第十六話 決着
剣と剣が交錯した直後、戦場には信じられないほどの静寂が訪れていた。
私は無意識に呼吸を止めていたことに気づき、ようやく息を吸った。指先が冷たく震えていた。さっきまで血を流していたのは確かにセブンだった。だけどいま、立っているのは彼のほうだった。
ソバット准将は、片膝をついていた。
深紅の外套は裂け、その下にあるはずの強靭な肉体が、いまはかすかに震えていた。
「……どういう、ことだ……」
呟いたのは私か、あるいは准将自身か。
セブンは肩で息をしながらも、剣を下ろしていなかった。その表情は、勝利を確信しているというよりも、淡々と現実を受け止めているようだった。
「あなたの再生には、明らかに“波”があった」
静かな声で、彼は話し始めた。
「完璧な力に見えても……その再生は万能じゃない。傷を受けた部位によって、再生のスピードが微妙に違う。特に、胸部右側。そこだけ、何度傷を入れても再生がほんの少し遅れていた」
私は息を呑んだ。
言われてみればあのとき。ソバット准将の右胸だけは、傷が薄く残っていたように見えた。
しかしわかったからと言って、どうにかできるものではない。
「恐らく、肝臓か肺。あるいは、再生処理の負荷が集中する中枢が、そのあたりにあるんだろう。だから俺は……あなたに“そこ”を狙わせた」
セブンは自分のわき腹に手を添える。
血はまだ滲んでいたが、その痛々しい傷の割には涼しい顔で立っている。
「脇腹は、出血が多く見えても、致命傷にはならないことがある。派手に出血し、重傷に見せかけることで、あなたの警戒を緩められると踏んだ」
ソバット准将の目が、かすかに見開かれる。
「再生能力は、受ける傷が多いほど分散する。そして、同時に深い損傷が加えられると、優先順位が狂う。再生が“間に合わない”ことがある……その瞬間を、作った」
そして、セブンは最後に一歩、踏み込んだ。
ソバット准将の肩口にそっと剣を添える。
「最適な再生ができなければ、あなたは――ただの遅い巨人だ」
その言葉に、ソバット准将はわずかに笑った。
それは、敗北を認める者の笑みだった。
「……見事だ……セブン・ブライト少尉。まさか、ここまでとはな……」
次の瞬間、彼は大きく息を吐き、そのまま崩れるように倒れた。
誰も、動けなかった。
剣が土に転がり、外套が風にはためく音だけが、耳に残った。
私は、銃を持つ手をそっと下ろした。
ようやく、息ができる。そんな気がした。
でも――私の中には、妙な空虚があった。
さっきまで戦っていた二人の間には、言葉にならない“何か”が確かにあって。
私はそこに、踏み込めない。
「……終わったの?」
そう呟いた自分の声が、あまりに小さく、頼りなかった。
それでも、終わったのだ。きっと。
私はセブンの背中を見つめたまま、胸の奥に滲むような安堵を、静かに飲み込んだ。