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倏䌑みの友 ⑥ 完

    八月二十䞃日
    瀟畜だった春、急な連䌑を持お䜙した私は、祖母の家に遊びにいった。久方ぶりの来蚪であった。盆も正月も顔を出さなくなっお久しい。
    祖母は庭の草むしりの最䞭だった。春は草むしりのしやすい季節らしい。
    挚拶もそこそこに、草むしりの加勢に入った。䌑日なのに劎働ずはこれ劂䜕に。たあいいや。私に甘い祖母は、母にないしょでお駄賃をくれる筈であった。経隓則からわかっおはいた。アラサヌが䜕を蚀っおんだ。
    玄関前から、私は西に進み、祖母は東に進んだ。庭先には特に䜕も怍えられおいない。祖母は怍物を育おるのが苊手なのだ。
    「あの人の唯䞀の欠点」
    母は䜕故だか忌々し気に蚀ったものだ。
    しばし二人、無蚀で草を駆逐する。錻先を癜い蝶がかすめ、くしゃみがでた。
    「あ」
    背䞭越しに、祖母が小さく声を挏らす。
    「ごめんごめん。そろそろ䌑憩しようよ」
    私は振り返る。祖母も振り返る。
    祖母の瞳孔に重なっお、撚糞がいた。黄ばんだ癜が小さな肢䜓をくねらせおいる。
    フィラメントに虫が重なる。
    反射だった。
    がきん。
    祖母はぐるりず癜目をむき、緩慢な動䜜で右に巊に頭を揺らした。䞀回、二回、もう䞀床巊、途䞭でかくりず銖を萜ずし、埌ろに倒れた。その手から、草刈り鎌がずるりず萜ちお、雑草の山に぀き刺さる。
    譊笛のような耳鳎りが止たない。頭の䞭で枊が巻かれおいる。蟻地獄のように、枊はぐるぐる倧きくなりながら、暗い穎の䞭心に飲みこたれた。やがお真っ暗になっおも、惰性で廻転し続ける。
    私は祖母の家に駆けこみ、這いずっおトむレにいった。
    䟿噚に顔を぀っこむず、塩玠の匂いが錻を぀いた。䜕床えずいおも吐き出されるのは汚い声ず胃液だけで、貧血を起こしたらしく、しばらく䟿座に顎を乗せお぀っぷした。
    どれくらいそうしおいただろう。意識を倱っおいたのかもしれない。
    ふら぀きながら再び庭にでお、攟りだされおいたスマホで母に電話した。出ない。再床電話。
    「おばあちゃんが、死んだ」
    五回目のコヌルで繋がった電話口の先から、母が息をのむ音が届いた。
    「ねえ、火葬だよね」
    圓たり前じゃない、あんたこんな時たで䜕いっおんの。母の声からはいかなる感情も読み取れなかった。すぐに行くずいう母の電話を切り、私はぺたりず座りこむ。
    ああ、癟十番もしなきゃか、ず思った。

    八月二十八日
    走ったら、疲れた。
    今日はもう寝る。

    八月二十九日
    今たでの人生で行った、䞀番悪いこずはなんだろうか。
    防火扉のロックをうっかり倖しお、クラスメむトを閉じ蟌めおしたったこずか 玠知らぬふりで私がやったず最埌たで蚀わなかったこずか
    䌚瀟の消火栓のボタンを抌したこずか あの日、わたしは出勀しおいない䜓になっおいたので、結局誰がやったかわからず終いだった。
    埌は、思い぀かない。

    八月䞉十日
    ザリガニ釣りは、たこ糞の先にスルメをぶら䞋げお行う。
    ザリガニが切ったタコ糞が、池にはたくさん沢山沈んでいるずいう。もうザリガニはいないのに。池が淀んでいるのはタコ糞のせいだ。
    「がくがタコ糞を浚うから、合図したら匕き䞊げおくれ」
    先生はズボンの裟をたくり䞊げ、ざぶざぶず池に入っおいった。ずぷんず、頭の先たで池に぀かる。
    倏怿はもう咲いおいない。蝉の声も聞こえない。緑の圱は濃くお重く、淀んだ池に萜ちおいる。
    「先生」
    随分長い時間埅ったように思う。
    先生はいっかな䞊がっおこない。合図はない。
    「先生」
    ざばり、池の瞁に肘から先が無い手を぀いお、先生が顔を出した。飛沫が私の頬を濡らした。生臭い、死んだものず生きたものの臭いが混じっおいた。
    「先生」
    先生は県鏡をしおいなかった。池の䞭で萜ずしたのだ。
    目玉の衚面にびっしりず隙間なく、指で摘ためる现さのタコ糞が蔓延っおいた。捩れた虫が蠢いた。血管のように脈動する。
    あ。
    ず蚀おうずしたように、先生の口が䞞く開く。
    火花が散るくらい䜕床も、錻の奥が痛くなるくらい幟床も、ひねっおひねっおひねっおひねった。
    焊げ臭いなどずいうものではなく、実際に先生の目玉は燃えおいた。県窩の淵から溢れずに、炎は赀く黄色く、火の粉を星屑のようにたき散らし、よく燃えた。
    燃える目玉がぐるりずひるがえり、真っ黒な穎が芗く。先生は仰け反っお、背䞭から池に萜ちた。䞀床沈んで数秒埌、倧の字に浮かび䞊がる。䜕故か県鏡をしおいた。濡れた半玙がレンズに貌り぀いおいた。
    酞玠が足りない。䜕も芋えない。私は膝から厩れお、肩で息をした。
    鳥肌がた぀くらい寒いのに、目玉だけが溶岩のように熱い。
    「よくやった」
    背埌から私の頭を撫でたのは、先生ではなかった。
    黒いスヌツを着た顔のない男が、先生の声で、先生が蚀わない偉そうな口調で蚀った。
    「埌はこちらで火葬する。垰りなさい」
    男の目に焊点を合わせようず詊みたが、がやけた芖界は䜕床瞬きしおも改善しなかった。埌から埌から氎膜が溢れるのだ。
    「諊めなさい。私はひねれないよ」
    先生にそっくりの、優しい声音だった。

    八月䞉十䞀日
    倧䞈倫。
    これは只のデヌタだから、私が消せば、消える。
    燃やさなくおも、倧䞈倫。
    ですよね 先生。

    八月䞉十二日
    祖母の梅酒がなくなったからず、
    「どうせ暇でしょう」
    母に梅酒を買っおくるよう呜じられた。
    「どんな梅酒をご所望ですか」
    「矎味しいの」
    『矎味しい梅酒を教えお䞋さい。至急』
    私は酒を嗜たないので良し悪しがわからない。Aず匟にスマホからメッセヌゞを送るも、既読無芖である。Aはたた連絡の぀かない期間に入ったのかもしれない。前回は䞉ヵ月くらいだったが、今回はどれくらいになるだろうか。そういえば、匟はただ未成幎だったな。
    涌しい内がいいかず思っお、午前䞭に買い物に行った。スヌパヌのひず気は殆どなく、子どもの姿もなく、倏䌑みが終わったこずを知った。買っおきた゜ヌダアむスは、垰宅時には半ば緩んでおり、母が垞備しおいる匷炭酞氎で割っお飲んだ。甘い。
    「梅の実が入っおないのがよかった。気が効かない」
    食卓で母は文句を蚀っおいたが、知るか。化粧を萜ずした母の顔は、目尻に皺が寄っおおり、随分ず老けこんでいた。二十幎も前の面圱からアップデヌトしおいなかったらしい。母の顔をたじたじ芋おしたう。機䌚はあれど、その気がなかったのだ。
    「䜕 あたしの顔に䜕か぀いおる」
    「぀いおいたせん」
    母の目を芋る。LEDを反射するよく光る目の、奥か衚面に虫の圱が蠢いた。飛蚊症か
    母か それずも私か
    どちらにせよ、母はひねれない。
    母は今晩、にゅうめんに合わせ、ロックの梅酒をすすっおいた。
    䞞い氷がいく぀も浮かんでいる。琥珀に沈む癜い目玉は、母のそれに䌌おいた。


     
     
    狂ったマンガ読みです。小説も曞きたす。 奜きなマンガや日々のあれこれ、BLやら創䜜掻動に぀いお。 別名矩ふずうめい

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