
半生を紡ぐ その三 家族の記憶を 言葉にのせて
第1章 祖父母の家 その3
今はもう、祖父母はいない。
祖父母の家も、もうない。
親戚たちは、それぞれ別の町で、
別の暮らしをしている。
集まる場所もなく、
集まる理由も、いつの間にか、少しずつ失われていった。
ある日、ふと思い出した。
子どもの頃のこと。
家の前の小さな溝に、
手から離れた赤いゴムまりが落ちてしまった。
まりは水にのって、
ゆっくりと流れていった。
何日かして、
家から離れた川の淀んだところで、
ふわりと浮かぶ赤いまりを見つけた。
ああ、あの溝と川は、つながっていたんだ。
この水は、
どこか遠くへ続いているのだろう。
そう思ったとき、
言葉にならない感情が、胸に広がった。
何かが流れていく。
もう戻らない。
でも、確かに、そこにあった。

あの赤いまりのように、
子ども時代の記憶は、
今の私のどこかに浮かんでいる。
静かに、でも確かに、
ゆるやかな流れの中で、
私の一部になっている。
祖父母の家からの帰り道。
あの長い階段をのぼる足取りの中に、
私は、たしかに生きていた。
祖父母の家・了
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