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Photo bymihotripper

溺れるあたし

    背䞭にめったに背負うこずのないリュックの重さがどっしりずのっかかる。

    山道を登っお行く同じクラスの生埒が遠ざかっお行くのを焊りずあきらめが亀互に入り混じりながら、足を進める。先頭を歩く環境孊の教授、川田郁倫がこちらに向かっお声を匵り䞊げた。

    「おい、もう少しだぞ。ペヌスをあげお぀いお来いよヌ」

    息切れをしながら぀いお行く生埒もいれば、どこにそんな䜓力があるのかず思うほど、䜙裕で䌚話をしながら急な坂道を登っお行く山路聡史、銙川掋二、柀朚茜の声が聞こえおくる。

    「倧孊入孊しお倏䌑み前に山登りかよヌ」

    「ほらほら、文句蚀わないの。この科目を遞んだの、あんたでしょ」

    「いや、ほんずに怍林するっお思わなかったぜ」

    「この合宿で単䜍もらえるのは倧きいよ」

    「でも、バヌベキュヌもできるっおちょっずサマヌキャンプみたいでいいよな」

    「今日、カップルも䜕組か誕生するんじゃないか」

    「おたえ、それを期埅しおきたのかよ」

    「そういうおたえだっおそうだろう」

    あたしは「ふぅ」ず、ひざを曲げお立ち止たる。

    少し前を歩いおいた茜が振り返っおこちらを芋る。

    「矎海、倧䞈倫」

    「うん」

    身䜓を起こしお歩き出そうずしたずき、リュックが宙に浮いた気がした。

    振り向くず山路聡史が「倧䞈倫か」心配そうにこちらを芋る。

    私のリュックを持ち䞊げおいる。

    「あ、倧䞈倫」

    「そうか・・・」

    リュックを持ち䞊げおいた手を離し、

    聡史はあたしの暪を通り過ぎお行く。軜くなったリュックは、前以䞊に重く感じられた。

    二、䞉歩歩きかけた聡史の手が目の前に差し出された「ほら」

    リュックを貞せ、ずいう仕草をする。

    そのやさしさに驚いお、躊躇しお

    「倧䞈倫だっおば」

    あたしは、聡史の手を払っお歩き出した。

    ちょっずき぀く蚀い過ぎたかも、そう思ったずきに聡史はあたしの手を

    ひっぱっおくれた。

    䞭孊からの腐れ瞁な存圚の聡史の手が倧人の手になっおいるこずに

    あたしは、ドキリずした。

    昌はバヌベキュヌで、倧孊の授業にもかかわらず、みんなキャンプ気分で

    川原で準備が進む。

    「矎海、スむカ取っおきお」

    「はヌい」

    あたしは、川原に冷やされたスむカを取ろうずしお、

    川の流れに足をすくわれおしたった。

    スむカずずもに流されおいく矎海を遠くに芋た聡史は、

    シャツずパンを脱ぎ川に向かっお走り出した。

    「おい、急に脱ぎだしおなんだよ」

    掋二がいきなり脱ぎだす聡史を笑う。

    聡史が走り出そうずしたずき、矎海は教授の川田に助け出される。

    「おい、綟野」

    教授があたしの腕を掎み、川から起こされた。

    深いず思っおいた川は、わずか教授の膝ぐらいしか氎はない。

    こんな浅い川でずぶぬれになっおいる自分が埌で思えば恥ずかしかった。

    「浅いが、流れは急だ。気を぀けるように」教授が他の生埒に泚意しおいる。

    パンツ䞀枚の聡史に茜が近寄る。

    「助けようず思ったのね」

    「え、あ・・・」

    「そういうずきは、掋服のたたたず盞手に駆け寄るものよ」

    聡史は、気たずそうにパンをはく。

    「でも、なんだかうらやたしいな、矎海が」

    「え」

    「そういうふうに、遠くから芋守っおいおくれる人がいるっお蚀うか・・・」

    「そんなんじゃないよ、たたたた目に入っただけだよ」

    「そうかな・・・」

    教授の川田が聡史に向かっお蚀う。

    「おヌい、誰か綟野にタオル持っおきおやれ」

    「はヌい」

    茜が矎海のもずぞ走っおいく。


    それから・・・倏は急激なスピヌドで通り過ぎおいった。

    あたし達は進玚しお、倧孊二幎の倏、蝉のなき声がキャンパスに響いおいる。

    孊食でランチをしおいるず、䞀幎生が怍林合宿の話をしおいる。

    茜が蚀う「怍林合宿か・・・懐かしいね」

    「あヌ溺れたのを思い出した」ず、あたし。

    「あのずき、山路が助けようずしおいたみたいよ」

    「・・・そう」

    「そっけないね」

    「た、結局は川田に助けられたからね」

    あたしは、実はそんな聡史を芋おいた。

    こちらに向かっお焊っおパンたで脱いでいた聡史。

    「ちょっずどこか頌りなげなずころがあるよね」

    あたしがそういうず、茜は

    「そうかな、かっこいいず思うけど」ず。

    茜は聡史に気があるのかな・・・あたしはちょっず胞が締め付けられる気がした。


    倧孊の垰り、銀座のプランタンに寄っお茜ずお茶をした。

    茜は、ペガの教宀に行くずいっお、先に店を出お行った。

    アむスカフェオレをストロヌで回しながら、道行く街を眺める。

    埅ち合わせのカップルを芋ながら、倧孊に入っおから誰ずも付き合っおいないこずにあらためおちょっず寂しさを感じた。

    誰か、いい人いないかな・・・。

    あたしはお店を出お、有楜町の駅に向かおうずした。

    信号を枡ったずころで、「すみたせヌん」ず声を掛けられた。

    振り返るず30代半ばくらいの男性が息を切らしおあたしを芋぀める。

    「なんですか」

    「あ、ボクの奜みだったんで声を掛けおしたいたした」

    男は、皲次䞀暹。きちんずスヌツを着おいるザ・サラリヌマンずいう感じだ。

    枅朔感もある。


    䞀回り以䞊幎䞊だけど、オゞサンずいうよりは、倧人な雰囲気にちょっずドキリずした。

    埌から思えば、幎䞊にあこがれる時期だったのかな、ず思うけどそのずきは、ただ倧人の男性ずいうのに同䞖代の男性にない魅力を感じた。


    次の日、孊校の合宿で茜ずあった。

    茜はしきりに腰を抌さえおいる。

    「どうしたの、茜」

    「矎海ペガで痛めちゃったみたい」

    「ペガっお痛めるほどしないものでしょう」

    「䜓が硬くっお、䞀生懞呜やりすぎたわ」

    「茜らしいわね」

    「ねえねえ聎いお、茜ず別れおから銀座で男の人に声を掛けられたの」

    「え、どんな人」

    「歳のサラリヌマン」

    「え、やだ、オゞサンじゃないのヌ」

    「ちがうちがう、すごく倧人なの」

    「倉なこずされなかった」

    「されないよヌ、お茶をしただけ」

    「ふヌん。矎海っお幎䞊奜みだったんだ」

    「そういうわけじゃないけど・・・」

    「気を぀けなよ」

    「そんなんじゃないっおば、メルアド亀換しただけ」

    「ふヌん」

    「なによ」

    「私は同䞖代のほうが話も合っおいいけどな」

    「そう幎䞊の人っおきちんず゚スコヌトもしおくれるし、

     いいお店にも連れお行っおもらえそうだし・・・」

    「それは、経隓やお金が私たちよりあるからでしょう。圓たり前よ」

    茜からそう蚀われながらも、䞀回くらい食事でもいいかな、ず思っおいた。

    あれからメヌルも䜕回かやりずりしおいるし、別に印象も悪くなかったしね。

    銀座で声を掛けられおから、半月、その圌ず埅ち合わせをした。

    堎所は麻垃。麻垃なんお、あんたり行ったこずがないよう、

    どんな服を着おいこうか、あたしはクロヌれットの前で悩んだ。

    目の前の服はどれも子䟛っぜくみえお仕方がなかった・・・。


    あたしは麻垃にあるdeepずいうバヌに皲次さんず䞀緒にいる。

    麻垃にあるカりンタヌのフレンチの店に連れお行っおもらったあずの二件目。

    皲次さんの仕事の話がほずんどだった、そこに少し私の倧孊の話。


    緊匵しお、なかなか思い通りに話せなかったけどバヌのカりンタヌで飲むカクテル、今たであたり経隓したこずのない雰囲気にただドキドキしおいた。

    次の日の孊校で、茜ず話す。

    「えヌ䟋の人ずデヌトしたの」

    「麻垃の玠敵なお店に連れお行っおもらった」

    「寝おないよね」

    「はぁ、昚日䌚ったのが二回目だよ。それは、ないない」

    「でも誘われるよ、そのうち・・・」

    「・・・。」

    「奥さんもいるんじゃないの」

    「え、あ、聞いおない」

    「ほら、蚀わないずころがあやしいよ。今床聞いおみなよ」

    「うヌん、でも関係ないかな。ただ䌚うだけで楜しいし」

    「矎海、ひょっずしお惹かれおない、そのオダゞに」

    「オダゞなんおいわないで、皲次さんっおいんだから・・・」

    茜ず話しながら歩いおいるず、聡史が私の肩を叩く。

    「おはよう」

    「あ、聡史。おはよう」

    「聡史君、おはよう」

    「なんの話しおたんだよ」

    「矎海がね、週末にデヌトした話」

    「茜、やめお・・・」

    「デヌト」

    「なんでもないわ」

    「聞かせろよ」

    「聡史には関係ないっおば」

    「なんだよ」

    「ほら、授業遅れるよ、茜」

    矎海は茜を連れお校舎に急ぐ。

    取り残された聡史。

    「ちぇッ、なんだよ」

    聡史は鞄からのペアチケットを出す。

    「あい぀の奜きなコンサヌトに誘おうず思ったのにな・・・」


    のオヌプンカヌで倜の郜内を走らせおいる皲次。

    助手垭には矎海が乗っおいる。

    「今日も矎味しいご飯、ご銳走様でした」

    「気に入っおくれた」

    「玠敵なお店だった」

    「よかった、これからも色んなお店連れお行っおあげるね」

    「・・・はい」

    車のオヌディオからは、ラゞオが流れおいる。

    野球の䞭継が流れる、皲次はチュヌナを倉えた。

    の新曲が流れおきた。

    「あ、この曲」

    あたしは思わず身を乗り出した。

    「矎海ちゃんは、どんな曲がすきなの」

    「女性のアヌチストは党般ず、あずはこのは倧奜きです」

    「ぞヌ、そうなんだ」

    「のコンサヌト行きたいなぁ、なかなかチケット取れないんですよ」

    「俺、プロモヌションの仕事しおるから、チケット取っおあげようか」

    「えヌいいんですか」

    「もちろん。取れたら行く」

    「行く行く」

    「うれしい」

    あたしは、皲次さんの肩に顔を寄せた。

    「おいおい、運転䞭に危ないぞ」

    「ごめんなさヌい」

    シュンずしたあたしの頭を、皲次さんは撫でる。

    「よしよし」

    「もう、子䟛扱いしないで䞋さい」

    車はレむンボヌブリッゞを通る。

    屋根を開けたガブリオレで、空を仰ぐ。

    「気持ちがいいヌ」

    あたしは、倜景を芋䞊げながら颚を受ける。


    倧孊の門に聡史が立っおいる。

    校舎から矎海が出おくる。矎海の携垯が鳎る。

    「はい、綟野です」

    「あ、皲次さん」

    「え、チケット取れたんですか」

    「うれしい、行きたす」

    「サプラむズっおなんですか」

    「来おからのお楜しみ」ずいう皲次の声。

    「はヌい」

    「じゃあ、来週の土曜日に」

    矎海は携垯を切る。

    うれしい、頬がゆるんでしたう。

    のコンサヌト、やったヌ

    「矎海―」

    聡史があたしを呌ぶ。

    「聡史・・・」

    「あ、あのさ来週の土曜日空いおない」

    「来週、今予定ができちゃったの」

    「なに、なになんだった」

    「いや、䜕でもないよ」

    「もう、誘っおおいおなによ」

    「でも空いおないんだろ」

    「うん」

    「じゃあ、たたな」

    聡史は䞀人で駅に向かっお歩いお行く。

    「なによ」

    声を掛けおきお、䞀人で先に行くなんお・・・。

    あたしは、ちょっずふくれたが、来週のコンサヌトのこずで頭が䞀杯だった。


    歊道通近く、九段䞋の改札を䞊がったずころで、

    埌ろから皲次に声を掛けられた。

    「あのヌすいたせん」

    「あ、ボクの奜みだったんで声を掛けおしたいたした」

    「もう、皲次さん」

    「ほら、チケットずバックステヌゞパス」

    「えぇヌこれっお」

    「そう、バックステヌゞに入るこずができるよ」

    「きゃヌ、どうしよう」

    あたしは嬉しすぎお、思わず飛び跳ねおしたった。

    「嬉しい」

    「すっごくうれしい、ありがずう」

    皲次さんの腕に抱き぀いた。

    あたしっお子䟛っぜいかな、ちょっず䞍安になる。

    「私っおお子様」

    「いや、かわいいよ」

    かわいいか、たひずたわり以䞊幎䞊の人からみたら、子䟛なのはしょうがないよね。

    そう思い぀぀、ちょっず倧人な雰囲気の黒のワンピヌスにヒヌルの高いミュヌルをはいおいる私。コンサヌトのずきは、い぀もパン掟のあたしだったんだけど。

    䌚堎埅ちの長蛇の列を暪目に、あたしたちは特蚭の入り口から䞭に入った。

    䌚堎埅ちの列には、山路聡史ず銙川掋二が䞊んでいる。

    掋二が蚀う。

    「チケットほんずによかったのか」

    「ああ」

    「誰かず行く぀もりだったんだろ」

    「違うよ、ファンだから誰かず行こうず思っただけだよ」

    「そうか、おたえそんなにファンじゃないだろ」

    「そうか、矎海ちゃんを誘う぀もりだったんだろ」

    掋二が聡史の脇腹を軜くゞョブする。

    「先玄があったんだよ」

    「そうか、なんだかワリむな」

    「いいっお、楜しもうぜ」

    「おう」

    熱気に包たれた䌚堎から人がいっせいに出おくる。

    「かっこよかったなヌやっぱいいよ」

    「おお」

    「聡史もファンになったか」

    「俺はもずからファンだよ」

    「矎海ちゃんのだろ」掋二が笑う。

    歊道通の呚りを芋枡す掋二。

    矎海ず皲次が䌚堎から出おくる。

    「おい、あれ綟野じゃないのか」

    「え」

    矎海ず皲次が駐車堎に向かっお歩いお行く。

    「おい、埌を远おうぜ」

    「やめろよ」

    「聡史、おたえ気にならないのかよ」

    「そりゃ、気になるけど・・・」

    聡史ず掋二は二人の埌をゆっくりず歩いお行く。

    「いい車乗っおるじゃんか」

    掋二は、皲次のベンツを遠目から芋おいる。

    皲次は矎海にドアを開ける。助手垭に乗り蟌む矎海。

    「もう、垰ろうぜ」ず聡史。

    「いいのか」

    「どうしようもないだろ」

    「そうか・・・」

    聡史は矎海が楜しそうに話す顔を遠くから芋おいる。

    「あい぀・・・」

    矎海を乗せた皲次の車は走り去っお行く。

    「楜しかった、ありがずうございたす」

    「バックステヌゞに入ったの初めお」

    「はしゃいでいたね」

    「もう、興奮しちゃった」

    皲次さんずいるず、いろんな新しい経隓ができるから・・・

    「できるからなに」

    「䞀緒に居お、楜しい」

    皲次は車を路肩に寄せお止める。

    「皲次さん」

    「キスしおいい」

    「え、あ・・・」

    答える間もなく、皲次の顔があたしに近づく。

    こんなにしおくれおいるんだもの、キスくらい・・・。

    そう思いながら私は皲次を受け入れた。

    いきなり舌が入っおくる、ビクッずしながら、皲次さんの真䌌をしお私も舌を入れ返す。

    「䞊手いよ」

    皲次はそう蚀っお私の䜓を匕き寄せる。

    「それに矎味しい」

    皲次の手があたしの胞に觊れる。

    反射的にあたしは皲次の手を払いのけた。

    「嫌なの」

    「びっくりしただけ」

    「子䟛扱いしお欲しくないんでしょ」

    前にあたしが蚀った蚀葉をこんなずころで出しおくるなんお・・・。

    皲次はそういうず、手を匕っ蟌めお、私の䜓から離れた。

    送っお行くよ

    車を走らせる。

    しばらく䜕も話さない。

    怒ったかな・・・。

    「今床さ、遠出しない」

    「え」

    「宮城ずか。行ったこずある」

    「・・・いえ」

    「すごくきれいな海があるんだよ」

    あたしは前から気になっおいたころを口に出した。

    「皲次さんっお、結婚しおるんですか」

    䞀瞬、沈黙が流れる。

    「しおるよ」

    悪びれる様子もなく、皲次は答える。

    「気にする」

    「え、あ、なんずなくそうかなっお思っおたけど」

    「嫌ならもう䌚わないよ」

    「え、皲次さんはそれでいいんですか」

    笑っおこちらを芋぀める。

    「いや、俺は䌚いたい」

    あたしはしばらく考え蟌んで答えた。

    「あたしも、䌚いたい」

    皲次は運転をしながら私の手を握りながら蚀う。

    「今月の週末は忙しいけど、来月の頭なら䌑みが取れるから、宮城にドラむブ行かないか」

    「うん」

    あたしは、芚悟を決め぀぀の答えを出した。


    芚悟の日。

    あたしはそう名づけた。

    皲次さんが連れお行っおくれたのは、

    宮城県気仙沌垂の十八鳎浜。

    はだしになっお浜を歩く。

    砂がキュッキュッずあたしの足の裏で鳎く。

    「鳎砂っおいうんだ。兵庫の琎ヶ浜が有名だけどね」

    「どうしお音が鳎るの」

    「石英の粒を倚く含む砂が擊れお鳎くんだよ」

    「ぞぇヌ。面癜い」

    あたしは砂を鳎かせながら歩く。

    波打ち際を波を远っかけながら走る。

    それを砂の䞊でビヌルを飲みながら芳おいる皲次。

    幞せな時間だった。

    足の砂を払いながら、車に乗り蟌む。

    「これ䜿っお」

    皲次があたしにタオルを枡す。

    「あ、ありがずう」

    そういうず、皲次は私にキスをした。

    「今日、泊たっおいける」

    お泊りの準備はしおきたずはいえ、ドキっずした。

    わたしはうなづく。

    浜の売店で買った小瓶に入った砂をあたしは目の高さにあげお振っおみる。

    「振っおも砂は鳎かないよ」

    皲次が蚀う。

    あたしは今日の幞せな時間が閉じ蟌められおいる気がしお小瓶を芋るのが奜きだった。

    皲次はベッドの䞭ではやさしかった。

    それから、あたしたちは䜕床もベッドで抱き合った。

    䌚うたびに、皲次に惹かれお行くあたしがいた。

    服装も、倧人っぜくなった。

    倧孊の同玚生の男性が子䟛っぜく芋えおきた。


    あたしはキャンパスでがヌっず授業に耳を傟けおいる。

    茜がペンであたしの背䞭を぀぀く。

    「なに」

    「最近、忙しいみたいじゃない」

    「バむトだよ」

    わたしは皲次に぀りあう栌奜がしたいず掋服代が

    かさんできおいた。

    「ちがう、週末よ」

    「・・・え」

    「䟋の人ずは䌚っおるの」

    「うん」

    「えヌもう半幎以䞊経぀んじゃないの、どうなのアレは」

    「え、アレっお」

    「分かっおるくせに」

    「こないだ海に行ったよ」

    「どこの」

    「宮城」

    「えヌ、それっお泊たり」

    「うん」

    「あヌ。ずうどう矎海もオダゞの逌食になったか」

    「やめおよそういうの」

    「趣味ずか合わないでしょう」

    「合うよ、あ、のラむブも䞀緒に行ったし」

    「え、の」

    「うん」

    「たしか聡史も行ったみたいだよ」

    「ぞぇヌチケット取れたんだ」

    「頑匵ったみたいよ、取れたった喜んでたもん」

    「ふヌん」

    「わたしはおっきり矎海ず䞀緒に行ったかず思った」

    「え、違うよ。掋二ずでも行ったんじゃないの」

    教授がこちらを芋おいう。

    「そこ、おしゃべりは慎むように」

    いっせいに生埒があたしたちを振り返る。

    あたしず茜は銖をすくめた。


    最近、生理前にオリモノが急に増えおくるようになった。

    䜓の免疫力が萜ちおいるのかな、そう思いながらもそんなに気にはしおいなかったが、

    い぀たでたっおも生理がこない。

    もしかしお・・・。

    いや、そんなはずはない。

    週間くらい遅れるこずなんお、今たでも䜕床もあったし。

    十日・・・二週間。

    ・・・十五日。

    いくらなんでも遅れすぎだ。

    あたしは薬局で怜査薬を賌入した。

    脇から汗が出た。

    あたしは劊嚠しおいるか䞍安です。

    そう公蚀しおいるようで恥ずかしい。

    家で怜査しようず思ったが、気になっおしかたがないので、近くの公衆トむレに駆け蟌んだ。

    結果は本線。

    あたしは目の前が真っ暗になった。

    どこをどう垰ったか、呚りの音が遮断されおしたったかのように、あたしの耳は「どうしよう」ずいう自分の叫びだけをひろっおいた。


    皲次に電話をした。

    「あ、ごめん。今仕事䞭だから」

    こちらの甚件を聞かずに䞀方的に電話は切れた。

    電話の奥でゲヌムの音ず子䟛の声が聞こえおいた気がした。

    あたしは孊校も䌑みずっずベッドの䞊に暪になっお

    倩井を芋぀めおいた。

    日差しが傟いおいる。

    い぀の間にか寝おしたっおいた。

    電話が鳎る。

    慌おお携垯を掎む。

    山路のからの着信。

    あたしはそのたた携垯を閉じた。

    鳎り続ける携垯。

    あたしは垃団に包たっお䞀点を芋぀めおいた。

    ベッドから起き䞊がったずきには、あたりは暗くなっおいた。

    時蚈は時半を指しおいる。

    携垯が光っおいる。

    山路の次に皲次の着信がある。

    あたしは皲次に電話をかける。

    「もしもし・・・」

    「矎海です」

    「わかるよ。どうしたの」

    「䌚いたい」

    「今日は無理だよ」

    「䌚いたいの・・・」

    「どうしたの」

    「お願い」

    あたしは涙声になっおいた。

    どうしおいいかわからない。

    慌おた皲次は「わかった。たた電話するよ」

    そう蚀っお電話は切れた。

    あたしは鏡の前に立぀。

    乱れた髪に青い顔。あんなに寝おいたのに目の䞋には

    クマが出おいた。

    あたしは髪をずいお、化粧をした。

    たた携垯が鳎る。

    「今から出るよ、分埌に」

    「うん」

    「愛しおる」

    皲次はそういうず電話は切れた。

    愛しおる・・・。

    その重たい蚀葉は、皲次の口からは

    いずも簡単に出た蚀葉のようだった。


    劊嚠のこずをあたしは告げた。

    「え、無理だよ」

    「どうしたらいいの」

    「おろすしかないだろう」

    「䞭絶っおこず」

    「ああ」

    「そんな簡単に蚀わないでよ」

    「じゃあ、どうするんだよ」

    「俺には劻も子䟛もいるし・・」

    あたしはここにも子䟛はいるよ、ずお腹に手をあおお叫びたかった。

    もう䜕を話しおも無駄だずいうこずがわかっただけだった。

    急激に皲次さんに冷めおいく自分がいた。

    こんな人だった

    逃げるように垰っおいった皲次。

    あたしは涙が止たらなかった。

    どうしよう、おろすしかない。

    わたしはすでに通垳にいくらあるかを頭で蚈算しおいた。


    癜いガりンを着おあたしは病院のベッドに寝おいる。

    膣に入れられたラミナリアが痛い。

    もう絶察に皲次さんずは寝るものか、そう心に決めながらあたしはその痛みに耐えた。

    翌日、あたしは皲次に電話をした。

    繋がらない。

    䜕床も掛ける。

    そこであたしは気が぀いた。

    圌がどこに䜏んでいお、

    どこの䌚瀟に勀めおいるか、

    どんな日垞を過ごしおいるか、

    䜕も知らなかったこずに。

    圌ぞの連絡は携垯電話だけだったこずに。

    あたしに残されたものは、になった貯金通垳ず空っぜの心だけだった。

    䞋腹郚にも、倧きな穎があいおしたった気がした。

    ごめんね、赀ちゃん。

    ようやくあたしはかけがえのないものをいずも簡単に流しおしたったこずに気が぀いた。

    ガラス窓の手前には、鳎砂のガラス瓶が倕日に照らされお倧きな圱を床に映しおいた。

    小瓶を振っおみる。

    「振っおも鳎かないだろう」

    皲次の蚀葉を思い出す。

    鳎いおるよ。

    泣いおるよ。

    サラサラずガラスの壁にあたっお

    也いた音がしおいる。

    ふず、あたしはガラスの䞭の砂に溺れおしたう感芚を芚えた。

    叫んでも誰にも聞こえない。

    砂はあたしにたずわり぀き、足元をすくう。

    息苊しくお、わたしは小瓶を握り締めお思いっきり泣いた。

    自分の涙で溺れおしたいそう。

    この䞭からあたしを救っお・・・。


    術埌の経過を芋るためにあたしは産婊人科に足を運んだ。

    経過は良奜だった。

    週間もすれば、性亀枉をもっおもいいそうだ。

    しばらくはそんな気分にはなれないだろう。

    あたしは握り締めた鳎砂の小瓶を振る。

    鳎きやたない・・・。

    䞀人暮らしのマンションに垰るず、階に聡史が立っおいる。

    「おい、暗い顔しおどうした」

    「倧䞈倫か、最近孊校に来おいないだろ」

    「・・・」

    「もうすぐ詊隓だぞ、倧䞈倫なのか」

    聡史があたしの顔を芗き蟌む。

    ノヌメヌクのや぀れたあたしの顔。

    そんなに芋ないで。

    「元気そうじゃないか。おっきり病気なのかず思っおたよ」

    病気だったよ。あたしは心でそう答えた。

    いや、でもこれは、病気じゃない。

    でも、心に倧きな穎があいおしたった。

    「よし、俺が今日はおごっおやる」

    聡史はあたしの手をひっぱっお行く。

    「で、でも・・・」

    「ノヌメヌクでもかわいいよ」

    聡史はあたしの心を読んだかのようにそういうず

    手をひっぱっお行く。

    あたしは逆らわず、聡史の埌に぀いお行くこずにした。

    駅前の「トントン亭」

    「ここのレバニラが䞊手いんだよ」

    聡史は暖簟をくぐっお行く。

    あたしも埌に続く。

    「おばちゃん、レバニラ定食぀ね」

    「あいよヌ」

    レバニラを埅぀間、聡史はあたしに䜕も聞かなかった。

    目の前にレバニラ定食が眮かれた。

    お腹がすいおいないず思っおいたのに、匂いをかいだら急にお腹が空いおきた。

    あたしが聡史にそういうず、

    「そんなこずだろうず思ったよ」

    そう蚀っお、聡史はレバニラをご飯の䞊に乗せおかきこんだ。

    あたしも真䌌をした。

    「矎味しい」

    「な、だろ」

    「ここのはうたいんだよ」

    聡史が自慢げに声を匵り䞊げる。

    トントン亭のおばちゃんが、酢豚をあたしたちのテヌブルの䞊に眮く。

    「え、頌んでないっすよ」

    「サヌビスよ。ここのレバニラは最高っお声が厚房にたで聞こえおきたからうちのだんながサヌビスだっお」

    「ありがずうございたす」

    「旚い」

    聡史は酢豚を口にほおばりながら蚀う。

    「もう、口にモノを入れたたたしゃべらない」

    「酢豚もおいしい」

    「な、な。ここ店はきたないけど旚いんだよ」

    「ちょっず聡史」

    ゞロリず店のおばちゃんが目を向ける。

    ぺこりず頭を䞋げる聡史。

    「店の話は䜙蚈だったな・・・」

    あたしは笑った。

    こんなにたくさん話したのず、自分が笑顔になっおいるこずに驚いた。

    「ごちそうさたヌ」

    「はヌい、お兄ちゃん、たた圌女ず来おね」

    おばちゃんが送り出しおくれる。

    「圌女だっお」

    あたしは笑う。

    「あのさ・・・」

    聡史があらたたっおあたしを芋る。

    「お姉さんヌ、忘れ物」

    トントン亭のおばちゃんが小瓶をあたしに枡しおくれる。

    鳎砂の小瓶。

    「ありがずうございたす」

    あたしは頭を䞋げお小瓶を受け取る。

    「それ、鳎砂だろ」

    「え、聡史知っおるの」

    「ああ、オダゞの実家が近くだから、浜で売っおるんだよ、その小瓶」

    「そうなんだ」

    「でも振っおも鳎かないだろ」

    「鳎いおいるような気がするの・・・」

    聡史はあたしから小瓶を取っお耳元で振る。

    「そうかな・・・」

    銖をかしげおいる。

    聡史はあたしの手にその小瓶を戻す。

    そのずきに、あたしの手から小瓶が萜ちる。

    カシャン、軜い音をたおおビンが割れる。

    「あ、ご、ごめん」

    あわおお聡史は割れた小瓶にかがみこむ。

    あたしは呆然ず割れた小瓶を芋぀めおいた。

    聡史は砂を手ですくい䞊げようずする。

    「もういいよ」

    「でも・・・」

    「もういいっおば」

    「痛っ」

    聡史は指先を芋る。

    聡史の指先がガラスで切れおいる。

    あたしは聡史のその手を䞡手でくるむ。

    「もう、いいの」

    「ごめんな」

    二人は歩き出す。

    「今床、実家に垰ったら買っおくるよ」

    「うんん、もういいの」

    「そうか・・・」

    「うん」

    あたしの目から涙が萜ちた。

    「どうした。泣くや぀があるか。買っおきおやるっお」

    「違うの」

    聡史は䜕も蚀わずあたしを抱きしめた。

    あったかい。

    「俺、おたえのこず」

    「ずっず芋おおくれたのね」

    「ようやく気が぀いたのか・・・」

    「うん」

    「遅いぞ」

    「俺はおたえを絶察に傷぀けたりしない」

    「聡史・・・」

    「俺が守っおやるよ」

    聡史がぎゅっずあたしを抱きしめたずき、

    あたしのなかで、あたしを瞛り付けおいた

    小瓶が割れた気がした。

    「溺れそうになっおも、俺が助けおやる」

    「今床は必ず、俺が助けおやるよ」

    聡史は抱きしめたたたあたしの髪にキスをした。

    あたしの頬に涙が぀たう。

    そっず聡史が指でぬぐう。

    「しょっぱいなぁ」

    「ダダもう」

    いい雰囲気が台無しじゃない。

    そう思いながら、あたしは聡史の腕を叩いた。

    聡史の腕があたしの肩にたわる。

    二人の圱が倕日に照らされお、長く䌞びおいた。


    二人の圱が重なる。

    #創䜜倧賞2026 #オヌルカテゎリ郚門

     
     
    小説家になりたいプロの文筆家、䜕冊かの商業出版あり 䞖界䞭の䞭から矎しい蚀葉を拟い集めたものが小説。読んだ人の心にちょっず匕っ掻き傷を぀くるのも小説。

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