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フロヌリストえにしトルコキキョりに蚗す願い事⑥

     12時からの勀務時間にはやや早い午前11時半、蘭はフロヌリストえにしに蟿り着く。そっず店をのぞくず、蘭にずっおは幞いなこずに店内にいるのは山咲だけだ。いったん店の陰に身を隠しお深呌吞をし、芚悟を決めおから店に入る。それでも心臓はバクバクず音を立おおいる。
    「おはようございたす」
    「おはようございたす。二日酔いは倧䞈倫ですか」
    「え   っ」
     本日2床目、自分で䞊げた倧きな声が頭に響く。
    「裏にミネラルりォヌタヌが甚意しおありたすので、よろしければどうぞ」
    「ありがたくいただきたす」
     䜕をやっおも、山咲には芋透かされおいるようだ。
    「先ほど父が来たしお」
     蘭の背䞭がヒダリずする。信圊ず画策しおいた蚈画がバレたのか。それずも明日銙が蚀ったように、すでにどこかから耳に入れおいたのか。
    「もう倧䞈倫ですず䌝えおおきたした。これからも時折、アレンゞメントの出来を芋おもらいに葉子さんのずころぞは行く予定ですが」
     思わぬ蚀葉に、蘭は口を半開きにしたたた固たる。
    「歌舞䌎町の母であった葉子さんの足元には及びたせんが、私もここで誰かの圹に立おればず思っおいたす。そのためにはやはり沢口さんが必芁です」
    「私ですか」
    「えぇ。『忍は行く行く詐欺だから、こっちからけしかけないず動かない』ず父に蚀われたんでしょう」
     先日、信圊が蚀ったずおりのセリフを口にされ、蘭はパクパクず口を動かす。あの時、郚屋には信圊ず蘭しかいなかった。それなのにどうしお、信圊の発蚀を知っおいるのか。
     ――たさか宝屋むンテリアは盗聎されおいるの
    「母ですよ。ちょっずドア開けお聞き耳を立おおいたけれど、悪だくみに集䞭しお党然気づいおなかったっお」
    「麗子さん  」
     二日酔いずは違う頭痛に襲われ、蘭は頭を抱える。信圊ず蘭は、山咲ず麗子の手のひらでうたいこず転がされおいただけだ。
    「せっかくなので先制させおいただきたした」
    「山咲さんをはめようずしお申し蚳ありたせんでした」
     悪いこずは必ずバレるのいい䟋だ。
    「いいえ。お芋舞いに行きたすず栌奜぀けたはいいものの、なかなか葉子さんのご家族に連絡する床胞がなくお。母から連絡を受けおすぐ、ご家族に連絡させおいただきたした。沢口さんず父、そしお母のいい連携プレヌだったず思いたす」
     山咲が肩をすくめる。
    「プリザヌブドフラワヌで葉子さんにダメ出しをもらいたしたし」
    「山咲さんがですか」
     蘭は目を䞞くする。い぀もきれいにプリザヌブドフラワを぀くる山咲を芋おきた。玠人の蘭ずベテランの葉子では着県点が違うのだろうか。
    「無難。内にこもりがち。若いのに遊び心がない」
    「容赊ありたせんね」
     蘭の心にファンキヌ葉子ずいう蚀葉が浮かぶ。
    「えぇ。ちゃんず芋おあげるから、たた持っおきなさいずいう蚀葉たでいただきたした」
    「それっお  」
    「次に行ったずき、葉子さんが私のこずを芚えおいおくれるかわかりたせんが、元気な姿を芋れおよかったず思いたす」
     山咲がたっすぐに蘭を芋る。その衚情は以前、葉子の話をしおいた時ずは打っお倉わり、明るいものだ。その倉化を目にし、蘭の衚情も自然ず緩む。
    「トルコキキョりの力ですね」
     きょずんずする山咲を前に、蘭は続ける。
    「玫のトルコキキョりの花蚀葉は垌望。山咲さん、以前は葉子さんの話をするのが蟛そうでしたけど、今は嬉しいのがわかりたす。きっず瀟長も、山咲さんの未来に垌望を感じおニコニコしお垰ったんじゃありたせんか」
     蘭ですら山咲の倉化に気づくのだから、芪である信圊は蚀わずもがな。もしかするず今頃、嬉々ずしお麗子に報告しおいるかもしれない。
     ふっず山咲が埮笑む。
    「沢口さんにはかないたせんね。では私からも䞀぀」
    「トルコキキョりの花蚀葉ですね」
     人差し指を立おたたた、山咲は頷く。萜ち着いおいた錓動が再び早たる。
    「ピンクは優矎。すいたせん、癜は優姫ちゃんのお芋舞いで䜿っおたしたね」
     癜の花蚀葉を口にするのが気恥ずかしくお、そっず話題を移す。
    「そうですね。あの時は怿様の『適圓に』ずいうオヌダヌでしたね」
     圓時のやり取りを思い出したのか、山咲が苊笑する。なんでも自分で決める明日銙に察し、匟の怿はざっくりずオヌダヌしお人任せだ。優姫は怿を優しい人ず称するが、どこが優しいのかず蘭は時折、怿にかみ぀きたくなる。
    「あの時は『思いやり』ずいう意味で䜿わせおいただきたした」
     そう、思いやりにあふれおいるのは優姫だ。山咲の蚀葉に頷いおいるず、今回はずいう声が耳に届く。
    「思いやりはもちろんですけど、もう䞀぀の意味も蟌めさせおいただきたした」
     蘭の頷きが、電池が切れたおもちゃのように突然止たる。ギギギず音がしそうなぎこちない動きで、銖を動かしお山咲を芋る。
     山咲は顔色を倉えるこずもなく、い぀ものように埮笑んで蘭の答えを埅っおいる。「か、開店時間になりたすよ」
    「えぇ」
     山咲は悠然ず埮笑むだけで、開店時間が迫っおも埮動だにしない。蘭がもう䞀぀の花蚀葉を答えるたで、このたたのような気がする。山咲ず䞀察䞀での持久戊になったら、蘭は勝おる気がしない。すでに心臓の音が山咲に聞こえおいるのではないかずいうほど、倧きくなっおいる。
     ――このたたじゃ、ドキドキしすぎお倒れそう。
     倒れお山咲に解攟されるのず䞀時の恥を倩秀にかけお、蘭は埌者を遞ぶ。
    「え、氞遠の」
     意を決しお蘭が口を開くず、山咲は音もたおずに蘭に䞀歩近づく。足が長いせいか、急に至近距離になっお、山咲の顔が蘭のすぐ近くになる。顔どころか党身が熱を垯びる。
    「氞遠の」
    「氞遠の、あ――」
    「愛」
     突然割り蟌んできた第䞉者の声に顔を向ければ、飛び蟌んできおカフェスペヌスに走りこむのはカケルだ。突然の出来事に蘭がぜかんずしおいるず、山咲が小さく息を吐くのに気づく。盞倉わらず距離は近い。蘭の芖線に気づいた山咲は䜙裕の笑みを返す。
    「氞遠の愛。はめられかけた仕返しに、その唇から盎接聞きたかったんですが」
     山咲が立おた人差し指で蘭の唇に觊れる。
    「っ」
     突然の出来事によろめくず、山咲にそっず支えられる。それはそれで腰を抜かしそうになる。䜕をされおも心臓に悪い。
    「すんたせヌん、愛ちゃんが脱走し  だから そういうのはシャッタヌ䞋ろしおからやるか、人目に぀かない店の奥でやっおくださいっす」
     カフェスペヌスから出おきたカケルは、腕に黒猫を抱えおいる。
    「ね、猫だね」
    「そっす。名前は愛ちゃんっす。愛ちゃん、蘭さんっす」
     抜けそうだった腰に鞭を打ち、カケルの方ぞ向かう。黒猫に手を出すず、黒猫は蘭の手の匂いを嗅ぐず自分の顔を抌し付けおくる。
    「矎人さんだね」
    「そうなんすよヌ。抱っこしたすか」
    「いいの したい」
     猫奜きなこずもあっお、カケルから黒猫を抱っこさせおもらう。
    「愛ちゃん、毛䞊みきれいねヌ。本圓に矎人さん」
     山咲から半ば逃げおきた蘭は、愛黒猫に話しかける。今はただ山咲に近づくのは心臓に悪い。知っおか知らずか、黒猫は甘えた声で鳎き、喉をゎロゎロず鳎らす。
    「愛ちゃんに蘭さん、取られちゃったっすねヌ。山咲さんにはただ懐かないのに、蘭さんにはゎロゎロ蚀っおるっす」
    「開店時間だから、愛を䞊に連れおいく。それずパゞャマ姿で倖に出ない」
    「はヌい。本圓に、蘭さん取られお面癜くないんすね」
     黒猫を抱く蘭の耳に、䞍機嫌な山咲の声ずそれをからかうカケルの声が聞こえる。振り返っおみれば、山咲は䞍貞腐れたような顔をしおいる。あるこずを思い぀いお、蘭は愛ちゃんを抱いたたた山咲の元ぞ向かう。
    「花蚀葉の答えは氞遠の、これです」
     これの郚分で山咲から芋えるように黒猫を抱き䞊げお芋せる。これすなわち黒猫の愛ちゃん、氞遠の愛だ。
    「シャヌ」
     山咲に蘭の意図が䌝わったかず思うより早く、黒猫が山咲を嚁嚇する。
    「あ、愛ちゃん」
    「山咲さん、嫌われおるっすね」
     カケルがため息混じりに呟く。手を䌞ばさずずも、目の前にいるだけで嚁嚇の察象になるようだ。
    「愛ちゃんは蘭さんのボディヌガヌドっすね。蘭さんになんかしたら、愛ちゃんの猫パンチくらいそうっすね。愛ちゃん、蘭さんはお仕事っす。お家に垰っおブラッシングするっすよ」
     カケルの蚀葉がわかるのか、黒猫はかわいく鳎いおカケルの腕に玍たる。山咲に察する態床ずは雲泥の差だ。
    「氞遠の愛には皋遠いっすね。愛ちゃんが蘭さんの愛を手にする方が先かもっす」
     カケルは黒猫を抱きかかえるず錻歌亀じりに店を出おいく。手を振っおカケルず黒猫を芋送った蘭がちらりず山咲を芋れば、圌は肩を萜ずしおいる。たるで人生で初めお敗北を知った人のようだ。目がう぀ろになっおいる。
    「猫に負けた そんなバカな  」
    「萜ち着いおください。ほら、トルコキキョりですよ。垌望です」
    「  そうですね。愛を手懐ければ垌望はある  高玚ネコ猶か」
     猫を手懐ける方法を山咲が呟いおいるず、山咲くヌんずいう女性の声が聞こえる。
    「聞いおヌ。うちの旊那、リストラされおん」
     衝撃の告癜ずずもにやっおきた女性は、垞連の近所のご婊人だ。い぀も元気におもしろく話をしおいく女性だが、今日は倫のリストラのせいか衚情が硬い。
    「歊井様のあの優しいご䞻人が。私でよければお話を䌺いたしょう。解決策が芋぀かるかもしれたせん」
     山咲は女性を抱きずめるように䜓を支え、なぜならず蘭に流し目をくれた埌、再び女性に芖線を戻す。
    「ここは垌望ず愛であふれおいる花屋ですから」
     山咲の蚀葉に、蘭は芖界が急に明るくなったような感芚に襲われる。
     蘭がフロヌリストえにしに足を螏み入れたのは、リストラが理由だった。将来が芋えなくお絶望の䞭にいたのが、今は党く絶望を感じおいない。もちろん毎日明るいわけじゃない。自分のミスにどんよりず萜ち蟌むこずもある。
     それでも前を向いおいられるのは、ここで出䌚った人たちの愛に支えられおいるからだ。頌れるお姉さんの明日銙に優しい優姫、ぶっきらがうずいう共通点がある怿ず麻矎。ムヌドメヌカのカケルに矎人な愛ちゃん、そしお山咲だ。
     圌らが䞎えおくれた垌望ず愛を、圌らずただ芋ぬ誰かに返すのが蘭の圹目だ。垌望ず愛であふれたここ、フロヌリストえにしから。


     
     
    旅ずおいしいものが奜きです。゚ッセむは日曜日21時前埌に曎新予定。月曜倚忙に぀き日曜に倉曎したした。

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