
SW×研究ノート 第10話「現場の問いが、研究になる日まで」
——「ソーシャルワーカーのための研究ガイドブック」を読み終えて
このシリーズは、📖 「ソーシャルワーカーのための研究ガイドブック」(日本ソーシャルワーク学会 編・中央法規出版)を読みながら、学んだこと・気づいたこと・自分の研究への接続を記録する読書ノートです。
第10章を読み終えたとき、この本を閉じながら、少しだけ泣きそうになりました。
山内さんが大学院を修了する最後の場面。
「実践現場に身を置きながら修士号を取得し、研究面から相談室を主導していかなければならないという新たな決意を胸に」
——その一文が、自分のことのように感じられたからです。
第10章で学んだこと
① 13種類の研究手法——「問い」によって道が変わる
第10章は、実際に書かれた13本の論文を素材に、それぞれの研究手法を解説しています。
評価研究、政策研究、実証研究、プログラム評価研究、理論生成研究、事例研究、国際研究、文献研究、歴史研究、アクションリサーチ——。
これだけ多様な研究の形があることを、正直それまで知りませんでした。「研究=アンケートか、インタビュー」というくらいのイメージしかなかった。
でも本章を読むと、どの手法も「問いに対して誠実に答えようとする形」として選ばれていることがわかります。
自分の問いが研究の形を決める。
それが、この本全体を通じて繰り返されてきたメッセージです。
② 「これから〇〇研究を行う人へ」という言葉
各節の末尾には必ず「これから〇〇研究を行う人へ」というメッセージが添えられています。
そこに書かれているのは、きれいごとではありません。
「先行研究が少ない分野だから、チャンスが大きいということを意味する。そのためその研究の結果が新しい知見を含む可能性が高い」(実証研究②)。
「調査対象となるフィールドにかかわりながら、実践者の現任仕様研修に講師として関わり、また研究の分析協力者との同僚的な実践を経てきた信頼関係が構築されたからこそ実現した調査であった」(実証研究①)。
現場を知っているからこそできる研究がある。
現場にいたからこそ生まれる問いがある。
それを、この本は最後まで肯定し続けています。
山内さんの物語と、私の物語
この本には「主人公」がいます。
精神科医療ソーシャルワーカーの山内さんです。
現場で感じた「なぜうまくいかないのか」という問いから出発し、聴講制度で研究の基礎を学び、倫理審査を通り、量的調査と質的調査の両方を実施し、学会発表で緊張しながら発表し、真っ赤になった原稿を何度も書き直して、修士論文を1月7日に完成させた。
読んでいる途中から、その姿が自分に重なって見えていました。
私も、ソーシャルワーカーとして10年、家族介護者に寄り添い続ける中で、「なぜこの人は支援につながれないのか」「なぜ仕事と介護を続けることがこんなに難しいのか」という問いを、言葉にできないまま積み重ねてきました。そして自分自身が介護離職を経験したとき、その問いは「知りたい」から「明らかにしなければいけない」に変わりました。
研究をしようと思ったのは、その問いに向き合うためです。
この本が、その道を整えてくれました。
この本から受け取ったもの
全10章を読み終えて、私が受け取ったものを整理してみます。
「問いは現場から生まれる」という確信。
研究は大学の中で生まれるのではない。
支援の現場で、何度も感じた「なぜ」が、問いの種になる。
それを磨いて研究にしていくことが、実践者にできる研究のかたちです。
手順の見通し。
RQの育て方、先行研究のレビューの方法、インフォームド・コンセントの5要素、概念化の8ステップ、抄録の書き方、査読への回答書
——これらを、一つひとつ丁寧に教えてもらいました。
わからなかったことに、言葉が与えられました。
「研究者」と「実践者」は矛盾しない。 この本の最も深いメッセージは、ここにあると感じています。プラクティショナー=リサーチャー(実践者であり研究者)——現場の経験が厚いからこそ、問いが鋭くなる。
現場を知っているからこそ、データの意味が見える。
そして、「転移可能性」という言葉(第7章)。
研究の成果が、また現場に戻っていく。
そこに、現場SWが研究をする意味があります。
「現場の問いは、研究の入口だった。この本が教えてくれたのは、その道の歩き方だった」
このシリーズを振り返って
#0 「なぜ現場SWが研究を語るのか」——出発点
#1 「現場の問いが研究になる」——実践者がリサーチャーになる意味
#2 「研究活動とはどのようなものか」——形式知と暗黙知
#3 「研究環境をつくる」——資源を集め、環境を整える
#4 「研究をデザインしよう」——問いは、育てるものだった
#5 「研究の倫理を知ろう」——「同意しました」は本当に自由意思か
#6 「データを集めよう」——「誰に・何を・どう聴くか」を設計する
#7 「データを分析・考察しよう」——語りは、分析されることで何になるのか
#8 「学会発表をしてみよう」——研究を「外に出す」ということ
#9 「研究論文を書いてみよう」——「新たにわかった」を、文章にするということ
#10 (本稿)「現場の問いが、研究になる日まで」——シリーズを終えて
これから
就労を継続してきた家族介護者へのナラティブ・インタビュー。その研究は、これから始まります。
インタビューの設計、倫理審査の申請、対象者へのコンタクト、逐語録の作成、概念化の作業
——この本が教えてくれたすべてが、これから実際の作業として始まります。
この読書ノートは、そのための準備でした。
そして、同じように「現場の経験を研究にしたい」と思っているソーシャルワーカーや支援職の方に届いたなら、それ以上の喜びはありません。
百里の道も一歩から。まず、歩き始めます。
このシリーズで参照した主な文献
・日本ソーシャルワーク学会 編『ソーシャルワーカーのための研究ガイドブック』中央法規出版
【本書の参考図書一覧より(第10章掲載)】
・佐藤俊一(2004)『対人援助の臨床福祉学——「臨床からの学」から「臨床への学へ」』中央法規出版
・木下康仁(2003)『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践——質的研究への誘い』弘文堂
・岩田正美・中谷陽明・小林良二・稲葉昭英 編(2006)『社会福祉研究法——現実世界に迫る14レッスン』有斐閣
・佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法——原理・方法・実践』新曜社
・田中千枝子・日本福祉大学大学院質的研究会 編(2013)『社会福祉・介護福祉の質的研究法——実践者のための現場研究』中央法規出版
・河野哲也(2002)『レポート・論文の書き方入門 第3版』慶應義塾大学出版会
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