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䌑職しお半幎、私を倖に連れ出しおくれたのは䞀本の銙氎だった

    䌚瀟に行かなくおいい朝、私はなぜか六時に目が芚めた

    䌚瀟に行かなくおいい朝、人はちゃんず眠れるのだろうか。

    私は眠れなかった。䌑職初日、目芚たしもかけおいないのに朝六時には目が芚めお、垃団の䞭でがんやり倩井を芋おいた。気が楜なはずなのに、心はどこか別の堎所にあるみたいにふわふわず浮かんでいた。䞍思議な感芚だった。

    䌑職初日

    思いっきり寝ようず思っおいたのに、二床寝もできなかった。普段なら家を出る時間にただ家にいるこずに、どこか居心地の悪さを感じおいた。

    仕方なくスマホをいじっおいるうちに、い぀の間にかお昌を過ぎおいた。颚が流れ去るように、車の窓から颚景を眺めおいるみたいに、時間が静かに流れおいった。

    䜕かをしたわけではない䞀日だった。ただ、それでよかったのだず思う。

    二週間に䞀床の通院

    そんな生掻が䞀か月ほど続いた。

    普段の生掻の䞭で倉化があるずすれば、二週間に䞀床の通院だけだった。担圓しおくれたのは、癜衣を着た、少し気の抜けたような緩い先生。圌女は静かに私の話を聞いた。吊定もしないし、肯定もしない。それがどこか心地よかった。

    そのころから薬を飲み始めた。気分の萜ち蟌みを改善する薬ず、心が荒れたずきに飲むための薬の二皮類だった。

    薬は、確かに効いた。

    特に、気分の萜ち蟌みを改善する方は私にずっお効果おきめんで、どんよりず沈んで䜕もする気が起きなかった日々が、薬を飲むず少し前向きになっお、䜕かをしたくなった。䜕かをしたい、ず思えるようになったこずが、私にずっおは倧きな䞀歩だった。

    少しず぀、倖ぞ

    朝の海蟺ず、倜の通り

    䞀か月が過ぎたころ、少しず぀家の倖に出られるようになった。

    朝の海蟺や、倜の通りを散歩する。できるだけ人がいない時間に、ひっそりず。倖の空気を吞うのは、それだけで気持ちがよかった。肺の䞭に新しい空気が流れこんでくるのが、はっきりずわかる。こびり぀いおいた䜕かが、少しず぀塗り替えられおいくみたいだった。

    誰にも䌚わない時間、誰にも気づかれない堎所。誰にも芋぀からないように、ひそやかに。䞖界は私を受け入れおくれようずしおいるみたいだった。

    昌間の街ず、図曞通で出䌚った本

    さらに䞀か月が過ぎたころ、お昌の時間にも家を出おみるこずにした。

    久しぶりの人混みで、すぐに気分が悪くなった。誰もが私を笑っおいるような気がした。みんなが普通に生掻をしおいる䞭で、昌間から私はどうしお、ず、たた自分を責めおしたう。そんなずきは薬を飲んだ。薬の効果か、気のせいなのかはわからないけれど、少し気分が萜ち着いた。

    䜕ずか普通の生掻に戻るために、私はしばしば図曞通に足を運んだ。

    静けさが心地よかった。みんなが自分のこずに集䞭しおいるから、呚りの目を気にしなくおいい。それが、そのころの私にずっおは救いだった。

    本は、䜕でもよかったのだず思う。ただ䜕ずなく埩垰に圹立぀かなず思っお、心理孊系の本ばかり読んでいた。「呚りのこずを気にしなくなる方法」ずか、「繊现さんのためのなんちゃら」ずか、日本人の著者が曞いたキャッチヌで分かりやすいタむトルの本もいく぀か読んだけれど、肌に合わなかった。ネット蚘事に曞いおあるようなこずが、少し文章ずしお敎理されおいるだけのように思えお、退屈だったのだ。

    海倖の著者の本は、面癜かった。慰めるための蚀葉ではなく、実隓や成果をベヌスにした実践方法が曞かれおいるのが、私にはしっくりきた。

    本を読んでいる間は、頭の䞭がすっきりしおいたず思う。週に十冊くらいは読んでいた。

    音に敏感になった私のお守り

    そのころ、音に敏感になった。

    倧きな音がするず、脳が揺れる感じがしお気持ちが悪かった。耳栓を買っおきお詊しおみたけれど、耳の䞭にある異物感がどうしおも気になっお、続かなかった。

    最終的に私の救いになったのは、ノむズキャンセリングのヘッドフォンだった。

    適床に音を遮断しおくれるのず、耳をすっぜり芆っお隠しおくれるのが、䞍思議ず安心した。䞖界ず自分のあいだに、薄い壁が䞀枚あるような感芚。それだけで、街を歩くのが少し楜になった。

    目には芋えない速床で、でも確かに、私は䞖界ずの距離の取り方を、少しず぀芚えおいった。


    戻れる気がしなかった

    人事郚ずの面談

    䞉か月が過ぎたころ、䌚瀟ず䞀床面談をするこずになった。

    そのころには、人ず話をするこずに問題はなくなっおいた。面談の盞手は人事郚の人で、最近の生掻のこずなどを話した。「回埩しおいるようでよかった」ず蚀っおいた。

    埩垰のタむミングに぀いおの話が出たずき、心がそわそわした。

    職堎のこずを思い出す。

    戻れる気は、䞀ミリもしなかった。

    医垫からも、「環境を倉えるのが䞀番だ」ず蚀われおいた。そのこずを人事に䌝えるず、盞手はかなり枋い顔をしおいた。それはそうだ。䞭途で入瀟しお、䞉か月皋床しか働いおいない人間だ。採甚した郚眲ず違うずころに異動だなんお、できるわけがない。蚀葉を遞びながらも、䌚瀟偎は明確にNoを突き぀けた。

    それは、圓然のこずだった。頭では、わかっおいた。

    たた同じこずが起きるのではないか

    面談を終えお、やはり埩垰できる気が少しもわかなかった。

    未来のこずを考えるず、たた䞍安になっおいく。

    たた同じこずが起きるのではないか。 たたあの居心地の悪いずころに、戻っおいくのか。

    考えるほどにお腹が痛くなっお、忘れ去るように目を぀むった。

    答えのある䞖界に救われお

    簿蚘の勉匷を始めた

    埩垰しおすぐに転職しおやろう。

    我ながらひどい話だず思ったけれど、自分にできるこずは、それくらいしか思い぀かなかった。だから、資栌の勉匷を始めた。

    幞い、私は机の䞊の勉匷ができるタむプだった。教科曞を読んで、問題を解いおいく。そこには明確な答えがあっお、正解ず間違いの二぀しかない。解法も、ちゃんず存圚する。

    簿蚘の二玚たでを䞀か月くらいで取埗しお、そのたた䞀玚の勉匷を始めた。䞀玚があればどこかで雇っおくれるだろう、ずがんやり考えおいた。

    䞀玚の勉匷は、難しかった。でも、耇雑な問題を解いおいくのが、なぜか楜しかった。

    瀟䌚人になっおから、ずっずモダモダしおいたこず

    思えば、瀟䌚人になっおからずっずモダモダしおいたこずの䞀぀は、明確な答えがないこずばかりに取り組んでいたこずだったのかもしれない。

    決たっおいるようで、担圓者によっおころころ倉わる瀟内ルヌル。 明文化されおいない暗黙の了解。 䞍文埋の、倧人の䌚話。

    それらすべおにおいおけがりにされお、私はい぀も迷子になっおいた。

    その点、資栌の勉匷には明確な答えがあった。それが、ただ楜しかった。

    振り返れば、この勉匷がよかったのかもしれない。少しず぀自信を取り戻すきっかけになったように、今になっお思う。

    銙氎ずいう、小さなお守り

    埩職を決めた日

    䌑職可胜期間が、あず䞀か月にせたっおいた。

    戻るか、このたた退職するか。だめだったらすぐにやめればいい。そう思えるくらいには、私は自分のペヌスを取り戻しおいた。

    埩職の意思を䌝えるず、医垫からも蚱可が出た。それからは、通勀に耐えられるかどうか確かめるために、䜕床か電車で経路を途䞭たで蟿っおみたり、䌚瀟の始業時間に合わせおカフェで勉匷をしたりした。

    それでも、ただ完党に自信を取り戻したわけではなかった。

    明日のこずを思うず、胞が少し苊しくなる。あず䞀歩、螏み出すために、䜕かが必芁だった。

    その倜、映画が背䞭を抌しおくれた

    その時にふず手にしたのが、銙氎だった。

    銙氎は、前から少し気になっおいた。お店の前を通るたびに、いいなず思っおいた。けれど、自分にはただ早い気がしお、手を䌞ばせずにいた。

    背䞭を抌したのは、その倜に芳おいた映画だった。銙氎をテヌマにした䜜品で、自信がなく、匱々しかった䞻人公が、銙氎ずの出䌚いをきっかけに人生を倉えおいく。そんな物語だった。

    劇的に䜕かが倉わるなんお、思っおいなかった。

    けれど、䜕かが少しでも倉わればいい、ずは思っおいた。

    翌日、名前を聞いたこずのある有名な銙氎を䞀本、手に取った。手銖に振りかけるず、柔らかなシヌツのような甘い銙りに包たれた。

    いいにおいだ、ず思った。

    手銖に錻を近づけたり、腕を振ったりしながら、その銙りを確かめる。自分からその匂いがしおいるのが、少し䞍思議だった。

    それは、お守りになった

    誰かに、気づいおほしくなった。

    のだず思う。

    そんなふうに、自分をひらいおみたいず思ったのは、久しぶりだった。

    街の䞭を歩いおみる。カフェで本を読んでみる。誰かが気づいおくれたらいいな。誰かに話しかけられたらいいな。

    あれ、䜕だろう。この感芚。

    それは、自信ず蚀える感芚に近かったのかもしれない、ず今になっお思う。

    銙氎を身にたずえば、自分から少しいい匂いがしおいる。それだけのこずで、少しだけ胞を匵れる。私っお、意倖ず単玔なものだな、ず思った。

    でも、自信ずいうだけではなかったず思う。それは、自分を守っおくれるバリアのようにも感じられた。䞖界ず自分のあいだに、たた䞀枚、薄い壁ができたみたいだった。

    気づけば倖に出たいず思えるようになっおいた。

    銙氎は、私にずっお倧事なきっかけであり、お守りでもあった。

    おわりに

    埩職初日の朝、私はい぀もより少し早く起きた。

    カヌテンを開けるず、空の端からオレンゞの光が立ち䞊がっおいた。 シャワヌを济びお、髪を敎える。コヌヒヌを淹れお、ゆっくり飲む。鞄の䞭身を、䜕床も確かめる。 その間ずっず、手銖の脈がびくびくず波打っおいた。

    着替えを終えお、玄関に立぀前に、手銖に銙氎をひず吹きした。柔らかなシヌツのような甘い銙りが、ふわりず立ちのがる。

    倧䞈倫、ず心の䞭で呟く。
    誰かがそう蚀っおくれおいるような気もした。

    ドアを開けるず、朝の冷たい空気が頬にあたった。肺の䞭に、新しい空気が流れこんでくる。あのずきの散歩の朝ず、同じだった。

    そしお、私は、たた䞀歩を螏み出した。


    ここから先 ―― 実際に職堎に戻っおからの話は、たた別の蚘事で曞こうず思いたす。

    うたくいったこず、うたくいかなかったこず、もう䞀床立ち止たりかけたこず。それから、それでも続いおいる今日のこず。

    最埌たで読んでくださっお、ありがずうございたした。

     
     
    日垞の『なんでだろう』をずこずん考える䌚瀟員。䞀床ドロップアりトしお、今はすこぶる元気。考えおみた話・やっおみた話・しみじみする話を曞いおいたす。笑えおちょっず圹立぀noteを目指しおたす!

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