
【エッセー】十回目の着信
夕方、私用のスマホを確認すると着信履歴に産経新聞編集部の文字があった。
何を意味しているかは即座に分かった。
というのも、過去9回ご連絡を頂いており、
それは投稿作品の掲載決定と掲載日のお知らせだからだ。
今回もそのご連絡と思って間違いない。
思い起こせば、数年前に初めてお電話を頂いたときは感激のあまり、無意識に正座をしていた。
何度頭を下げたか覚えていない。
隠しカメラで動画を撮っていればさぞかし傑作だったに違いない。
しかし、慣れとは恐ろしい。
10回目の今では、もう私の体の細胞自体がざわつかなくなった。
姿勢も終始そのまま。声は多少、上ずっているかもしれないが。
御担当の方も気のせいか
すっかり、いつもの顔馴染みのような対応。
電話の切り際に、時節柄お体にはくれぐれもご自愛のほどお願いしますと
お伝えできるようになっている。
もちろん、お声掛けは本心からで、選者の八木先生はじめ、皆様にいつまでもお元気でご活躍を願い、また掲載の機会を頂けることに心から感謝しているから出てきた言葉。たった、はがき一枚で。しかも全国紙の一面に。これは奇跡だ。
掲載作品は予想通り。書き上げた時の手ごたえが他の作品と全然違った。といえば、気取った後付けの感想に過ぎず、
いざ、掲載決定となると気分は上々。部屋の空気も心なしか明るく、軽い。
カレンダーに〇をつけ、その日まではご機嫌に生きていける。
掲載まで希望というバリアで覆われマリオカートの無敵のスター状態とまではいかなくとも。少々の嫌なことは大目にみれるに見れる。きっと明日からは希望のオーラに包まれながら、満員電車に乗るのだろう。
本当に不思議なことに仕事や人間関係に行き詰まり、臥せっているときに過去に投函した自分からの手紙の様に絶妙のタイミングでお電話を頂く。
もしかしたら、トイレの神様のご親戚からのご褒美だろうか。
さあ、掲載日が近づくにつれて、何十万部という新聞を刷る輪転機の音やインクのにおいまで浮かんできそうだ。
毎回、この知らせを一番に伝えるのは何といっても母親。嬉しすぎて
いまだにサプライズが出来ない。次回こそ、と思いながら今に至る。
いや意外とこの繰り返しがちょうどいい幸せかもしれない。二人にとって。