
~の場合 ⑥、カレン。
今まで寝ていた男が、ドアを叩きつけて出て行く。光を求めて出て行く。
夜の明かりに群がる一匹の蛾だ。人ではない。
朝日が昇る頃、今夜限りの蛾は、電柱の下で羽をもがれて、動けない。
借金の取り立て屋が去った後の、なにも無い部屋。
女が貯めた金を掴んで、男は抜け出した。
カレンは、今夜こそトムを忘れようと思う。
待つのをやめようと思う。
エレノア・ゲイナーの唄をまた聴こう。
何ていう歌だったっけ。
男に棄てられた女が、だんだん立ち直って、男を拒絶していく物語。
そんな筋書きだった。
カレンは、最後の歌詞だけは今でも覚えている。
And I'll survive, I will survive, I will survive !
大声で唄ってみる。
私は生き抜く 生き抜いてみせるわ!
大声で叫んでみる。
トム、どこに居るの。
今夜もどこかで、寒さに凍えているの。
歌だって、いっぱいあるの。
人生の種類だって、いっぱいあるの。
今夜も戻って来て、トム。
今夜も待ってるわ、トム。
Fin.
アースナルK
「#創作大賞2026」と「#オールカテゴリ部門」