
【ショートエッセイ】ラタトゥユ
ラタトゥユ。ラタトゥイユのこと。我が家ではラタトゥユと呼んでいた、主に母が。
スーパーに、茄子やパプリカが安定して並びだすと、ラタトゥユ作らなきゃなという気持ちを一年振りに思い出す。夏野菜が出始めの頃は張り切って煮込んで冷やして、常備菜にするのだけれど、だんだんと面倒臭くなって煮込まなくなる。去年は3回くらい作った気がする。
ご近所のオーケーストアは何もかもちょっとずつ安いので、仕事帰りは駅前のライフで済ませるところだが休日だったので向かった。夏野菜が並び始めていて、明日はラタトゥユを煮込むことに決めた。だいたいの私は季節のはじめだけ威勢と調子がいい。
茄子、玉ねぎ、パプリカ、にんにく。
それから母のラタトゥユにはあまり入っていなかったけれどわたしは好きなのでズッキーニをカゴに入れる。
レジの担当は学生と見受けられる日本人の男の子だった。淡々と滞りなくピッピピッピしてもらっていると、ズッキーニのターンになった。わたしにズッキーニを見せてくる。彼は「これはゴーヤですか?ズッキーニですか?」と聞いてきた。「ズッキーニです。」簡潔に答えてから、思わず吹き出してしまった。失礼な態度だったかもしれないが彼のことを馬鹿にして笑ったのではない。彼の聞き方がとても誠実だったからだ。本当に知らないから聞いているのだと、よく分かった。分からないことを開き直る態度をせず、真っ直ぐに聞く。そのときは笑ってしまったが、今になってじわじわと身につまされる思いがしている。
オーケーを出てレジの彼とのやり取りを味わいながら歩いていたら、ラタトゥユに大切なトマト缶を買い忘れたことに気がついてしまった。明日買うことにする。