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Photo bysima_sima_

繋ぎずめるもの、思いずどたらせるもの

    䞉鶎

     むンドカレヌが奜きである。
     特に奜きなメニュヌはバタヌチキンカレヌだ。チヌズナンずサフランラむス、そしお野菜にオレンゞ色のドレッシングも添えおあるのが最高である。
     ああ思い浮かべるだけで唟液が分泌されおくる。ここ数幎食べおいないから、無性に食べたくなる。

     東京に䜏んでいた頃、隣の駅近くに行き぀けのむンドカレヌ屋があった。
     そこぞ友人や恋人をよく連れお行き、倜遅くに䞀人で食べに行くこずも倚かった。頻繁に通っおいたずきは、週に䞀回はバタヌチキンカレヌを味わっおいたものだ。
     
     そのため、むンドカレヌにはたくさんの思い出が沁み蟌んでいる。その䞭でも特別なものは、二十歳のある倜のこずである。

     アパヌトの近くにある倧通りの歩道で、私は車の流れを眺めおいた。
     恋人に必芁ずされなくなった倜だった。もう居堎所がなかった。圌女を守るこずが、私の存圚する理由だったのだ。
     これたでも圌女が襲われる恐怖に、ずっず怯えおいた。汚れた䞖界。汚れた人々。どこに行っおも、䜕をしおいおも、それは私を぀きたずっお離さない。圌らの圱は私の銖をい぀も䞡手で掎んでいる。意識する床に、その手は力を蟌めお絞め぀けおくる。
     もう耐えるこずはできない。䜕もかもが怖かった。私は生きおいおも報われない。もうここで、終わりにさせおくれないか。 

     どの車がいいだろう。私の呜を䞊手に攫っおくれる車。できれば事故によるものだったず思われるようにしたい。そうすれば呚囲の悲しみは、自死よりいくらか少ないだろう。たた、䞭途半端だず埌遺症が残っおしたうため、それは避けたい。䞀発でどん ず思い切り撥ねおもらいたい。その先は真っ癜な䞖界か。真っ黒なのか。どちらでもないのか。どうであっおも、今よりはいいだろう。それを実珟しおくれそうな車ずタむミングを考えおいた。

     どれだけの時間、そこに立っおいただろうか。䜓はずっず震えおいる。
     もうどの車でもいい気がしおきた。

     あ、来た。
     これだ。
     決意を固める。

     が。
     
       足が前ぞ出ない。車道ぞ飛び出せない。どうしおも、父ず母の姿が頭にちら぀くのである。消えおなくなりたいのに、それができない。

     ああ、ただ䞀線を超えられるほど自分は苊しんでいないのか。この闇が本物ではないのなら、もっず傷぀かないずいけないのか。なんお䞭途半端なのだろう。栌奜悪い。情けない。

     圌女の䞡腕には無数の切り傷がある。それがずおも愛しくお矚たしかった。リストカットやオヌバヌドヌズは、ある皮の苊しみの象城に思え、その数が心の傷の倧きさを枬るもののように感じおいたのである。
     䌚う人䌚う人の手銖や腕を芋お、人の心をのぞき芋しおいるような気分になっおいた。私もそうしなければ特別にはなれない。気づいおもらえない。しかし、カッタヌを取り出しおも、芪の姿が目に浮かび躊躇っおしたう私は、停物なのだ。哀れで滑皜で、激しい劣等感に襲われる。

     そうだ。䞡芪が私を倧切だから悪いのだ。どうせなら芋攟しおほしい。そしたら、どれだけ楜なのだろう。幞せだず思われないですむし、幞せを知らないでいられたはずだ。
     芪が蚌明しおしたったのである。私は確かに愛を受け取っおいるこずを。受け取るべき存圚であるず。
     私が消えおしたうこずよりも、芪の悲しみを思う気持ちが勝っおしたうのだ。

     私はどうすればいいのだろう。
     この䞖は、どこにも出口のない地獄である。
     逃れられない珟実に絶望しながら、ずがずがず歩き始めた。
     
     気づくず、むンドカレヌ屋にいた。食欲なんおないのに、い぀ものバタヌチキンカレヌを泚文しおいる。
     料理が運ばれおくるたで、䜕もせずにテヌブルを芋おいた、ような気がする。明らかに攟心状態だった。
     我に返ったのは、カレヌを口に含んだずきだった。

     ああ、私は生きおいるんだな。
     圓たり前なのだが、そう思った。
     するず突然、涙が溢れお止たらなくなった。

     私をこの䞖に繋ぎずめるもの。思いずどたらせるもの。い぀もすぐそばにあったのに、遠く遠くに感じられるもの。䞖界は闇でも、絶察に闇にはならないもの。
     その茪郭が浮き圫りになっお、叫びたい衝動に駆られた。

     あの衝動ず䞀緒に飲み蟌んだむンドカレヌは、そのずきの時間ず思いを、がんやりずだが蚘憶しおいる。
     カレヌの味ず共にあるわけでなく、食べお真っ先に思い出すわけでもないのだが、今の自分がいる出来事ずしお、付かず離れずそこにある。

     そしお珟圚、こう思う。
     子どもたちに私のような思いをしおほしくないけれど、もし圌らが人生に絶望したずき、思いずどたれるような存圚になりたい、ず。
     君たちのお祖父ちゃんずお祖母ちゃんがそうしおくれたように。

     そんなこずを考えおいたら、たたあのバタヌチキンカレヌを食べたくおたたらなくなるのである。


     
     
     

    䞉鶎

     
     
    1986幎、静岡県生たれ。 高校卒業埌、音楜の道ぞ。東京を䞭心に党囜でラむブ掻動を展開。CDリリヌスやメディア出挔の経隓も倚数。 その埌、䜜業療法士ずしお玄10幎間病院に勀務。䞀昚幎より再び音楜掻動を開始し、珟圚は音楜・映像制䜜䌚瀟を経営しながら、音楜・執筆掻動を行っおいる。

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