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開花新聞 1895 ー 通信と市井の記録②

    ヘザー 落合

    ※本作は明治期の新聞記事を基に構成したフィクションです(詳細は末尾注を参照)。

    明治28年(1895年)5月。日清戦争が日本の勝利で終わり、下関条約が締結された直後。だが、三国干渉(露仏独)が突きつけられ、遼東半島を返還することになる日本政府。戦勝気分の裏で不満、困惑、そして次なる戦争への予兆が静かに芽吹いている時期。新聞では女工の待遇改善、庶民の暮らし、衛生問題などが日々報じられ、“兵の凱旋”と“市井の不穏”が奇妙に共存した時代の空気を感じて下さい。

    ●第2話「褒章と返還」

    【登場人物】
    川村涼太:電信局見習い(17歳)
    木崎隆一:製糸場勤務の男(30歳前後)
    瀬川環(たまき):工場で働く若い女性(20代前半)
    村野治:開花新聞の記者(40代)

    明治28年(1895年)5月9日(木)
    開花町・製糸場前

    ――――――――――――――――――――――――――――――――

    【朝・製糸場前の通り】
    工場の始業の鐘が鳴り、制服姿の女工たちが散っていく。

    少し離れた角から様子を見ている涼太。
    手には『開花新聞』を折り畳んだまま持っている。

    新聞の見出し:
    《清国軍残兵、台湾にて抗戦》
    《講和後も続く衝突、政界では統治問題が火種に》

    ふいに木崎が通りかかる。

    木崎「おい、そこの坊や。新聞、余ってるか?」
    涼太「え、はい…。どうぞ」

    木崎が新聞を受け取る。しばし無言で読み、苦笑い。

    木崎「勝ったはずなのに、町に笑いがねえ」
    涼太「僕も、そんな気がしてます」
    木崎「帰ってきた連中の話、聞いたか?皆、あまり口開かねえのよ。戦場で何があったか、何が見えたか。勝ったのに話さねえってのは、やっぱり何かあるんだろうな」

    そこへ、女工の瀬川環が疲れた表情で工場から出てくる。

    涼太「あ、お疲れさまです」
    環「今日の新聞、また『台湾鎮定』なんて書いてたけど」

    涼太の手にある新聞を覗き込む環。

    環「この『鎮定』ってのは、誰が何を鎮めたつもりなのかしらね」

    環に気づき頷く木崎。
    木崎「誰の旗が立とうが糸は織らなきゃならん、ってだけだ」

    そこへ新聞を小脇に抱えた村野記者が現れる。

    村野「おや、川村くん。今日も早いな」
    涼太「村野さん…」
    村野「君の見立てではどうだい、この『鎮定』ってやつは」
    涼太「読めば読むほど、何が“定まった”のか、分からなくなります」
    村野「“定まった”って言葉ほど、よく揺れるものはないよ」

    そう言いつつ新聞を折りながら続ける村野。
    村野「見出しというのは“意味”を大きく書いて“余白”を狭めるものだ。でも本当のことは、往々にしてその余白にこそある」

    涼太、静かに新聞を見つめる。

    【昼・通りの一角にて】
    涼太が座り込んで読み返す紙面。ふと目に留まった、下段の別の記事。
    《本所区で火災、女工宿舎に延焼も》

    涼太(独白)「灯はある。でも、照らすより焼ける。そんな感じがする」

    ──この日、風は湿っていた。
    風にめくられながら、焼け残った新聞は誰にも読まれずにいた。

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    ■この日の開花新聞(明治28年5月9日号)には台湾に関する軍令や『出征将兵への褒章制度』などの話題が掲載されており、褒章・恩給・帰還兵の処遇といった社会的関心が浮き彫りになっています。

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    ※この物語は明治時代の新聞記事や社会状況をもとに構成されたフィクションです。史実との距離を保ちつつ、当時の暮らしの息遣いを描く試みです。

     
     
     
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