【マッチョ華道】胸いっぱいの花|毎週ショートショートnote
彼は、鍛え上げられた筋肉の持ち主だ。
私は彼に憧れ、この教室へ通っている。
だけど、まだ一度も話したことがない。
彼の前に立つだけで、手が震える。
胸が跳ねる。
心まで揺れる。
今日こそは、思いを伝えよう。
私は、ピンクのチューリップの蕾を抱えきれないほど持ってきた。
彼は立ち、見惚れるほど美しい、黄金のポーズを取る。
私は蕾を一輪ずつ、優しく生けていく。
私が近づくたび、彼の筋肉が小さく跳ねた。
震えているのは、私だけではないらしい。
プルプルプル。
最後の一輪だけは、最初から決めていた。
私はその大きな蕾を、両手で大切に包む。
ピンクのチューリップの花言葉は、愛の芽生え。
私は彼を見上げた。
「好きです」
願いを託し、その一輪を、いちばん目立つところへ丁寧に生けた。
その瞬間、すべての蕾が一斉に花開き、教室中がやわらかなピンクに染まった。
彼が静かに言った。
「お見事。満開です」
この教室で最も大きく、最も繊細な花器は、ピンクの花々の中でひときわ赤くなり、胸いっぱいの花を激しく揺らしていた。
毎週ショートショートnote
田原にかさまの企画
「マッチョ華道」に参加しています。
