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【小説】或る舞台女優の物語

    巫女その3、圩月 凛華(さ぀き りか)  
    次回公挔『倢幻旋埋』の配圹衚を前に、圩月凛華はそう呟いたきり、息を呑んで立ち尜くした。
    私に、圹が  ぀いおる────

    そんな圩月の埌ろから、爜やかな銙氎の匂いず、それが良く䌌合う凛ずした声がした。
    おめでずうサツキ。
    圹が぀いたの、今回が初めおでしょ
    っサキさん
    ありがずうございたす
    思わぬタむミングでの憧れの人の登堎に、サツキは倧慌おで振り向いた。
    サキさんが、盎接おめでずうっお蚀っおくださるなんお  。
    初めお圹が぀いたこずず盞たっお、サツキは柄にもなく惚けおしたった。

    サキさんヌ星乃圩茝(ほしの さき)は、サツキの䞭孊時代からの憧れの人だ。
    サキさんが出おいる公挔を芳お同じ舞台に立ちたいず思い、圓時䞭孊1幎生だった朚䞋凛子(りこ)は、歌劇団を目指した。そしおなんずか入団詊隓に合栌し、その倢が叶った。
    芞名の「圩月凛華は、星乃圩茝の圩の文字を頂いお考えたものだ。

    感極たっおいるず、サキさんは少し声を萜ずしお続けた。
    でも、気を぀けお。
    圹に呑たれないようにね
    圹に  呑たれるどういうこずですか
    戞惑いながら問い返したサツキに、サキさんが、
    これは、私が海倖公挔に参加させおもらった時に珟地の人から聞いた話なんだけど  
    たあ、挔劇界の䌝説、みたいなものかしら
    ずいっお話しおくれたのは、こんな話だった。

    ꧁——————————꧂

    昔、ペヌロッパの片隅の町に、挔劇の奜きな少女がいたの。出自のはっきりしない嚘で、本名は分からないけれど、舞台䞊の圌女は、ロヌズ・ディスティニアず名乗っおいたそうよ。
    でも、圌女は挔劇孊校を出おいなかったから、舞台に䞊げおもらえなかった。それでも舞台の傍にいたくお、ずある劇堎で掃陀の仕事をしお暮らしおいたのよ。

    でもある日、圌女の運呜の歯車は回り始めた。
    きっかけは小さなこずだったのよ。
    その劇堎ではい぀も、圹者が劇堎前の倧通りで客の呌び蟌みをしおいたんだけど、その日はあたりにも皜叀がギリギリだった。
    開挔盎前たで、舞台皜叀をさせおください
    看板女優がそう蚀うので、支配人は仕方なく、掃陀係の圌女に呌び蟌みをさせるこずにしたの。

    できるだけ倧きな声で、笑顔でやっおくれ。
    この公挔は面癜いず宣䌝しおほしいんだ
    そう蚀われた圌女の呌び蟌みは倧圓たり。圌女は倧通りずいう舞台で、挔じたのよ。
    掃陀をしながら圌女はずっず、皜叀を芳おいた。聎いおいた。登堎人物たちの心を感じおいた。
    そしお呌び蟌みの時、倧きな声ず笑顔、その指瀺が合う圹柄を遞んで、その人物を挔じお呌び蟌みをしたの。

    それ以来、毎公挔の呌び蟌みは圌女の仕事になった。芳客は増える䞀方。
    そしおそのうち、どうしおこの子は舞台に䞊げないんだず芳客から声が䞊がるようになった。
    圌女には既に、たくさんのファンが぀いおいたのよ。

    圓時、劇団の経営に苊しんでいた支配人は、これを奜機ず捉え、圌女をスタヌにしようず考えたの。看板女優の結婚匕退で䞻挔が代替わりしたタむミングで、圌女はいきなり2番手の圹どころを任された。
    呚りは劬んだでしょうね。掃陀係が2番手なんお。
    でも圌女の挔技を芋た者は、䜕も蚀えなくなったそうよ。
    圌女には、圹の心情を䞀瞬で掎む力があった。
    それはもう、才胜ずいうより他になかったのよ。
    だっお圌女は皜叀の初日から圹ずしお存圚しおいたんだから。

    圌女が䞻挔の座を射止めるたで、長くはかからなかったわ。そしお2䜜、3䜜ず䞻挔を重ねた。
    居䞈高な女王から悲恋のヒロむン、異囜のスパむ。どれをやらせおも圌女の手にかかるず、それが䜜られた存圚だずいうこずを芳る者に忘れさせるほどに、その圹は生々しく舞台䞊で生きおいた。
    たさにこの時期は、ロヌズ・ディスティニアず劇団の、栄華の時代ず蚀えるでしょうね。
    劇団は、圌女の人気でもっおいるずいっおも過蚀ではなかった。

    でも、倚くの圹を挔じる䞭で、圌女は次第に、自分に戻れなくなっおいったの。
    お芝居が奜き。圹を挔じおいるこずが楜しい。
    玔粋な気持ちが回り回っお、圌女に自分自身ずいう存圚を忘れさせおいった。
    朝、目が芚めた瞬間から圌女は圹の人物ずしお存圚しおいお、終挔しお幕が降りおも圹のたた。
    圌女の意識からは完党に自分の心ずいうものがなくなっお、圹ず䞀䜓化しおしたっおいたの。呚りが圌女を呌ぶにも、圹名で呌ばないず反応しなかったそうよ。ロヌズ・ディスティニアはもはや、圌女の内に存圚しなくなっおいた。

    ひず぀の公挔が終われば、たた次の圹。別の人物。わずかに残っおいた理性が圌女にそれを可胜にしおいたけれど、ある日の終挔埌、圌女は前䜜の圹ずしおそこに居たの。

    流石に危ない。
    呚りもわかっおいたわ。
    そこで仕方なく支配人は圌女に匕退を呜じ、匕退公挔をするこずにした。
    最埌の䜜品で圌女が挔じるのは、圹者。
    今たでに圌女が挔じおきた倚くの圹を、圌女䞀人で次々ず挔じる回想録。そしお最埌に圌女は自分に戻る。
    圌女の女優人生の思い出を芳客ず共に振り返り、そしお最埌に圌女自身ずしお舞台に立たせるこずで、圌女を圹から解攟し、ロヌズ・ディスティニアず芳客ずの別れの堎ずする。
    それがみんなのためだず、そう考えたのよ。

    でも、圌女は自分に戻れなかった。
    通し皜叀からずっず、最埌に挔じた圹のたた終わる状態だったから、本番でも圌女が自分に戻れず、最埌の圹のたた舞台を降りおしたうこずは、十分に有り埗るこずだった。
    それでも合わせられるように、他の圹者達は皜叀をしおいたの。

    でも、ロヌズの終焉は、そんなこずでは枈たされなかった。
    初日の幕が開いお、クラむマックス。
    圌女は自分自身ずしお舞台に立぀はずだった。
    ずころが圌女は、次から次ぞず今たでに挔じおきた圹のセリフを口走ったのよ。それはもう支離滅裂で、でも恐ろしいこずに、それぞれのセリフは確かにその圹ずしお発されおいたずいうの。
    女王が家来に呜什したかず思えば、女スパむが緊迫した声で暗号を䌝える。かず思えば悲恋の果おに死を決意した少女が死ぬ間際に恋人の名を呟く。

    圌女はもう、圹を挔じおいるこずしかできなくお、でも同時に、䜕も挔じるこずができなくなっおいたの。
    ロヌズ・ディスティニアが完党に狂っおしたった瞬間だった。

    もちろん珟堎は倧混乱。
    その䞭で圌女は、最埌に䞀蚀、
    ロヌズ・ディスティニア
    そう叫んで倒れお、それきり意識が戻らなかった。

    以来その劇団は、ロヌズの呪いず恐れられ忌み嫌われ、次期䞻挔候補をはじめ、次々に女優たちが去っおいっお、劇堎も閉鎖されたそうよ。

    ꧁——————————꧂

      
    顔面蒌癜で話を聞いおいたサツキに、サキさんはふっず苊笑した。
    なんか怪談めいた話になっちゃったけど。
    た、この話がどこたで本圓かはわからないわ。
    ロヌズ・ディスティニアっお名前も、本圓に圌女の芞名だったか怪しいものよ。
    だっお、盎蚳すれば『運呜の薔薇』。芞名にしおもあたりにも倧仰で、芝居がかりすぎおるわ。
    噂をセンセヌショナルに煜り立おるために誰かが勝手にそう呌んだっお説もあれば、劇団が圌女を売り出すために぀けた名前だっお話もあるずか
    芞名  
    サツキは小さく呟いた。
    ええ

    サキさんはそこでサツキを芋お埮笑んだ。
    サツキも、挔じるこずが奜きだずいう気持ちは倧切にしおほしいけど、自分に戻るこずを忘れないでいおちょうだい

    ありがずうございたす。
    倧䞈倫ですよ、サキさん
    サツキはサキさんの笑顔に぀られお埮笑みながら答えた。そしお、銖を傟げたサキさんを真っ盎ぐな瞳で芋぀めお続ける。
    だっお、私には『圩月凛華』ずいう芞名がありたすから。この名は、サキさんから頂いたもの。呚りから『サツキ』ず呌ばれたら、私はわたし自身に戻れたす。
    äž­å­Š1幎生の時、サキさんの舞台を芳お、チラシに曞かれた『星乃圩茝』の名前を芋぀けた、あの日の私に
    するず、サキさんはなぜか、いきなりわざずらしく目を逞らせた。
      やめおちょうだい。
    私はそこたでサツキのこず背負いきれないから。
    あんたり私に甘えないで。
    ほらほら、さっさず皜叀堎に行きなさい。
    今日はショヌでの䞋玚生のダンスシヌンが先でしょうが

    蚀いながらサキは思っおいた。
    この子にずっおは、芞名は自分に戻るものなのか。
    サキ自身はこのずころ、芝居の圹よりも、星乃圩茝でいるこずが蟛かった。
    あの日、星のお姉さんず蚀っおくれた圌女に誇れる私でいなければ。䞋玚生の頃からそれは思っおいたけれど、トップを任されおから日が浅いこの頃は、トップスタヌ・星乃圩茝の肩曞きを、その重さをどう扱えばいいのか、ただ手探りだ。
    トップスタヌずしおの星乃圩茝は、どんな人物で圚るべきなのだろうか。サキにはそれがただ分からない。
    だからこの子にこんな話をしおしたったのかもしれない。埌茩に忠告するずいう、分かりやすく䞊玚生らしいこずをしたくお。
    私はトップの務めを果たせおいるのかず䞍安な自分を安心させたくお。

    孊幎差のある䞋玚生、それも自分なんかに憧れおここに入っおくれた子に甘えるなんお。甘えないでず蚀っおおいお、甘えおいるのは私の方。それをあんな蚀い方をしお、私は最䜎だ  。

    サキが自己嫌悪に陥っお、それを誀魔化すように螵を返しお立ち去ろうずした時。
    埅っおくださいサキさん
    っ

    瞋るような声に思わず振り向くず、サツキの必死な芖線ずぶ぀かった。
    ごめんなさい
    䞍甚意なこずを蚀っおしたっお
    え  
    私は、サキさんに甘えようずか、そんな぀もりで蚀ったわけじゃ、なかったんです。
    ただ、私にずっお、圩月凛華の名は倧切な宝物で、お守りみたいなものだっお、そういうこずが蚀いたかったんです
    お守り
    この子、䞀䜓䜕が蚀いたいの
    戞惑うサキに、サツキは頷いた。
    はい。
    さっきのお話を聞いお私、思ったんです。
    私たちの芞名は、それぞれの、自分の原点に戻るためのお守りなのかもしれないっお。
    ロヌズさんの堎合は分からないですけど、私たちは、自分で芞名を考えたす。だから、そこには䞀人䞀人、自分にずっお思い入れのある倧切な意味が蟌められおいるず思うんです。
    呚りからその名で呌ばれたら、それを思い出せる。  私にずっおはそれが、初めお芳たサキさんの舞台だったわけですけれど  
    だから、サキさんに背負わせるずか、そんな぀もりじゃないんですごめんなさい

    䞀気に話し終え、勢いよく頭を䞋げお息を぀くサツキを前に、サキはハッずした。
    お守り  そうか。そんな考え方も、あるのか。
    「頭を䞊げおちょうだい。
    ありがずうサツキ。今のは私がいけなかったのよ。あなたが謝るこずは䜕もないわ。
    怒らせたなんお心配しないでいいから。
    さあ行きなさい、皆埅っおる。
    それが終わったら私も出る堎面の皜叀よ。
    䞀緒に頑匵りたしょう」
    はい
    では、お先にお皜叀堎に行っおきたす
    怖々ず頭を䞊げおサキの話を聞いおいたサツキは、気持ちの良い笑顔でそう蚀っお、ぺこりずお蟞儀をしお仲間の䞋玚生たちが埅぀皜叀堎ぞず駆けおいった。


    サツキの埌ろ姿を芋送っおから、サキは改めお芞名を決めた時のこずを思い返した。
    自分のこずを星のお姉さんず呌んでくれた少女ずの出䌚い。そこから考えた星乃。
    そしお圩茝は、どんな色にでもなっお茝きたいずいう、舞台人ずしおの理想の圚り方ぞの想い。

    そうだ。

    星乃圩茝は、䜕色にでもなれる。
    どんな茝き方をしおもいい、それが圩茝なんだ。

    そしお、トップスタヌ・星乃圩茝。
    その肩曞きの重さも圚り方も、どう扱えばいいのか、やっぱりただ分からない。
    劇団の他の組やこの組の先代に比べお若い孊幎での就任だから、足りないものもあるだろう。

    でも、どんな色にでもなれるのが圩茝ならば。
    私は、自分だけでなく、圩の字を受け継いだサツキや他の倚くの䞋玚生、自分を支えおくれる䞊玚生の先茩方、この組の皆が、それぞれの圩で、安心しお自分らしく茝けるようであっおほしい。

    私は、星乃圩茝の元でならそれができるず思っおもらえるようなトップスタヌになろう。

    心に誓うず、瞳に自然ず力が宿るのを感じた。

    星乃圩茝でいるこずは、時にその肩曞きや重さを扱うこずに苊しむこずがあっおも、蟛いこずではない。
    私は、星乃圩茝の名を誇れる私でありたい。

    サキはすっず背筋を䌞ばしお皜叀堎ぞ向かった。

     
     
    もの曞き音倧生♬.* 短線小説、゚ッセむ、詩など。 音倧生のリアルドタバタ雑蚘も曞いおたす。

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