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宮本浩次「60周年記念公演 さあ、ドーンと行くぜ!」 天上階から地上に降りた夜

     宮本浩次のバースデーコンサートは、毎回ぴあアリーナ MM最上階ばかりで、昨年のnoteには「ちなみに席は、もはや定位置となっている心眼を発揮せざるを得ない天上階。地上に降りて歌声を聴いたら、きっと即死だろうな。」と書いていたけれど、とうとうその時がやってきた。なんと、今回はアリーナ特別指定席に当選。

     薄暗い会場に入って、昨年書いた「即死だろうな」との言葉がフッと頭をよぎったので「いやいや、 むしろ生き返る」と返した。私には結界が張られていたはずのアリーナ前方に進み、一桁台の列の中でもさらに前方の席に着いた。「近い」という言葉では足りるはずのない距離にソワソワしながら周りを見回していると一人の綺麗な女性がやってきて私の右隣に着席した。

     お互い当たり前のように「よろしくお願いします。」と頭を下げる。そして、「凄い近いですね…。」と確かめ合うように言葉を交わした。柔らかな品の良さと、パッと周りを明るく照らすような空気を纏っていて、不思議と心も綺麗な人なんだろうなぁ、なんて思った。

     定刻となり客席の照明が落ちる。暗闇のなか会場内が静まり返る一瞬が開演前の緊張感の頂点。そして、ステージにライトが灯った瞬間に解き放たれた歓声と拍手が場内を駆け巡った。ステージに目を向けると、スクリーンには楽屋からステージに向かう宮本浩次の映像が映し出され、カメラと共に追いかけた。まもなくスクリーンから抜け出したようにステージ上に姿を現し1曲目は、ドラマ主題歌にもなった『I love人生!』この曲の持つ、鳴りの良さを全身で浴びて一気にその場に引き込まれる。

     もう、ど頭から完璧なスタート。

     そして2曲目は、なんとエレカシの曲『漂う人の性』しかも、ドラムの音がすごいのなんのって、ズンッズンッと心臓を直撃して音圧に耐えられないほど。ずっと重ねた両手で胸を支えて聴き入った。

     双眼鏡を手にするのが無粋なほどの距離で見るステージは、今までの天上階とは違い、ステージのサイズ感が手に取るように分かるし、歩幅も速度も身のこなし方もなぞるように分かる。 『over the top』『昇る太陽』とハードな曲が続き、ステージの端から端、花道までも縦横無尽に駆け巡り全力で歌い続けるなんて尋常じゃない。

     自分も歳を重ねた今だからこそ、私より年上の宮本浩次の身体を思うと、本当に最後までステージを全うできるのか心配になったし、これまでのコンサートも、ずっとこうしてやってきたのかと思うと少し怖くなった。それに、花道を進む姿を追っていくと、自然と正面の観客席を臨むことになる。暗闇に白く浮かび上がる、そびえ立つような観客席の光景はちょっと言葉に出来ないほど荘厳に映って、彼の目にはこのような景色が広がっているんだな、と呆然とした。

     私の心配をよそに10曲目の『close your eyes』を歌いきって一部終了。私はステージ方向の通路わきの席なのをいいことに、周りを気にすることなく、気が付くと随分と前のめりになっていた。慌てて右隣の方に「スミマセン、身体が前に出ていたようで邪魔になっていませんでしたか?」とたずねると「大丈夫ですよ。こんなにイイ席なんだから楽しまないと。」との返事をもらって、肩の力が抜けたのと、嬉しくも恥ずかしくなった。

     二部では、ニューアルバムの『愛を抱きしめろ』が披露された。宮本浩次の内にある密度を持った音とリズムが表出したような曲で、その着火力と推進力に一気に会場が熱を持ち始める。さらには、クラップを促す宮本に全力で応えるように観客が打ち鳴らすハンドクラップによって会場自体が脈打つような一体感に包まれた。

     そして、中盤の『俺たちの明日』で私にとっての事件が起きた。花道に進んだ宮本浩次が、ステージを降りて客席を練り歩きはじめた。それを、スクリーンで眺めていたら、前方のステージと観客席の間にある柵を腰を下ろして支えていた会場スタッフが立ち上がり、その柵を開放したので「まさか!?」と思ったら、後方から鮮烈な照明がカーブを描きこちらに向かって来るのが分かった。

     こんな時、人って一人では受け止めきれないのかもしれない。思わず振り返って隣の方に「どうしよう!こっちに来る!」と助けを求めるような声を上げると、彼女は黙って私の両肩をガシッと掴んで目をみつめ、大きく頷いてくれた。私はその頼もしさに救われる思いで、通路に向き直って宮本浩次が通るのを待つと、直ぐに、ほんの一瞬、光の中を通り抜ける影のような身体が目の前をかすめて行った。照明が眩しすぎて顔を確かめる余裕も無かったけれど、見送った後ろ姿は紛れもなく人の身体だったし、男性にしては華奢すぎる体格になんとも言えない気持ちになった。そして、あの身体でステージを背負い、あれだけの観客の期待を背負っているのかと思ったら「細くてカッコいい」なんて無邪気に言っている普段の自分の残酷さを思った。

     そこからは『ハレルヤ』『 Today -胸いっぱいの愛を-』『 あなたのやさしさをオレは何に例えよう』と祝祭感いっぱいの曲が続いて途切れることなく高揚感が続いた。また、ハレルヤでは60周年記念のロゴがプリントされた銀色のテープ、Todayでは金色の紙吹雪が舞い、どちらも天を仰いでいたら自然と手元に舞い降りてくるという幸運もあった。ここまでくると、自分は今日死ぬのか?なんて思ってしまう(笑)そして、それでもいいかな、なんて思えてしまう。

     三部では、痺れるような深紅のスーツ姿で登場して圧巻の『 冬の花』『 P.S. I love you』を披露した。 P.S. I love youの最後で、自分の肩に両腕を回して、自分自身を抱きしめるような姿を見せたのが、この場の全てを抱きしめているように思えて、なんだかグッときてしまった。

      P.S. I love youが終り、今日のコンサートで何も思い残すことは無い、と幸せを噛みしめたところで、宮本が腰を落として中腰となって、上半身をダラリと前に倒し片手を膝に置いた。このポーズを見た瞬間に、ヤバイのが来るな…とピンッときたところにエレカシの『RESTART』の前奏が流れて「そう来るかっ!」とテンション爆上がりした。決意表明としか思えない曲を、凄みを効かせて歌う姿の後ろのスクリーンには今までの宮本浩次の数々の映像が流れた。アレもコレも見覚えのある姿で、それを見ていたら、涙がこぼれ落ちないまでも自然と目の前が霞んでくるのは仕方がないと諦めた。

     コンサートの最後はスクリーンに映った60本のローソクを、宮本浩次の号令で会場の皆で吹き消すというファンサービスもあって、一気に和やかな空気が流れた。そして、I love人生!をBGMにしてステージを後にする彼の姿を皆で見届け終演となった。

     客席の照明が灯って現実に戻ると、改めて隣の女性と「凄かったですね…」と確かめ合い「さっきは、スミマセン。初対面なのに肩を掴んだりして。」と彼女が言うので「いいえ、かえって助かりました。」との言葉を交わした。そして、「花びらを貰いに行きませんか?」と声をかけてくれた。今回は、銀色のテープ、金色の紙吹雪の他に『冬の花』で赤い花びらが舞った。ただ、それだけはステージ中央付近だけに降ったようで手にすることが出来なかった。彼女は足早に前方のステージと客席を隔てる柵まで行くと、柵の内側にいる会場スタッフの方に花びらを貰えるようお願いして何枚か貰った半分を私の手に渡してくれた。

     これに満足して会場を出ようとしたところで、また彼女に「せっかくだから、スクリーンをバックに一緒に写真を撮りませんか?」と言われて、60周年記念のコンサートタイトルが映ったスクリーンを背にして、二人並んで夫々のスマホで自撮りをした。こうなると、初老にして気分は女子高生(笑)

     今夜は、彼女に最初から最後までお世話になってしまった。会場から外に出て「じゃあ、ここで」との別れ際、何故か私は「それじゃ、また!」なんて言ってしまって、直ぐに「やだっ、次なんて無いのに…」と一人でツコッミを入れると、笑顔で彼女が「じゃあ、また!」と返してくれた。そのままお互いコンサート帰り客の雑踏にまぎれて、それっきり彼女の姿を見ることは無くて、なんだか青春じゃない?なんて思った。

     今こうしてnoteを書きながら、今回のコンサートは、特別席のチケット以外にも、あれもこれも、たくさんのサプライズがご用意されていたんだな…と感謝の気持ちでいっぱになった。

     そして、コンサートでの『 あなたのやさしさをオレは何に例えよう』の歌詞の『敗北と死に至る道が生活ならば あなたのやさしさを オレは何に例えよう』がまるで自分の言葉のように思えて、ステージを丸ごと引き受けてくれた生身の宮本浩次と、あの時の彼女のやさしさを私は何に例えよう…なんて考えている。

     


     
     

    Rin

     
     
    勤続約30年。気が付けば50代となり、初老のOLとなりました。長いものに巻かれつつ、大人の本気を見かけると奮えます。日々の雑多を書いています。

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