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百八十年の帳面  #1

    【あらすじ】

    創業百八十年。

    石川県の小さな島で長く愛されてきた
    老舗和菓子屋「ひだまり庵」。

    しかし
    時代の流れとともに客足は減り、
    店の売上も年々減少、店は静かに岐路に立たされていた。

    一人娘の紬は、家業を継ぐべきなのか、それとも別の道を探すべきなのか
    答えを出せずにいた。

    家族とはぶつかる日々。少しずつ心も削られていき
    自分に自信がなくなっていた紬。

    そんなある日、閉店後の店で見つけた一冊の古い帳面が、
    紬の日常を少しづつ変え始める。

    そこには、代々の店主が書き残したお客さんとの出来事や、
    誰にも語られなかった想いが書き綴られていた。

    和菓子一つひとつの向こう側にある人生に触れるたび、
    紬は知らなかった「ひだまり庵」の本当の姿を知っていく。

    第一章  まだ春は遠く。


    「今日は5組か、有難いねぇ」

    閉店の準備を黙々と進める母が
    レジを閉める時、ぽつりとつぶやく言葉。

    私は今日も聞こえてないふりをする。

    聞こえていた。

    聞こえてないはずがなかった。


    ひだまり庵


    創業百八十年。

    老舗和菓子店「ひだまり庵」。

    祖父の時代には閉店まで、行列ができていたと聞く。

    けれど今は違う。

    店に来るのは昔からのお客さんばかりだ。

    3人くらい紹介しよう。

    毎日同じお饅頭を3つ買っていく、腰の曲がった文世さん。

    必ず1時間おしゃべりをして帰る、のっぽの拓郎おじいちゃん。

    今日のおすすめの品を喜んで買い占める、めぐおばさん。

    他にも何人かいるんだけど…きっと出てくるからまた後で。



    いつまで続くのだろう


    そんなこんなで嬉しいはずなのに、時々怖くなる。

    数年後も、この店はここにあるのだろうか。

    私は、この先、どうしたいんだろう

    ってね。

    小さい頃、和菓子は好んで食べなかったけど、

    両親の作る和菓子は大好きだった。

    今も変わらず好き。

    でも、好きだけで続けられるほど現実は優しくないことを
    高校生くらいからうっすら感じて
    大人になった今。日々痛感中。

    店に来るお客様は、多くても10組ほど。
    レジの数字を見るたびに、私は電卓を叩かなくても答えがわかってしまう。

    だから母が毎日報告するように呟くあの言葉が
    大っ嫌いだ。

    だから私は…

    「5組で喜んでる場合じゃないでしょ!」

    と怒鳴ってしまった。

    母は怒るわけでもなく、

    言い返すわけでもなく、

    目を伏せて、ただ小さく笑って

    「そうやね」

    と一言。

    でも、その顔が妙に引っかかった。

    まるで私がまだ知らない何かを知っているみたいで。

    その場にいるのが嫌になった私は、逃げるように倉庫へ向かった。


    倉庫の奥

    「へぇ、こんな型があったんだ」

    「この棚まだ使えそうじゃん」

    中には、掘り出し物がたくさんあって
    母との会話をすっかり忘れて

    あの時の私は夢中でなにかを探していたんだ。

    この先も店を続けているという希望を。

    自分がここにいていい理由を。

    今となっては、わからない。

    ただ、その日だけはなぜか埃だらけのこの倉庫の奥が気になった。

    まるで、誰かに呼ばれているみたいに。

    埃を被った木箱を見つけたのは、その時だった。

    見たことのない形の箱。

    蓋を開けると、

    中には、一冊の古びた帳面が入っていた。

    表紙は茶色く変色し、端は擦り切れている。

    私はそっと最初のページをめくった。

    そこに書かれていた言葉を見て、思わず息を呑んだ。



    『ひだまり庵はー』


    ー続くー







     
     

    都花

     
     
    夢は、たくさんの人を笑顔にすること。

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