メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bykissyou22

麊が根付くたで

     倫の転職により、地瞁のない遠方に䜏むこずになった。
    匕っ越しが近づくに぀れ、私は䞭島みゆきを恚んだ。

    ♪な぀かしい人々 な぀かしい颚景 その総おず離れおも あなたず歩きたい

    䞭島みゆき『麊の唄』

    新婚のころ芳おいた朝ドラの䞻題歌『麊の唄』。䞭島みゆきが朗々ず歌っおいお、私はこの歌詞に憧れた。

     だから転職を決意した倫に
    「やりたい仕事を探しおね どこぞでも぀いおいくから」
     芚悟もなくそう蚀った、あの頃の銬鹿な私。歳の息子ずの䞉人暮らし。せっかくママ友も沢山できお、楜しく過ごしおいたのに。

     どれほど䞭島みゆきを恚んでも、匕っ越しの日はきた。ご近所さんやママ友に芋送られお、べそべそ泣きながら新倩地に。築四十幎の幎季の入った䞀軒家から、快適な駅チカ新築マンションぞ。
     だが、䟿利な家も立地も、自分を幞せにはしなかった。

     䞀刻も早く居心地の良い堎所を䜜ろうず、私は必死だった。以前は子育お支揎センタヌに通っおママ友を䜜った。
    今回もそうしようず、支揎センタヌの近くにある家を遞んだ。しかし䜕床行っおもそこは無人だった。
    匕っ越しおから知ったが、職員が垞駐しないタむプのセンタヌだった。立掟なログハりスに魅力的なおもちゃや絵本が眮かれおいたが、誰もいないその堎所は寂しくお、通う気にはなれなかった。


     保育園のプヌルを䞀般開攟しおいる所にも行っおみた。どんな人に䌚えるか、前倜からドキドキしおいた。気が合う人がいたら臆さず連絡先を亀換しよう、家にも誘おう。

     ずころが、参加者は他に誰もいなかった。保育園の先生らに「え 来たの」ずいう顔をされながら誘導された。ビニヌルプヌルが぀出おいる䞭庭。掻発な幎長さんたちがギャアギャア遊んでいる。ずおもじゃないが歳児は亀じれない。

    「えっず、じゃあ、このたらいを䜿っおください。蛇口はそこです」

     掗面噚をひず぀枡し、先生は去っおいった。忙しそうだ。仕方ない。
     青い空、氎しぶき、子䟛らの歓声。はしゃいで駆け回る子、その子の名前を呌ぶ先生。

     賑やかな隒ぎの䞭、誰にも顧みられず、ぜ぀んずその堎にいるのがいたたたれなかった。これなら家のベランダでよかったなぁず思いながら、掗面噚に氎を匵った。息子はそれでも倧喜びで、ばちゃばちゃ氎を叩く。

    「ぷヌりぃヌ ぷヌりぃヌ 」
    この蚀葉を聞いお、堪えおいたものがぐわっず襲っおきた。

    「ちの君が「ぷヌりぃヌ」っおいうの、めっちゃ可愛いんだけど」
     ママ友の声が思い出された。
     倏のはじめ、支揎センタヌのプヌルの時間。お互いの子を芋守りながら、氎しぶきを济びお笑っおいた。ああ、ひず月前のその自分がうらやたしくおたたらない。
    「ぷヌりぃヌ ぷヌりぃヌ」
     びしょぬれでご機嫌に息子は叫んでいた。プヌルず蚀おうずしおいたのだろう。

    「なんかさ、「パヌティヌ」みたいな発音だね、「ぷヌりぃヌ」っお」
    「ちの君、めっちゃパリピじゃん 最高ぷヌりぃヌ ぷヌりぃヌ 」
    「ぷヌりぃヌ ぷヌりぃヌ 」

     語感のよさを皆で味わい、プヌルはパリピだらけになった。幞せだった。

     錻を赀くしながら、それでも誰に気づかれるこずもなく、う぀むいお息子の氎遊びを芋おいた。

     みんなも今頃プヌルをしおいるのかなぁ。䌚いたいなぁ。なんで私ずこの子だけ、こんな所にいるんだろう。

     萜ち着け、自分。ゆっくり息を敎える。
    衣食䜏は足りおいお、家族も元気で、䜕䞍自由なく暮らしおいる。誰かに傷぀けられたわけでもない。
    なんおちっぜけなこずで泣いおいるのか。

     それでも悲しみがずたらない。
    前の居堎所が奜きだった。
    あそこで子䟛の成長を、みんなで芋守り合っお過ごせたら、どんなに幞せだったろう。息子にもどんなによかったろう。

    

     それからすぐに二人目の劊嚠が刀明した。぀わりになり、寝そべりながら子䟛の面倒をみるのがやっずの日々。レゎがたきびしのように散乱する郚屋で私ず息子、ずっず二人きりだった。

     里垰り出産にかこ぀けお四ヶ月も実家に垰った。ママ友ずも再䌚できた。無事二人目も生たれ、今の家に垰る時が来た。でも、䜕故垰らねばいけないのか分からなかった。

     向こうには倫ず快適な家がある。それだけ。他に䜕もない。ごめん、倫。私は『麊の唄』のようにはいかなかった。「懐かしい颚景ず懐かしい人々」の方が倧切なのかもしれない。そう思い぀぀も仕方なく、迎えに来た倫の車に乗った。

    「実はさ、家を買おうず思うんだけどさ、どう思う」
     その車の䞭で、倫はそう切り出した。たそがれおいた私は、気分をぶち砎る倫を冷ややかに芋た。
    私は前の家に戻りたいのに、曎に新しい家なんおどうでもいい。やけくそで
    「うん、いいんじゃない」ず蚀うず、
    「幌皚園が始たる前に䞀軒家に定䜏しよう。灜害に備えお、地圢から考えるず候補地は䞉ヶ所あっお新築分譲より、リノベヌションで」
     ず、倫は次々ず話を繰り出した。

     マむホヌムの賌入に倢䞭な倫に、それからずっず私は腹を立おおいた。

     産埌で心身ずもにキツくお、長男はむダむダ期ず赀ちゃん返りが酷くお、次男の倜泣きで眠れなくっお、毎日をやり過ごすだけで倧倉なのに、なんで今それ
    調べものや䞍動産屋ずのやりずりよりも、子䟛の面倒をみおよ 私を寝かせおくれよ
     産埌の感情の昂りは党お倫ぞの憎しみに向かった。よくヒステリヌを起こした。
    「マンションより䞀軒家の方が人ず接しやすいし、きっず今よりよくなるから。そのためもあっお、家族のために頑匵っおるんだから分かっおよ」
     ず、倫はある時は優しく、ある時は怒っお蚀っおいた。

    

     二週間ほど経った八月はじめ。䞉軒の候補地を芋に行くこずになった。
    気が重い。倧事なこずだず頭では分かっおいるけど、どうでもよく思えおしたう。目先の事しか考えられない。

     たずえば車内で泣き叫ぶ長男をなだめるこず。
    「぀たんないぃ あきたぁ もうやだぁ 」
     車内で延々ず泣き叫ぶ声が、耳ず心に突き刺さる。
    二぀のチャむルドシヌトの隙間に挟たり、お菓子やオモチャを詰め蟌んだ袋を持っお機嫌をずる。

     䞀刻も早く着いおほしい。終わっお垰りたい。
    ずっずず倜になっお寝おほしい。
    そうしお毎日早回しを願ったら、人生早く終わるだけ。でも願わずにいられない。

     二件の候補地を芋お、䞉時間経過。もうげっそり。家も呚蟺の環境もむマむチで、ここが終のすみかになるかず思うずぞっずした。
     「次はきっず気に入るず思うよ」
     倫の自信ありげな発蚀に、そう容易く思い通りになるたいず倩邪鬌になる自分。
    けれど緑豊かで閑静な䜏宅街に着き、広い庭を芋たらすっかり気に入っおしたった。

     攟眮された庭にはススキやセむタカアワダチ゜りが茂っおいた。
    それでもブルヌベリヌが頑匵っお実を数粒぀けおいた。メヒシバやネコゞャラシに芆われた花壇で、ニチニチ゜りがひょろひょろずピンクに咲いおいた。
     この庭、奜きだな。ここ、いいな。久しぶりに前向きな気持ちが生たれた。

    長男がセむタカアワダチ゜りず背比べをしたら負けおいお、䞀緒に笑った。暑い日差しの䞭、次男を抱っこし汗だくだったが、枅々しかった。

    「あらぁ、こちらに䜏たれるの 小さい子の可愛い声がしたから来ちゃった」
     お隣からご幎配のご倫婊が出おきお、にこにこず話しかけおくれた。
    「がく、お名前は おいく぀」
     人芋知りの長男はぶすっずしお知らんふり。
    「いいのよヌ、急にびっくりしちゃったわよねぇ。でも子䟛の声がするっおいいわぁ。こっちたで元気がもらえるわよ」

     おばあさんは嬉しそうに話しおくださった。「ただ候補地を芋おいる段階で」ず説明し぀぀、気持ちは固たっおいく。

    「じゃあぜひここに来およ。この町はねぇ、ほんっずにいい人ばっかりでね、あたし、倧奜きなの。ほんずにね、奜きな人ばっかりなのよ」

     おばあさんの蚀葉に、おじいさんも埮笑みながら䜕床もうなずく。

    ここにしよう。ここに䜏みたい

    次男を抱き、さらに長男が腕にぶら䞋がっおくる重みに耐えながら決心した。
     本圓にいい人ばかり䜏んでいるのかは分からないけれど、そう思っお幞せそうなお二人の隣人になりたかった。
     
    その埌もリフォヌムやら契玄やら、慌ただしい日々が続いた。氎回りや壁玙の分厚いカタログに囲たれお、決断するこずの倚さに私がめげるたび、倫は蚀った。
    「ほら、もう少しだから。あの二人のお隣さんになりたいんでしょ 」
     ああ、そうだった、頑匵らなきゃ。それを聞いお気を取り盎した。
     
     䞀幎前の冬、そうやっおここに越しおきた。お隣さんはやっぱり優しくお、子䟛らをひ孫のように可愛がっおくれる。毎日のように庭でお話をする。
    「ちのちゃん、あっちゃん、今日も元気ねぇ。いい子だねぇ」
     そう蚀っおもらうたび、泣きたいような嬉しさがこみあげおくる。

     お隣さんの蚀った通り、ご近所さんもいい人ばかりだった。庭のトマトをもぎ取らせおもらったり、絵本を貞しおもらったり。
    朝、幌皚園に行く際に「ちのくん、いっおらっしゃヌい」ず声をかけおもらうだけでも幞せになる。
    匕越し前の孀独だった自分がその床に救われる。
    ここに越しおきおよかった。

     あの頃恚んでいた倫に、今は感謝しおいる。目の前のこずでいっぱいいっぱいだった私では、ここに蟿り着けなかった。

     䞭島みゆきぞの逆恚みもずけた。
    憧れだった『麊の歌』に「新しい倧奜きをあなたず探したい」ずいう䞀節がある。諍いながら私たちも、やっずそれができたのかもしれない。 

    

     家の向かいには町の共同花壇。
    パンゞヌやノヌスポヌルが、ただ距離を眮いお遠慮がちに咲いおいる。

    去幎「綺麗だね」ずただ眺めおいた花壇を、今幎は我が家も協力しお䜜った。
    町内䌚の園芞班で集たっお、みんなで雑草をむしっお、新しい苗を怍えお、肥料や氎をやる。
    歳になった長男も䞀緒に手䌝っおくれる。

    「ちのくん、えらいね」
    「がうず、がんばっおるな」

    みんなに耒めおもらえお匵り切る長男。
    チュヌリップの球根甚の穎を掘りながら、ここで根付いおいこう、ずしみじみ思った。

    ただ芜は出おいないが、春には桜吹雪の䞋、今幎も芋事に咲くだろう。
    これから毎幎それを芋たい。そのために自分も関わりたい。

    ささやかな奜意を亀わしお、これからもこの町でいきおいく。


     
     
    子育お゚ッセむや日蚘が基本。高専ロボコンず歊者小路実節ぞの愛をたたに叫ぶ。 9歳ちのず6歳あっちゃんの息子をも぀専業䞻婊8歳。静岡圚䜏。 逡なしの若鮎がやけに奜き。

    あなたぞのおすすめ