第一章 続
また朝が来てしまった。いつ寝たのかは覚えていない。物思いに耽りながら、黒い世界に落ちた。遮光カーテンの閉まりが甘く、射し込んだ陽は目が痛いほどだった。ちょうど目覚ましがなる2分前。自分はいつもそう、目覚ましの少し前に起きる。
家を出るのも憂鬱なくせに、今日はそこから学校につくまでのルーティンを無意識のうちに終えていた。はた、と気がつけば座席に腰掛け、文庫本の紐を後ろに回し、その世界に入る。自分が別の何者かに成り代われる時間でもある。チャイムと同時か、その少し前に先生はくる。前の扉はこの時期は閉まっているので、来れば耳でわかる。やや摺るような靴音とじわっと開けていく扉の音。それが聞こえたら、また紐を合間に差し込み、周りの様子を伺う。気怠そうにペンを回す者、出欠確認でやたら張り切るお調子者、真面目を絵に描いたような者。自分と同じように周りを伺う者ももちろんいる。先生はというと、それはもう淡々としている。
1日はあっという間だが、そいつはたまに教室にだって現れる。先生が板書をしている間、なぜか自分の横にいたり、廊下を行き来していたり。換気されている日なんかは窓枠に腰掛けていることもある。知らぬうちに堪えていることがたくさんあるらしい。教室ではうまく消すに消せなくて、もどかしさもあるものの、下校が近くなると、今日はどうするかという思考に入る。
あのビルと線路はこの間使った。そういえば、通学路からは離れるけれども、小さな橋と小川があったはず。見に行ってみようか。高さや浅さによっては使えるかもしれない。あーでもない、こーでもないと考えていると案外時間は過ぎるのが早く、とぼとぼ向かううちに外は赤みを増していた。
腕時計もスマホも持たない自分の感覚で言うと、通学と同じくらいの25分は歩いたか。通学路を10分ほど進むと分岐点があり、それをいつもと反対に15分ほど進むという感じだ。近くなるとペンキが剥がれたのか、ところどころ痣のようにもみえる掠れたような水色の橋が見えてくる。車も通れる橋だが、全長は短い。50mもないくらいだ。橋の手前に肩幅程度の階段を見つけ、上から覗くよりはわかりやすいだろうと、それを下る。川は思ったよりは浅く、そこの石や苔も見える。川べりの草のあたりには鴨がいた。これなら大丈夫だ。上に戻る。校舎の2回ベランダから覗くような高さ。少し低いかもしれないなと思いながら、端によけて、中央にそいつを立たせる。そいつは欄干に上り、立ち、バンジージャンプのごとく跳ねた。そして落ちていった。そいつを確認することもなく、背を向けて帰路につく。なんとなくもう闇に消えている気がした。