【妖怪カルテ Vol.14:香川県編】手洗鬼
こんにちは、Mizukiです。
【妖怪カルテ】シリーズ第14回は、香川県の「手洗鬼(てあらいおに)」です!
「手洗鬼」という名前を聞くと、なんだかきれい好きな鬼を想像してしまいますよね。
ところが、この妖怪。
問題は、手を洗うことよりも……
とにかく大きい。
山々をまたぎ、海で手を洗うといわれるほどの巨人なのです。
そんな手洗鬼が、今日は病院へやってきたようなのですが……。
どうやら、いつものように診察室で診るわけにはいかないようです。
まずは、病院の外をのぞいてみましょう!
📋 患者情報
氏名: 手洗鬼(てあらいおに)
年齢: 不明
住所: 香川県
容姿・特徴: 山々をまたぐほどの巨大な姿
主訴: 股関節痛
発症時期: 数日前から
備考: 診察室への入室困難
🏥 診察室……ではなく、病院の外にて
診察室でカルテを確認していた先生のもとへ、看護師がやってきました。
看護師:
「先生、次の患者さんなんですけど……」
医師:
「はい」
看護師:
「診察室に入れません」
医師:
「車椅子ですか?」
看護師:
「いえ」
医師:
「ストレッチャー?」
看護師:
「……大きすぎます」
先生の手が止まりました。
医師:
「どのくらい?」
看護師:
「山をまたげるくらいです」
医師:
「…………」
先生は静かにカルテを閉じました。
医師:
「外で診ます」
病院の外へ出ると、そこには、病院をはるかに見下ろすほどの巨大な鬼が待っていました。
片方の腰に手を当て、少し辛そうな顔をしています。
先生は手洗鬼を見上げました。
医師:
「今日はどうされました?」
手洗鬼:
「この辺りが痛くてな」
手洗鬼が股関節のあたりを指さします。
医師:
「いつからですか?」
手洗鬼:
「数日前からじゃ」
医師:
「転んだり、ぶつけたりしました?」
手洗鬼:
「いや」
医師:
「何か普段と違うことは?」
手洗鬼はしばらく考えました。
手洗鬼:
「いつも通り、山をまたいでおったくらいじゃ」
医師:
「……山を?」
手洗鬼:
「うむ」
医師:
「どのくらいの距離ですか?」
手洗鬼:
「三里(約12㎞)ほど」
先生は手洗鬼の股関節を見上げました。
医師:
「それですね」
手洗鬼:
「もう分かったのか?」
先生は、もう少し詳しく状態を確認していきます。
安静にしていても痛むのか。歩くことはできるのか。足にしびれや力の入りにくさはないか。
幸い、今のところ強い異常を疑わせる症状はなさそうです。
医師:
「ゆっくり足を動かしてもらえますか?」
手洗鬼が巨大な足を動かします。
医師:
「前は?」
手洗鬼:
「大丈夫じゃ」
医師:
「では、横に開いてみてください」
手洗鬼がゆっくり足を開くと……。
手洗鬼:
「……痛い」
医師:
「その動きですね」
先生は病院を振り返りました。
医師:
「本当は画像検査も考えたいところですが……」
そして、もう一度手洗鬼を見上げます。
医師:
「レントゲンは無理ですね」
手洗鬼:
「入らんか?」
医師:
「建物に入りません」
手洗鬼:
「MRIというものは?」
医師:
「もっと無理です」
手洗鬼は少し残念そうです。
医師:
「……MRI、知ってるんですね」
手洗鬼:
「では、どうすればよい?」
医師:
「まずは、股関節を休ませましょう」
手洗鬼:
「分かった」
医師:
「しばらく山をまたぐのも禁止です」
手洗鬼:
「それは困る」
医師:
「なぜです?」
手洗鬼:
「手が洗えん」
医師:
「海まで行かなくても手は洗えますよ」
手洗鬼が巨大な両手を差し出しました。
手洗鬼:
「この手が入る桶があるか?」
先生は、その手を見上げました。
医師:
「…………」
しばらく考えましたが……。
医師:
「ないですね」
手洗鬼:
「じゃろう?」
医師:
「でも、痛みが落ち着くまでは休んでください」
手洗鬼:
「薬はないのか?」
医師:
「体重、分かりますか?」
手洗鬼:
「知らん」
医師:
「……ですよね。では、痛みが強くなる、歩けなくなる、しびれや力の入りにくさが出るなどの変化があれば、もう一度受診してください」
手洗鬼:
「またここへ来ればよいのか?」
先生は病院よりはるかに大きな患者を見上げます。
医師:
「はい。ただ……」
先生は病院の入口を指さしました。
医師:
「次も外で待っていてくださいね」
🔍 データ
手洗鬼は、江戸時代の奇談集『絵本百物語 桃山人夜話』に描かれた、讃岐に現れる巨大な妖怪です。
『妖怪大事典』に収録された記述によると、高松から丸亀へ通じる入海で、山々を三里ほどまたぎ、海で手を洗うとされています。
① 山をまたいで手を洗う!?
手洗鬼の最大の特徴は、なんといってもその大きさ。
山々をまたいだまま、海で手を洗うというのです。
しかも『絵本百物語』の本文では、「いったいどんな汚いことをして手を洗っているのだろう」という趣旨の、少しユーモラスな書き方もされています。
それにしても、三里もの距離をまたいで手を洗うとなると……。
今回、股関節を痛めて病院へやってきたのも、なんとなく納得してしまいますね。
② 大太郎坊の使い?
香川県の情報誌『さぬき野』によると、『絵本百物語』の解説では、手洗鬼は「大太郎坊(だいだらぼう)という大魔の使い」とされています。
この大太郎坊は、「だいだらぼっち」とも呼ばれる巨人なのだそうです。
手洗鬼だけでも山々をまたいで海で手を洗うほどの大きさなのに、その手洗鬼が「使い」とされる大太郎坊。
……いったい、どれほど大きかったのでしょうか。
③ 香川に残る巨人「おじょも」
現在の香川県には、「手洗鬼」という名前そのものではないものの、「おじょも」と呼ばれる巨人の伝説が残っています。
香川県公式の情報誌『さぬき野』でも、「讃岐の手洗鬼」とともに、おじょもの伝説が紹介されています。香川県では巨人を「おじょも」と呼び、讃岐富士として知られる飯野山周辺には、さまざまなおじょもの話が伝えられています。
丸亀市に伝わる話では、おじょもは日本中を歩きながら山を造っていた大男。
「讃岐にも山を造ろう」と瀬戸の海をひとまたぎし、土を落として造ったのが飯野山だったといわれています。
さらに飯野山の山頂には現在も、「おじょもの足跡」と呼ばれる巨石が残っています。
手洗鬼も、おじょもも、山をまたぎ、瀬戸内海を舞台にするほどの巨人。
両者が同じ存在だったとは言えませんが、香川には昔から、山や海そのものを舞台にしてしまうほど巨大な存在の物語が語り継がれてきたんですね。

🏥 手洗鬼に出会ったら……
海辺で何か大きなものが動いていると思っても、すぐには近づかないようにしましょう。もしかすると、山をまたいで手を洗っている最中かもしれません。
巨大な手が海へ伸びてきても、驚いて騒がないようにしましょう。手洗鬼にとっては、ただの「手洗い中」です。
「山をまたぐと股関節が痛い」と相談されたら、まずは休むよう勧めてあげましょう。
おわりに
今回登場した「手洗鬼」。
名前だけを見ると、「手を洗う鬼」という、なんだかかわいらしい姿を想像してしまいました。
ところが調べてみると、山をまたいで、海で手を洗うほどの巨人。
想像していたより、はるかにスケールの大きな妖怪でした。
そして香川県には、手洗鬼とは別に「おじょも」という巨人の伝説も残っています。
山を造ったり、瀬戸の海をひとまたぎしたり。
昔の人が山や海を眺めながら、「こんな巨大なものを動かせる存在がいたのかもしれない」と想像したのかな……なんて考えると、ちょっと面白いですよね。
📚 参考にした資料
水木しげる 画/村上健司 編著『改訂・携帯版 日本妖怪大事典』角川文庫
香川県 情報誌『さぬき野 2020秋』「讃岐の手洗鬼」
丸亀市公式ホームページ「飯野山」
※「妖怪カルテ」は、各地に伝わる妖怪の伝承をもとに、診察風景や訴えなどを想像して作成しています。データ部分は参考資料をもとに作成していますが、地域や資料によって伝承の内容が異なる場合があります。
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