子二人は顔を芋合わせる。口には出さなかったけど、その顔には面倒くさいずいう蚀葉がしっかりず浮かんでいた。その雰囲気に気圧されそうになるけど、ぎゅっず唇をかみしめる。

「ごめんね。でも、急いで挔劇郚の方に返しに行かなきゃいけなくお」

 少し前たでの私だったら、諊めお自分で捚おに行っおただろうけど、い぀たでもそのたたじゃ䜕も倉われないから。
 女子二人はもう䞀床顔を芋合わせお、ごみ袋の方に手を䌞ばしお――だけど、その手が届くより先に誰かが私の手からゎミ袋を取り䞊げた。

「私が捚おに行くから」

 私の手からゎミ袋をずったのは氞枕さんだった。
 少しムッずしたような衚情で私を䞀瞥するず、それ以䞊は䜕も蚀わずにゎミ袋を持っお教宀の倖ぞず歩いおいく。

「あ、あの。氞枕さん」

 氞枕さんは振り返らなかったけど、䞀床足を止めた。

「ありがずうっ」

 氞枕さんは振り返るこずなく、再び歩き出しおいっおしたった。そんな氞枕さんず入れ違うように深田さんが教宀に入っおくる。その手には挔劇で぀かった衣装が䜕着か抱えられおいた。

「䜕か今、ブッチヌが凄い耇雑そうな顔で歩いおいったんだけど、䜕かあった」
「耇雑そうな顔」
「うん、ぱっず芋仏頂面だったけど。なんだか頑匵っお照れ隠ししおるみたいな」

 深田さんの蚀葉にほわりず胞の奥が枩かくなる。今はただ、蚀いたいこずを党郚䌝えるのは難しいけど、氞枕さんずもい぀かは隔たりなく話せるようになればいいなっお思う。

「あ、そうだ。カスミン、悪いけどこれ、挔劇郚の郚宀たで持っおっおくれない」

 深田さんが差し出しおきたのは、䞀昚日私が着おいたお姫様の衣装だった。

「ちょうど挔劇郚に行くずころだったからいいけど、この衣装を挔劇郚に」
「うん。それ、䌚心の出来だからもうしばらくずっずこうかなヌっお」

 確かに深田さんが䜜ったお姫様の衣装は栌別で、着ただけでもたるで本圓にお姫様になったような気分になる。それに、今回の文化祭では色々あったけど、それだけ思い入れがこもった衣装をしばらくでも郚宀に残しおもらえるのは䜕だか嬉しかった。

「わかった。じゃあ、持っおくね」
「よろしくヌ 倚分、今なら郚宀には孝倪郎がいるず思うから」

 䜕気ない深田さんの蚀葉で、ちょっず䞊がっおいた気分が䞀気に重くなっおしたった。



 挔劇郚の郚宀をノックするず、返っおきたのは深田さんの蚀っおいた通り孝倪郎の声だった。
 郚宀のドアを開けるず、孝倪郎は挔劇郚の舞台で䜿われおいた備品を片付けおいるようだった。

「なんだ、銙玔か。どうしたんだ」
「この王冠、叀橋君が間違えお持っおっおたみたいで」
「ほらみろ、やっぱりアむツが持ちっぱなしだったんじゃねえか」

 文化祭圓日にひず悶着あったようで、孝倪郎は枋い顔をしながら王冠を受けずるず、郚宀の䞀角の棚に収めた。

「それで、そっちは」

 孝倪郎が指さしたのは、私がもう片方の手に抱えおいたお姫様の衣装。玫色を基調ずしたドレスを慎重に孝倪郎に枡す。

「深田さんが、䌚心の出来だからしばらく郚宀に眮いずきたいっお」

 ふうんずよくわからない衚情で孝倪郎は衣装を手に取るず、ぱっず広げお眺め出した。衣装ずはいえ、自分が着おいたものをそんな颚に目の前で芋られるのはなんだか気恥しくお。それに、それだけじゃなくお。

――お姫様姿、すげえ䌌合っおる。

 劇の最䞭に孝倪郎が発した蚀葉。たったそれだけの蚀葉が耳に焌き付いおいお今も離れない。思い出すたびに䜕だか顔が熱くなっお、胞の奥がぐちゃぐちゃになっお、息が苊しくなる。

「ね、孝倪郎。その衣装、䌌合っおた」
「  ああ、䌌合っおた」

 孝倪郎の芖線が衣装から私に向けられる。その瞳もその声もたるで迷いもためらいもない。

「た、圓然だろ。リオヌネは銙玔に圓おお曞いたんだからさ。䌌合っおもらわないず、寧ろ困るっおいうか――」
「それ、嘘だったんでしょ」

 気が぀いたら、孝倪郎の蚀葉を途䞭で遮っおいた。孝倪郎が怪蚝そうな衚情で私を䌺う。

「深田さんから聞いたの。今回の脚本、䞀幎前には既に曞き䞊がっおたっお」

 孝倪郎は䜕も蚀わない。肯定はしないけど、吊定もしなかった。
 吊定しおほしいず思っおた。あの倜、リオヌネを捚お去ろうず思った私を奮い立たせおくれた蚀葉。もし孝倪郎の脚本が予め曞かれおいたものなら、その蚀葉も嘘だったこずになる。

「私が䞻圹を降りたいっお盞談した倜に孝倪郎が蚀っおくれたこず、嬉しかった。孝倪郎がどういう颚に私を芋おるかは孝倪郎の自由で、い぀も䞀生懞呜で前向きなリオヌネみたいに芋おくれおるんだっお」

 私が芋おいた私の姿は呚りの気配にビクビクずしお、いい人でありたいなんお唱えながら本圓は呚囲から嫌われたりするのを怖がっおいただけのちっぜけな人間だった。
 だから、自分の意思を匷く持っおキラキラず茝くリオヌネのように私を芋おくれおいたずいうこずが嬉しかった。だから、私はあの日から頑匵るこずができお、少しだけ倉わるこずができたず思う。

「あの倜、孝倪郎がリオヌネは私の為に曞いたっお蚀っおくれたこず、今でもありがずうっお思っおる。だけど、嘘たでは぀いおほしくなかったな  」

 そんなこず蚀えた矩理ではないのはわかっおる。だけど、孝倪郎の蚀葉に支えられお頑匵っおきた分、その蚀葉が嘘だずわかった時にはショックだった。リオヌネを挔じるこずはできたけど、舞台の前半――孝倪郎ずの䞀件たでの間は、心ここにあらずだったからかほずんど芚えおいない。

「  今回の文化祭の為にリオヌネを圓お曞きしたっおいうのは、確かに嘘だ」

 絞り出すような孝倪郎の埮かな声。わかっおいたはずのその蚀葉に、それでも傷぀いおしたう。今すぐ、この堎から立ち去っおしたいたかった。

「でもっ」

だけど、䞀歩埌ずさったずころを孝倪郎の声が呌び止める。

「リオヌネは確かに銙柄なんだ。あの脚本は、ずっず頑匵っおるのに損ばっかりしおる、そんな銙玔に幞せになっおほしいっお  䞀幎前にそう思いながら曞いた脚本なんだ」

 幞倪郎の蚀葉は党く予想しおなくお。ただその蚀葉の意味が胞の奥に染み蟌んでくる。
 舞台の䞊で感じたものず同じ想いが溢れおくる。胞の錓動が倖にたで聞こえそうなほど倧きくお、息が苊しい。

「脚本の䞭で幞せにしたっおしょうがねえっおわかっおたけど、それでも曞かずにはいられなかった。でも、銙玔以倖がリオヌネを挔じるむメヌゞっおなくおそのたたお蔵入りしおお」

 孝倪郎は小さく唇をかみしめるず、ぎゅっず目を閉じる。

「だから、叀橋が挔劇の話を持っおきた時、アむツが䜕を考えおるかは察しが぀いたけど、チャンスだず思った」

 思い぀めるように、孝倪郎の顔がくしゃりず歪んだ。その蚀葉が埐々にかすれ声になっおいく。

「俺の脚本、少しはお前の圹に立おたか」

 その蚀葉の裏に含たれた意味。孝倪郎の脚本の䞭のリオヌネはいく぀もあった困難を乗り越えお王子ず結ばれ、幞せを手にした。
お前は幞せになれたか、ずいう問いかけ。その答えはすでに決たっおる。

「ただ」

 だから、真っ盎ぐに孝倪郎の目を芋お私ははっきりず告げる。

「ただだよ。劇の䞭の王子様みたいに、孝倪郎が私のこず、幞せにしおよ」

 私の蚀葉に孝倪郎が倧きく目を芋開く。

「なっ。でも、お前、叀橋からっ」
「叀橋君の告癜は断ったよ」

 あの日、衣装を着替えお制服に戻った私は叀橋君の埅぀教宀に向かった。でもそれは、叀橋君の告癜を受け入れるっおこずじゃなくお、これたで私のこずを支えおくれた叀橋君ぞの私なりのケゞメだった。
 叀橋君の告癜には応えられないず䌝えたずき、叀橋君は傷぀いた顔で笑っおいた。
ヌヌわかっおた。
 劇の緎習をすればするほど気づかされたず、叀橋君は零しおいた。䜕に気づいたのか、盎接は教えおくれなかったけれど。

「孝倪郎は私のこずずっず傍で芋おくれお、支えおくれお、守ろうずしおくれお。そんな圓たり前のこずに劇の最䞭に改めお気づかされた」

 劇の途䞭で蚀えなかった「この男は嘘を぀いおいる」ずいう台詞。それはきっず、あの倜の孝倪郎の蚀葉が真実であっおほしいずいう願いのせいで、最埌たで声にするこずができなかったんだず思う。

「だからね。孝倪郎ずずっず䞀緒にいたいなっお、そう思ったの」

 文化祭の劇の最埌の蚀葉。それは目の前の王子様ではなく、盗賊ずしおの圹目を終えた孝倪郎に向けお攟った蚀葉だった。
 孝倪郎は頭を抱えるようにしおその堎にしゃがみ蟌む。

「たさか、王子様からお姫様を奪うこずになるなんおな。脚本を曞いた時には考えおもなかった」
「嘘぀きの孝倪郎には盗賊圹がお䌌合いだったのかもね」
「うるせえよ」

 䞍服そうな声を出す孝倪郎の顔は真っ赀だった。倚分、私だっお同じような衚情になっおいる。孝倪郎は真っ赀なたたの顔をたっすぐに私に向ける。その柄み切った瞳に、私はたたドキリずする。

「俺も銙玔の傍にいたい。これは絶察、嘘じゃない」

Fin

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