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バンドを組んだことがない

    バンドを組んだことがない。
    36歳にもなってバンドの一つも組んだことのない人間が私以外にいるだろうか。私以外の人間はみんなバンドを組んだことがあるように思えて、バンドを組んだことがないのがめちゃくちゃにコンプレックスだ。

    バンドというのは概念の話であって、つまり他者と共同体を作り、関係性を構築してプロジェクトを遂行するみたいなことで、誰かとポッドキャストを始めることだったり、何人かで小冊子を作ることだったり、結婚して家族を作ることだったりするんだと思う。

    ほら、そう思うとどうですか。皆さん広義のバンドを組んだことがあるんじゃないですか。大きく言ったら会社で仕事をすることもそういうものだと思うのだけど、生憎私は一人で土を焼いている。土を掘ってもひとり。石を砕いてもひとり。薪を割ってもひとり。窯を焚いてもひとりである。バンドを組んだことがない!

    人生で一度も、誰かにとってバンドを組みたいやつじゃなかったことが恥ずかしい。共同体の維持に心を砕いて、私だって他者との生活エッセイを書いてみたいんだ本当は。

    年に一度会うかどうかの父親が酒を飲むたびに孫がどうのこうの言ってくることが嫌だったけど、自分の子供が36年生きてバンドの一つも組んだことがなかったら、バンドの一つも組んでくれや!と思うかもしれない。ごめんお父さん。バンドの一つも組めない娘で。心配なのわかるよ。

    それにしても、これを書いていてたった今気付いた恐ろしい真実がある。私はバンド組もうよと言われたことがないのはもちろんのこと、それに加えて、ただの一度もバンド組もうよと誘ったことがない。これは私がバンドを組んだことがない大きな原因なんじゃないか。

    バンドを組んでいる人は、必ず誰か一人が最初に「バンド組もうぜ」と言っている。そんな当たり前のことに気付くまで36年もかかってしまった。

    恐ろしいことに私はこの期に及んで、性懲りもなく、この文章を読んだ誰かが「バンド組もうぜ!」と言ってくれることを望んでいた。そのことに気が付いて目眩がした。バンド組みたいならまず誘うとこから。「バンド組もうぜ!」と誘う勇気。バンドを組んだことがない。

    バンドに誘われたことがないと言ったけど、本当は一度だけある。
    私の通っていた高校は毎週校内のどこかでライブが行われているような所だったので、その気になればいつでもライブに出ることができた。固定のメンバーで組んでる人はそんなに多くなくて、入れ替わり立ち代わりいろんな人が音楽をやっていた。

    同じクラスの永田くんとteasiの壁新聞というアルバムやばいよねって話をしていて、ライブでやろうよという話になった。
    絶対やろうと答えたけど、どうしてもステージに立つ勇気がなくてその話は立ち消えてしまった。人前で歌う勇気がなかったし、実のところ今だってない。あの時ステージに立つ勇気があったら、永田くんとバンドを組んでたかもしれない。永田くんとは高校を卒業してからもよく遊んでいたけど、気づけばもう8年くらい会っていない。永田くん元気ですか。まだベース弾いてますか。先週壁新聞サブスク解禁したらしいよ。また荻窪から中野まで歩いてはなまるうどん食べたりしよう。

    バンドを組むには、誘う勇気と、ステージに立つ覚悟が必要らしい。私にはどちらもなかった。

    私はひとりでどこにでも行ける。でも、これ以上ひとりで行きたい場所がない。
    窯を焚き終えて、冷たい床に寝転んだとき、そのことが急に寂しくなった。
    バンド組みたい。今度は私が誘うから。

    #創作大賞2026
    #エッセイ部門


     
     

    宮田

     
     
    陶芸家。語り得ぬものについて語ってダサくなったりしながら生きたいと思っています

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