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【長編小説】 2085 : エデンの果て PART Ⅰ ⑵ 【連載】

    幸田サスケ©︎

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    勝手にOP主題歌のコーナー

    Muse - Hysteria

    PART Ⅰ


    Chapter 02


     一通り"ありがたいお言葉"を頂いた俺は、編集部へと向かった。

     日々繰り返されるルーティンの中で、最も馴染み深い場所。だけど、この場所こそ、俺の居場所でありながら、同時に居心地の悪さを感じる場所でもある。

     デスクの上にはホログラム端末がセットされている。瞬時に点灯し、画面には本日分のニュース記事の草稿が表示された。

     ジャーナリストである俺は、かつて、この目で世界を見つめ、真実を伝える隠れたヒーローのようなジャーナリズムを目指していた。しかし今はただ、AIに選ばれた言葉を並べ、読者に届けるだけの存在になっている。 

     ここ数年で、ニュース記事の作成プロセスは完全に変わった。情報収集や取材、編集といった作業は、ほとんどAIが担っている。

     俺はそれらを確認し、わずかな修正やトーンの調整を加えるだけ。言葉遣いの選択や感情の表現まで、細かく指示してくる。

    「本日のトーンは肯定的に。社会の安定と効率性を強調してください」

     画面の指示に従い、俺は文章を修正していく。仕事は手早い。だが、心はどこか空虚だ。

     この世界では、ジャーナリズムがもはや自由な表現の場ではなくなっていた。政府もメディアもAIも、すべてが一体となって最適化された事実を押し付ける。そこにあるのは"真実"ではなく"正解"だ。

     そんな気持ちを抱えながらも、俺は今日も画面の指示に忠実に従うしかなかった。

    『株式会社GONZOゴンゾ』日本最大手のニュースメディア会社。俺の勤める会社だ。

     職場は大きなオフィスビルの一室で、壁はガラス張り。外の街並みもAIによって設計されていて、どこまでも均質で整然としている。

     社員たちは皆、無表情にホログラムの文字を読み、キーボードを叩いている。雑談はほとんどなく、あっても内容は表面的で、感情がこもっていない。

     俺の隣に座る同僚も、今日も淡々と業務をこなしていた。彼もまた、AIの指示通りにニュース記事を作成している。

    「今日のニュースも大したトピックないな」

     彼の言葉は感情を含んでいなかった。ただの報告だ。

    「そうだな」

     俺は短く答え、また画面に目を戻す。

     ニュースの話題はいつも似ている。犯罪率の減少、健康寿命の延伸、社会の安定。あらゆる数字が完璧な未来を描き出している。でも俺には、その裏側の欠落が見えてしまう。

    ——感情の希薄化。個人の自由の剥奪。失われた人間らしさ。

     本当はそんなことを取材してみたい。そう思いながら、この世界に違和感を感じながら、平和で理想的な社会の上部だけのニュースを伝える。

     取材に行くこともある。もちろん、AIが決めたテーマに沿ってだ。

     例えば最新の医療技術や教育の進歩、環境保護の取り組みなど。しかし、深く取材すればするほど、現実の複雑さが見えてくる。

     "効率化"の名のもとに切り捨てられる人間の感情や葛藤。個々の声がかき消され、画一的な価値観に押し込められる恐怖。

    ——その日は特に疲れていた。家に帰ると、無機質な部屋の中で、俺は一人天井を見つめた。

    「これでいいのか……?」

     答えは見つからない。だが、その疑問は消えない。

     翌朝、オフィスのホログラム端末が起動すると、俺のデスクにまた新しい指示が届いていた。

    「本日の特集は、AI導入による労働環境の改善について。市民の声を拾い、好意的なトーンで記事をまとめよ」

     俺は頭を抱えた。市民の声と言っても、ほとんどがAIによって編集・選別されていて、本当に多様な意見が反映されているわけじゃない。

     これがニュースなのか? いや、これはただの広告だ。政府とAIが都合良く作り上げた事実の広告だ。

     だが仕事だ。命令には逆らえない。

     午後になると、俺は取材のために街へ出た。街は清潔で整然としている。自律走行車が行き交い、歩道にはセンサーが埋め込まれ、人々はコンタクト型のスマートグラスを通じて情報を受け取っている。

     だが、その表面の美しさの裏にあるものはなにか。ふと、足を止めて周囲を見回す。人々の表情は皆似ている。無表情で、無機質。70年以上前、スマートフォンが人々に普及し出した時も同じことを多くの人が言っていたらしいが、いつかこの光景の方がマシに思える時が来るのだろうか。もし来るんだとしたら、それ以上に恐ろしいことはない。きっとそれは人類が滅亡する時か、ほぼ滅亡したと言っていいほどの脳死社会になる時だろう。

     そんなことを思いながら俺は取材相手の家に着いた。若い母親だった。

    「AIのおかげで、仕事も家事もスムーズになりました。子育てもサポートしてくれて、本当に助かっています」

     その言葉に嘘はないのかもしれない。だが、どこかに隠された不満や疑問があるはずだ。俺は、もっと深く聞こうとした。だが、会話は予定調和のように続き、取材は終了した。

     オフィスに戻ると、また別の同僚が声をかけてきた。

    「お疲れ様。今日の原稿、どうだった?」

     俺は返答に困りながら「まぁ……予定通りって感じだ」とだけ答えた。

    ——仕事を終え、帰路につく。"スマートシティ"の夜景は美しい。だが、俺の胸の内は晴れない。

    「なにかが違う」そんな気持ちが日に日に強くなっていく。

     自宅に戻ると、一人静かに過去のデータを検索する。そこで見つけたのは、40年代に作られた古いアンドロイドのプロジェクト資料だった。

     かつて人間と共に暮らし、感情を持ち、人間らしさを追求していたというその存在。時代が進むにつれて、物理的なアンドロイドは姿を消し、AIはただのデータとして存在するようになった。

     俺はこの古き良き、かつての人類が想像した、いわゆる"未来"的な存在にロマンを感じていた。今の無機質で無駄のない世界より、もっと賑やかな世界が広がっていたような気にさせる。

     明日はまた新しい記事を書かなければならない。俺は軽い瞼まぶたを無理矢理閉じた。


    つづく


    勝手にED主題歌

    Vampire Weekend - White Sky


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