
タルトレット
「美味しいタルトレットを頂戴し、ありがとうございました。」
四十年も前に読んだ手紙の一節を、カスタード味のタルトとともに思い出す。
卵色のタルト生地に、缶詰めの黄桃と搾られた白い生クリーム。亡き母の作った、この甘いおやつが私は大好きだった。
まんまるにふりふりと波打つタルト型と、楕円にふりふりがついたタルト型の二種類。どちらも小型の一人用のもので、それを使い三人の子供のお腹と気持ちを満たすお菓子を焼く。一人いくつずつ食べられるかを、必ず数えたものだった。
ただ、当時その私の心を弾ませた焼き菓子と「美味しいタルトレット」が、どうしたって結びつかなかった。
母がご近所さんや子供の友達のお母さんなどに焼いて渡したのであろう。そのお礼とレシピを尋ねる手紙。
「美味」しい「タルトレット」の字面と、母のタルトはなんだか少し違ってみえた。
あとから知った。
大きな型で焼くのがタルトで、母が使っていたような小さな型で焼くのがタルトレットなのだと。手紙の主は、その違いを知っていたのだろう。
しかし幼い私にとって、あの焼き菓子は「お母さんの焼いたおいしいタルト」であった。
それは今もたぶん、変わらない。
カラメルが苦めの、やや固い焼きプリン。フォークでつつくとぷるんとふるえる真っ白なヨーグルトケーキ。並んで型抜きしたクッキー。表面がてらっと光るアップルパイ。
思い出のおやつはたくさんあれど。
「美味しいタルトレットを頂戴し、ありがとうございました。」
誰が書いたのかわからない一文とともに、私は思い出す。母の横顔を見ながら食べる甘いタルト。
その生地の欠片がぽろぽろと、白い皿にこぼれ落ちた。