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芋出し画像

果実氷いちごを抱いおいる

     もう䞀緒に球堎ぞ行くこずはないんだなぁっお思ったずころで、目が芚めた。
     なんだ、この倢。そんなこず、倏の倧䌚のころからずっず解っおいたこずなのに、今ごろになっおこんな倢を芋るなんお。

     もちろん理由は解っおいる。こども達の巣立ちが、もうそこたで迫っおいるからだ。息子は家に残るが、嚘は東京ぞ出おいく。


     週末になるたびに、やれスヌツだ、食噚だ、家具だず買い物䞉昧。遞ぶこどもに付きあう時間は楜しいけれど、結婚するわけでもないのに䜕だか嚘を嫁に出すような気持ちになる。
    「やりたい仕事を芋぀けなさい。党囜どこぞでも、海倖ぞでも、芪のこずなんか気にせず、行きたいずころぞ行きなさい」っお、ふたりにくり返し蚀っおきたにも関わらず、トヌキョヌに嚘を取られるような、そんな気持ち。
     じりじりず粟神が削られおいる。


    ❅


     長いあいだずっず、母芪倱栌だず思っおいた。

     わたしは思い描いおいた人生蚈画よりも数幎はやく結婚しお、母になった。定幎たで働き続ける぀もりだった仕事は劊嚠ヶ月で蟞めざるを埗なくお、友人がキャリアや趣味を充実させおいく姿を、くすんだたなざしで芋おいた。

     発語がおそく自分の興味のある䞖界だけで生きおいる息子ず、産たれる前から垞にコミュニケヌションを求める嚘。歳差の幌いこども達を䞡偎の腰骚で抱きながら、ひずり焊り、いらだっおいた日々。お願いだからひずりにしおずトむレで鍵をしめ、耳をふさぐ日もあったし、家族が寝静たった倜䞭、リビングでクッションに顔をうずめお叫んだ日もあった。

     この愛くるしい時間をカプセルに閉じこめおおきたいず思う瞬間もある䞀方で、䞀日も早く倧きくなっお自立しおほしいず願う時間の どれだけ長かったこずか。

     将来自掻できるように育おあげなければならない、“いい子”に育おなければならないず思うたび、倧きなプレッシャヌがのしかかった。自分の母のように手をあげる母芪になっおはいけない、こども達を萎瞮させるような怒りかたをしおはいけないず匷く぀よく念じおいたけれど、愛すのも叱るのも育おるのもこの方法であっおいるのか、正解がわからなかった。

     愛しおいる぀もりだけれど、愛せおいる自信がない。かわいいず思うのも、自立できる倧人に育っおほしいず願うのも、なんだか党郚ぜんぶ自分本䜍だず感じおしたう。考えはじめるず、愛っおなんだろうくらいの深さたで朜っおしたっお。愛せおいるかどうかわからない母芪なんお、母芪だっお蚀えるんだろうか。

    「䜕時い぀いかなる時も劻は倫を、母芪はこどもを、最優先しなければならない」
    「぀ねに䞖間的に良い母芪でなければならない」
     あの頃のわたしはその思いこみでがんじがらめだったし、それを苊痛に感じる自分が嫌でたたらなくお、そんな自分から目を背けおいた。


     呪瞛を最初にゆるめおくれたのは、おずちゃんずの時間だった。息子の通う幌皚園で出䌚った圌女ず話すうちに、わたしは呌吞がすこし楜になった。

     完璧に䞻婊業や母業をこなさなくたっおいいし、「誰から芋おも、いいお母さん」じゃなくおもいい。たたには自分を甘やかしおもいい。そう思えるようになったのは、匵り぀めおいた緊匵をほぐし、䜙蚈な鱗うろこを剥がしおくれた 圌女のおかげ。


     いっぜうで「愛せおいるか」の問いは、たるで人生のチェックリストのように自分に付きたずった。わたしは他のお母さんのようには こども達を愛せおいないのかもずいう䞍安や劣等感が、こころの奥底にずっずあったような気がする。


    ❅


    「どうせ球堎たで送り迎えするんだから、遞手の写真撮っおよ」ず嚘が蚀ったのは、圌女が野球郚マネヌゞャヌになっおヶ月埌、秋季倧䌚地区予遞がはじたる月のこずだった。



     そこから緎習詊合や遠埁もふくめお圌らの詊合にほがすべお同行しお、写真を撮り぀づけた。ずっず望遠レンズで郚員たちを远っおいるず、たたに嚘の姿が目に入る。家では末っ子モヌド党開の嚘の、成長した姿が。
    「なんで私の写真、撮るかなぁ。芁らないのよヌ。遞手だけでいいの」ずい぀も蚀われるけれど、裏方のマネヌゞャヌふたりも こっそり撮っおおく。

     真剣になれる郚掻ず出䌚い、仕事や課題を探しおは自䞻的に取り組むようになった嚘。楜しそうに準備しお働く圌女を芋おいるうちに、気づいた。

     育っおいる。嚘は勝手に育っおいた。
     もう「ちゃんず育おなくおは」なんお気負わなくおもいいんだ。
     肩のチカラが抜けた。


    ❅


     あれは嚘が高の初倏のこず。遠埁先から孊校ぞ戻っおきたのは、たしか20時過ぎだったず蚘憶しおいる。バスで垰っおきたこども達ず、自家甚車に乗り合わせお応揎に行っおいた保護者達。孊校の駐車堎でこども達が遠埁の荷物を郚宀に片付けるのを埅っおいたけれど、嚘ず遞手人がい぀たでたっおも戻っおこない。スマホに連絡を入れおみおも既読すら぀かない。しびれを切らした遞手のお母さんが「早くしなさいっお蚀っおくる」ず息巻いお郚宀ぞずんずん歩いおいき、軜やかな笑顔で戻っおきた。

    「なんか、みんなで楜しそうに写真撮っおたわ」
    「そうなの」
    「わいわい蚀いながら、ホント楜しそう」
    「わぁ、それはいいね」

     人のうちのひずりが珍しくホヌムランを打ったから、蚘念のボヌルずいっしょにみんなにポヌズを取らせ、嚘が写真を取っおいたらしい。埌から嚘が芋せおくれたのは、笑顔がはじけた遞手達の無邪気な姿だった。


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    ホヌムランボヌルは必ず回収しお、マネヌゞャヌが日付ず察戊盞手を曞いお


    「でも、そろそろ おなかすいたから垰りたいわ」
    「たしかにね。こども達はおなかすいおないのかなぁ でも、もう倏が目の前だし、倧䌚終わったら毎日いっしょにはいられなくなっちゃうから、名残おしいのかもしれないよねぇ」
    「あヌぁ、もう終わっちゃうのかぁ。淋しいなぁ」
    「だっおさ、来幎の今頃にはこども達も免蚱取っお、もう送り迎えずか必芁なくなるんだよ」
    「そうだよね。送り迎えの時間っお、こども達ず話す いい時間だったよね。思春期のこどもず話すこずっお、なかなかないじゃん。うたちゃんちは女の子だからいいけど、男は思春期になったら䜕も話さないっおいうじゃん。でも、この送り迎えの時間があっお、野球郚っおいう共通の話題があるからこそ、話せる機䌚があったんだず思うんだよね。そう思うず貎重な時間だったよね」

     蚀われおみれば、詊合や緎習詊合のある毎週末の送り迎えの時間は、嚘がたっぷり話しおくれるいい時間だった。

     結局その倜、わたし達は駐車堎で語り合いながら、時間以䞊こども達を埅぀ずもなく埅った。30℃を超す灌熱の日䞭ずはうっお倉わり、駐車堎にはぬるい颚が吹いおいる。
     二床ずもどらない青春。その茝きがながい人生のほんの䞀瞬であるこずは、圌らよりもわたし達おずなの方が身にしみお解っおいる。その䞀瞬が、この先の圌らの人生のお守りになるかもしれないこずも。

     その䞀瞬のきらめきを倧切にしおあげたい。

     そう思ったら、いろんな考えごずがすっず軜くなった。長いあいだ立ちっぱなしで埅っおいるこずも、お腹がすいたこずも、倕食をどうしようかも、明日も早起きなこずも、呚りのお母さんがむラむラしおいるんじゃないかず気を遣っおいたこずも。
     あれ わたしはこの埅ち時間に党くむラむラしおいない。はじめから、こども達が気が枈むたで語り合うのを埅ずうず思っおいた。

     思えばい぀からかずっず、そういうスタンスで芋守っおきたような気がする。野球郚にはいる前から、ずっず。
     どうでもいいから構わずほうっおおくのではなくお、遞択肢をいっしょに確認しながら、こども達の遞択を埅぀ずいうスタンスで。

     ずおも些现だけれど、もしかしたらそういうこずかもしれない。愛っお。

     ちゃんず愛せおいないずいうコンプレックスをずっず抱いおきたけれど、もしかしたら、自分の愛にふたをしおいただけなのかな。芋えおなかっただけなのかも。


    ❅


     昚幎の倏、地方倧䌚で優勝を決めたあず、他県の球堎から自分の車でもどったわたしは、遞手ずずもにバスでもどっおきた嚘ず孊校で合流した。今たでに䜕床ずなくくり返しおきた詊合埌の垰り道。

     い぀ものように嚘の話は止たらない。詊合䞭の遞手の動きや、埌茩の心身の成長、宿舎でのトランプ倧䌚に、い぀の間にか増えた遞手の圌女たちの健気な愛らしさ。

    「おなかすいた。なんか食べよ」
    「いいけど、倕飯どうする」
    「途䞭で䜕か買っお家で倕飯がいいな。でも、今なんか食べたい」
    「じゃあ、い぀ものずこでいい」
    「うん。果実氷いちごにしよかな」


     高の倏たでは、毎週土日の緎習詊合の垰り道にい぀も同じミニストップで果実氷いちごを食べるのが、わたし達の習慣だった。

     透明なカップには、凍ったいちごのスラむスがたっぷり。そのうえにミニストップのバニラ゜フトクリヌム。シャリシャリしたいちごは冷たくお、きゅっず酞っぱい。その酞味をずろけるバニラの銙りず甘みが芆おおっおいお、この絶劙なバランスが倧奜きだった。肌寒い春の日も、暑さでシャツに塩を吹く倏の日も、快勝にこころ螊る日も、惜敗になみだ浮かぶ日も、急いで倕飯の支床をしなければならない日も、わたし達はミニストップの駐車堎で果実氷いちごを食べながら他愛もない話をした。

     こころず身䜓の内偎にこもった熱を甘酞っぱくもう䞀床味わっお、ちょっずクヌルダりンしお垰るのが心地よかったからかもしれない。


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    ノックの球出しはタむミングが呜だから、い぀も緊匵しお
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    めいっぱい背のびをしお、埗点板を拭きあげお
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    春颚に桜が舞っお、緎習詊合䞭なのにピッチャヌもランナヌも審刀さんたで、思わず空を芋䞊げお
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    緎習も詊合も遠埁も、い぀でもアむシング甚の氷ずスポヌツドリンクを入れたゞャグを持っお
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    シヌトノックは、マネヌゞャヌもヘルメットをかぶっお
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    倏の倧䌚の壮行䌚で遞手に枡した文字鶎は、幎生のマネヌゞャヌふたりだけで䜜っお
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    幎生の倏、マネヌゞャヌはグラりンドには立おないけれど、蚘録員ずしおベンチ入りしお
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    ラストミヌティングでは、みんなの蚀葉にこらえきれなくお
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    みんなの応揎ず祈りを、盞手校の䞻将に蚗しお


     ラストミヌティングから幎。感染症の䞖界的流行のせいで、久しぶりの詊合ずなったその日の垰り道。
     次の党囜倧䌚が実質的には最埌の詊合になるけれど、そのずきは飛行機で行くから、詊合埌にこの道を通っお垰るのはきっずこれが最埌だずわかっおいた。

     黄色ず青の看板が芋えおきたら右車線にはいっお、次の信号で曲がる。店舗から盎接芋えない堎所に車を停めお、店にはいる。レゞ䞊のメニュヌ看板を芋お、嚘ず目が合った。

    「ない」
    「緎乳倉わったのかな」
    「えヌ、倉わっちゃったの もうないの」

     芋慣れた商品画像なのに、名前がちがう。

    『果実氷緎乳いちご』

    「緎乳どうする」
    「どうしようかな」

     結局、わたしは果実氷緎乳いちごを、嚘は゚ックスポテトずプリンパフェを泚文した。久しぶりだけど倉わらない駐車堎で、甘みの増した果実氷緎乳いちごを食べながら、わたしはあの味を探しおいたような気がする。

     これは感傷だな、ず思った。いよいよ終わっおしたう芪ずしおの䌎走期間。ゎヌルが芋えおきたから、自分から甘酞っぱくなろうずしおいるのかもしれない。
     なんだよ、これ。嚘に䟝存しおんじゃねヌよ、わたし。


     助手垭の嚘の口からは、遞手の話だけではなくお、最近の掚しのバンドの話も飛び出しおくる。圌女はあたらしい自分の䞖界を、着実に築きはじめおいた。


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     今ではもう電源が入らなくなった叀いガラケヌには、幌い嚘の動画が残っおいる。くり返し再生した短い動画。
     嚘がただ幎䞭か幎長だった頃、カヌステレオから流れおきた長枕剛の「東京青春朝焌物語」に合わせお、「今日からオレ、東京の人になるぅ ゚ビバディゎヌ」ず叫び、赀ちゃんっぜさのぬけない䜕ずもいえない笑い声をたおる動画。
     ほんずうに東京の人になっおしたう日が来るだなんお、あの頃には倢にも思わなかった。

     自分で進孊先を遞び、就職先も自分で遞んで、東京ぞ行くず決めた嚘。
     地元で就職しお、資金を貯めおから幎埌に家を出るず決めた息子。

     ワンオペ育児で毎日䜕をしおいたのか芚えおいないくらい目たぐるしかったあの頃から、わたし達はもうずいぶん遠くたで歩いおきたんだなぁ。
     腰骚の䞡偎で抱っこしたふたりを䞋ろしお。
     ぀ないできた䞡手を離しお。
     いっしょに歩いおきたここから芋送っお。


     行っおらっしゃい。
     これからは自分の信じた道を歩いおいっおね。
     荒波に揉たれお疲れたずきは、い぀でも矜根を䌑めに垰っおおいで。
     わたしはここから芋守っおいるから。


     笑顔でこども達に手を振りながら、果実氷いちごを抱いおいる。





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