『しぶとい三崎』第6話
「第100位の相談」
第1章|窓口は、空いていた
午後三時。
生活相談課の窓口は、
いつも通り空いていた。
暇というわけではない。
ただ、急ぎの用事がない時間帯だった。
第2章|相談内容
来庁者は、
特に困っている様子でもなかった。
「相談、
ってほどじゃないんですけど」
担当は、
うなずくだけで続きを待つ。
「最近、
町が静かすぎる気がして」
少し間。
「悪い意味じゃなくて」
第3章|分類できない
担当は、
メモを取りながら考える。
苦情ではない
要望でもない
制度の質問でもない
「具体的には?」
「分からないです」
その答えで、
話はほぼ終わった。
第4章|調べてみる
相談が終わったあと、
担当は少しだけ気になった。
「こういうの、
他にもあるのかな」
全国自治体の
相談分類データを開く。
件数は、
少ない。
でも、
ゼロではない。
第5章|順位
画面を見て、
担当は小さく声に出す。
「……ちょうど100位ですね」
隣の席の職員が聞く。
「何が?」
「今の相談」
「どんな?」
「困ってないけど、
少し気になる、ってやつ」
「ああ」
その一言で、
だいたい通じた。
第6章|意味はない
「100位って、
意味あります?」
新人が聞く。
担当は首を振る。
「ない」
「じゃあ、
なんで見るんですか?」
少し考えてから答える。
「一番、
こぼれやすいから」
第7章|解決しない仕事
対応欄には、
こう書かれた。
対応:傾聴
結果:特になし
それで、
処理は終わった。
誰も、
改善策を考えない。
第8章|それでも残る
夕方。
その来庁者は、
少し軽くなった顔で帰った。
何も変わっていない。
町も、
制度も。
第9章|第100位の意味
担当は、
今日の業務日誌に
一行だけ足す。
第100位相当の相談
継続観察の必要なし
そして、
心の中で思う。
こういう相談が
あるうちは、
まだ大丈夫だ
第10章|しぶとさ
三崎町は、
困っている人だけを
相手にしているわけではない。
困っていない人の
違和感も、
一応、受け取る。
それを
処理しない。
解決しない。
ただ、
置いておく。
第100位の相談は、
今日も解決しなかった。
でも、
なくならなかった。
それでいい。
しぶとく。
(第6話・了)
