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感情の備忘録その② メアリーポピンズBad Tuesday(祈念)抱きしめるかわりに、心の中でよくやっているよ、と繰り返す。

    みゅうな

    ベッドの反対側から起きた朝

    理由はあるのだと思う。
    けれどそれを
    言葉にできない日がある。

    娘の気配が
    少し硬い朝。

    声をかけても
    短く返し、
    視線も合わない。

    準備の音だけが
    部屋に残る。

    私は胸の奥で、 
    ほんの少し
    痛みを感じる。

    そして同時に、ああ、と思う。

    メアリー・ポピンズの
    あの火曜日。

    目覚めた瞬間から
    何かがうまくいかない朝。

    マイケルに向かって
    メアリーは言う。

    「今朝は反対の側からベッドを降りたのね」

    どんなベッドにも
    正しい側と
    間違った側があるのだと。

    私はこの話が好きで、
    うまく物事がいかないとき、
    そうやって
    自分の機嫌をとってきた。

    get up on the wrong side of the bed
    今日はきっと、違う側から起きた朝だよ、と。

    でも娘には、
    まだそんな余裕はない。

    楽観的な私と違って、
    娘はずっと現実の中で
    自分の足場を探している。

    遠回りのように見える道も、
    立ち止まる時間も、
    娘にとっては
    必要な歩幅だったのだと思う。

    小さいころの娘は、
    落ち込むと
    「だっこして。よしよしして。」
    と私に抱きついた。

    私はただ、
    抱きしめて背中を撫でた。

    それだけで
    呼吸が戻っていくのを
    感じていた。

    メアリー・ポピンズは、
    不機嫌なマイケルを
    不思議な羅針盤で
    世界の旅へ連れ出した。

    北極や南の海をめぐり、
    帰ってきた夜、
    マイケルは
    自分が幸せだと感じながら
    眠りについたという。

    私にもあの羅針盤があれば。

    小さいころは
    それがハグだった。

    今は、
    何なのか
    まだ分からない。

    でも、
    娘の世界を
    もう一度ひらくもの。

    いつか
    娘自身が見つける
    羅針盤のようなものを、
    私は信じている。

    朝、駅へ入っていく
    娘の後ろ姿を、
    ただ見送っている。

    心の中で
    小さく祈りながら。

    頑張って、とは言わない。
    頑張らなくてもいい、とも言わない。

    ただ心の中で
    よくやっているよ、と繰り返す。

    娘は今、
    自分の道を
    もう一度選び直しながら
    歩いている。

    今日はきっと、
    違う側から起きた朝。

    そういう日もあるよ、と
    抱きしめるかわりに
    心の中で言う。

    よくやっているよ、と。


     
     
     
    祖父母、父母のこと、三姉妹、娘と私、夫、猫たち。 記憶の片隅の感情を、そっと言葉にのせて。 そして今、 家で出会う、算数の話を執筆中。   おかあさんねこは、答えを教えない。 朝と夜の小さな記録は↓ https://www.threads.com/@miyuuna2026

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