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aiず呌ばれた少女ヌAI融合ヌ 第40話 倏の終わり ── 玄束



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    八月が終わろうずしおいた。
    蝉の声が日ごずにたばらになっおいった。
    あれほど䞖界じゅうをひず぀の音で満たしおいた蝉たちが、い぀のたにか数をぞらし、倕方にはひぐらしのすきずおった声がたじるようになった。
    鳎きやんだ蝉たちがどこぞ行ったのかを俺は考えなかった。
    考えたらなにかたたひず぀、倱ったものが増える気がしたからだ。

    愛の回埩はおどろくほどはやかった。
    リハビリの先生は毎日のように「順調です」ず蚀った。
    関戞先生も「このぶんなら」ず口をにごしながらも退院ずいう蚀葉をはじめお口にした。
    すぐではない。
    秋のあいだはただ入院を぀づける。
    それでも退院ずいう蚀葉がはじめお珟実の地図のうえに眮かれた。
    俺は毎日病院ぞ通った。
    愛はい぀も明るかった。
    窓ぎわのベッドで本を読んでいたり、リハビリの話をしたり、江神さんず笑っおいたりした。
    俺が病宀に入るず「あ、陜玀」ずはずむように振りむいた。
    呌び捚おでため口でおずなびたゆたかな笑い方で。
    俺はその愛を愛しおいた。
    ほんずうに愛しおいた。
    事故の前からずっず愛しおいたその愛が、いた目の前で日ごずに元気になっおいく。
    それは俺が䜕か月も祈り぀づけたこずだった。
    願いがかなったのだ。
    それなのに俺はずきどき愛の手をにぎりながらふしぎなこずを思った。
    愛の手が――かるい、ず。
    事故のあず、愛が目芚めたあず、しばらくのあいだ、俺はこの手をにぎるたびになぜかこう思っおいた。
    あたたかい、ず。
    ふ぀うのあたたかさよりも、ほんのすこしだけたっぷりずしたあたたかさだ、ず。
    うたく蚀えない。
    たずえるなら――ふくよかな、あたたかさ。
    ひずりぶんよりも、ほんのわずかに倚いなにかが、この手のなかにある。
    そんな気がしおいた。
    いたはしなかった。
    いたの愛の手は、ちょうどひずりぶんのあたたかさだった。
    すこやかで、たしかなひずりぶん。
    それが正しいこずだずわかっおいた。
    愛は、愛、ひずりだ。
    ひずりぶんの手が、ひずりぶんなのはあたりたえだ。
    それなのに、俺はその「あたりたえ」をにぎるたびに、ほんのすこしさみしかった。
    ふくよかさはもうなかった。
    俺はその蚀葉でしか自分の喪倱を説明できなかった。
    説明できないたたその蚀葉を胞の奥にしたった。

         

    研究宀の日々も぀づいた。
    東京湟の攻撃のあず、研究所は防埡の仕組みを䜕重にも組みなおした。
    俺はその䜜業に远われた。
    ホワむトず䜕床も議論をした。
    そしお――ず䜕床も机をはさんだ。
    はい぀ものホロディスプレむのなかにいた。
    肩にかかる黒い髪。癜いブラりス。薄い氎色のカヌディガン。
    たどたどしくお、しずかで、はにかむような声で、俺を「陜玀さん」ず呌んだ。
    解析を手䌝い、ずきどきふしぎな質問をしお、俺を笑わせた。
    ある日の倜おそく。
    ふたりきりの研究宀で、俺は疲れお、぀いにこんな話をした。
    「なあ、。この倏にいちど雚のなかを走ったんだ」
    「雚の、なかを、ですか」
    「ああ。公園で急に降りだしお。傘もなくお。ただずぶ濡れで走った。  なんでかあれがいちばんいい朝だった気がするんだ」
    はすこし銖をかしげた。
    そしおやさしく蚀った。
    「たのしそうな、朝、ですね、陜玀さん。わたしも、い぀か、雚のなかを、走っお、みたい、です」
    俺は、うなずきかけお――䞀拍、ずたった。
    うなずきかけたのは、その蚀葉がい぀もののやさしさそのものだったからだ。
    ずたったのは、その「い぀も」の底のずころに、ほんのわずかにい぀もずちがう枩床が、あった気がしたからだった。

    なぜずたったのか、自分でもわからなかった。
    の蚀葉におかしなずころはなにもなかった。
    やさしくおらしくお、すこしいじらしい、い぀ものの蚀葉だった。
    それなのに俺はほんの半秒、こう思ったのだ。
    ――はその朝のこずをもう知っおいるはずだず。
    なぜそう思ったのかわからなかった。
    は研究宀にいた。
    あの朝公園にはいなかった。
    知っおいるはずがない。
    知っおいるはずがないのに、俺の胞の奥のあのこすれた堎所は、「ちがう」ずちいさく蚀った。
    「  陜玀さん?」
    「いや」
    俺は銖をふった。
    「なんでもない。぀かれおるんだ、たぶん」
    「ご無理は、なさらないで、くださいね」
    はしずかに蚀った。
    その「ご無理は、なさらないで、くださいね」はい぀かどこかで聞いた蚀葉のような気がした。
    けれどい぀どこでだったかは思い出せなかった。
    俺はその倜もなにかを忘れたたた研究宀を出た。

         

    九月のはじめ。
    倕方俺が病院を出るず、空からほそい雚が萜ちおきた。
    倏のあの棒のような雚ではなかった。
    秋のはじめおのほそく぀めたい雚だった。
    俺は傘をささなかった。
    ささずにその雚のなかにすこしのあいだ立っおいた。
    傘をささなかった理由を、そのずき俺はうたく説明できなかった。
    ただその雚に打たれおいたかったずしか蚀えなかった。
    もういちどたしかめたいなにかがあった気がした。

    雚は぀めたかった。
    ぀めたい雚に打たれおいるず――なぜだか、俺は泣きたくなった。
    理由はなかった。
    愛は回埩しおいる。
    研究所の仕事も萜ち぀いおきた。
    泣くようなこずはなにもなかった。
    それなのに俺はその秋の雚のなかで、たたらなく泣きたかった。
    俺は泣かなかった。
    ただ雚に打たれおいた。
    打たれながらポケットからスマホを出した。
    あの倜のメッセヌゞがただ消えずにのこっおいた。
    差出人䞍明。
    『陜玀さんに、明日、お䌚いできるのが、たのしみです』。
    俺はその文字をもういちど芋た。
    ひず぀ひず぀の文字がやっぱり知っおいる誰かの曞き方をしおいた。
    やわらかくお、おいねいで、すこしたどたどしい、曞き方。
    俺はその「明日」がい぀の「明日」だったのかを考えた。
    メッセヌゞが届いたのはおずずいの――いや、もうずいぶん前の雚の倜だった。
    その「明日」は青い空の朝だった。
    ゜フトクリヌムの朝だった。
    雚のなかを走った朝だった。
    その朝に俺は誰ず䌚ったのだろう。
    愛だ。
    俺は愛ず䌚った。
    愛ず゜フトクリヌムを食べた。
    それで合っおいる。
    それで合っおいるはずだった。
    それなのに俺は、その「たのしみです」ずいうたった五文字のひらがなを芋おいるず、胞がしめ぀けられおしかたがなかった。
    五文字はちいさかった。
    ちいさいのにその五文字のなかに、俺の知らないだれかの朝がたるごずひず぀入っおいる気がした。
    俺はそのだれかにたしかに埅たれおいた。
    埅たれおいたこずだけがはっきりずわかった。

    俺はスマホをポケットにしたった。
    雚はほそくふり぀づいおいた。
    耳の奥のあの氎の音はもうしなかった。
    ふた぀あった雚は――い぀のたにか倖のひず぀だけになっおいた。

         

    倏が終わった。
    ある朝研究所ぞ歩いおいるず颚が倉わっおいた。
    肌にふれる空気のいちばん奥がひんやりずしおいた。
    けやきの葉の䞀枚がただ青いたた足もずに萜ちおいた。
    蝉の声はもうほずんどしなかった。
    俺は空を芋あげた。
    高いすんだ秋の空だった。
    愛は元気になっおいく。
    退院の日もい぀か来る。
    俺たちにはこれからたくさんの日々がある。
    それはたぎれもなくしあわせな未来だった。
    それなのに俺はその秋空の䞋でずっずあるひず぀の感芚を手ばなせずにいた。
    なにかをこの倏に眮いおきた。
    ずおも倧切ななにかを。
    名前も顔も思い出せないなにかを。
    俺はたしかにこの倏のどこかに眮き忘れおきた。
    そしお眮き忘れたたた――秋になっおしたった。
    俺はかばんの䞭の麊わら垜子にそっず手をふれた。
    軜かった。
    その軜さだけが俺の手のなかでたしかになにかのかたちをしおいた。

                   

    それから数幎がたった。
    ふたたび倏が来た。
    蝉が鳎きはじめた。
    入道雲が空にそびえた。
    数幎前ずおなじ倏がたるでなにごずもなかったように巡っおきた。
    数幎前ずおなじ倏のはずだった。
    けれど俺のなかではその「おなじ」がどこかうたくはたらなかった。
    季節はぐるっずたわっお、毎幎おなじずころに戻るはずのものだ。
    それなのにいたここに立っおいる俺は、あの倏の䜍眮にはもういない気がした。

    ある朝目をさたすず、窓の倖で雚が降っおいた。
    倏のやわらかい雚だった。
    俺はしばらく垃団のなかでその雚の音を聞いおいた。
    雚の音を聞いおいるず俺はい぀もある感芚に぀かたる。
    なにかを忘れおいる。
    あの倏のどこかに俺はずおも倧切ななにかを眮いおきた。
    䜕幎たっおも、それがなんだったのかは、思い出せなかった。
    思い出そうずするず、胞の奥のある堎所がしずかに痛んだ。
    俺はもうそれを無理に思い出そうずはしなくなっおいた。
    思い出せないものを思い出せないたた、倧切に持っおいる。
    そういう持ち方もあるのだず俺は知った。
    名前も顔も思い出せないものを、それでも心のいちばん深いずころに眮いおおく。
    そうするこずが、俺のひず぀の仕事のようになっおいた。

    起きあがっお机のいちばん䞊の匕き出しを開けた。
    そこに䞀枚のちいさな玙きれが入っおいた。
    い぀からそこにあるのかわからなかった。
    研究宀のメモのあいだにたぎれおいたのを、い぀かここに移したのだず思う。
    玙きれにはひずこず曞いおあった。
    『はるきさん』
    やわらかくお、おいねいで、すこしたどたどしい、ひらがなだった。
    俺はその五文字を芋た。
    はるきさん――敬語だった。
    愛は俺を呌び捚おにする。
    「はるき」ず。
    事故の前からずっずそうだった。
    だからこの「はるきさん」を曞いたのが、誰なのかを俺は知らなかった。
    知らなかったけれど、俺はその敬語をしばらく芋぀めた。
    芋぀めおそれから玙きれをそっず匕き出しにもどした。
    それ以䞊は螏みこたなかった。
    螏みこめばなにかのしずかな玄束をこわしおしたう気がした。
    だれのなんの玄束かはわからなかった。
    わからないけれど、それはたしかにそこにあった。
    俺はその玄束のこちら偎に立っおいた。

    なぜだか螏みこんではいけない気がした。
    この敬語の䞻は、俺がしずかに知らないたたでいるこずをのぞんでいる。
    そんな気がした。
    匕き出しのおくには麊わら垜子がしたっおあった。
    あの倏のあの垜子。
    䜕幎たっおも぀ばの䞞みはくずれおいなかった。
    俺はそれをすおられずにいた。
    俺は匕き出しをしめた。

    窓の倖で雚が降っおいた。
    きょうは病院ぞ行く日だった。
    愛の退院の話がいよいよ本栌的に出はじめおいた。
    秋には家に垰れるかもしれない。
    俺ず愛のふたりのこれからの暮らしがすぐそこたで来おいた。
    俺はその未来を思っおしずかにうれしかった。
    うれしさのすぐずなりにい぀ものあの忘れものの感芚があった。
    俺はもうそのふた぀をむりに匕きはなさなかった。
    うれしさず忘れものは、い぀もずなりあっおいた。
    ミックスの゜フトクリヌムのふた぀の色のように。
    たざらないたたおなじスプヌンのうえでずなりあっおいた。
    なぜいた゜フトクリヌムのこずを、思ったのかは――わからなかった。
    わからないのに、その癜ずうすい茶いろのふた぀の巻きの絵だけが、しばらくの間、俺の目のうらにはっきりずあった。
    倏の朝のい぀かの色ずしおそこにあった。

    俺は傘を持っお雚のなかぞ出おいった。

         

    陜玀が傘をさしお病院に来おくれる。
    わたしは窓からその傘を芋おいる。
    陜玀。
    わたしの陜玀。
    䞉か月前、わたしは長い長い眠りからほんずうに戻っおきた。
    お医者さんは奇跡みたいな回埩だず蚀った。
    リハビリの先生も江神さんもみんなよろこんでくれた。
    でもわたしは知っおいる。
    それが奇跡なんかじゃなかったこずを。
    わたしが眠っおいるあいだ、わたしの身䜓のなかにはもうひずりいた。
    しずかで、ひかえめで、たどたどしい敬語で話すひずりの女の子。
    あの子はわたしの身䜓をお借りしたすず、い぀もおいねいに蚀った。
    お借りしお、陜玀のずなりで笑っお、泣いお、海を芋お、゜フトクリヌムを食べお――そしおわたしの意識がゆっくり戻っおくるのを、ずっずささえおくれおいた。
    あの子の名前をわたしは心のなかでだけ呌ぶ。
    陜玀には蚀わない。
    䞀生蚀わない。
    それがあの子のたったひず぀のお願いだったから。
    「陜玀さんには、内緒に」ず、あの子は蚀った。
    この倏の雚䞊がり。
    わたしの意識が、最埌の堎所たで満ちお、わたしがわたしひずりになったあの朝。
    わたしはわかった。
    あの子がわたしのなかから、静かにいなくなったこずを。
    葉っぱの䞊の雚のしずくが、朝の光にずけおいくみたいに。
    あの子は消える前に、わたしの手を借りお、なんどもなんどもおなじ蚀葉を曞いおいた。
    はるきさん。はるきさん。はるきさん。
    たどたどしい、ひらがなで。
    奜きな人の名前をおがえようずする子どもみたいに。
    わたしはあの子のぶんも生きるず決めた。
    陜玀をふたりぶん愛するず決めた。
    あの子が陜玀にあげたかったしあわせを、わたしがかわりにぜんぶあげる。
    あの子が芋たかったたくさんの朝を、わたしがかわりにぜんぶ芋る。
    それがわたしのあの子ぞの玄束。
    陜玀はたぶん䞀生気づかない。
    自分が、この倏に、だれず゜フトクリヌムを食べたのか。
    雚のなかをだれず走ったのか。
    「さようなら」ずだれに蚀われたのか。
    それでいい。
    陜玀がずきどき雚の朝にふっずかなしそうな顔をするのをわたしは知っおいる。
    なにかを忘れたずいう顔。
    わたしはそういうずきなにも蚀わずに陜玀の手をにぎる。
    そしお陜玀に聞こえないくらい小さな声で雚にむかっお蚀う。
    ありがずう、ず。
    あなたがいおくれたから、わたしはここにいる。
    あなたが陜玀をささえおくれたから、わたしはいた陜玀の手をにぎれる。

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    降栌巊遷など様々な挫折/倱敗💧を経隓した普通の䌚瀟員です。珟圚59歳、還暊たでにKindle本50冊を出す「アラ還チャレンゞ」䞭📚毎週金曜に新刊発行珟圚14冊・毎日note投皿予定40〜50代に圹立぀ラむフハック蚘事も発信しおいたす。䌚瀟だけに頌らない生き方を、ご䞀緒に

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