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エールとともに〜目があうひと番外編【ショートショート】

     「ねぇー、ほんとに行くの?あたし、やっぱ、無理ー。」

     あたしは、一歩も動けずにぐずぐずして、弱音を吐いた。すると、みーちゃんと、ノンちゃんがそんなあたしにハッパを掛ける。

     「もうー、みゆちゃんったら。ここまで来て何言ってんの?早く行っちゃいなよー。さっさとする!」

     あたしは、クラスメイトのしんやくんの家の前にいる。クラスのみんなより一足早く受験をするしんやくんにお守りとチョコを渡そうとしているのだけど。緊張のあまり一歩も動けずにいた。


     あたしは、クラスメイトのしんやくんの事が好きだ。

     中3のクラス替えで初めて同じクラスになった、しんやくん。夏が過ぎて、秋が始まる頃、あたしは気付いた。なぜか分からないけど、しんやくんとよく目が合う事に。

     休み時間、なんか視線を感じると見られている。日直の時、帰りの会で前に出ると、見られている。目が合ううちに、なんだか、しんやくんの事が気になってしまった。そうしているうちに、しんやくんの事を好きになってしまった。

     いったい、あたしどうしちゃったんだろう。この前までは、他の子が好きだったのに。その子が友達の彼になっちゃったから?だから、しんやくんの事を好きになっちゃったのかな?そんな事、ないよね。友達の彼の事なんて、もうどうでもいいんだもん。
     あたし、受験だってあるのに、どうしよう。好きだけど、勉強もしなきゃいけないのに。どうしよう。

     そんな気持ちのままでしばらくたった頃。あたしは友達のみーちゃんとノンちゃんに相談してみた。

     「あのね、あたしね。好きな人ができたの。」
       「え?誰?」
     「あのね…うんとね…。しんや…くん。」
     「うわ、ほんとに!?分かった。あたし達も協力するから。」
     「うん。ありがとね。」

     だからといって、しばらくは何をする訳でもなかった。ただ、見ているだけ。そして、見られているだけで、目が合うだけだった。
     あたし達の学年は、異性でおしゃべりをしたり、仲良くする事って、ない。ちょっぴりつまらないけれど、男子と話すのはなんだか恥ずかしかった。それに、話しかけたりしてクラスで浮いてしまうのは、もっと嫌だった。


     それから、冬休みがやって来た。

     冬休みの間は塾で勉強をしたりもしたけど、それでも映画を見に行ったり、お洋服を買いに行ったり、少しは楽しむ事もした。そんな時、しんやくんは何をしていたんだろう。頭がいい人だから、あたしと違って勉強ばかりしていたのだろうか。早く学校が始まって、顔が見たいなと思った。

     学校が始まると、ピンと張り詰めた空気がした。いよいよ受験も目前だから。みんな、休み時間もちょっとした勉強をするようになっていた。

     三者面談もあり、それぞれが受ける高校を決めていく。あたしは、クラスでも学年でも上位から3分の1の位置にいた。上の下、中の上でなんとも半端な立ち位置で、希望する高校は受けられず、少しモチベーションが落ちていた。たぶん、このままキープする事ができれば受ける事になった高校には合格はするはずで。

     しんやくんは、トップ高校を受験するはずだ。そして、クラスのみんなより一足先に県外の私立高校を受験するという。しんやくんが、そんなに頭がいい子だっただなんて知らなかった。あたし、しんやくんの事、何も知らなかったんだ。

     そんな時、みーちゃんがあたしに言った。

     「みゆちゃん。ここは、しんやくんにお守りでもあげたら?あと、チョコも。少し早いけど、もうすぐバレンタインでしょ?バレンタインだと、あたし達も私立の受験日だから無理でしょ。だからさ。」

     また、しんやくんの視線を感じながら、あたしはみーちゃんに頷いた。


     みーちゃんとノンちゃんと三人でお守りを買いに神社へ行く事にした。お守りを買う前にお参りをした。それは、あたしとしんやくんの合格を祈って。そして、お守りをふたつ、買った。ひとつはあたしので、もうひとつはしんやくんにあげるお守り。
     その後は、チョコも買った。何にしようか迷ったけれど。小さなチョコがいくつか箱に入ったものにした。
     小さなカードも買った。カードには「受験、がんばって」って書いた。

     あいかわらず、よく目が合う。それは嬉しい事だ。だけど、なんとなく寂しい気持ちもあった。卒業したら、もうそこで終わってしまうから。あたしとしんやくんは違う高校に進学するのだし。だからといって、どうする事もできなくて少し悲しいなと思う。

     勉強は、ちゃんとした。やっぱりモチベーションは上がらないけど、一応志望校とした所には合格したいから。それに、しんやくんもがんばっているから。あたしも負けたくなかった。

     そして、明後日あさってがしんやくんの受験する日になった時、作戦は決行される事になった。みーちゃんとノンちゃんが、しんやくんに声を掛けてくれていた。そこまでお膳立てしてくれたみーちゃんとノンちゃんがありがたかった。


     「みゆちゃん。ここまで来たら、覚悟決めて。あたし達、そこから見てるから、行っておいで!あとで、肉まん食べよう!」

     あたしは、怖くて手が冷たくて、ちょっと震えたけれど。息を大きく吸って歩き出した。インターホンまでがなんて遠いのだろう。震える手でインターホンを、押した。

     「はい。」

     男の人の声がして、しんやくんが出てきた。みーちゃんとノンちゃんが声を掛けていてくれたからだろう。お母さんが出てきたらどうしようって思っていたから、本当に良かった。

     「しんやくん。明後日あさっての受験、がんばってね。」

     そう声を掛けるのが精一杯だった。あたし、なんでこんな時に声が震えるんだろう。震える手で、持ってきたチョコとお守りの入った紙袋を差し出した。心臓が口から飛び出しそうっていうのは、今のあたしのような状態なんだろうと思う。

    「あ、ありがとう。」

     しんやくんも一言しかしゃべらない。ちょっと続く沈黙の時間。気まずさに耐えられなくて、気の利いた事も言えずにあたしは

     「じゃ、またね。」

     とだけ言って、しんやくんに背を向けた。



     見守っていてくれた、みーちゃんとノンちゃんの所に駆け寄ったあたし。二人はあたしに声を掛けてくれた。

     「みゆちゃん。がんばったね、よくやったよ。」
     「肉まん、食べに行くよ。みゆちゃん!」
     「うん!肉まん食べるー。ホッとしたら、お腹空いちゃったよ。」

      三人で肉まん屋さんに向かいながら、あたしは充実した気持ちになった。今のあたしにできる事はこの位だ。あとは、卒業式の後に第二ボタンが欲しいな、なんて思った。しんやくん、あたしに第二ボタン、くれるかな?もらえたらいいな。
     でも、その前にバレンタインの日にある私立の受験に合格しなきゃならない。その後は、本番の公立の受験だってある。浮かれてられないなぁと思いながらもあたしは、さっきまでの事を思い出して、顔がにやけてしまう。

     「もうー、みゆちゃん。何、ニヤニヤしてんの?早く行くよ!」
     「あー、ごめんごめん。」

     肉まん屋さんは目の前だ。あたし達は肉まん屋さんまで駆けて行った。



    このショートショートは以前書いた記事のスピンオフというか、番外編です。


    そして、好きな子が友達の彼になったという件くだりは、このショートショートに出てきます。



    今回は実話仕立てのショートショートでお届けします。
    実話とは言っても、まるっと実話な訳ではありませんが、それに近い感じですね。
    私の中高時代の数少ないきゅん♡な思い出ですw
    それを80年代のコバルト文庫チックな文体で書いてみました。一人称の「あたし」表記ですね。

    実際、お相手の気持ちを確かめた訳ではありませんし、本当のところはどうだったのか分かりませんけどね。まぁ「思い過ごしも恋のうち」って曲もあるくらいですから。思い込み上等!なのです。
    それでも、私が「しんやくん」(目が合うひとでは、苗字でK君って表記しています)を好きだったことは紛れも無い事実ではあります。

    思春期の頃のきゅん♡な感じ出ていたでしょうか?
    出ていたらいいなぁと思います。


    今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪


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