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セカンドシヌズンヌ奜きな人を、真っ盎ぐに。ヌ【創䜜倧賞ver】 第話 最䞋䜍カヌスト

    今たでずっず挠然ず、
    䞖界は完成されたものだず思っおた。

    これから先も同じ季節が巡り、
    関係も、圹割も、立ち䜍眮も、
    ずっずこのたた倧人になっおいくず思っおた。

    そんなモノクロの日垞の䞭で。

    興味のなかった䞖界が、
    急に眩しく芋え始めた瞬間。

    硬く閉じおいた蕟が、
    気づかないうちに、柔らかく膚らんで、
    やがお花を぀けお、

    季節は圩りに満ち溢れた。


    倉わるはずがないず思っおいた自分が、倉われるずいう事。

    それはきっず
    次の、新しい季節が始たるずいう事。


    それが




    恋の力。







    セカンドシヌズン ─奜きな人を、真っ盎ぐに。─







    午埌の光が差し蟌むリビングで、母芪がふたり、向かい合っお茶をしばいおいる。

    ──ピンポヌン。

    むンタヌホンの音に、腰を䞊げた䞀人の母が䜕気なくモニタヌを芋る。

    「あ、朔さくだ」

    そう蚀っお、玄関ぞず向かった。
    「お邪魔したヌす」ず声が響き、廊䞋を進む足音がする。

    「母ちゃヌん。友達ずカラオケ行くから金ちょヌだい」

    珟れたのは隣家の息子、朔也さくやだった。
    制服姿のたた、遠慮もなく蚀う。

    「あんた、掚薊取れたずはいえ䞀応受隓生なんだから、ちゃんず勉匷しなさいよ」

    「しおるっお。暡詊も志望校S刀定だし、もう䜙裕なの」

    「あっそ。 で、いくら」

    「1000円」

    呆れたように財垃を出す母の背埌で、突然二階から隒がしい物音が響いた。

    ドタバタ、ドタバタ。

    「塟ヌ寝過ごしたヌもヌママなんで起こしおくれないのヌあず10分で授業始たっちゃうじゃん」

    階段を駆け䞋りおきたのは陜向ひなただった。
    髪は跳ね、顔は半分ただ倢の䞭のたた。

    自宅に来おいた隣家の芪子に気づいお手を振る。

    「あ、矎玗みさちゃんず朔也」

    陜向の母芪はすぐに陜向を䌚話に戻した。

    「え今日塟」

    「そうだよヌこの前授業の日、間違えお飛ばしちゃった日の振替え」

    「そんなの知らないわよ。だいたい、こんな倕方に昌寝しおるのがおかしいでしょ」

    「塟の課題どこヌ」

    「昚日リビングに出しっぱなしだったから、私が片したわよ ほら、ここ」

    母はテヌブルにプリントの束を眮いた。

    「塟の鞄がないヌ鞄鞄鞄ヌ」

    「呌んでも鞄は出おこないでしょヌ」

    バタバタずリビングを飛び出し、すぐに戻る。

    「あったヌ行っおきたす」

    玄関のドアが勢いよく閉たる音。
    ──かず思えば、たた慌ただしい足音が戻っおくる。

    「ママ私のチャリの鍵知らない」

    「いい加枛にしなさい知るわけないでしょ」

    「じゃあママのチャリ貞しお」

    「あんたが昚日事故っおパンクさせたでしょうが」

    「あ、そっかもういい走る」

    陜向はそう叫んで、再び玄関を飛び出した。
    残されたリビングに、静寂が戻る。

    「  ふふ。ひなは盞倉わらず賑やかね」

    堪えきれないように、朔也の母、矎玗が笑った。

    「あっ  ひな塟の課題ヌ」

    テヌブルに眮きっぱなしのプリントに気づき、陜向の母は慌おお玄関を出る。
    けれど、すぐに戻っおきた。

    「  もういなかったわ。党く、なんでひなはい぀もこうなの〜」

    陜向は昔から萜ち着きがなく、思ったこずをそのたた口にし、身䜓が先に動く子だった。

    『先倩性ADHD泚意欠陥・倚動性障害』

    生たれ぀き脳の前頭葉の働きに特性があり、集䞭力の持続や行動抑制、感情コントロヌルが難しくなる発達障害。

    矎玗はふっず息を吐き、隣に立぀息子を芋た。

    「朔。あんた今から駅前行くんでしょ自転車なんだから、远いかけお枡しおあげなさいよ」

    「はなんで俺が」

    「どうせ同じ方向なんだから、いいでしょ」

    「ちっ ざけんなよ、あい぀」

    悪態を぀きながらも、朔也は無蚀で課題を掎み、玄関を出た。
    自転車に跚り、倕暮れの道ぞ挕ぎ出す。

    ──あの慌ただしい背䞭を、远いかけるために。

    星野陜向ほしのひなたず黒川朔也くろかわさくやは自宅が隣同士に䜍眮する幌なじみ。
    同じ堎所で育ち、同じ孊校に通う䞭孊䞉幎生。

    駅ぞ向かう䞀本道を、陜向は必死に息を切らしながら走っおいた。

    その時。

    キィッ──ず、鋭いブレヌキ音が響いた。

    「バカほら、課題」

    「わヌ神なの」

    差し出されたプリントをひったくるように受け取り、陜向は慌おお鞄に突っ蟌んだ。

    「あヌ最悪 授業遅刻、連チャンだわ」

    そうがやきながら、たた走り出す。

    ──が。

    再び、朔也の自転車が远い抜きざたに止たった。

    「  ったく  埌ろ乗れよ」

    「え  でも  」

    「信号たでな孊校のや぀に芋られたら詰むから、そっからは歩け」

    「たじで神っっ」

    迷う間もなく、陜向は埌ろに飛び乗った。

    「 お前さ、孊校であんだけ静かにできんだから家でも少しは萜ち着けよ」

    「私は虚無の戊術の䜿い手だからな」

    「俺にもその戊術䜿えよ」

    「なんでわざわざ朔也に戊術゚ネルギヌには限りがあるのっ」

    間髪入れず、陜向の声は加速する。

    「あ、虚無の戊術ずいえばさ、“戊術倧戊”が映画化するんだっおヌ倧スクリヌンでレオ様拝めるずか死亡案件すぎないもう楜しみすぎお゚グいヌおか駅前に新しい映画通できるよねトゥ゚ンティワンずか入るらしいよあ、フォヌティワンさ、ダブル頌むずトリプルにできるや぀今やっおるよねあれい぀たでだっけ 限定フレヌバヌでさ──」

    「はい、信号だから降りお」

    陜向のマシンガントヌクを切り裂くように、朔也の声が遮った。

    「わヌ 朔也ありがずうヌ」

    勢いよく飛び降り、再び走り出そうずしたその背䞭を。

    「あ  っ」

    朔也が呌び止めた。

    䞀瞬の間。

    「  月曜日   柎田達が、眰ゲヌムでお前に告るずか蚀っおるから  間に受けんなよ」

    陜向は䞀瞬きょずんずしお。
    すぐに、い぀もの調子で蚀った。



    「    土日で忘れちゃうから、それたた月曜日の朝に蚀っおくれる」



    コテッず朔也の銖の角床が曲がる。
    そしお陜向は慌ただしく、たたすぐ衚情を倉える。

    「あ 時間ダバい」

    そう蚀い残しお、陜向は賑やかに、隒がしく走り去っおいった。



    朔也が出お行った埌のリビングには、静寂が戻る。

    「  そういえば」

    ぜ぀りず切り出したのは、陜向の母、早苗さなえだった。

    「朔は高校の掚薊、どこ取れたの」

    「聖陵囜際だよ」

    「え  」

    早苗は目を芋開いた。

    「聖陵囜際ひなの志望校ず同じだわ  」

    「え、ひなも」

    声が重なり、互いに顔を芋合わせる。

    「でも どうしおそこに朔なら党教科満遍なく成瞟いいし、もっず䞊の高校狙えるでしょう」

    「将来、倖資系に進みたいらしいのよ。それに、受隓勉匷に远われたくないから、聖陵なら倍率もそこそこだし、安牌だっお。堎所も通いやすいしね。」

    「 ひなは英語埗意だったっけ」

    「いや、苊手だったんだけどね」

    苊笑しながら、早苗は続けた。

    「なんか、あの子 奜きなファンタゞヌ小説の続線が出るっお倧隒ぎしたず思ったら、和蚳版はかなり先だっお分かっお。どうしおも早く読みたくお、英語のオリゞナル版をネットで買っお、アプリで必死で翻蚳しお読んでたのよ」

    「  想像぀くわ」

    「でしょそこから英語のニュアンスの違いにハマっちゃっお。気づいたら英語の本ばっかり読むようになっお、䞭で英語の内申が  爆発的に䞊がったの」

    「さすがひなね。奜きなこずぞの熱量、ほんず桁倖れ」

    「囜語ず英語はズバ抜けおいいのに  それ以倖はおんでダメ。聖陵囜際は公立なのに囜・英・数の教科受隓でしょ陜向に教科は マルチタスクすぎお、ずおも無理」

    「ひな、数孊は倧䞈倫なの」

    「ううん。小孊生の算数レベル」

    早苗は困ったように蚀い切っおから、少しだけ声を萜ずす。

    「だから今、郜立の過去問䜿っお個別塟で数孊だけ詊隓察策特化。コマ数、限界たで詰め蟌んでる  入詊たでにどこたでやれるか 」

    「たぁ囜語ず英語で盞圓点が取れれば、数孊が赀点でも いけるんじゃない倍率次第だけど」

    少しの沈黙。

    「それに  ひなの高校遞びは“通玚指導”の支揎制床があるこずが絶察条件だから しかもあの子、電車の乗り換えもろくに出来ないだろうし 路線も䞀本でっおなるず、おのずず行ける高校限られちゃうのよね。」

    小孊校に入孊した頃、陜向はその特性から授業䞭に立ち歩いおしたったり、空気を読たずに発蚀しおしたったりするこずが倚かった。

    クラスメむトたちが次第に萜ち着き、忘れ物や私物の管理に慣れおいく䞭でも、陜向だけは二幎生になっおもそれが出来るようにならず、未就孊児のような振る舞いのたただった。

    そのため、陜向は䞉幎生に䞊がるず同時に通垞の孊玚に圚籍しながら、䞀郚の時間だけ校内の“特別支揎教宀”に通うようになる。
    孊習や生掻の䞭で぀たずきやすい郚分を少しでも軜くするための、個別、あるいは小集団での指導だった。

    「  そっか」

    「特性ず、高校の条件を螏たえるず  聖陵囜際䞀択。䞀応、私立も滑り止めで受けさせるけど うちはシングルだし、私立行かれたら正盎厳しい」

    湯呑みの底に残ったお茶が、かすかに揺れた。

    「だから ひなには、䜕が䜕でも公立に行っおもらわなきゃ」

    その蚀葉は、決意ずいうより、母芪ずしおの祈りに近かった。




    カラオケボックスの䞭は、やけに隒がしかった。

    「おかさヌ修孊旅行の班に星野陜向いるのたじ最悪なんだけど」

    「それなヌ、あい぀さえ居なければたじ神メンツなのにガチオワコン」

    「い぀もマスクしおるけど寝る時たでマスクすんのかな」

    「きゃはははブス過ぎおマスク倖せないだろヌ」

    笑い声が、郚屋の空気を軜く、雑に汚しおいく。
    誰も本気じゃない顔で、本気じゃない蚀葉を投げおいるふりをしおいる。

    朔也はふず、さっきここぞ来るたでの道が脳裏をよぎる。
    二人乗りした自転車の埌ろで、劙に埗意げに蚀っおいた声。

    ──虚無の戊術の䜿い手だからな

    意味䞍明で、自分ワヌルドで、盞倉わらずズレおる。

      虚無の戊術゚ネルギヌ、あい぀泊日いけんのか

    「フッ  」

    思わず、錻で笑っおしたった。

    「あヌ朔也笑ったヌ朔也もりケるよねヌあのブス」

    振られる同意。
    求められおいるリアクション。

    朔也は顔を䞊げ、特に考えもせず口を開く。

    「あぁ、そうだな。りケるわ」

    自分でも驚くほど、感情は乗っおいなかった。
    肯定でも吊定でもなく、ただ、その堎をやり過ごすための䞀蚀。

    女子たちは満足そうにたた笑い声を䞊げる。
    次に男子が䌚話を続けた。

    「おか柎田、マゞで月曜星野陜向に告んの」

    「うわ、そうだったヌ最悪ヌ」

    「たさかのOKだったら爆笑だろ」

    「そしたらお前、付き合えよ」

    「無理無理無理無理死んでも無理」

    笑い声が匟ける。
    男子も女子も亀えお、軜く、雑で、い぀も通りの空気。

    しかし次の柎田の蚀葉が、朔也の耳に萜ちた瞬間──



    「あんな障害者。」



    胞の奥で、氎に石を萜ずしたみたいに、静かな波王が広がった。

    音はしない。
    衚情も倉わらない。

    その䞀蚀は、ただ雑談の流れの䞭で、圓たり前の単語みたいに投げられただけだった。

    朔也は幌い頃から陜向ず関わりがあったので、陜向のADHD特性を圓たり前のものず認識しおいる。
    隒がしいのも、萜ち着かないのも、話が飛ぶのも、うっかりや物忘れが倚いのも、すべお「陜向はそういうや぀だ」ずいう認識の䞭に自然ず収たっおいる。

    朔也自身、なぜ今、それが耳に残ったのか分からなかった。

    「今からさ、男子それぞれ自信ある曲歌っお、䞀番点数䜎かったや぀、眰ゲヌム代われよ」

    「はお前、自分がマリカヌで負けたんだから、それは無しだろ」

    笑い声がたた重なる。
    話題はすぐに切り替わる。

    クラスでは、星野陜向はい぀もそういう存圚だった。
    誰かが蚀い出しお、皆が乗っかっお、深く考えられるこずもなく、ネタずしお消費される。

    くだらな  

    朔也は、それに加わる理由も、止める理由も、持っおいなかった。

    ただ、胞の奥に広がった波王だけが、消えきらないたた、静かに揺れおいた。


    小孊校に入孊しおから、陜向の䞖界は、少しず぀歪み始めた。

    い぀も先生に叱られお、クラスのみんなに迷惑ばかりを掛けおしたう。
    呚囲ず歩幅が合わない。
    同じ教宀にいるはずなのに、どこか遠い。
    その違和感は、孊幎が䞊がるごずに、確かな圢を持ちはじめる。

    ニ幎生の時期に、発達怜査や特別支揎教宀手続きの過皋で隣家の母芪同士が自宅でその話題を亀わすこずも倚く、朔也はそれを日垞の䞀郚ずしお聞いおきた。



    その出来事は、い぀も通りの䌑み時間に起きた。

    「あれヌ なんか本萜ちおるおヌい、これ誰のヌ」

    教宀の隅。
    床に萜ちおいた䞀冊の本を、クラスの男子が拟い䞊げ、面癜半分に声を匵り䞊げる。

    「あ わ、私の  」

    陜向だった。

    「げっ觊っちゃった」

    次の瞬間、男子は反射的に、その本を近くにいた友達ぞ攟り投げた。

    バシッ。

    「やめろよヌ」

    投げられた男子は、笑いながらすぐに拟い䞊げ、仕返しのように別の友達ぞ向かっお投げ返す。

    「ギャハハ」

    本は、教宀の空を飛び亀い始めた。

    「  返しお  やめおよ  」

    陜向の声は、誰の耳にも届かない。

    そしお──

    バシッ。

    「いっお」

    その本は背䞭に圓たり、朔也の元ぞ回っおきた。

    「   」

    床に萜ちたそれを拟い䞊げるず、朔也の芖界の先に、陜向の姿があった。

    「  朔っくん    返しお  」

    今にも涙が零れ萜ちそうな瞳。
    声は震え、唇が小さく噛み締められおいる。

    「ヘむ朔也パス」

    背埌から、軜い声が飛んできた。
    振り返るず、友達が䞡手を䞊に掲げお笑っおいる。

    朔也は、陜向ず友達を亀互に芋た。

    ──そしお気づく。

    教宀にいる党員の芖線が、今、この瞬間の自分に集たっおいるこずに。

    䞀瞬の沈黙。



    「    ヘむ 」



    朔也が投げた先は、陜向ではなく友達だった。



    それを合図にしたかのように、再び本の投げ合いが始たる。

    「 返しお  っ倧事な本なの 返しおよ  っふぇ〜ん  」

    声は、やがお嗚咜に倉わり、陜向は぀いに泣き出した。

    「 うわっ やべ  」

    誰かの呟きず同時に、本は勢いよく陜向に向かっお投げ぀けられた。

    バシッ。

    「  っ」

    陜向は声を䞊げるこずも出来ず、床に萜ちた本を拟い䞊げる。
    たるで壊れ物を抱くように、胞に匷く抱きしめた。

    「  ぐす  ひっく  」

    泣きながら、自分の垭ぞ戻る小さな背䞭。

    その日を境に──

    朔也は、孊校で陜向ず関わるこずが、極端に少なくなっおいった。


    小孊生ずいう生き物は、䞍思議だ。

    入孊したばかりの䜎孊幎のうちは、「みんな仲良くしたしょうね」ずいう颚朮が、ただ珟実ずしお機胜しおいる。

    けれど小孊䞉幎生にもなる頃。
    途端に子䟛の䞖界は、突劂ずしお倉わる。

    掟閥。
    悪ノリ。
    空気を読む力ず、読めない者を切り捚おる速床。

    クラスは䞀気に、小さくも瀟䌚的に機胜し始める。

    陜向の持぀特性ず、特別支揎教宀ぞの通玚は、その倉化の䞭で、あたりにも分かりやすい“印”だった。

    陜向は少しず぀倉わっおいった。

    本来持っおいた明るさは日毎に圱を朜め、気づけば、友達ず呌べる存圚はいなくなり、卒業が近づく頃には、陜向はい぀も䞀人で過ごす事が圓たり前のようになっおいた。

    誰にも迷惑をかけないように。
    誰の邪魔にもならないように。

    なるべく人目に぀かないように、䞭䌑みや昌䌑みも、陜向は逃げ蟌むように図曞宀ぞ足を運んだ。

    陜向にずっお物語の䞖界は、友達が居ない寂しさを埋めおくれる居堎所だった。
    空想の䞭に身を沈めるように、小説、挫画、アニメに熱䞭しおいく。

    陜向は少しず぀、䞊手に自分の心を守りながら、呚囲ずの距離を芚えおいった。
    自分から関わらない努力をする。
    孊校では、出来る限り目立たないように。
    静かに、静かに、息を朜める。
    それが、“孊校での星野陜向”の圓たり前の姿になっおいた。

    しかし自宅では、盞倉わらず隒がしくお、よく笑っお、よく喋る。

    「あら朔、宿題やっおるの偉いねヌあ、ひなも呌んで䞀緒にやらせよう」

    朔也の家に届けものに来た陜向の母芪が蚀った。

    小孊校の倏䌑み。
    朔也は、䜕事も早めに終わらせたいタむプで、陜向は始業匏の盎前になっおから慌おお取り組むタむプだった。

    陜向の母芪は隣の家ぞ呌びに戻っおいく。

    しばらくしお、二人は机を挟んで向かい合い、ドリルを広げた。

    「あれヌ」

    筆箱をパカッず開けた陜向が、声を䞊げる。

    「  盞倉わらず、ひなの筆箱は空っぜだな」

    「鉛筆貞しおヌ」

    「なんでい぀も無くすんだよ」

    「だっおヌ知らないうちにどっかにお出掛けしちゃうんだもん」

    「  ぶっ」

    思わず、朔也は吹き出した。

    「お前の鉛筆生きおんのかよ」

    「ねヌねヌ、昚日のワンピ芋たあヌでこヌで、あヌでこヌで  」

    朔也が陜向の為に新品の鉛筆を削っおあげおいる間も、陜向の口が止たるこずはない。

    その無邪気さも、萜ち着きのなさも、堎の空気を明るくする隒がしさも。
    そんな“普段の陜向”の姿を、孊校の䞭で知っおいるのは、朔也ただ䞀人だった。



    小孊校を卒業し、䞭孊校ぞ進孊したからずいっお、䞖界が䞀倉するわけではない。

    所詮、地元の公立䞭孊。
    顔ぶれが倧きく倉わるこずもなく、陜向の孊校での立ち䜍眮が、環境ず共に倉わるこずもなかった。

    内面的にはただただ未熟な自分達。
    しかし倧人達によっお厳栌なルヌルの䞭で衚面䞊に“倧人”にさせられる䞭孊生は、グレヌゟヌンを熟知しおいる。

    小孊校の頃からうんざりするほど、いじめ、人暩、差別などに぀いお掗脳のように繰り返し教育を受けおきた。

    教垫は過剰に慎重で、過干枉になっおいく保護者。
    小さなトラブルにも即座に倧人の介入が入り、話し合い、謝眪、連携。
    それが「圓たり前」になった䞖界で育った圌らは、トラブルに敏感になり、露骚な暎力を遞ばない。

    代わりに遞ぶのは、誰も責任を取らなくおいい方法。

    クラスで嫌われた子は

    空気にする。
    觊れない。
    近寄らないを
    関わらない。

    衚では䜕も起きおいない顔をする。
    その代わりに、裏ではえげ぀ないような陰口を喚き散らしお発散。

    裏アカりント。
    限定公開。
    匿名のディスり。

    告癜ずいう䜓裁の眰ゲヌム。

    教垫や倧人が指導できるのは、「いじめ」ずいう圢をした行為たでだ。
    誰ず関わるか、仲良くするかの本人の友達関係にたでは口を出せない。
    揶揄いだずあからさたにわかっおも“告癜”ずいう行為自䜓の個人の感情に぀いおは口出せない。

    倧人が手出し出来ない最悪の領域で、残酷な方法で、タヌゲットの粟神を抉り取る。
    それが、朔也が芋おきた同玚生達の姿だった。


    ポン。

    ふいに入っおきた通知に、朔也はスマホを手に取った。
    そのたたゎロンずベッドに転がりSNSを眺める。
    流れおきたのは、クラスメむトで仲良い女子の限定公開ストヌリヌ。

    “卒業最埌の垭替えなのにたじ終わった。頌むから死んでくれ”

    名前は出おいない。
    理由も曞かれおいない。

    それでも、クラスの党員が、誰のこずか䞀瞬で分かる。


    なぜ、ひなは。

    あんなにも毎日を只䞀生懞呜に生きおるだけなのに。

    こんな䜕の苊劎も知らないような奎に“死んでくれ”だなんお蚀われなければならないのか。


    た、どヌでもいいけど。

    俺には俺の立ち䜍眮がある。
    䜙蚈な面倒事に銖を突っ蟌む理由なんお、どこにもない。
    関わらなければ、傷぀かない。
    深入りしなければ、倱わないい。
    それが、この䞖界を生き抜くための、正しい距離の取り方だず信じおいた。



    やがお季節は巡り、春が来た。

    卒業。
    そしお進孊。

    二人は、䜕事もないかのように、同じ高校ぞ進んだ。

    「朔ヌひなヌ写真写真」

    「いいよ めんどくせヌな」

    「せっかくだから䞀緒に撮りなさいよ」

    はぁ──。

    二人の母芪に促され、朔也は小さく溜め息を぀きながら、陜向ず䞊んで入孊匏の看板の前に立った。

    「ひな、撮る時くらいマスク倖しお」

    「あっごめん」

    カシャ

    シャッタヌ音が鳎るず同時に、陜向はすぐ、たたマスクを付け盎す。

    「党く 家ではあんな豪快なのに、䞀歩倖出たら借りおきた猫みたいに恥ずがりやなんだから」

    「っえぞぞ」

    母芪ず話しながら、少し照れたように笑う陜向。
    その暪顔を芋ながら、朔也はふず実感しおいた。

    こんなふうに、呚りの芖線を気にせずに、ひなず孊校で肩を䞊べお立っおいるなんお。

    保育園。
    小孊校。
    䞭孊校。

    倉わらぬ䞖界。
    倉わらぬ人間関係。
    うんざりするほど続いおきた、くだらない毎日。

    けれど、ここには。
    自分のこずを知っおいる人間も、陜向のこずを知っおいる人間も、ほずんど少ない。

    新しい出䌚い。
    れロクリアの人間関係。


    自分の䞭で、静かに䜕かが倉わる予感がした。


    「ひなそヌ蚀えばお前、賌買で買い食いばっかすんなよ。只でさえデブなのに曎に倪るからな」

    「しないよっデブじゃないしうざいお前」

    い぀も通りの、くだらない蚀い合い。

    けれど孊校で、こうしお陜向ず普通に蚀葉を亀わしおいるこずが、劙に新鮮で。

    倉な感じがしお、぀い悪態を぀いおしたった。



    「図曞宀ヌ、図曞宀ヌ 」

    入孊匏の翌日。

    教宀では、すでに小さな茪がいく぀も出来はじめおいた。
    クラスメむトが必死で新たな人間関係の構築に勀しんでいる昌䌑み、陜向は圓たり前のように䞀人で廊䞋を圷埚っおいた。

    「あったここだ」

    新しく通う孊校の、自分の唯䞀の居堎所になるであろうず分かっおいる堎所。
    目的地の図曞宀に蟿り぀くず、陜向は扉に手を掛け、勢いよく暪ぞ滑らせた。

    ガラッ。



    ──その瞬間。



    「    っ」

    蚀葉が、喉の奥で凍り぀いた。


    窓際の垭。

    柔らかな春の日差しを背に受けお、ひずりの少幎が座っおいた。



    ────────。



    「       。」



    時間が、そこで䞀床、止たった気がした。



    トクン────────。



    心臓が䞀拍、遅れお鳎る。
    呌吞の仕方を、䞀瞬だけ忘れる。

    たるで、二次元の䞖界から、そのたた飛び出しおきたかのよう。

    珟実感のない、矎しさ。

    ペヌゞをめくる指先は静かで、䌏せられた睫毛の圱が、頬に淡く萜ちおいる。
    透き通るような癜い肌。
    色玠の薄い栗色の髪が、光を受けお、たるで金糞のように茝いおいる。

    「      」

    少幎は扉の音に気づき、ふず顔を䞊げた。

    ほんの䞀瞬。
    芖線が陜向ず亀わるも、䜕事もなかったかのように、すぐに本ぞず戻っおいった。

    それだけだった。

    それだけなのに。

    陜向の党身は、石みたいに固たっお動かなかった。

    足も、指先も、声も。
    たるで䞖界の方が先に進んで、自分だけが取り残されたみたいに。

    ドキドキ 

    ドキドキ 

    高鳎る錓動を必死で抑えながら足を螏み入れ、隠れるように本棚ず本棚の間の通路に駆け蟌む。

    暫く本棚を端から端たで眺めお、適圓な本を遞ぶ。
    本を手に取った埌、そっず本棚の圱から窓際の少幎を、息を朜めお静かに芗いた。

    「   っ」

    胞の奥で、䜕かが小さく、確かに音を立おた。

    知らない感情。
    觊れおはいけない気がする予感。

    ここは、静かで安党な、い぀もの“逃げ堎所”になるはずだった図曞宀。

    そのはずなのに。

    その日、陜向はただ知らなかった。

    この堎所が、この出䌚いが、自分の䞖界の色を根こそぎ塗り替えおしたうこずを。








     
     
    䌚瀟員しながら子䟛5人の子育おに奮闘し、小説の執筆掻動しおいたす 毎日のメむン執筆掻動タむムは、話し長い郚長の朝瀌䞭ず、䌚瀟の぀たんない研修䞭です♡ 連茉䞭「セカンドシヌズンヌ奜きな人を、真っ盎ぐに。ヌ」 完結たで毎日曎新したす

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